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高任さんの恋人という男(同僚視点)
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「高任さん!?」
グラリと目の前で崩れるように倒れる高任さんをなんとか支え、慌ててスマホで救急車を呼ぶ。
『平気だって。こうしてちゃんと食べれてるし』
元々顔色の悪い人だったけど、今は紙のように真っ白で、先ほど彼が言った言葉がやはり嘘だと感じた。
高任さんは本人が自覚していないけど、仕事もできるし細やかな配慮もできて、取引先にも好印象を与えている。
男性に言うのはおかしな話だが、とても美人だし、長い前髪で隠しているのが勿体無い位だ。
彼とは同期同僚だけど思わず呼び方を「高任さん」と言ってしまうのは、彼が無自覚に人との距離を取っているのを知っていたから。あと、彼を尊敬しているから、どうしても敬語で話してしまう。
上司はこれでコミュニケーションもダメなら、営業として難しいと愚痴を零していたけど、言葉少なくても的確にアドバイスもしてくれるし、営業成績も常に上位に入っている。
だからこそ、上司も周囲も彼が壁を作っているのを知っていても、彼なりの処世術なのだと見守ることにした。
そんな高任さんは、数ヶ月前から随分肌ツヤが良くなったと、女性社員の間で噂になっていた。本人に尋ねると「コンビニ飯を止めたんだ」と。
確かにそうなのだろうが、きっと食事改善だけが理由じゃないのに、何となく気づいていた。
だって、雰囲気がすごく良くなった。
前は誰かが出張をすれば土産を買って配ったりするのも全て断っていたのに、彼が変わったあたりから受け取ってくれるようになったのだ。
配っていた本人は断られるのを分かった上で、儀礼的に声をかけたのに受け取ってくれたから、大げさに驚いたのを高任さんは首を不思議そうに傾げていた。
そんな花が開くように変わっていった高任さんは、またも萎んでしまった。
特にここ一週間位は明らかに様子が違っていた。
元々細かった頬も鋭利に見えるほどにこけ、唇もかさついているし、髪の隙間から見える瞳はどんよりと輝きがなくなっていた。
周りも高任さんの変化に気づいていたようで、彼が倒れないようにと常に誰かが傍にいるようになっていった。特にコンビを組んでいる同僚の自分がメインだったが。
今、高任さんは救急車で病院に運ばれ、医者から診察を受けた後、病室で点滴を受けている。
会社に報告するため、簡易的ではあるものの医者の説明によれば、栄養失調と睡眠不足。更には嘔吐のしすぎで胃と喉に炎症を起こしているとのことだった。
貧血も酷いため、今日は一日入院になると上司に報告したばかりだ。
高任さんは実家が愛知で、こちらには身内がいないそうだ。着替えとかどうしようかと悩んでいると。
──コンコン。
病室の扉の方からノックする音が聞こえる。
経過観察をするとのことで、今いるのは個室病室だったため、やけにノックの音が耳につく。
「……はい?」
「こちら、高任健一さんの部屋ですか?」
少し冷たい感じがする声に首を傾げる。その声は上司のものとも、医者のものとも違っていたからだ。
誰だろうと、ベッド傍のパイプ椅子から立ち上がり、扉へと近づき開く。そこには背が高くモデルかと納得できるほどの美形の男性が立っていた。
「あの、あなたは?」
高任さんの家族には上司から連絡を入れると聞いていたものの、愛知からここまではどれだけ早くても数時間はかかる。他にも身内はいないと聞いてたために質問するのは当然だろう。
「オレは、高任健一の恋人です」
──は?
美形の口から唐突に出た言葉に、思わず硬直する。
この目の前の男と高任さんが恋人? いや、高任さんから恋人の存在を聞いたことがないし、そもそも高任さんも男も同性じゃないのか?
まあ、高任さん美人だし、この美形とお似合いだけども。
「失礼ですが、あなたは?」
冷ややかというか、絶対零度の視線と声に、恐怖を感じる。もしかして、この人何か勘違いしてる?
「あ、あの、じ、自分は、高任さんの、同僚でっ」
「同僚?」
「そ、そうです! 営業先に向かう途中で、高任さんが、倒れて」
思わずどもってしまうのは許して欲しい。だって、この人怖い。蛇に睨まれた蛙の心境だ。
「なるほど。分かりました。もう帰っていただいて結構です。あとはこちらで看ますので」
「あ、でも、上司がご両親に連絡を……」
「不要です。健一さんが起きたら、本人から連絡させます」
キロリ。向けてくる視線が氷の刃のように冷たい。この人、高任さんの恋人というのは本当かもしれない。自分以外の男が傍にいたせいで嫉妬している気がする。
「そ、それでは、高任さんをお願いします! 目が覚めたら会社に一度連絡するように、伝えてくださいっ」
三十六計逃げるにしかず。
言葉を言い切る前に病室を逃げ出していた。
あの人、絶対ヤバイ人だ!
