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父と母なかよし大作戦

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リデルはその日から早速行動に移した。


「カイゼルさん、お父様が次に公爵邸に帰ってくるのはいつ頃ですか?」
「そうですね、三日後になられるかと……」


リデルはオズワルドの侍従であるカイゼルを味方に付け、父親のこれから先の予定を全て聞き出した。


(三日後か……なら大丈夫そう!)


そして、オズワルドが帰ってきた日の夜。


「お父様!」
「……?」


マリナたちがいない隙を見計らってリデルは帰宅したオズワルドに声をかけた。
そしてキラキラした眼差しで父親を見上げながら言った。


「私、もっとお父様と仲良くなりたいんです!明日一緒にお茶しませんか!」
「……」


突然の提案に、もちろんオズワルドは思い迷った。
しかし、こんなときは彼の侍従であるカイゼルの出番である。


「旦那様、リデルお嬢様は実の母親を亡くされたばかりで寂しい思いをされていらっしゃるのです。どうかお嬢様のお願いを聞き入れていただけませんか」
「……」


その言葉に、オズワルドは渋々お茶会に参加することを承諾した。


(よし!)


それから次にリデルが向かったのはシルフィーラの元だ。


「お義母様!」
「あら、リデル。どうしたの?」


リデルは部屋を出たシルフィーラにギュッと抱き着いた。


「お義母様、明日一緒にお茶でもしませんか?」
「リデルから誘ってくるだなんて珍しいわね。もちろんいいわよ」
「やった!」


シルフィーラはいつものように快くリデルの提案を受け入れた。


(完璧完璧!)


二人から承諾の返事を貰ったリデルは内心、ニヤリとほくそ笑んだ。






***





そしてお茶会当日。


「お父様!お義母様!さぁ、座ってください!」


お茶会に参加するため、リデルに指定された場所へ来た二人は互いの姿を見て見事に固まった。


「……」
「……」


ここは王都にあるカフェテリアの一室である。
何故二人をこの場所に来させたのかというと、それはこの近辺が有名な縁結びスポットだからだ。
お茶会を終えたオズワルドとシルフィーラが二人きりでデートをする……というシチュエーションを考えたリデルが二人をここへ誘導したのだ。


「リデル……これは一体……」


シルフィーラが青褪めた表情でリデルの方を見た。
リデルはそんな義母にニッコリと笑い返す。


(ごめんなさいお義母様。あなたを嵌めました)


顔色の悪くなったシルフィーラを見てオズワルドが口を開いた。


「――俺は帰る」
「えっ!お父様!?」


それだけ言うとオズワルドはすぐにこの場を立ち去ろうとする。


(ちょ、ちょっと待ってよ!これじゃ意味無いじゃない!)


リデルは早足で歩くオズワルドの後を必死で追いかけ、上着の裾をギュッと掴んだ。


「待ってくださいお父様!」
「……」


オズワルドは立ち止まりはしたものの、リデルとシルフィーラの方を振り返ろうとはしなかった。


「お父様!行かないでください!」
「……」


そう言っても、オズワルドは黙ったままだ。
もしかすると自分がいることでシルフィーラが嫌な思いをすると思っているのかもしれない。
もしそうならとんだ勘違いだ。
何故なら彼女は今でもオズワルドを愛しているのだから。


「お義母様!お義母様もお父様に参加してほしいですよね!」


焦ったリデルは後ろでこの光景をじっと見つめていたシルフィーラに同意を求めた。
こうするのが一番手っ取り早いと思ったからだ。


突然そんなことを聞かれたシルフィーラは、顔を引きつらせながらも頷いた。


「え……ええ、そうね……」
「……」


それを聞いたオズワルドはしばらくの間立ち尽くしていたが、突然振り返ったかと思うとゆったりとした歩みで席へと戻った。


(やった!作戦成功!)


