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21 作戦② ドロシー視点
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公爵家の別邸にて。
「それは一体……どういうことですか……!?」
「公爵夫人は無実だった。捜査を再開する」
「そ、そんな……」
(どうしてこんなことに……!!!)
どうやら偽装工作は全て失敗したようで、公爵家の騎士たちは放火事件の再捜査を始めた。
そして何とあの女の生家までもが調査に当たっているというのだ。
私は歯を食いしばった。
「悪いが、今日の朝食もルヴァンと二人で摂ってくれ。私は火災現場へと向かう」
「あ、待ってください……」
私は上着を羽織って外出しようしているディアン様に背後から抱き着いた。
「ディアン様!放火犯が野放しになっているというのに私を一人にして行ってしまうんですか!?」
「ドロシー……」
「お願いです!行かないでください!」
目に涙を溜めた私は、上目遣いで彼を見つめた。
ディアン様は昔から私のお願いなら何だって聞いてくれる。
そのことをよく知っての行動だった。
が、しかし――
「悪いが、今はそれどころではないんだ」
「え?」
ディアン様は私の腕を掴むと、体を強引に引き剥がした。
「……」
「君は捜査には口出ししないでくれ」
それだけ言うと、彼はそそくさと部屋を出て行ってしまった。
初めて見る冷たいディアン様の態度。
(どうして……?)
これまでどんなに辛いことがあっても私に冷たくしたことは一度も無かったからだ。
「あ、あの……ドロシー様……」
「……何よ、というかあなた誰?」
一部始終を見ていた侍女が声をかけてきた。
見ない顔の女だった。
「新しく配属されたリーチェでございます……」
「あ」
そのことで私はやっと以前自分に付いていた侍女があの火事によって死んだことを思い出した。
(そうだったわね……名前さえ知らない女だったけど)
使用人の名前を記憶していないのは覚える必要が無いからだ。
その前に付いていた侍女は誤って私のドレスに紅茶をかけたから折檻したら死んだ。
私はもはや人の死に対して何とも思わなくなってしまったのだ。
今回の放火事件だって五人死んだらしいけど私の知ったところではない。
いつから私はこんな風になったのか。
――それは間違いなく、あの人の愛人になってからだった。
「ドロシー様にお手紙が届いております……」
「……手紙?」
手紙を侍女から受け取ると、封を切って中を見た。
中には便箋が一枚入っていた。
そこに書かれていたのは――
「!!!」
「ドロシー様!?」
手紙を読んだ私の手から紙が滑り落ちた。
とても恐ろしいことがそこに書かれていたからだ。
(ど、どうしてこのことを……)
身体の震えが止まらなくなった。
思わず床に座り込んでしまった私を見て、心配そうに侍女が駆け寄った。
「ドロシー様、大丈夫ですか……?お医者様を呼んだ方が――」
「……今すぐ馬車を出して」
「え?」
医者を呼ぼうとした侍女を引き止めた私は、淡々とそれだけ口にした。
私には今から行かなければならないところがある。
「――公爵邸へ向かうわ」
「それは一体……どういうことですか……!?」
「公爵夫人は無実だった。捜査を再開する」
「そ、そんな……」
(どうしてこんなことに……!!!)
どうやら偽装工作は全て失敗したようで、公爵家の騎士たちは放火事件の再捜査を始めた。
そして何とあの女の生家までもが調査に当たっているというのだ。
私は歯を食いしばった。
「悪いが、今日の朝食もルヴァンと二人で摂ってくれ。私は火災現場へと向かう」
「あ、待ってください……」
私は上着を羽織って外出しようしているディアン様に背後から抱き着いた。
「ディアン様!放火犯が野放しになっているというのに私を一人にして行ってしまうんですか!?」
「ドロシー……」
「お願いです!行かないでください!」
目に涙を溜めた私は、上目遣いで彼を見つめた。
ディアン様は昔から私のお願いなら何だって聞いてくれる。
そのことをよく知っての行動だった。
が、しかし――
「悪いが、今はそれどころではないんだ」
「え?」
ディアン様は私の腕を掴むと、体を強引に引き剥がした。
「……」
「君は捜査には口出ししないでくれ」
それだけ言うと、彼はそそくさと部屋を出て行ってしまった。
初めて見る冷たいディアン様の態度。
(どうして……?)
これまでどんなに辛いことがあっても私に冷たくしたことは一度も無かったからだ。
「あ、あの……ドロシー様……」
「……何よ、というかあなた誰?」
一部始終を見ていた侍女が声をかけてきた。
見ない顔の女だった。
「新しく配属されたリーチェでございます……」
「あ」
そのことで私はやっと以前自分に付いていた侍女があの火事によって死んだことを思い出した。
(そうだったわね……名前さえ知らない女だったけど)
使用人の名前を記憶していないのは覚える必要が無いからだ。
その前に付いていた侍女は誤って私のドレスに紅茶をかけたから折檻したら死んだ。
私はもはや人の死に対して何とも思わなくなってしまったのだ。
今回の放火事件だって五人死んだらしいけど私の知ったところではない。
いつから私はこんな風になったのか。
――それは間違いなく、あの人の愛人になってからだった。
「ドロシー様にお手紙が届いております……」
「……手紙?」
手紙を侍女から受け取ると、封を切って中を見た。
中には便箋が一枚入っていた。
そこに書かれていたのは――
「!!!」
「ドロシー様!?」
手紙を読んだ私の手から紙が滑り落ちた。
とても恐ろしいことがそこに書かれていたからだ。
(ど、どうしてこのことを……)
身体の震えが止まらなくなった。
思わず床に座り込んでしまった私を見て、心配そうに侍女が駆け寄った。
「ドロシー様、大丈夫ですか……?お医者様を呼んだ方が――」
「……今すぐ馬車を出して」
「え?」
医者を呼ぼうとした侍女を引き止めた私は、淡々とそれだけ口にした。
私には今から行かなければならないところがある。
「――公爵邸へ向かうわ」
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