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25 断罪③
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十年前、ディアン様の母親がアース様と先代公爵夫人の殺害を企てたという罪によって処刑された。
しかし、それは冤罪で何の証拠もないまま彼女の罪は確定し、処刑が執行されてしまったのだ。
当然ディアン様は処刑を止めようとあの手この手を尽くしたが、何の権力も持たない私生児の彼が公爵となったアース様を止められるはずなど無かった。
結局、捕らえられてからわずか二日で彼女の死刑は執行された。
処刑場には泣き叫びながら必死で手を伸ばすも騎士たちも阻まれるディアン様の姿があったという。
これが一般的に知られているこの事件の概要である。
そしてこの後すぐにディアン様は大罪人の息子として離れに幽閉されることとなる。
(母親が罪を犯していないということを領民たちは知っていたから、ディアン様が公爵となることに反対する人は誰もいなかった。むしろ無実の罪で母を処刑された彼に同情する声の方が大きかったわね)
――権力を持つ暴君によって何の罪も無い人が処刑された。
このようにして多くの人に知られている事件だが、実際にはディアン様の母親を処刑に追いやった”黒幕”が存在したのだ。
「一週間前、前公爵が使っていた書斎に入ったところ、隠されていた金庫を発見しました。中を見てみると、公爵家の機密情報が書かれている書類が多く出て来たのですが……その中でも一つ、あるものに目が留まりました」
「あるもの……?」
ディアン様を含むその場にいた人間たちが首をかしげた。
「それは……かつて公爵領で悪事を働いて処刑された者のリストでした。当然、ディアン様の母君もその中に入っていたわけですが……一つ、疑問に感じた点がありました」
「……何が変だったと?」
「――罪状が”窃盗”になっていたのです」
それを聞いた周囲がざわめいた。
「どういうことだ?あの方の処刑理由は暗殺未遂だったはずだ……」
「ええ、その通り。そのことを不思議に思った私は、独自に事件の捜査を始めたのです」
――そこで知ったことは衝撃的な真実だった。
「この事件には黒幕がいます。アース様ではない、母君を貶めた真の黒幕が」
「……!」
全員が息を呑んだ。
そして、それを聞いたディアン様が立ち上がり、鋭い目で私に尋ねた。
「それは一体誰だ?」
名前を言えば、今すぐにでも犯人を殺してしまいそうな勢いだった。
「私が名指しするより、本人に何があったのか証言してもらう方が正確でしょう。――ねぇ、ドロシー様?」
「……」
私は騎士に押さえつけられている彼女を見た。
そしてその合図で騎士がドロシー様に瓶に入った液体を飲ませる。
「な、何よこれ!嫌!やめて!」
今彼女に飲ませたのは魔女の作った自白剤だ。
材料が特殊で製作がかなり困難だが、アルフ様の伝手を使って何とか入手することが出来た。
(さぁ、全て話しなさい)
今回わざわざ入手困難な自白剤を時間とお金をかけて手に入れたのにはワケがあった。
ディアン様と同じで、私も彼女の全てを知りたかったからだ。
――私を貶め、自分に無償の愛を与えてくれる人までも騙した彼女の全てを。
「うっ……ううっ……」
ドロシー様はかなり抵抗していたが、薬が効いたのか突然動きを止めて話し始めた。
しかし、それは冤罪で何の証拠もないまま彼女の罪は確定し、処刑が執行されてしまったのだ。
当然ディアン様は処刑を止めようとあの手この手を尽くしたが、何の権力も持たない私生児の彼が公爵となったアース様を止められるはずなど無かった。
結局、捕らえられてからわずか二日で彼女の死刑は執行された。
処刑場には泣き叫びながら必死で手を伸ばすも騎士たちも阻まれるディアン様の姿があったという。
これが一般的に知られているこの事件の概要である。
そしてこの後すぐにディアン様は大罪人の息子として離れに幽閉されることとなる。
(母親が罪を犯していないということを領民たちは知っていたから、ディアン様が公爵となることに反対する人は誰もいなかった。むしろ無実の罪で母を処刑された彼に同情する声の方が大きかったわね)
――権力を持つ暴君によって何の罪も無い人が処刑された。
このようにして多くの人に知られている事件だが、実際にはディアン様の母親を処刑に追いやった”黒幕”が存在したのだ。
「一週間前、前公爵が使っていた書斎に入ったところ、隠されていた金庫を発見しました。中を見てみると、公爵家の機密情報が書かれている書類が多く出て来たのですが……その中でも一つ、あるものに目が留まりました」
「あるもの……?」
ディアン様を含むその場にいた人間たちが首をかしげた。
「それは……かつて公爵領で悪事を働いて処刑された者のリストでした。当然、ディアン様の母君もその中に入っていたわけですが……一つ、疑問に感じた点がありました」
「……何が変だったと?」
「――罪状が”窃盗”になっていたのです」
それを聞いた周囲がざわめいた。
「どういうことだ?あの方の処刑理由は暗殺未遂だったはずだ……」
「ええ、その通り。そのことを不思議に思った私は、独自に事件の捜査を始めたのです」
――そこで知ったことは衝撃的な真実だった。
「この事件には黒幕がいます。アース様ではない、母君を貶めた真の黒幕が」
「……!」
全員が息を呑んだ。
そして、それを聞いたディアン様が立ち上がり、鋭い目で私に尋ねた。
「それは一体誰だ?」
名前を言えば、今すぐにでも犯人を殺してしまいそうな勢いだった。
「私が名指しするより、本人に何があったのか証言してもらう方が正確でしょう。――ねぇ、ドロシー様?」
「……」
私は騎士に押さえつけられている彼女を見た。
そしてその合図で騎士がドロシー様に瓶に入った液体を飲ませる。
「な、何よこれ!嫌!やめて!」
今彼女に飲ませたのは魔女の作った自白剤だ。
材料が特殊で製作がかなり困難だが、アルフ様の伝手を使って何とか入手することが出来た。
(さぁ、全て話しなさい)
今回わざわざ入手困難な自白剤を時間とお金をかけて手に入れたのにはワケがあった。
ディアン様と同じで、私も彼女の全てを知りたかったからだ。
――私を貶め、自分に無償の愛を与えてくれる人までも騙した彼女の全てを。
「うっ……ううっ……」
ドロシー様はかなり抵抗していたが、薬が効いたのか突然動きを止めて話し始めた。
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