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27 過去② ドロシー視点
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(何か申し訳ないことしちゃったなぁ……)
今回のことはいくら何でも少しやりすぎた。
女の方は既に手遅れだったが、残された息子のことがどうも気にかかった。
処刑された女の息子……先代公爵の婚外子でもあるディアンはあの事件があってから大罪人の息子として別邸に幽閉されている。
気になった私は、一度彼に会いに行ってみることにした。
(ここが……あの人が閉じ込められている別邸ね……)
公爵家の本邸とは比べ物にならないくらい古びた家だった。
私は見張りの騎士を買収し、くすねた鍵でこっそり中に入った。
中は使用人もほとんどいないようで、掃除もされていないのか埃が舞っている。
幽霊屋敷と見間違えてしまうほどである。
(こんなところに閉じ込めるなんて正気……?)
しばらく進むと、ある一室から物音がした。
その部屋の扉をゆっくり開けて入る。
「失礼しまーす……あの……」
中にいたのはボロボロの服を着た青年だった。
髪の毛はボサボサで、目の下にはクマがある。
私が入ってきたことにも気付かず、うずくまっている。
「あ、あの……」
肩に手を置くと、彼がゆっくりと私を見た。
もうずっと何も食べていないようで、かなり痩せこけている。
食事すら与えられていないのだろうか。
私は公爵邸から持ってきた軽食を彼に渡した。
「これ、良かったらどうぞ」
「……!」
余程お腹を空かせていたのか、彼はがっつくように食べた。
「美味しい?」
「……ああ」
「良かった」
優しく微笑みかけると、彼は顔を赤くした。
それから私は、度々別邸へ行っては彼と交流と持つようになった。
彼がこのようになったのは私のせいだったから、どうしても放っておけなかったのだ。
そこから私たちが恋愛関係になるまでにそう時間はかからなかった。
彼は私にゾッコンだった。
深い絶望の中で救いの手を差し伸べた私は聖母のように見えたのだろう。
毎日のように愛していると囁き、君だけだと口にした。
――しかし、ディアンと恋人になったとしても、私はアース様との縁を切ることが出来ずにいた。
ディアンは私だけを心から愛してくれるが、アース様のように権力も金も無いから何も出来ない。
それでは物足りない。
そんな関係を数年に渡って続けているうちに、私はついに目的を達成することとなる。
(私……妊娠したわ……!)
私はついに公爵家の血を引く子を身籠ることに成功したのである。
ディアン様とは一線を越えていないからおそらくアース様との子だ。
(この子がいれば、私は一生裕福な暮らしが出来るわ……!)
しかし、ここでも予期せぬ事態が起きた。
私が妊娠を伝える前にアース様はこの世を去ってしまったのである。
母親である公爵夫人と共に馬車事故で亡くなってしまったのだという。
公爵位を継いでから五年、早すぎる死だった。
(ちょっと待って……なら、この子はどうなるの……?)
アース様に子供はいないし、先代公爵夫人には彼しか子はいなかった。
正統な血を持つ公爵家の人間はもういないのだ。
ということは……次の公爵は……
私は慌ててディアン様の元へと向かった。
そして薬を飲ませて眠らせ、あたかも一夜を過ごしたかのように偽装した。
ディアン様が公爵になると、私は身籠っていることを彼に伝えた。
私に盲目だったディアン様は妊娠の話を疑うことなくすぐに信じた。
そうして私は嘘に嘘を重ね、強固な地位と贅沢三昧の暮らしを手に入れたのである。
今回のことはいくら何でも少しやりすぎた。
女の方は既に手遅れだったが、残された息子のことがどうも気にかかった。
処刑された女の息子……先代公爵の婚外子でもあるディアンはあの事件があってから大罪人の息子として別邸に幽閉されている。
気になった私は、一度彼に会いに行ってみることにした。
(ここが……あの人が閉じ込められている別邸ね……)
公爵家の本邸とは比べ物にならないくらい古びた家だった。
私は見張りの騎士を買収し、くすねた鍵でこっそり中に入った。
中は使用人もほとんどいないようで、掃除もされていないのか埃が舞っている。
幽霊屋敷と見間違えてしまうほどである。
(こんなところに閉じ込めるなんて正気……?)
しばらく進むと、ある一室から物音がした。
その部屋の扉をゆっくり開けて入る。
「失礼しまーす……あの……」
中にいたのはボロボロの服を着た青年だった。
髪の毛はボサボサで、目の下にはクマがある。
私が入ってきたことにも気付かず、うずくまっている。
「あ、あの……」
肩に手を置くと、彼がゆっくりと私を見た。
もうずっと何も食べていないようで、かなり痩せこけている。
食事すら与えられていないのだろうか。
私は公爵邸から持ってきた軽食を彼に渡した。
「これ、良かったらどうぞ」
「……!」
余程お腹を空かせていたのか、彼はがっつくように食べた。
「美味しい?」
「……ああ」
「良かった」
優しく微笑みかけると、彼は顔を赤くした。
それから私は、度々別邸へ行っては彼と交流と持つようになった。
彼がこのようになったのは私のせいだったから、どうしても放っておけなかったのだ。
そこから私たちが恋愛関係になるまでにそう時間はかからなかった。
彼は私にゾッコンだった。
深い絶望の中で救いの手を差し伸べた私は聖母のように見えたのだろう。
毎日のように愛していると囁き、君だけだと口にした。
――しかし、ディアンと恋人になったとしても、私はアース様との縁を切ることが出来ずにいた。
ディアンは私だけを心から愛してくれるが、アース様のように権力も金も無いから何も出来ない。
それでは物足りない。
そんな関係を数年に渡って続けているうちに、私はついに目的を達成することとなる。
(私……妊娠したわ……!)
私はついに公爵家の血を引く子を身籠ることに成功したのである。
ディアン様とは一線を越えていないからおそらくアース様との子だ。
(この子がいれば、私は一生裕福な暮らしが出来るわ……!)
しかし、ここでも予期せぬ事態が起きた。
私が妊娠を伝える前にアース様はこの世を去ってしまったのである。
母親である公爵夫人と共に馬車事故で亡くなってしまったのだという。
公爵位を継いでから五年、早すぎる死だった。
(ちょっと待って……なら、この子はどうなるの……?)
アース様に子供はいないし、先代公爵夫人には彼しか子はいなかった。
正統な血を持つ公爵家の人間はもういないのだ。
ということは……次の公爵は……
私は慌ててディアン様の元へと向かった。
そして薬を飲ませて眠らせ、あたかも一夜を過ごしたかのように偽装した。
ディアン様が公爵になると、私は身籠っていることを彼に伝えた。
私に盲目だったディアン様は妊娠の話を疑うことなくすぐに信じた。
そうして私は嘘に嘘を重ね、強固な地位と贅沢三昧の暮らしを手に入れたのである。
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