オズワルドが座るのを見たリデルとシルフィーラも席に着き、三人で一つのテーブルを囲んでのお茶会が始まった。


「お父様!お義母様!この紅茶、とっても美味しいですね!」
「ええ、そうね」
「……」


お茶会が始まってからというもの、リデルは積極的に二人に話しかけた。


そんなリデルを温かい目で見守りながら言葉を返すシルフィーラ。
二人の会話に耳を傾けながらも一言も発しないオズワルド。


「お父様とお義母様もお一ついかがですか!」
「あら、じゃあいただこうかしら」
「……」


シルフィーラはリデルの差し出したクッキーを受け取って口に運んだ。
彼女の食べる姿はいつ見ても美しい。
そんなシルフィーラを、オズワルドは本人に気付かれないように横目でチラチラと見ていた。


(ああ、もうじれったい!見てないで話しかければいいのに!)


しかし、そんなリデルの思いとは裏腹に二人はいつまで経っても言葉を交わそうとはしなかった。


「お、お父様……お義母様……」
「……」
「……」


そしてリデルが喋らなくなると、すぐに部屋に沈黙が流れた。


(な、何か私ばかり喋ってる気が……)


二人に仲良くなってほしくてお茶会を開いたというのに、これでは意味がない。
そこでリデルはとある作戦を決行することを決めた。


「う……うう……」
「リデル!?どうしたの!?」


リデルは突然腹を押さえながら苦しそうにうめき声を上げた。
それを見たシルフィーラは、すぐに椅子から立ち上がって駆け寄った。


「お、お腹が……」
「ま、まさか毒!?」


顔が青くなっていくシルフィーラに、オズワルドは冷静に告げた。


「ただの食べ過ぎだろう」
「……!」


父親の言葉にリデルはギクリとなった。


(な、何かそう言われると恥ずかしい……!)


まさかオズワルドに食い意地が張っていると思われていたとは。
公爵邸で口にする食事が美味しすぎてつい食べ過ぎてしまっていたようである。
自覚が無いことは無かった。


「で、ですが旦那様……医者を呼んだほうがよろしいのでは?」


シルフィーラはオズワルドの方を見ながらそう言った。


(医者!?ちょっと待ったー!)


医者という言葉を聞いて焦ったリデルは慌てて口を開いた。


「お、お義母様!私、大丈夫だよ!」
「ダメよ!そんなこと言って悪化したらどうするの!」


しかし、リデルに対して早くも過保護になっているシルフィーラはなかなか退かない。


「ちょ、ちょっとトイレ行ったら治るだろうから……」
「……本当に?」
「うん!」


シルフィーラはようやく納得してくれたようだった。
しかし――


「そう、じゃあ今日のお茶会はこれで終わりにしましょう」
「え!?」
「リデルがそんな風になっているのに呑気にお茶なんてしていられないわ」


(待って待って!どうしてそうなるの!)


シルフィーラとオズワルドを二人きりにしようとしたのにとんだ誤算だった。


「あーやっぱり治ったみたい!もう何ともないよ!」
「え、本当に?」
「うん!もう元気!」


リデルはそう言いながらシルフィーラとオズワルドの周辺を走り回った。
淑女らしからぬ行動だが、今はリデルにとってそれどころではなかった。
自分がどれほど健康体であるかの証明をしなければいけなかったから。


「本当かしら?」


それでもシルフィーラはまだ訝し気にリデルの体を上から下まで見ていた。
そして、ハァとため息をついて席に着いた。


「念のため、後でお医者さんに診てもらいましょうね」
「は、はーい……」


シルフィーラは心配性なようだ。
ふと父親の方を見てみると、オズワルドは机に肘をつきながら興味の無さそうに一連の事態を眺めていた。


「あ……お、お父様……」
「……」


オズワルドはリデルと目が合うなりプイッと顔を背けた。
リデルはそんな父親に慌てて話しかけた。


「あ、あの!お父様とお義母様、この後散歩でもしませんか?」
「良い提案だけれど、この後は侯爵夫人のお茶会があるのよ」
「俺も仕事がある」
「あ……そ、そうですか……」


(さ、作戦失敗……!)


作戦を開始してから早くも、リデルの心は折れそうになっていた。


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