愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの

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3 もう一つの家庭

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ディアン様との結婚式は公爵家の当主と侯爵令嬢が結婚したとは思えないほど質素なものだった。
普通はもっと国内外から人を呼んで盛大にやるものだが、参列者は近親者のみとなった。
既に母親も亡くなっているディアン様に家族と呼べる者はおらず、結局式に訪れたのは私の両親のみだった。
後で聞いた話によると、これらは全てディアン様の希望らしい。


そこまで嫌われていたとは、何だか悲しくなる。
こっちだって別に彼と結婚したいわけでは無い。


このような経緯を経て、私はディアン様と結婚した。
地獄の結婚生活になるかと思ったが、公爵邸での暮らしは案外悪いものでは無かった。


夫に蔑ろにされる中で唯一の救いとなったのが、グクルス公爵家の使用人たちがとても親切にしてくれたことだ。
彼らは私がお飾りの妻であることなど気にもせず、ただただ優しくしてくれた。
それがたとえ同情だったとしても彼らの存在は私の心の支えとなった。


ディアン様との夫婦の営みは少し……いや、かなり苦痛だったが幸いなことに子供はすぐに出来た。
こうやって生まれたのが愛娘のリアだ。


子供が出来れば私を嫌っている彼だってきっと変わってくれる。
生まれた子を大切にしてくれる、と間違いなくそう思っていた。


しかし、ディアン様は生まれた子の顔を一目見るとこう言い放った。


「どうせアイツの子供だろう」


そして彼はこの日を境に公爵邸には帰らなくなった。
血の繋がった娘に軽蔑するような視線を向けたあの日からリアとは一度も会っていない。


ディアン様に娘に対する暴言を吐かれたその日は悲しくて苦しくて泣いてしまった。
何故生まれた子供まで悪く言われなければならないのかと。
慰めてくれる使用人たちがいなければ私の心は壊れていたかもしれない。


そして悩みの種はもう一つ存在した。
それがディアン様の愛人だった。


ディアン様の愛人の名前はドロシーというらしい。
彼女は元々グクルス公爵家のメイドで、離れに幽閉状態だったディアン様を献身的に支え続けた女性なのだという。
だからこそディアン様は彼女をずっと傍に置いているし、寵愛している。


(私では勝てそうにないわね……)


生まれた娘に一切会わないのは納得いかないが、彼がドロシー様に心酔してしまうのも理解出来なくはない。
彼は母親が亡くなってから絶望し、ずっと一人だったのだから。


そしてドロシー様との間には八歳になる息子がいるそうだ。
私はもちろん会ったことなんて無いが、時々離れを訪れる使用人の話によるとグクルス公爵家の象徴である黒い髪と瞳を持ち合わせているそうだ。


(黒い髪と瞳ならリアだって持ってるのに)


ディアン様は本気でリアをアース様の子供だと思っているようだ。
アース様もグクルス公爵家の人間なのでどちらの子供かなんて分かりはしないだろうが、私は神に誓ってアース様と体の関係を持っていなかったと言える。
それを何度説明しようとしてもディアン様は聞く耳を持たないのだ。


私とドロシー様の待遇に格差はあってもせめて子供だけは平等に愛してほしいと思っていたが、どうやらそれすら叶わないようだ。



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