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5 父親の存在
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途中、視点が変わります
***
「お母様!」
「リア!」
食堂へ行くと、既にリアが席に着いていた。
(待たせてしまったみたいね。あの無駄な質問をしなければよかったわ)
変なところで時間を使って娘との大事な時間が減ってしまった。
次はもっと気を付けなければ。
「お母様、私もうお腹空いちゃった」
「待たせて悪かったわね。さぁ、早速食べましょう」
リアに急かされて席に着き、いつものように娘と二人で朝食を摂り始める。
公爵夫人としての仕事がある私は、四六時中リアとずっと一緒にいることは出来ない。
だからこそ共に食事を摂っているこの時間をとても大切にしている。
愛しい娘の笑顔は何にも代えがたいものだったから。
リアとの会話に花を咲かせながら食事を続けていると、背後に控えていた侍女がそっと声をかけてきた。
「奥様、至急報告したいことが……」
「何かしら?」
ただならぬ彼女の様子に自然と身構えた。
「それが、今日どうやら旦那様が本邸に来るようなのです……それも、奥様にお話があるのだと」
「え……急にどうして……」
それを聞いた私は思わず眉をひそめた。
ディアン様が公爵邸へ帰る頻度は月に一回あるかないかだった。
それも決まって私やリアが眠っている時間帯で、徹底的に私たち母娘を避けているのだということがひしひしと伝わってくる。
そんな人が突然私と話がしたいと言ってきたのだから驚くのも無理は無かった。
これまでだって帰ってくるとは言っても別に私やリアに会いに来たわけではないのだ。
(もしかして、私たち母娘を公爵邸から追い出すつもり?)
愛人とその息子がこの本邸に移る予定でもあるのか。
内容が全く予想できない私は頭を抱えた。
「何を言うつもりかしら?」
「さぁ、ただ今日の夜は話したいことがあるからいつも通り寝てしまわないようにと旦那様がおっしゃっておりました」
「ハァ…………もしかして」
じっと思考を巡らせた私は、ある一つの可能性を視野に入れた。
(暴言を吐きに、ここに来るのかしら……)
ディアン様は私によく暴言を吐く人だった。
夫と共に出席しなければいけない公式行事ではたびたび彼と一緒になることがあったが、いつもドレスが似合わないだの辛気臭い顔をするなだの、口を開けば悪口ばかりだ。
まだ確定したわけでは無いが、この状況下ではもはやそれしか考えられない。
あのような仕打ちを今日の夜も受けなければならないのだと思うと、とても気が重くなった。
「お母さん、溜息ついてどうかしたの?」
「あっ、ううん!何でも無いのよ、リア」
私は心配そうな顔をしているリアを安心させるように笑った。
娘に不安な思いをさせるわけにはいかない。
「さぁ、食事を続けましょう。リアの好きなフルーツもあるわよ!」
「やった!」
私はリアの気を逸らしている間に背後に控えている使用人にこそっと耳打ちをした。
「ひとまず面倒事は後で考えましょう」
「そうですね」
ディアン様が帰ってくるという厄介事は頭の隅に追いやって、今は愛しい娘との食事を楽しむことにした。
***
「ごちそうさまでした」
食事を終えたシアは、公爵夫人としての執務をこなすため娘よりも一足先に椅子から立ち上がった。
「リア、私はそろそろ仕事に行かないといけないみたいだわ」
「はい、お母様」
リアは同年代の子と比べても賢く、しっかりした子だったから先に出て行っても平気だろう。
「今日もマナーの先生の話をしっかり聞くのよ?」
「はい!」
シアは笑顔で返事をしたリアの頭を優しく撫でてから食堂を出た。
彼女が出て行った後、娘のリアは食堂で侍女と二人きりになった。
「お嬢様、食事のお片付けが終わったらお部屋までお送りいたします」
「うん、ありがとう」
侍女が食事を下げ、リアは一人椅子でじっとしていた。
「……………今日、お父様が帰って来るんだ」
