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家族
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国王の謁見からさらに一ヶ月後。
「リデル!旦那様!」
オズワルドの執務室で後継者になるための勉強をしていたリデルの元へ訪れたのは、バスケットのかごを手にしたシルフィーラだった。
「お義母様ー!」
「シルフィーラ、来るのは良いが何故俺よりもリデルの名前を先に呼ぶんだ?」
そんなシルフィーラを見て嬉しそうに飛び付くリデルと、不満そうなオズワルド。
シルフィーラはそんな夫を無視し、自身に抱き着いたリデルの頭を優しく撫でた。
「リデル、勉強お疲れ様。疲れたでしょう?ちょっと休憩にしない?」
「はーい!」
シルフィーラの提案にリデルは満面の笑みを浮かべて頷いた。
家族と過ごす時間はリデルにとって何にも代えがたいものだからだ。
そのまま部屋を出ようとする二人を見てオズワルドが慌てて口を開いた。
「ま、待て!俺も一緒に休憩する!」
「あら?旦那様はお仕事があるのではないのですか?」
「……もう終わった!」
そうは言っても、オズワルドの執務机の上には書類が山積みになっている。
彼はついさっきまで娘であるリデルとの時間を優先していたため、ほとんど自分の仕事が終わっていなかったのである。
そして、その傍には涙目になってオズワルドを見つめている侍従のカイゼルがいた。
(………………嘘つき)
オズワルドはシルフィーラとギクシャクしていた十七年間もの年月を埋めるかのように、少しでも時間が空けば彼女と共に過ごすようになっていた。
もちろん二人の娘であるリデルも一緒に。
そんな彼の様子に、いつも寂しくシンとしていたオズワルドの執務室が愛する妻と娘の笑い声に包まれた。
「さぁ、外に行きましょう。今日は天気が良いからお庭でゆっくりしましょうね」
「はーい!」
リデルとシルフィーラは会話をしながら執務室を出た。
あたふたしながら、オズワルドも二人について部屋を出て行く。
父親の執務室を出たリデルは堂々とした姿で公爵邸の廊下を歩いた。
公爵家に引き取られたばかりの頃はこの廊下を歩くのが怖くて仕方が無かったというのに、今ではすっかり平気である。
リデルには心強い味方が二人もいたからだ。
「お父様、お義母様、手繋いでください!」
少し後ろを隣り合って歩いていたシルフィーラとオズワルドの間に入り込んだリデルが幼い子供のように言った。
「「……」」
普段甘えることなど滅多に無いリデルの珍しい姿に、シルフィーラとオズワルドはクスリと口元に笑みを浮かべた。
そして三人はリデルを真ん中に、手を繋ぎながら庭園までの道のりを歩いた。
(家族ってこんなに温かいものなんだなぁ)
リデルは両隣を歩く大好きな父と母の姿を見て幸せを噛みしめた。
それから少しして公爵邸の庭園に着くと、ルーを始めとした精霊たちがいつものように嬉々として三人を出迎えた。
『リデルだ~!』
「みんな、久しぶり!」
リデルの姿を見た精霊たちが嬉しそうに飛び回った。
彼らはもうすっかり友達である。
『あ、シルフィーラもいるよ!』
『シルフィーラ~!』
「ふふふ、皆が元気そうで良かったわ」
リデルに続いて庭園へと入って来たシルフィーラに、精霊たちが駆け寄った。
『オズワルドもいるよ!』
『オズワルド嫌!嫌い!』
「何故俺だけ嫌われてるんだ!?」
自身から逃げるような精霊たちの反応を目にしたオズワルドがショックを受けたようにガックリと項垂れた。
「お、俺は心が汚いのか……?」
そんな彼を見たリデルとシルフィーラは、声を上げて笑い始めた。
「お父様、嫌われすぎ!」
「旦那様、まだまだこれからですよ!」
その声にオズワルドが顔を上げた。
「む……むう……そうだろうか……」
妻の娘の屈託のない笑顔を見て、彼は少しだけ元気を取り戻したようだ。
「さぁ、みんな!お茶にしましょう!」
軽食が入れられているバスケットを置き、紅茶の入った水筒を侍女から受け取ったシルフィーラがこの場にいる全員に声を掛けた。
「はーい、お義母様!」
「たまにはこういうのも悪くないな」
リデルは庭園に敷かれたシートの上に腰を下ろした。
もちろん彼女は大好きなシルフィーラの隣を陣取っている。
そしてさらにその隣には照れ臭そうにしながらも座るオズワルドが。
精霊たちの楽しそうな笑い声まで。
公爵邸は今日も賑やかだ。
「お父様、お義母様!」
リデルのその声に、オズワルドとシルフィーラがリデルの方を見た。
「――私、今とっても幸せです!」
溢れんばかりの笑顔でそう言ったリデルに二人は一瞬驚いたように目を見開いた後、すぐに破顔した。
ヴォルシュタイン王国名門中の名門ベルクォーツ公爵夫妻は唯一の娘の笑顔に弱いのだ。
それから三人は、暖かい日差しが降り注ぐ公爵邸の庭園で楽しいひと時を過ごした。
リデル、シルフィーラ、オズワルド。
この三人は誰が何と言おうと家族である。
リデルは近い将来、ベルクォーツ家初の女公爵となるのだった。
そしてそんなリデル女公爵には年の離れた弟妹がいたとかいなかったとか。
―――――――――――――――――
ここまで読んでくださってありがとうございました!
