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16 友人
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入場を終えた後、私はひとまずエルフレッドから距離を取った。
「リーシャ、最初のダンスを君と踊りたいのだが……」
「私は今日体調が優れないので是非側妃様と踊ってください」
「え、クロエと……?本気で言っているのか……?」
「はい」
離れる際にエルフレッドからダンスの誘いを受けたが、丁重にお断りした。
彼は何故だか不満そうな顔をしていたが、私にそんなことを言わせる原因となったのは彼の方だ。
(本気で言っているのかですって?二度目の人生で堂々と側妃とファーストダンスを踊って正妃をほったらかしにしたのは貴方なのよ)
元々エルフレッドと必要以上に関わる気などさらさら無かった私は、すぐに彼から離れた。
背中に彼の未練がましい視線をひしひしと感じたが、私が振り返ることは無かった。
エルフレッドから離れた私が向かったのは、とある女性たちの集まりだった。
「――皆さん、ご機嫌よう」
「王妃様」
数人の若い貴婦人たちが私の声で振り返った。
王妃である私が突然やってきてかなり驚いたようだ。
彼女たちは一瞬固まった後、すぐに立ち上がって礼を尽くした。
「そうかしこまらないでちょうだい、私も混ぜてもらえないかしら?」
「も、もちろんです、王妃様!」
「ありがとう」
緊張で真っ青なその顔に、思わず笑いが零れる。
私がわざわざ彼女たちの元へ来たのにはしっかりとした理由があった。
(だってこの人たちは前世で唯一私に好意的だったご婦人たちだもの……)
そう、彼女たちは侍女リリアーナと同じくクロエ側に付かなかった数少ない貴族たちの一人だった。
過去二度の人生ではほとんどの貴族が王の寵愛を得ている側妃の味方をしていたのだ。
私を愛されない王妃だと嘲笑してきた人と親しくするだなんて御免だ。
せっかくならリリアーナのように私を嫌っていない人と仲良くしたい。
「王妃様のドレス、とてもよくお似合いです!元々の美しさに相まって……」
「ちょっと貴方!」
横にいたご婦人がコツンと突いた。
側妃とドレスの色がかぶってしまっていることを気にしているのだろう。
彼女の顔がみるみるうちに青くなった。
「あ、も、申し訳ありません!そういうつもりで言ったわけでは……」
「かまわないわ。私もこのドレスは気に入っているのよ。褒めてくれてとても嬉しいわ」
「王妃様……」
彼女たちは何も悪意があってそのようなことを言ったわけではないということを分かっている。
だから責めるつもりなんて無い。
「王妃様は本当にお優しいのですね」
「……そうかしら?」
(優しいだなんて、人生で初めて言われたわ……)
元々キツい容姿をしているからか、私はいつだって冷たい女だと誤解されてきた。
二度目の人生では出来るだけ優しく側妃に接したにもかかわらず、何故だか嫌がらせをしたのではないかという噂が立ってしまうほどだった。
だからこそ、そんな風に見られたのはとても嬉しかった。
「今度、皆を私のお茶会に招待してもいいかしら?」
そう言うと、彼女たちは感動したように目を輝かせた。
「王妃様のお茶会に参加できるなんて……」
「夢みたいだわ……!」
(お茶会に招待しただけでそこまで喜んでもらえるなんて……)
これまでエルフレッドに夢中で親しい同年代の友人なんていなかった私。
もしかしたら、彼女たちとは良き友になれるかもしれない。
嬉しそうに微笑む彼女たちを見ていると、そんな希望が芽生えてくる。
私たちが会話に花を咲かせていたそのとき、よく聞き慣れた声が間に割り込んだ。
「――あら、王妃様ではありませんか」
「……!」
振り返ると、私の予想通りの人物の姿が目に入った。
(クロエ……!)
取り巻きを引き連れたクロエが不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「リーシャ、最初のダンスを君と踊りたいのだが……」
「私は今日体調が優れないので是非側妃様と踊ってください」
「え、クロエと……?本気で言っているのか……?」
「はい」
離れる際にエルフレッドからダンスの誘いを受けたが、丁重にお断りした。
彼は何故だか不満そうな顔をしていたが、私にそんなことを言わせる原因となったのは彼の方だ。
(本気で言っているのかですって?二度目の人生で堂々と側妃とファーストダンスを踊って正妃をほったらかしにしたのは貴方なのよ)
元々エルフレッドと必要以上に関わる気などさらさら無かった私は、すぐに彼から離れた。
背中に彼の未練がましい視線をひしひしと感じたが、私が振り返ることは無かった。
エルフレッドから離れた私が向かったのは、とある女性たちの集まりだった。
「――皆さん、ご機嫌よう」
「王妃様」
数人の若い貴婦人たちが私の声で振り返った。
王妃である私が突然やってきてかなり驚いたようだ。
彼女たちは一瞬固まった後、すぐに立ち上がって礼を尽くした。
「そうかしこまらないでちょうだい、私も混ぜてもらえないかしら?」
「も、もちろんです、王妃様!」
「ありがとう」
緊張で真っ青なその顔に、思わず笑いが零れる。
私がわざわざ彼女たちの元へ来たのにはしっかりとした理由があった。
(だってこの人たちは前世で唯一私に好意的だったご婦人たちだもの……)
そう、彼女たちは侍女リリアーナと同じくクロエ側に付かなかった数少ない貴族たちの一人だった。
過去二度の人生ではほとんどの貴族が王の寵愛を得ている側妃の味方をしていたのだ。
私を愛されない王妃だと嘲笑してきた人と親しくするだなんて御免だ。
せっかくならリリアーナのように私を嫌っていない人と仲良くしたい。
「王妃様のドレス、とてもよくお似合いです!元々の美しさに相まって……」
「ちょっと貴方!」
横にいたご婦人がコツンと突いた。
側妃とドレスの色がかぶってしまっていることを気にしているのだろう。
彼女の顔がみるみるうちに青くなった。
「あ、も、申し訳ありません!そういうつもりで言ったわけでは……」
「かまわないわ。私もこのドレスは気に入っているのよ。褒めてくれてとても嬉しいわ」
「王妃様……」
彼女たちは何も悪意があってそのようなことを言ったわけではないということを分かっている。
だから責めるつもりなんて無い。
「王妃様は本当にお優しいのですね」
「……そうかしら?」
(優しいだなんて、人生で初めて言われたわ……)
元々キツい容姿をしているからか、私はいつだって冷たい女だと誤解されてきた。
二度目の人生では出来るだけ優しく側妃に接したにもかかわらず、何故だか嫌がらせをしたのではないかという噂が立ってしまうほどだった。
だからこそ、そんな風に見られたのはとても嬉しかった。
「今度、皆を私のお茶会に招待してもいいかしら?」
そう言うと、彼女たちは感動したように目を輝かせた。
「王妃様のお茶会に参加できるなんて……」
「夢みたいだわ……!」
(お茶会に招待しただけでそこまで喜んでもらえるなんて……)
これまでエルフレッドに夢中で親しい同年代の友人なんていなかった私。
もしかしたら、彼女たちとは良き友になれるかもしれない。
嬉しそうに微笑む彼女たちを見ていると、そんな希望が芽生えてくる。
私たちが会話に花を咲かせていたそのとき、よく聞き慣れた声が間に割り込んだ。
「――あら、王妃様ではありませんか」
「……!」
振り返ると、私の予想通りの人物の姿が目に入った。
(クロエ……!)
取り巻きを引き連れたクロエが不敵な笑みを浮かべて立っていた。
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