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2 夫の想い人
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「初めまして、王妃様。クロエ・フィンガーと申します」
後に紹介された夫の想い人は、庇護欲をそそるピンク髪の可愛らしい女性だった。
冷たい容姿をしている私とは真逆で、彼の好きな女性はこういう人だったのだろうということを嫌でも思い知らされた。
最初から私に勝ち目なんて無かったのだろう。
二人は偶然出会い、お互いに一目惚れした。
慣れない王宮で道に迷っていた彼女を、彼が見つけた。
幼い頃から強制的に婚約させられていた私とは大違いだ。
あの夜、エルフレッドは私の提案を笑顔で受け入れた。
そしてその日は私を抱くことも無く、嬉々として自室へ戻って行った。
何もせずに去って行くその背中が、どれだけ私を惨めにさせるかなんて彼には分からないだろう。
それからすぐに彼女は側妃として王宮に上がることとなり、今日がちょうど初日だった。
私の夫が私の目の前で愛する女性の肩を抱いて優しく微笑んでいる。
彼の腕の中で彼女は笑っている。
私がここにさえいなければ、二人は相思相愛の恋人同士のように見えただろう。
私の存在など気にも留めていないようで、完全に二人の世界に入っている。
「彼女は元々市井で暮らしていて、フィンガー家に引き取られてまだ日が浅い。だから多少の無礼は大目に見てやってくれ」
「はい、陛下」
私の前で彼女を庇うような発言をするだなんて。
既に彼の頭の中は彼女でいっぱいになっているようだ。
「リーシャと申します、クロエ様。何か困ったことがあれば私に言ってください」
「あ、ありがとうございます。王妃様」
私がそう言うと、クロエ様は愛らしい顔で笑った。
そんな彼女に、彼はクスリと笑みを浮かべた。
「……」
初めて見る優しい瞳。
彼女が愛しくてたまらないと言うような顔だ。
(彼女の前ではそんな風に笑うのね……)
その瞳は私に向けられたものでは無いのに、初めて見る彼の顔にドキドキしてしまう自分がいる。
私がどうして、と思うが胸の高鳴りは一向に収まらない。
「……時間も遅いですし、お二人とももうお部屋へ戻られたらいかがですか?」
「ああ、そうだな」
これから彼らは初めての甘い夜を過ごすことになる。
それを邪魔するわけにはいかない。
邪魔者はここで退散した方がいいだろう。
それに彼女は私に代わって王家の子を産んでくれるかもしれないのだ。
私にとってはありがたい話ではないか。
何より愛するエルフレッドが彼女を望んでいる。
何も問題は無い。
無いはずなのに、どうして――
「行こう、クロエ」
「はい、エルフレッド様」
クロエ様に手を差し出したエルフレッドは、彼女の手を引いて私の前から立ち去っていく。
その全てにおいて、これまで私が一度も見たことの無い顔をしている。
「……」
虚しさと惨めさでしばらくその場から動くことが出来なかった。
ただ去って行く彼の後ろ姿をじっと見つめていた。
その姿が見えなくなるまでずっと。
だけど、いくらこうしたところで彼が振り返ることは絶対に無い。
二人を見送った私は、一人寂しく自室へと戻った。
後に紹介された夫の想い人は、庇護欲をそそるピンク髪の可愛らしい女性だった。
冷たい容姿をしている私とは真逆で、彼の好きな女性はこういう人だったのだろうということを嫌でも思い知らされた。
最初から私に勝ち目なんて無かったのだろう。
二人は偶然出会い、お互いに一目惚れした。
慣れない王宮で道に迷っていた彼女を、彼が見つけた。
幼い頃から強制的に婚約させられていた私とは大違いだ。
あの夜、エルフレッドは私の提案を笑顔で受け入れた。
そしてその日は私を抱くことも無く、嬉々として自室へ戻って行った。
何もせずに去って行くその背中が、どれだけ私を惨めにさせるかなんて彼には分からないだろう。
それからすぐに彼女は側妃として王宮に上がることとなり、今日がちょうど初日だった。
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彼の腕の中で彼女は笑っている。
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「はい、陛下」
私の前で彼女を庇うような発言をするだなんて。
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「あ、ありがとうございます。王妃様」
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そんな彼女に、彼はクスリと笑みを浮かべた。
「……」
初めて見る優しい瞳。
彼女が愛しくてたまらないと言うような顔だ。
(彼女の前ではそんな風に笑うのね……)
その瞳は私に向けられたものでは無いのに、初めて見る彼の顔にドキドキしてしまう自分がいる。
私がどうして、と思うが胸の高鳴りは一向に収まらない。
「……時間も遅いですし、お二人とももうお部屋へ戻られたらいかがですか?」
「ああ、そうだな」
これから彼らは初めての甘い夜を過ごすことになる。
それを邪魔するわけにはいかない。
邪魔者はここで退散した方がいいだろう。
それに彼女は私に代わって王家の子を産んでくれるかもしれないのだ。
私にとってはありがたい話ではないか。
何より愛するエルフレッドが彼女を望んでいる。
何も問題は無い。
無いはずなのに、どうして――
「行こう、クロエ」
「はい、エルフレッド様」
クロエ様に手を差し出したエルフレッドは、彼女の手を引いて私の前から立ち去っていく。
その全てにおいて、これまで私が一度も見たことの無い顔をしている。
「……」
虚しさと惨めさでしばらくその場から動くことが出来なかった。
ただ去って行く彼の後ろ姿をじっと見つめていた。
その姿が見えなくなるまでずっと。
だけど、いくらこうしたところで彼が振り返ることは絶対に無い。
二人を見送った私は、一人寂しく自室へと戻った。
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