【本編完結】年下料理男子と社畜ラノベ作家の恋ごはん

バレンタイン・キス⑧ ＊

　なんともいたたまれない空気が流れる。
　うん、同じ男として涼さんの気持ちは痛いほど分かる。だから。

「りょーさん、もっかい、しよ？」

　涼さんの手を取り、チュッとキスをして「ね？」とおねだりする。
　俺を抱きたい気持ちが溢れすぎちゃって暴発したと思うんだ。そんな涼さんをからかいたくもないし、やっぱり一緒に気持ちよくなりたいから、気まずさは払拭したい。

　俺は涼さんを見つめながら、彼の行動を待っていると「はー」と深い溜息を漏らして、俺の手ごと涼さんは顔を隠すように手を押し付けた。

「やっぱ、健一さんって大人ですよね……」
「へ？」

　なんなんだ、唐突に。俺が年上なのは出会った時から分かってるだろうに。今頃なぜ？

「普段、ほんわかとしてるから時々年上なのを忘れちゃうんですよ。でも、こんな時にさりげなくフォローしてくれる姿見ると、健一さんが年上なのを思い出しちゃいます」
「なんか……おとしめてる？」
「いいえ？　感動してるんです。オレが好きになった人って素敵だな、って」
「っ」

　ほわりと柔らかく笑み崩れる涼さんの言葉に、カッと顔が熱くなる。

「好きです、健一さん。もう一度やり直しさせて？」
「ん」

　今度は涼さんが俺の掌に口づけをして、その手を握ったまま慈しむようなキスを唇にくれた。

　それから器用に俺へとキスを続けながら、避妊具を付け直し、再度「挿れますね」と前置きして挿入を試みる。一度射精したし、かなりへこんでたようだから、難しいかなと心配したんだけど杞憂だった。ガチガチに硬くなったソレが、ゆっくりと孔を押し広げて入ってくる。

「んっ、ふぁ……あっ」
「健一さん、分かる？　オレのが、挿っていくの」
「うんっ、りょーさんの、おれのナカでドクドクしてるっ」

　本当はすぐにでも奥に挿れたいだろうに、俺の体を気遣って慎重に進めてくれる。そのせいで涼さんのモノが存在を主張していて、あの太い血管が脈動してるのですらはっきりと感じる。

　あれだけ指でナカをほぐしてくれたけど、涼さんのが想像以上に大きいのもあって、結構苦しい。それでも彼に苦痛を見せないのは、これ以上涼さんの体と気持ちに負担をかけたくなかったから。
　ふたりの初めてを嫌な記憶で終わらせたくなかったから。

「辛くないですか？」

　コツリ、と腹の奥で行き止まりを感じて、俺は閉じていた目をうっすらと開く。かなり我慢して挿入してくれたのか、涼さんの髪も顔も体も汗でびっしょりと濡れて光っている。

「うん。だいじょーぶ。ありがとう、りょーさん」

　多幸感に涙を一筋流し、俺は涼さんに緩やかに微笑んだ。

　俺にとってはふたり目だけど、人生で初めてこんなに大事にされたセックスは経験した事がない。挿入の苦しさはあるけども、どこも痛くないし辛くもない。ただただ涼さんの愛ばかりを感じるこの行為に、幸せすぎて夢じゃないのかと感じる位だ。

　涼さんのモノが俺のナカで馴染んだ頃、動いていいですか？　と問いかける声に、俺も小さく頷いて答える。
　そこから、今までの穏やかな時間は何だったのかと言い募る程、嵐のような快感が俺を襲った。

「あっ、ゃっ、そ、こっ、あぁっ！」
「くっ……健一さ、あんまり、締めないでっ」
「む、むりぃっ」

　バツン、バツンと俺の臀部と涼さんの腹部が打擲する音が響き渡る。その度に涼さんの汗が散り、俺に降り注ぐ。
　ひたすら快感の波濤が次から次へと俺を飲み込み、ナカを送り込む熱の熱さに翻弄される。
　絶え間なく来る甘やかな痺れに、俺は喘ぐだけで精一杯だった。

　頭の中は「キモチイイ」で占められる。こんなに身も心も感じて、喘ぐのが気持ちいい事だって知らなかった。
　これが本当の意味でのセックスなのだと、強い眼差しで俺を射抜く涼さんの熱を感じて胸を打たれたのだった。

「はっ、健一さんのナカっ、ふわふわでトロトロなのに、オレのをギュウギュウ締め付けて気持いっ」
「おれもっ、こんなに、きもちいぃの、りょーさんが、はじめてっ」

　ずっと続けばいい。二度と離れずにずっと繋がったままで。俺のお腹が涼さんの精液で満たされてもずっと。
　離したくない、離されたくない、永劫を願うセックス。

「りょーさ、おれ、もう、イクッ」
「オレも、もうっ」

　ふたり揃って極まり、涼さんが俺へとグッと腰を押し付け、俺は涼さんの吐精を促すように締めつけ同時に達した。
　トクトクとお腹のナカが温かいもので満たされる。そっとお腹に手を当てると、丁度おへその下あたりに、涼さんが挿ってるのだと存在を確認する事ができた。

　こんなに幸せでいいのだろうか。
　好きになった人と、こうして結ばれる事ができるなんて。
　これが夢なら永遠に覚めないで欲しいと願う位だ。

　久々に体を交わらせた疲れがどっと来たからか、だんだん目蓋が落ちていく。
　涼さんが俺の名前を呼んでるから反応したいけど、沈む意識に引っ張られて、俺は心地良い気だるさの中で眠りについてしまった。



　次に目を覚ましたのは、涼さんのベッドの上だった。
　シーツも俺の体もサラサラしていて、ぐうすか寝ている間に涼さんに処理をさせてしまったのかと思うと、いたたまれない気持ちで頭を抱える。
　外を見ようと窓に目を向ければ、窓にはロールカーテンが降りており、少なくとも昼間ではないと分かる。

「あ、起きましたか？」

　部屋の奥から涼さんが姿を現す。ベージュのチノパンと白いカットソーに紺色のロングカーデというラフな格好をしていて、カジュアルな雰囲気なのにカッコイイとかズルい。
　こんな素敵な人が自分の恋人なんだ、とうっとりしながら声を出そうとしたのだが、ガサガサのしゃがれ声で言葉にならない。

「あー、結構喘いじゃってましたからね。常温のレモネードを用意してますが、飲めそうですか？」

　うん、と頷くと、涼さんはまたパソコンが置いてある場所に戻り、しばらくすると大きなコップを片手に俺へと近づく。

「冷たくないから、一気に飲んでも問題ありませんからね」

　と、両手に握らせてくれたグラスには、うっすらと白濁した飲み物がたっぷり入っている。
　くーっ、とグラスを傾けて喉を通すと、爽やかなレモンの酸味のあとに、蜂蜜の柔らかな甘味が追いかけてきて、随分喉が渇いていたのだと実感したのだった。