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父と娘による仲直り大作戦
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リデルがオズワルドと二人で話をした後から、社交界でのベルクォーツ公爵家の噂がほんの少しずつ変化していった。
こんなに早く変わるとは思わなかったリデルは正直驚いた。
どうやらオズワルドが一刻も早くシルフィーラの名誉を回復させるために、様々な場所で行動しているようである。
(……お父様ったら、お義母様を傷付けてたってことがよっぽどショックだったみたい)
以前のベルクォーツ公爵と言えば愛人にかまけて正妻を蔑ろにする男だったが、今ではそのイメージも少しずつ払拭されているようだ。
それと同時にシルフィーラの株も上がり始めた。
しばらくして、オズワルドがリデルの部屋へと押しかけて来た。
あれからというもの、本邸にまるで帰って来なかったオズワルドはリデルに言われた通りかなりの頻度で帰って来るようになった。
「リデル!シルフィーラの名誉を守ったぞ!」
部屋の中にいた侍女が、突如入って来たオズワルドを見てギョッとした。
「お父様……まさかこんなにも早く成し遂げられるとは思いませんでした」
「シルフィーラのためだからな」
「それじゃあ次の作戦に行きましょうか」
「ああ」
そして、リデルとオズワルドは人払いをした部屋でこっそり作戦会議を始めた。
「お義母様に、お父様の誠意を見せるべきです」
「誠意か……」
「ハッキリ言って、今のお父様に愛していると言われてもお義母様は信じないでしょう」
「……」
「ですからまずは、お義母様に信頼してもらうことから始めましょう」
「それもそうだな」
そこでオズワルドが考えたのは、リデルがいつもしているようにシルフィーラと食事を共にすることだった。
シルフィーラは食べるのが好きで、食事の時間を大切にしているということを覚えていた彼は、早速それを行動に移した。
しかし、これには一つ大きな誤算があった。
「……」
その日の夕食の時間、食堂には見るからに不機嫌そうなオズワルドの姿があった。
彼の機嫌が悪い理由、それは――
「お父様、今日のお食事もとっても美味しいですね!」
「お父様、今度ヴァンフリード殿下が公爵邸へいらっしゃるかもしれません」
「父上、早く俺を父上の仕事に同行――」
そう、そこにはシルフィーラとリデルだけではなくマリナたち三人もいたからだ。
(……これはとんだ災難だなぁ)
このときばかりはリデルもオズワルドに同情した。
普段は食堂に来ずそれぞれの部屋で食事を済ませている三人だが、オズワルドがいるときだけは別だ。
そして彼らは父親が夕食に参加するということをどこから聞きつけたのか、大急ぎで食堂へとやって来たのだ。
そしていつものようにアピール大会が始まった。
オズワルドが不機嫌な理由はまさにこれである。
しかし、三人はそのことに全く気付いておらずそれぞれが積極的にオズワルドに話しかけている。
そのため、今の食堂の空気はかなりピリピリしている。
「――それでは、私はお先に失礼します」
「あ、ちょっ、待っ……」
引き留める隙も無く、シルフィーラは食堂から出て行った。
(お、お父様……)
そして、その日の夜。
「お父様、お疲れ様です」
「……あぁ、本当に疲れた」
リデルの部屋に来たオズワルドは、酷く疲れ切った顔をしていた。
きっとマリナたちに遅くまで引き留められたのだろう。
「お父様、いつまでも落ち込んでないで次の作戦に移りましょう!」
「ん?あぁ、そうだな!こうしちゃいられないな!」
それからリデルとオズワルドは第二の作戦を練った。
「どうすればシルフィーラと二人きりになれるだろうか」
「そうですね……あの三人がいる限り、公爵邸では難しいかと……」
「そうなんだよなぁ……」
マリナたちの存在を思い出したのか、オズワルドが眉をひそめた。
「じゃあ、偶然の出会いを装ってみましょうか」
「偶然の出会い……?」
「はい、私がお義母様を邸の外に連れ出しますからお父様も外で待機していてください」
「なるほど、それなら二人きりになれるな」
そして作戦実行の日。