一体いつ耳に入れたのか、どこか緊張したようなリアのその呟きは誰にも聞き取られることなくかき消されていった。
***
「お母様!」
「リア!」
食堂へ行くと、既にリアが席に着いていた。
(待たせてしまったみたいね。あの無駄な質問をしなければよかったわ)
変なところで時間を使って娘との大事な時間が減ってしまった。
次はもっと気を付けなければ。
「お母様、私もうお腹空いちゃった」
「待たせて悪かったわね。さぁ、早速食べましょう」
リアに急かされて席に着き、いつものように娘と二人で朝食を摂り始める。
公爵夫人としての仕事がある私は、四六時中リアとずっと一緒にいることは出来ない。
だからこそ共に食事を摂っているこの時間をとても大切にしている。
愛しい娘の笑顔は何にも代えがたいものだったから。
リアとの会話に花を咲かせながら食事を続けていると、背後に控えていた侍女がそっと声をかけてきた。
「奥様、至急報告したいことが……」
「何かしら?」
ただならぬ彼女の様子に自然と身構えた。
「それが、今日どうやら旦那様が本邸に来るようなのです……それも、奥様にお話があるのだと」
「え……急にどうして……」
それを聞いた私は思わず眉をひそめた。
ディアン様が公爵邸へ帰る頻度は月に一回あるかないかだった。
それも決まって私やリアが眠っている時間帯で、徹底的に私たち母娘を避けているのだということがひしひしと伝わってくる。
そんな人が突然私と話がしたいと言ってきたのだから驚くのも無理は無かった。
これまでだって帰ってくるとは言っても別に私やリアに会いに来たわけではないのだ。
(もしかして、私たち母娘を公爵邸から追い出すつもり?)
愛人とその息子がこの本邸に移る予定でもあるのか。
内容が全く予想できない私は頭を抱えた。
「何を言うつもりかしら?」
「さぁ、ただ今日の夜は話したいことがあるからいつも通り寝てしまわないようにと旦那様がおっしゃっておりました」
「ハァ…………もしかして」
じっと思考を巡らせた私は、ある一つの可能性を視野に入れた。
(暴言を吐きに、ここに来るのかしら……)
ディアン様は私によく暴言を吐く人だった。
夫と共に出席しなければいけない公式行事ではたびたび彼と一緒になることがあったが、いつもドレスが似合わないだの辛気臭い顔をするなだの、口を開けば悪口ばかりだ。
まだ確定したわけでは無いが、この状況下ではもはやそれしか考えられない。
あのような仕打ちを今日の夜も受けなければならないのだと思うと、とても気が重くなった。
「お母さん、溜息ついてどうかしたの?」
「あっ、ううん!何でも無いのよ、リア」
私は心配そうな顔をしているリアを安心させるように笑った。
娘に不安な思いをさせるわけにはいかない。
「さぁ、食事を続けましょう。リアの好きなフルーツもあるわよ!」
「やった!」
私はリアの気を逸らしている間に背後に控えている使用人にこそっと耳打ちをした。
「ひとまず面倒事は後で考えましょう」
「そうですね」
ディアン様が帰ってくるという厄介事は頭の隅に追いやって、今は愛しい娘との食事を楽しむことにした。
***
「ごちそうさまでした」
食事を終えたシアは、公爵夫人としての執務をこなすため娘よりも一足先に椅子から立ち上がった。
「リア、私はそろそろ仕事に行かないといけないみたいだわ」
「はい、お母様」
リアは同年代の子と比べても賢く、しっかりした子だったから先に出て行っても平気だろう。
「今日もマナーの先生の話をしっかり聞くのよ?」
「はい!」
シアは笑顔で返事をしたリアの頭を優しく撫でてから食堂を出た。
彼女が出て行った後、娘のリアは食堂で侍女と二人きりになった。
「お嬢様、食事のお片付けが終わったらお部屋までお送りいたします」
「うん、ありがとう」
侍女が食事を下げ、リアは一人椅子でじっとしていた。
「……………今日、お父様が帰って来るんだ」
一体いつ耳に入れたのか、どこか緊張したようなリアのその呟きは誰にも聞き取られることなくかき消されていった。
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