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4 幸せの形

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「奥様、朝食になさいますか?」
「ええ、そうするわ。リアも来るでしょう?」
「はい、もちろん」


部屋を出た私は、愛娘と朝食を摂るために公爵邸にある食堂へと向かった。


「おはようございます、奥様」
「ええ、おはよう」


すれ違った公爵邸の使用人たちが笑顔で挨拶をする。


このグクルス公爵家の使用人たちは最初から私に優しくしてくれていた。
リアを妊娠しているときも夫の代わりに献身的に私を支えてくれたのが彼らだった。


この家にディアン様が帰って来ることは無いが、むしろその方が良い。
娘に暴言を吐く旦那なんていらないから。
あっちはあっちで仲良くやっていればいいだろう。


(私は娘さえいればいいんだから)


そう思いながら食堂へ向かうために廊下をしばらく歩いていると、ある人物と出くわした。


(あれは……)


緑色の髪に、メガネをかけている容姿端麗な彼は間違いなくディアン様の側近の一人だった。
いつもはディアン様の傍にいるが、彼だけこの本邸に来るだなんて、一体何の用だというのか。


「あ、お、奥様……」
「久しぶりね、ディアン様は元気にしているかしら?」
「そ、それは……」


彼は言いにくそうに視線を逸らした。
何かを隠し通そうとしている様子だ。


(あら、私がディアン様と愛人に嫉妬しているとでも思ったのかしら?)


最初の頃はたしかにそんな感情も少しはあったかもしれない。
当時の気持ちなんてもうとっくに忘れてしまったが。


「別に貴方を責めているわけではないから安心して。ただ少し気になったから聞いてみただけよ」
「そ、そうでしたか……公爵様は朝早くから仕事へと向かわれました……」
「仕事?」


一体何の仕事があって邸を出たというのか。
執務なら全て邸の中でこなせるというのに。


彼はおそらく嘘をついている。
本当は愛人宅で過ごしているが、本妻にそんなことを言うわけにはいかないから誤魔化しているのだろう。


(今頃愛人のドロシー様と息子さんと三人で朝食を摂っている頃かしらね)


わざわざ言わずとも、別邸で何をしているかは大体予想がつく。
それでもあえて彼に聞いたのは、ディアン様たちに対する対抗心が心の中に少なからず存在していたからかもしれない。


私が嘘だと思っているのに気付いたのか、彼が顔を真っ青にした。
これ以上追及するのも可哀相なので、今日はここで解放してあげよう。


「そう、分かったわ。旦那様にお仕事頑張ってくださいとお伝えしておいて」
「は、はい……奥様……」


あちらは家族三人仲良くやっているようだ。
別にそれはそれで構わない。
父親がいないからといって子供が全員不幸になるわけではないから。


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