「お義母様、公爵邸の外に綺麗なお花が咲いている場所があるんです!よかったら一緒に行きませんか!」
「まぁ!それは本当なの?是非行きたいわ!」
リデルはシルフィーラを公爵邸から連れ出すことに無事成功した。
シルフィーラは外へ出るのが好きだったため、すぐにリデルの提案に乗った。
「一体どこにあるのかしら?」
「それは行くまでのお楽しみです。公爵邸を出てっと……」
そこでリデルはわざとらしいくらいの演技をしてみせた。
「あれ!?お父様!?」
「お前たち……」
邸の外に一人でいたオズワルドを見たシルフィーラは目を見開いた。
「ちょうど良かった!お父様も一緒に行きませんか!」
「あ、あぁ……そ、そうだな!」
久々にシルフィーラと二人きりになるという緊張感のせいか、オズワルドはかなり不自然な話し方となっていた。
しかしもちろんシルフィーラはこれが二人の作戦であるということに気付いていない。
好都合だ。
「お義母様もいいですよね?」
「え、ええ……そうね……」
シルフィーラは困ったように苦笑しながらも、それを受け入れた。
「あ!大事なこと忘れてた!」
歩いている途中に、リデルはまたしても大げさな反応をした。
「リデル、どうかしたの?」
「私この後授業があるんだった!急いで行かないと!」
「まぁ……それは大変ね」
「お父様、お義母様!私はここらへんで失礼します!では、お二人で楽しんできてください!」
「え……二人で?」
リデルはそれだけ言うとそそくさとその場を去って行った。
そして、シルフィーラとオズワルドの二人だけがこの場に取り残された。
「……ふぅ」
オズワルドは一度深呼吸をした後、シルフィーラの傍に歩み寄った。
「……シルフィーラ」
「……旦那様」
ついに、当初の目的通り二人きりとなった。
(頑張れ、お父様!)
リデルは少し離れたところにある物陰に身を潜めて二人の様子をじっと見ていた。
「……その、少しだけ歩かないか」
「……旦那様がそれをお望みなら」
そうして二人は、隣り合って歩き始めた。
リデルはそんな彼らの後をバレないように付いて行く。
(こうして見てると、何だか付き合いたての初々しいカップルに見えるわね)
それから少し歩いてオズワルドが突然立ち止まった。
「……シルフィーラ」
「……?」
顔を上げたシルフィーラと、オズワルドの視線が交わった。
こんな風に目を合わせるのも二人にとっては久々だった。
(これは上手くいきそう!)
しばらくの間沈黙が流れたが、オズワルドが勇気を振り絞って声を出した。
「……シルフィーラ、俺は――」
「――あら、オズワルドじゃない」
オズワルドが何かを言おうとしたそのとき、二人の間に割って入った人物がいた。
(ちょっと!邪魔しないでよ!)
リデルは恨めしく思いながらその人物をじっと見つめてみる。
「は、母上……!?」
「お義母様……?」
どうやら割り込んだのはオズワルドの母親であるエリザベータのようだ。
(ゲッ!あの人か!)
リデルは前にエリザベータと話したときのことを思い出してげんなりした。
「こんなところで何しているのかしら?」
「……ここは私の邸宅です。何かおかしいでしょうか?」
「いいえ、子供の産めないその女をついに公爵家から追い出したんじゃないかと嬉しくなって聞いただけよ」
「母上!!!」
エリザベータのその言葉に、オズワルドは激昂した。
「でもその反応を見るに、どうやら違うようね。残念だわ」
「二度とそのようなことを言うのはおやめください」
そこでオズワルドはシルフィーラを庇うように前に出た。
しかしシルフィーラはエリザベータの言葉に深く傷付いたようで、何も言わずに俯いてしまった。
彼女にとって愛する人の子供が産めないというのは何よりも耐え難い事実だったからだ。
(お父様!お義母様を守って!)
リデルは今すぐにでも物陰から飛び出してエリザベータに対抗したいという気持ちを必死で抑えた。
オズワルドはシルフィーラを守る素振りを見せているが、それでもエリザベータの暴言は止まらない。
「私は早くその無価値な女を捨てて、セレナを公爵夫人にした方が公爵家のためになると思うけれどね」
「母上……!」
オズワルドはギリリと歯ぎしりをした。
(セレナ……?セレナってライアス様のお母様だよね……?)
