上 下
16 / 59

16 友人

しおりを挟む
入場を終えた後、私はひとまずエルフレッドから距離を取った。


「リーシャ、最初のダンスを君と踊りたいのだが……」
「私は今日体調が優れないので是非側妃様と踊ってください」
「え、クロエと……?本気で言っているのか……?」
「はい」


離れる際にエルフレッドからダンスの誘いを受けたが、丁重にお断りした。
彼は何故だか不満そうな顔をしていたが、私にそんなことを言わせる原因となったのは彼の方だ。


(本気で言っているのかですって?二度目の人生で堂々と側妃とファーストダンスを踊って正妃をほったらかしにしたのは貴方なのよ)


元々エルフレッドと必要以上に関わる気などさらさら無かった私は、すぐに彼から離れた。
背中に彼の未練がましい視線をひしひしと感じたが、私が振り返ることは無かった。


エルフレッドから離れた私が向かったのは、とある女性たちの集まりだった。


「――皆さん、ご機嫌よう」
「王妃様」


数人の若い貴婦人たちが私の声で振り返った。
王妃である私が突然やってきてかなり驚いたようだ。


彼女たちは一瞬固まった後、すぐに立ち上がって礼を尽くした。


「そうかしこまらないでちょうだい、私も混ぜてもらえないかしら?」
「も、もちろんです、王妃様!」
「ありがとう」


緊張で真っ青なその顔に、思わず笑いが零れる。
私がわざわざ彼女たちの元へ来たのにはしっかりとした理由があった。


(だってこの人たちは前世で唯一私に好意的だったご婦人たちだもの……)


そう、彼女たちは侍女リリアーナと同じくクロエ側に付かなかった数少ない貴族たちの一人だった。
過去二度の人生ではほとんどの貴族が王の寵愛を得ている側妃の味方をしていたのだ。


私を愛されない王妃だと嘲笑してきた人と親しくするだなんて御免だ。
せっかくならリリアーナのように私を嫌っていない人と仲良くしたい。


「王妃様のドレス、とてもよくお似合いです!元々の美しさに相まって……」
「ちょっと貴方!」


横にいたご婦人がコツンと突いた。
側妃とドレスの色がかぶってしまっていることを気にしているのだろう。
彼女の顔がみるみるうちに青くなった。


「あ、も、申し訳ありません!そういうつもりで言ったわけでは……」
「かまわないわ。私もこのドレスは気に入っているのよ。褒めてくれてとても嬉しいわ」
「王妃様……」


彼女たちは何も悪意があってそのようなことを言ったわけではないということを分かっている。
だから責めるつもりなんて無い。


「王妃様は本当にお優しいのですね」
「……そうかしら?」


(優しいだなんて、人生で初めて言われたわ……)


元々キツい容姿をしているからか、私はいつだって冷たい女だと誤解されてきた。
二度目の人生では出来るだけ優しく側妃に接したにもかかわらず、何故だか嫌がらせをしたのではないかという噂が立ってしまうほどだった。


だからこそ、そんな風に見られたのはとても嬉しかった。


「今度、皆を私のお茶会に招待してもいいかしら?」


そう言うと、彼女たちは感動したように目を輝かせた。


「王妃様のお茶会に参加できるなんて……」
「夢みたいだわ……!」


(お茶会に招待しただけでそこまで喜んでもらえるなんて……)


これまでエルフレッドに夢中で親しい同年代の友人なんていなかった私。
もしかしたら、彼女たちとは良き友になれるかもしれない。


嬉しそうに微笑む彼女たちを見ていると、そんな希望が芽生えてくる。
私たちが会話に花を咲かせていたそのとき、よく聞き慣れた声が間に割り込んだ。


「――あら、王妃様ではありませんか」
「……!」


振り返ると、私の予想通りの人物の姿が目に入った。


(クロエ……!)


取り巻きを引き連れたクロエが不敵な笑みを浮かべて立っていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

処理中です...