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29 娘 ディアン視点
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「放せ!!!私を誰だと思っているんだ!!!」
「静かにしてください、旦那様」
声を荒らげる私に、騎士は冷たい声でそれだけ言った。
(何だその態度は!?私はこの公爵家の当主だぞ!)
父の代からこの公爵家に仕えている騎士が、不敬にも程があるのではないか。
しかも、それだけではない。
通りすがりの使用人たちが口元に笑みを浮かべて私を見ているのだ。
――まるで”ざまあみろ”とでもいうかのように。
(クソッ!一体どういうことなんだ!)
私が家を空けている間に彼らは随分と変わってしまったらしい。
主の自分にそのような態度を取る使用人たちにも腹が立つが、今はそんなことどうでもいい。
(それよりあのクソ女を殺しに行かなければ……あいつだけは絶対に……!)
あんなのに騙されていた自分がとても情けない。
何故私はあんな女を好きになっていたのだろうか。
今さら後悔しても遅すぎるのは分かっている。
しかし、アイツだけは私の手で殺らなければ腹の虫が収まりそうにない。
「おい、放せ!アイツだけは私の手で殺るんだ……!」
「旦那様、あの女は裁判を経て確実に死刑になるでしょうからその必要はありません」
「それでは意味がないのだ!私が直接殺ることで……」
「はいはい、私刑は良くないですよ」
「おい、私の話を聞け!」
騎士は面倒くさそうに私の言葉を聞き流した。
その態度にムカついて暴れてみるが、筋力の無い私では全く歯が立たない。
「おい、私をどうする気だ!」
「それは奥様にお聞きください」
(奥様だと!?アイツはいつから私よりも上の立場になったんだ!!!)
他家の貴族令嬢に過ぎないアイツが何故当主のように扱われているんだ。
心の中でそんな不満を抱きながらも大人しく歩いていると、前から小さな子供が歩いてきた。
最初は誰だか分からなかった。
しかし、一歩一歩近付くたびにゆるくウェーブのかかった黒い髪がハッキリと見えた。
侍女を引き連れて歩いていた子供は、私の前で立ち止まった。
黒い大きな瞳が私を映す。
「……」
「……お前は……」
「リ、リアお嬢様!」
騎士が焦ったように声を上げた。
(お嬢様だと!?もしかして、あの女の娘か!?)
アイツに娘がいることは知っていたが、顔を見て驚いた。
私の子供の頃にそっくりではないか。
(リアと言ったか……)
誰がどう見ても間違いなく私の血を継いだ子だ。
ルヴァンは私の息子では無かったが、この子は確実に私の子だろう。
「リア……」
娘の姿を見て、何故だか胸が温かくなる。
(これが私の……)
見れば見るほど私に似ている。
何て愛らしいのだろう。
私は思わず、娘に飛びつきそうになった。
「リア!」
「――くそやろう」
「……………………………え?」
非常に冷たい目でそれだけ言うと、娘は侍女を連れて私の前から足早に立ち去って行った。
(い、今何て……)
驚いてその場から動けないでいる私をよそに、同行していた騎士は笑いを堪えきれないかのように口元をおさえてプルプルと震えている。
(ク、クソ野郎……?私は娘にクソ野郎と言われたのか……?)
ショックで立ち直れない。
それから私は放心状態のまま騎士に自室まで連れられ、沙汰を待つこととなった。
「静かにしてください、旦那様」
声を荒らげる私に、騎士は冷たい声でそれだけ言った。
(何だその態度は!?私はこの公爵家の当主だぞ!)
父の代からこの公爵家に仕えている騎士が、不敬にも程があるのではないか。
しかも、それだけではない。
通りすがりの使用人たちが口元に笑みを浮かべて私を見ているのだ。
――まるで”ざまあみろ”とでもいうかのように。
(クソッ!一体どういうことなんだ!)
私が家を空けている間に彼らは随分と変わってしまったらしい。
主の自分にそのような態度を取る使用人たちにも腹が立つが、今はそんなことどうでもいい。
(それよりあのクソ女を殺しに行かなければ……あいつだけは絶対に……!)
あんなのに騙されていた自分がとても情けない。
何故私はあんな女を好きになっていたのだろうか。
今さら後悔しても遅すぎるのは分かっている。
しかし、アイツだけは私の手で殺らなければ腹の虫が収まりそうにない。
「おい、放せ!アイツだけは私の手で殺るんだ……!」
「旦那様、あの女は裁判を経て確実に死刑になるでしょうからその必要はありません」
「それでは意味がないのだ!私が直接殺ることで……」
「はいはい、私刑は良くないですよ」
「おい、私の話を聞け!」
騎士は面倒くさそうに私の言葉を聞き流した。
その態度にムカついて暴れてみるが、筋力の無い私では全く歯が立たない。
「おい、私をどうする気だ!」
「それは奥様にお聞きください」
(奥様だと!?アイツはいつから私よりも上の立場になったんだ!!!)
他家の貴族令嬢に過ぎないアイツが何故当主のように扱われているんだ。
心の中でそんな不満を抱きながらも大人しく歩いていると、前から小さな子供が歩いてきた。
最初は誰だか分からなかった。
しかし、一歩一歩近付くたびにゆるくウェーブのかかった黒い髪がハッキリと見えた。
侍女を引き連れて歩いていた子供は、私の前で立ち止まった。
黒い大きな瞳が私を映す。
「……」
「……お前は……」
「リ、リアお嬢様!」
騎士が焦ったように声を上げた。
(お嬢様だと!?もしかして、あの女の娘か!?)
アイツに娘がいることは知っていたが、顔を見て驚いた。
私の子供の頃にそっくりではないか。
(リアと言ったか……)
誰がどう見ても間違いなく私の血を継いだ子だ。
ルヴァンは私の息子では無かったが、この子は確実に私の子だろう。
「リア……」
娘の姿を見て、何故だか胸が温かくなる。
(これが私の……)
見れば見るほど私に似ている。
何て愛らしいのだろう。
私は思わず、娘に飛びつきそうになった。
「リア!」
「――くそやろう」
「……………………………え?」
非常に冷たい目でそれだけ言うと、娘は侍女を連れて私の前から足早に立ち去って行った。
(い、今何て……)
驚いてその場から動けないでいる私をよそに、同行していた騎士は笑いを堪えきれないかのように口元をおさえてプルプルと震えている。
(ク、クソ野郎……?私は娘にクソ野郎と言われたのか……?)
ショックで立ち直れない。
それから私は放心状態のまま騎士に自室まで連れられ、沙汰を待つこととなった。
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