セレナとはオズワルドの愛人の一人であり、ライアスの実母だ。
まぁ、実際のところ彼女はただベルクォーツ公爵家の血を引く子供を産んだだけで公爵の愛人でも何でもなかったわけだが。
「私があの女を妻にすることはありません」
「あら、どうして?公爵家の唯一の後継者の母親だというのに」
「正式に後継者だと決まっているわけではないでしょう」
「いいえ、次のベルクォーツ家を継ぐのはライアスよ。それ以外は認めないわ」
「ライアスは……!」
オズワルドはそこまで言ってハッとなって口を噤んだ。
ここが人目のある場所だということを忘れていたようだ。
「ハァ……ライアスが公爵家を継ぐことに不満があるようね」
「当然です」
「ライアスはね、貴方よりもよっぽど高貴な身分なのよ。貴方よりも重宝されるべき人間なの」
「……」
それを聞いたオズワルドは悔しそうにグッと拳を握り締めた。
(……どうしてあの人、あそこまでライアス様を当主にしたがるんだろう?)
物陰から三人の様子を見ていたリデルは、エリザベータのライアスに対する異様なまでの執着を不思議に思った。
「分かったなら私の邪魔をしないでちょうだい」
エリザベータはそれだけ言うと、オズワルドとシルフィーラの横を通り過ぎて当たり前のように公爵邸へと入って行った。
彼女はおそらく息子であるオズワルドではなく、ライアスに会いに来たのだろう。
「シ、シルフィーラ……」
オズワルドは不安げに後ろにいたシルフィーラの方を振り返った。
小刻みに震えている彼女に手を伸ばそうとするも、シルフィーラはそのまま逃げるように走り去って行ってしまった。
「シルフィーラ!」
去って行くシルフィーラの後ろ姿を見て、オズワルドはガックリと地面に膝を着いた。
(お、お義母様ぁ!)
そこで物陰にいたリデルも父オズワルドと同じように地面に膝を着いて項垂れた。
結局のところ、作戦は失敗に終わったのだった。
こんなに早く変わるとは思わなかったリデルは正直驚いた。
どうやらオズワルドが一刻も早くシルフィーラの名誉を回復させるために、様々な場所で行動しているようである。
(……お父様ったら、お義母様を傷付けてたってことがよっぽどショックだったみたい)
以前のベルクォーツ公爵と言えば愛人にかまけて正妻を蔑ろにする男だったが、今ではそのイメージも少しずつ払拭されているようだ。
それと同時にシルフィーラの株も上がり始めた。
しばらくして、オズワルドがリデルの部屋へと押しかけて来た。
あれからというもの、本邸にまるで帰って来なかったオズワルドはリデルに言われた通りかなりの頻度で帰って来るようになった。
「リデル!シルフィーラの名誉を守ったぞ!」
部屋の中にいた侍女が、突如入って来たオズワルドを見てギョッとした。
「お父様……まさかこんなにも早く成し遂げられるとは思いませんでした」
「シルフィーラのためだからな」
「それじゃあ次の作戦に行きましょうか」
「ああ」
そして、リデルとオズワルドは人払いをした部屋でこっそり作戦会議を始めた。
「お義母様に、お父様の誠意を見せるべきです」
「誠意か……」
「ハッキリ言って、今のお父様に愛していると言われてもお義母様は信じないでしょう」
「……」
「ですからまずは、お義母様に信頼してもらうことから始めましょう」
「それもそうだな」
そこでオズワルドが考えたのは、リデルがいつもしているようにシルフィーラと食事を共にすることだった。
シルフィーラは食べるのが好きで、食事の時間を大切にしているということを覚えていた彼は、早速それを行動に移した。
しかし、これには一つ大きな誤算があった。
「……」
その日の夕食の時間、食堂には見るからに不機嫌そうなオズワルドの姿があった。
彼の機嫌が悪い理由、それは――
「お父様、今日のお食事もとっても美味しいですね!」
「お父様、今度ヴァンフリード殿下が公爵邸へいらっしゃるかもしれません」
「父上、早く俺を父上の仕事に同行――」
そう、そこにはシルフィーラとリデルだけではなくマリナたち三人もいたからだ。
(……これはとんだ災難だなぁ)
