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5 家族

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「家族……?」


私が不思議そうに首をかしげると、彼女はポツリポツリと自身の過去について語り始めた。


「私、幼い頃に母親を亡くしていて、ずっと孤児院で暮らしていたんです」
「……」
「少し前にフィンガー子爵家の私生児だということが判明して子爵家に迎えられたんですけど、ようやく会えた父は私に無関心で……義母と義理の兄弟たちは私のこと嫌いみたいでいつもキツく当たられているんです……」
「クロエ様……」


どうやらフィンガー子爵家はかなり複雑な家庭環境だったようだ。
彼女の話を聞いていると自身の家族のことを思い出す。


私も母を幼い頃に亡くしていた。
あまり家に帰らなかった父はすぐに再婚して義母と腹違いの妹を連れてきた。
とても仲の良さそうな家族だったが、そこに私は入っていない。


父にとっての子供は妹だけなのだろう。
私は放置されて育った。


あの家に私の居場所は無いも同然だった。
結婚するまでの二十年間、私はあの家で耐えてきた。


「エルフレッド様はそんな私の境遇を聞いてすぐにでも私を王宮で住まわせると約束してくださったんです。本当に彼には感謝してもしきれません」
「……」


彼はもちろん私の家庭環境なんて知らない。
気にしたことすらないだろう。


彼女の話を聞いてふと考えた。
もし自身の辛い境遇を話していたら、エルフレッドは助けてくれたのだろうかと。
そんなことあるわけがないと分かっていながらもついつい想像してしまう。


「私には家族がいないも同然なんです。だから、王妃様と家族になれたら嬉しいなって……」
「そうだったのですね……」


クロエ様は悲しそうに目を伏せた。


「迷惑、だったでしょうか?」
「あ、いえ……そんなことはありませんわ……陛下とのお茶会にも喜んで参加させていただきたいです」
「まぁ、本当ですか!?とっても嬉しいです!」


承諾するつもりなんて無かったのに、気付けば口が勝手に動いていた。


自分と似ている彼女の境遇を聞いて、ついそんなことを言ってしまった。
陛下と三人でのお茶会で自分がどのような思いをするかはよく分かっているはずなのに。


『君は少し優しすぎる。上に立つ者なら時には厳しくすることも大切だ』


昔エルフレッドに言われた言葉が頭に浮かんだ。
あのときから私は何一つ変わっていないのだということを感じた。
彼への愛も、要求を断れないところも。


全く成長していなかった。


「では、早速この後陛下に話してみます!きっと喜んで来てくださるはずです!」
「ええ、楽しみにしています」


そう言うと、彼女は席を立ち上がった。
招待しておいて私より先に帰るとは。


去る前、クロエ様は私の手を握ってこう言った。


「ここに来るとき本当はとても不安だったんですけど、王妃様のおかげで本当に幸せな毎日を送れています。ありがとうございます、王妃様!」
「そうですか」


その幸せが誰かの犠牲の上で成り立っているということを彼女が理解する日は来るのだろうか。




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