これで本編は完結となります。
最後に登場人物集を公開しようと思います!
「リデル!旦那様!」
オズワルドの執務室で後継者になるための勉強をしていたリデルの元へ訪れたのは、バスケットのかごを手にしたシルフィーラだった。
「お義母様ー!」
「シルフィーラ、来るのは良いが何故俺よりもリデルの名前を先に呼ぶんだ?」
そんなシルフィーラを見て嬉しそうに飛び付くリデルと、不満そうなオズワルド。
シルフィーラはそんな夫を無視し、自身に抱き着いたリデルの頭を優しく撫でた。
「リデル、勉強お疲れ様。疲れたでしょう?ちょっと休憩にしない?」
「はーい!」
シルフィーラの提案にリデルは満面の笑みを浮かべて頷いた。
家族と過ごす時間はリデルにとって何にも代えがたいものだからだ。
そのまま部屋を出ようとする二人を見てオズワルドが慌てて口を開いた。
「ま、待て!俺も一緒に休憩する!」
「あら?旦那様はお仕事があるのではないのですか?」
「……もう終わった!」
そうは言っても、オズワルドの執務机の上には書類が山積みになっている。
彼はついさっきまで娘であるリデルとの時間を優先していたため、ほとんど自分の仕事が終わっていなかったのである。
そして、その傍には涙目になってオズワルドを見つめている侍従のカイゼルがいた。
(………………嘘つき)
オズワルドはシルフィーラとギクシャクしていた十七年間もの年月を埋めるかのように、少しでも時間が空けば彼女と共に過ごすようになっていた。
もちろん二人の娘であるリデルも一緒に。
そんな彼の様子に、いつも寂しくシンとしていたオズワルドの執務室が愛する妻と娘の笑い声に包まれた。
「さぁ、外に行きましょう。今日は天気が良いからお庭でゆっくりしましょうね」
「はーい!」
リデルとシルフィーラは会話をしながら執務室を出た。
あたふたしながら、オズワルドも二人について部屋を出て行く。
父親の執務室を出たリデルは堂々とした姿で公爵邸の廊下を歩いた。
公爵家に引き取られたばかりの頃はこの廊下を歩くのが怖くて仕方が無かったというのに、今ではすっかり平気である。
リデルには心強い味方が二人もいたからだ。
「お父様、お義母様、手繋いでください!」
少し後ろを隣り合って歩いていたシルフィーラとオズワルドの間に入り込んだリデルが幼い子供のように言った。
「「……」」
普段甘えることなど滅多に無いリデルの珍しい姿に、シルフィーラとオズワルドはクスリと口元に笑みを浮かべた。
そして三人はリデルを真ん中に、手を繋ぎながら庭園までの道のりを歩いた。
(家族ってこんなに温かいものなんだなぁ)
リデルは両隣を歩く大好きな父と母の姿を見て幸せを噛みしめた。
それから少しして公爵邸の庭園に着くと、ルーを始めとした精霊たちがいつものように嬉々として三人を出迎えた。
『リデルだ~!』
「みんな、久しぶり!」
リデルの姿を見た精霊たちが嬉しそうに飛び回った。
彼らはもうすっかり友達である。
『あ、シルフィーラもいるよ!』
『シルフィーラ~!』
「ふふふ、皆が元気そうで良かったわ」
リデルに続いて庭園へと入って来たシルフィーラに、精霊たちが駆け寄った。
『オズワルドもいるよ!』
『オズワルド嫌!嫌い!』
「何故俺だけ嫌われてるんだ!?」
自身から逃げるような精霊たちの反応を目にしたオズワルドがショックを受けたようにガックリと項垂れた。
「お、俺は心が汚いのか……?」
そんな彼を見たリデルとシルフィーラは、声を上げて笑い始めた。
「お父様、嫌われすぎ!」
「旦那様、まだまだこれからですよ!」
その声にオズワルドが顔を上げた。
「む……むう……そうだろうか……」
妻の娘の屈託のない笑顔を見て、彼は少しだけ元気を取り戻したようだ。
「さぁ、みんな!お茶にしましょう!」
軽食が入れられているバスケットを置き、紅茶の入った水筒を侍女から受け取ったシルフィーラがこの場にいる全員に声を掛けた。
「はーい、お義母様!」
「たまにはこういうのも悪くないな」
リデルは庭園に敷かれたシートの上に腰を下ろした。
もちろん彼女は大好きなシルフィーラの隣を陣取っている。
そしてさらにその隣には照れ臭そうにしながらも座るオズワルドが。
精霊たちの楽しそうな笑い声まで。
公爵邸は今日も賑やかだ。
「お父様、お義母様!」
リデルのその声に、オズワルドとシルフィーラがリデルの方を見た。
「――私、今とっても幸せです!」
溢れんばかりの笑顔でそう言ったリデルに二人は一瞬驚いたように目を見開いた後、すぐに破顔した。
ヴォルシュタイン王国名門中の名門ベルクォーツ公爵夫妻は唯一の娘の笑顔に弱いのだ。
それから三人は、暖かい日差しが降り注ぐ公爵邸の庭園で楽しいひと時を過ごした。
リデル、シルフィーラ、オズワルド。
この三人は誰が何と言おうと家族である。
リデルは近い将来、ベルクォーツ家初の女公爵となるのだった。
そしてそんなリデル女公爵には年の離れた弟妹がいたとかいなかったとか。
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ここまで読んでくださってありがとうございました!
これで本編は完結となります。
最後に登場人物集を公開しようと思います!
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