このときばかりはリデルもオズワルドに同情した。
普段は食堂に来ずそれぞれの部屋で食事を済ませている三人だが、オズワルドがいるときだけは別だ。
そして彼らは父親が夕食に参加するということをどこから聞きつけたのか、大急ぎで食堂へとやって来たのだ。
そしていつものようにアピール大会が始まった。
オズワルドが不機嫌な理由はまさにこれである。
しかし、三人はそのことに全く気付いておらずそれぞれが積極的にオズワルドに話しかけている。
そのため、今の食堂の空気はかなりピリピリしている。
「――それでは、私はお先に失礼します」
「あ、ちょっ、待っ……」
引き留める隙も無く、シルフィーラは食堂から出て行った。
(お、お父様……)
そして、その日の夜。
「お父様、お疲れ様です」
「……あぁ、本当に疲れた」
リデルの部屋に来たオズワルドは、酷く疲れ切った顔をしていた。
きっとマリナたちに遅くまで引き留められたのだろう。
「お父様、いつまでも落ち込んでないで次の作戦に移りましょう!」
「ん?あぁ、そうだな!こうしちゃいられないな!」
それからリデルとオズワルドは第二の作戦を練った。
「どうすればシルフィーラと二人きりになれるだろうか」
「そうですね……あの三人がいる限り、公爵邸では難しいかと……」
「そうなんだよなぁ……」
マリナたちの存在を思い出したのか、オズワルドが眉をひそめた。
「じゃあ、偶然の出会いを装ってみましょうか」
「偶然の出会い……?」
「はい、私がお義母様を邸の外に連れ出しますからお父様も外で待機していてください」
「なるほど、それなら二人きりになれるな」
そして作戦実行の日。
「お義母様、公爵邸の外に綺麗なお花が咲いている場所があるんです!よかったら一緒に行きませんか!」
「まぁ!それは本当なの?是非行きたいわ!」
リデルはシルフィーラを公爵邸から連れ出すことに無事成功した。
シルフィーラは外へ出るのが好きだったため、すぐにリデルの提案に乗った。
「一体どこにあるのかしら?」
「それは行くまでのお楽しみです。公爵邸を出てっと……」
そこでリデルはわざとらしいくらいの演技をしてみせた。
「あれ!?お父様!?」
「お前たち……」
邸の外に一人でいたオズワルドを見たシルフィーラは目を見開いた。
「ちょうど良かった!お父様も一緒に行きませんか!」
「あ、あぁ……そ、そうだな!」
久々にシルフィーラと二人きりになるという緊張感のせいか、オズワルドはかなり不自然な話し方となっていた。
しかしもちろんシルフィーラはこれが二人の作戦であるということに気付いていない。
好都合だ。
「お義母様もいいですよね?」
「え、ええ……そうね……」
シルフィーラは困ったように苦笑しながらも、それを受け入れた。
「あ!大事なこと忘れてた!」
歩いている途中に、リデルはまたしても大げさな反応をした。
「リデル、どうかしたの?」
「私この後授業があるんだった!急いで行かないと!」
「まぁ……それは大変ね」
「お父様、お義母様!私はここらへんで失礼します!では、お二人で楽しんできてください!」
「え……二人で?」
リデルはそれだけ言うとそそくさとその場を去って行った。
そして、シルフィーラとオズワルドの二人だけがこの場に取り残された。
「……ふぅ」
オズワルドは一度深呼吸をした後、シルフィーラの傍に歩み寄った。
「……シルフィーラ」
「……旦那様」
ついに、当初の目的通り二人きりとなった。
(頑張れ、お父様!)
リデルは少し離れたところにある物陰に身を潜めて二人の様子をじっと見ていた。
「……その、少しだけ歩かないか」
「……旦那様がそれをお望みなら」
そうして二人は、隣り合って歩き始めた。
リデルはそんな彼らの後をバレないように付いて行く。
(こうして見てると、何だか付き合いたての初々しいカップルに見えるわね)
それから少し歩いてオズワルドが突然立ち止まった。
「……シルフィーラ」
「……?」
顔を上げたシルフィーラと、オズワルドの視線が交わった。
こんな風に目を合わせるのも二人にとっては久々だった。
(これは上手くいきそう!)
