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26 過去① ドロシー視点

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(ハァ……どうして私がこんな場所で働かないといけないのかしら)


私は洗濯物の入ったカゴを置いてため息をついた。
私が今働いているのはグクルス公爵家という、王国では知らない人なんていないほどの名家だ。


(私はそれなりに地位のあるお金持ちの男と結婚して贅沢な暮らしを送るつもりだったというのに……)


私の家は貧乏だった。
両親は優しかったが、毎日のように働きづめで一緒にいられる時間なんてほとんどなかった。
しかしその割に食事は貧相だし、着ている服だってみずぼらしい。


私はそんな父と母を憐れに思っていた。
母だって、隣の村で噂になるほどの美貌を持ち合わせていたのに貧乏な男と結婚したせいで貧しい暮らしを送っている。
だからこそ、自分は絶対にお金を持っている男と結婚してやろうと思っていた。
幸い、私には母親から受け継がれた美貌があった。


そう思って結婚相手を探したが、なかなかうまくいかなかった。
まず、それなりに名のある年若い貴族の令息は結婚相手に平民なんて選ばない。
だからといって一回り以上歳の離れた男と結婚するのも御免だった。
地位と財力はもちろん、顔だって平均以上でなければお断りだ。
そのような理由から、私の婚約者探しは全くうまくいかなかったのだ。


そうしているうちに私は成人し、家のために働きに出ることとなった。
私の働き先はグクルス公爵家だ。


そしてそこである一人の男性と出会うこととなる。
それが当時の公爵であるアース様だった。


アース様は随分遊び人らしく、貴族令嬢やメイド、年上の未亡人にまで手を出していたという。
そして容姿の優れていた私は、偶然彼の目に留まり、彼と関係を持つこととなった。


最初は愛してもいない男に抱かれるなんて屈辱だったが、その生活は案外悪いものでは無かった。
アース様は私が欲しがっていたものを何でも買ってくれるようになったからだ。
美しいドレスや見たことも無い宝石。
私が欲しいと言えば全て迷うことなく買ってくれた。


(すごいわ……これが公爵家の財力なのね……)


そこから、私は次第に公爵夫人になりたいと考えるようになった。


望めば全て手に入るこの生活を、私は絶対に手放したくなかったからだ。
だからこそ、彼の私に対する関心が薄れていっているのを感じたときは焦った。


それを機に私は策略妊娠することを考え、実行に移した。
公爵夫人にはなれなくても子供がいればお金の援助くらいはしてくれるだろうから。
父親はいなくなるかもしれないが、貧乏な男と結婚して貧しい暮らしを送るよりかはマシだ。


公爵邸で働きながらそのような暮らしをしていた私だったが、ある日突然窮地に陥ることとなる。
大奥様の宝石や装飾品を盗んだことがバレたのだ。


アース様が私に興味を失っていき、私は前みたいに欲しいものが手に入らなくなっていた。
既に感覚が狂ってしまっていた私はそれに耐えられず、大奥様の部屋にあった美しい宝石やネックレスなどを盗むようになった。
バレないように少しずつやっていたつもりだったが、とうとうバレてしまったらしい。


私は焦った。
不幸中の幸いというべきか、まだ犯人は私だと知られていない。
どうすれば罪から逃れられるか、そのことで私の頭はいっぱいだった。


(そうだわ!他のヤツに罪を擦り付ければいいじゃない!)


それからの私の行動は早かった。
みずぼらしい服で公爵家に出入りしていた一人の女をターゲットにし、盗んだ宝石をこっそりその女の服に忍ばせておいた。


その状態で密告するとすぐに捕らえられ、女は地下牢に入れられた。
しかし、ここで予期せぬ事態が起きた。


女が処刑されることになったのだ。
普通、いくら平民とはいえ盗みを働いたくらいでは処刑されることはほとんどない。
せいぜいクビになり、屋敷を追い出されるくらいだろう。


しかし、今回ばかりは状況が違った。
私が盗んだ宝石の中に公爵家の家宝が入っていたのだという。
家宝を盗んだのなら、生かしておくわけにはいかない。


平民の女に公爵家の宝を盗まれただなんて領民たちに知られたくなかったのか、公表する罪状は最も重いものへと変更された。
そして女の死刑は二日後に執行され、無実を訴える女と、泣き叫ぶ息子の声が轟いていたという。



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