今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの

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17 側妃との対決①

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(エルフレッドと一緒にいると思ったのに……どうして……)


変だ、前世でこんな展開は無かった。
ドレスの件といい、全く予期せぬことばかり起きている。


何とか平静を保った私は、口元に笑みを携えてクロエに話しかけた。


「ご機嫌よう、側妃様」
「お久しぶりです、王妃様」


そう返したクロエの目は全く笑っていなかった。
それどころか、まるで私を敵対視するかのようにギラリと鋭い眼光を放っている。


(全て譲ると言っているのに何が不満だというのよ……)


倒れてからのクロエの変貌には驚かされてばかりだ。


「――最近お会い出来なくてとても悲しかったです。王妃様ったら、いつも私のお茶会の誘いを断ってしまわれるんですもの……」
「……!」


クロエは悲し気に俯いた。
今の彼女は前世を含め、私の知るクロエそのものだった。


(今なら分かるわ……貴方のその行動の意味がね……)


それを聞いた彼女の取り巻きたちがざわめき出した。


「王妃様が側妃様の誘いを断っているですって……?」
「きっと陛下の寵愛を一身に受ける側妃様のことを嫌っているからだわ……」
「何て性悪な女なの……!」


私が目の前にいることなど気にも留めず、嫌悪の視線を向け、暴言を吐く。


(貴方たちは過去二度の人生においてもいつだってクロエの味方をして私を罵倒していたわね)


最初から彼女の目的はこれだったのだろう。
私を加害者に仕立て上げ、周囲からの同情を買う。


(なら、今回は私も同じ方法を使わせてもらおうかしら)


「あら……不快に思われたようでしたらごめんなさい。私が体調を崩したという話は知っているでしょう?療養していた間に溜まっていた仕事を終わらせなければいけなかったのよ。貴方とのお茶会には行きたかったけれど……王妃として執務を放棄するわけにはいかないから……」


そう言いながら、クロエの真似をして切なげに目を伏せた。
私の言ったことは半分が嘘で半分が本当だ。


それを聞いた周囲は納得したように話し始めた。


「何だ、ただ仕事が忙しいだけだったのか。王妃様は元々多忙だからな」
「そういえば、側妃様は執務をしているのか?」
「何言ってるんだ、孤児院出身の私生児に執務なんて出来るわけないだろう」


「な……!」


クロエは悔しそうにわなわなと拳を握り締めて震えた。


「側妃様……!」


取り巻きたちが心配そうに彼女の肩に手を置いた。
そのまま黙り込んで俯いていたクロエだったが、しばらくして何とも無かったように顔を上げた。


「そうですか……なら、次のお茶会には来てくださいね」
「ええ……是非お伺いさせていただきますわ」


私が返事をすると、クロエは何かを企んでいるかのようにニヤリと笑った。


「ところで陛下は……今日は随分と素敵なドレスを着ていらっしゃるのですね」
「まぁ……褒めているのですか?」
「当然ですわ。普段の姿からして、王妃様がこれほど美しい方だったとは知りませんでした」


(……私が普段貴方より質素なドレスを着ていることを馬鹿にしているのかしら?)


元々私はあまりドレスに関心が無い。
そのためさほど気にしたことは無いのだが、こんな風に公衆の面前で言われると腹が立つ。


(そろそろ私も反撃させてもらおうかしら)


「側妃様の今日のスタイルはとても斬新ですね」
「まぁ、ありがとうございます」
「いいえ、褒めているわけではありません」


その言葉に、クロエの顔が固まった。


「こういうことはあまり言いたくないのですが、全くといっていいほど似合っておられないので……つい笑ってしまいましたわ」
「なッ……何を……!」


彼女はおそらく私を貶めたいがために私とよく似ているそのドレスを着てきたのだろう。
しかし、クロエと私の顔のタイプは真逆で身長もかなり違う。


そのため、私が似合うドレスが彼女に似合うわけがないのだ。


「たしかに……あのドレスは側妃様には合わないわね」
「王妃様のような背が高くスタイルの良い方にはよく似合うが……」
「よくあれで良いと思ったわね……」


皆思っていたことは同じだったようで、クロエを見てクスクスと笑い始めた。


「私が側妃様なら絶対にそのドレスは選びませんわ。側妃はとても可愛らしい方ですのに……」
「これは……私が選んだわけではありません。侍女が勝手に……」
「あら、随分と見る目の無い侍女を雇っているのですね。総入れ替えした方がよろしいのでは?」
「くっ……」


周囲の貴族たちは全く似合わないドレスを着るクロエを嘲笑の的にした。


(貴方のその顔が見たかったのよ)


まさに前世の私と同じ状況に、彼女は今陥っていた。
先に貶めようとしたのはクロエの方なのだから、同情の余地はない。


勝利を確信した私は顔を真っ赤にするクロエに勝ち誇った笑みを向けた、そのときだった――


「――随分面白そうな話をしていますね。私もご一緒しても?」
「「……!」」


突如聞こえた低い声に、この場にいる全員が注目した。
その視線の先にいたのは――


「ヘンリー公爵……」
「ギ、ギルバート様……!」


その瞬間、救世主が現れたかのようにクロエの目がキラキラと輝いた。




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