しばらくの間沈黙が流れたが、オズワルドが勇気を振り絞って声を出した。
「……シルフィーラ、俺は――」
「――あら、オズワルドじゃない」
オズワルドが何かを言おうとしたそのとき、二人の間に割って入った人物がいた。
(ちょっと!邪魔しないでよ!)
リデルは恨めしく思いながらその人物をじっと見つめてみる。
「は、母上……!?」
「お義母様……?」
どうやら割り込んだのはオズワルドの母親であるエリザベータのようだ。
(ゲッ!あの人か!)
リデルは前にエリザベータと話したときのことを思い出してげんなりした。
「こんなところで何しているのかしら?」
「……ここは私の邸宅です。何かおかしいでしょうか?」
「いいえ、子供の産めないその女をついに公爵家から追い出したんじゃないかと嬉しくなって聞いただけよ」
「母上!!!」
エリザベータのその言葉に、オズワルドは激昂した。
「でもその反応を見るに、どうやら違うようね。残念だわ」
「二度とそのようなことを言うのはおやめください」
そこでオズワルドはシルフィーラを庇うように前に出た。
しかしシルフィーラはエリザベータの言葉に深く傷付いたようで、何も言わずに俯いてしまった。
彼女にとって愛する人の子供が産めないというのは何よりも耐え難い事実だったからだ。
(お父様!お義母様を守って!)
リデルは今すぐにでも物陰から飛び出してエリザベータに対抗したいという気持ちを必死で抑えた。
オズワルドはシルフィーラを守る素振りを見せているが、それでもエリザベータの暴言は止まらない。
「私は早くその無価値な女を捨てて、セレナを公爵夫人にした方が公爵家のためになると思うけれどね」
「母上……!」
オズワルドはギリリと歯ぎしりをした。
(セレナ……?セレナってライアス様のお母様だよね……?)
セレナとはオズワルドの愛人の一人であり、ライアスの実母だ。
まぁ、実際のところ彼女はただベルクォーツ公爵家の血を引く子供を産んだだけで公爵の愛人でも何でもなかったわけだが。
「私があの女を妻にすることはありません」
「あら、どうして?公爵家の唯一の後継者の母親だというのに」
「正式に後継者だと決まっているわけではないでしょう」
「いいえ、次のベルクォーツ家を継ぐのはライアスよ。それ以外は認めないわ」
「ライアスは……!」
オズワルドはそこまで言ってハッとなって口を噤んだ。
ここが人目のある場所だということを忘れていたようだ。
「ハァ……ライアスが公爵家を継ぐことに不満があるようね」
「当然です」
「ライアスはね、貴方よりもよっぽど高貴な身分なのよ。貴方よりも重宝されるべき人間なの」
「……」
それを聞いたオズワルドは悔しそうにグッと拳を握り締めた。
(……どうしてあの人、あそこまでライアス様を当主にしたがるんだろう?)
物陰から三人の様子を見ていたリデルは、エリザベータのライアスに対する異様なまでの執着を不思議に思った。
「分かったなら私の邪魔をしないでちょうだい」
エリザベータはそれだけ言うと、オズワルドとシルフィーラの横を通り過ぎて当たり前のように公爵邸へと入って行った。
彼女はおそらく息子であるオズワルドではなく、ライアスに会いに来たのだろう。
「シ、シルフィーラ……」
オズワルドは不安げに後ろにいたシルフィーラの方を振り返った。
小刻みに震えている彼女に手を伸ばそうとするも、シルフィーラはそのまま逃げるように走り去って行ってしまった。
「シルフィーラ!」
去って行くシルフィーラの後ろ姿を見て、オズワルドはガックリと地面に膝を着いた。
(お、お義母様ぁ!)
そこで物陰にいたリデルも父オズワルドと同じように地面に膝を着いて項垂れた。
結局のところ、作戦は失敗に終わったのだった。
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