だって、まだ上司しかしらない高任さんの入院先を、あの人は知っていたのだから。
でも、上司にも警察にも相談しようとは思わなかった。
あの人、自分と話してる時も何度も奥で寝ている高任さんを心配そうにチラチラ見てたし、すぐに傍に行きたいとそわそわしてたし。
なによりも取るのもとりあえず駆けつけてきたというのが、少し乱れた髪や額に浮かぶ汗で、恋人が倒れて慌てて来ましたって感じがありありと分かったし。
怖いけど、彼に高任さんを任せても大丈夫だろう。
まあ、会社には一晩だけの入院だから家族の付き添いは不要って言っておかなくちゃなぁ。
うちの会社、副業とかは結構厳しいけど、恋愛については割と自由だし。噂では企画部のチーフが新入で来たどこかのボンボン社員と養子縁組で結婚したとか。
……うん、高任さんとあのイケメン。アリだわ。今猛アタック中の営業事務の派遣さん、腐女子って聞いてたから、きっとこういったシュチュエーションとか萌えそうな気がする。正直、自分には未知の世界すぎて何も言えないけど。……うん、フィクション万歳。
まあ、誰にも言うつもりは全くないから。ひそかに高任さんの恋を応援するとしよう。
さて、まずはお待たせしている取引先の担当さんに連絡しなくちゃな。一応、上司から一報は伝えてあるようだけど、それじゃあ相手にも不義理だと高任さんが怒りそうだ。
気合を入れて、病院から出たその足で取引先へと向かうために、地下鉄乗り口へと足を進める。
空は春の訪れが近づいているのか、淡く白い雲がたなびいている。少しだけ眠くなりそうな空に、グッと気合を入れ直す。
高任さんの分まで営業頑張ろう。戻ってきた時に、高任さんがスムーズに業務ができるように。
怖いけど、頼みますね、高任さんの恋人さん。
グラリと目の前で崩れるように倒れる高任さんをなんとか支え、慌ててスマホで救急車を呼ぶ。
『平気だって。こうしてちゃんと食べれてるし』
元々顔色の悪い人だったけど、今は紙のように真っ白で、先ほど彼が言った言葉がやはり嘘だと感じた。
高任さんは本人が自覚していないけど、仕事もできるし細やかな配慮もできて、取引先にも好印象を与えている。
男性に言うのはおかしな話だが、とても美人だし、長い前髪で隠しているのが勿体無い位だ。
彼とは同期同僚だけど思わず呼び方を「高任さん」と言ってしまうのは、彼が無自覚に人との距離を取っているのを知っていたから。あと、彼を尊敬しているから、どうしても敬語で話してしまう。
上司はこれでコミュニケーションもダメなら、営業として難しいと愚痴を零していたけど、言葉少なくても的確にアドバイスもしてくれるし、営業成績も常に上位に入っている。
だからこそ、上司も周囲も彼が壁を作っているのを知っていても、彼なりの処世術なのだと見守ることにした。
そんな高任さんは、数ヶ月前から随分肌ツヤが良くなったと、女性社員の間で噂になっていた。本人に尋ねると「コンビニ飯を止めたんだ」と。
確かにそうなのだろうが、きっと食事改善だけが理由じゃないのに、何となく気づいていた。
だって、雰囲気がすごく良くなった。
前は誰かが出張をすれば土産を買って配ったりするのも全て断っていたのに、彼が変わったあたりから受け取ってくれるようになったのだ。
配っていた本人は断られるのを分かった上で、儀礼的に声をかけたのに受け取ってくれたから、大げさに驚いたのを高任さんは首を不思議そうに傾げていた。
そんな花が開くように変わっていった高任さんは、またも萎んでしまった。
特にここ一週間位は明らかに様子が違っていた。
元々細かった頬も鋭利に見えるほどにこけ、唇もかさついているし、髪の隙間から見える瞳はどんよりと輝きがなくなっていた。
周りも高任さんの変化に気づいていたようで、彼が倒れないようにと常に誰かが傍にいるようになっていった。特にコンビを組んでいる同僚の自分がメインだったが。
今、高任さんは救急車で病院に運ばれ、医者から診察を受けた後、病室で点滴を受けている。
会社に報告するため、簡易的ではあるものの医者の説明によれば、栄養失調と睡眠不足。更には嘔吐のしすぎで胃と喉に炎症を起こしているとのことだった。
貧血も酷いため、今日は一日入院になると上司に報告したばかりだ。
高任さんは実家が愛知で、こちらには身内がいないそうだ。着替えとかどうしようかと悩んでいると。
──コンコン。
病室の扉の方からノックする音が聞こえる。
経過観察をするとのことで、今いるのは個室病室だったため、やけにノックの音が耳につく。
「……はい?」
「こちら、高任健一さんの部屋ですか?」
少し冷たい感じがする声に首を傾げる。その声は上司のものとも、医者のものとも違っていたからだ。
誰だろうと、ベッド傍のパイプ椅子から立ち上がり、扉へと近づき開く。そこには背が高くモデルかと納得できるほどの美形の男性が立っていた。
「あの、あなたは?」
高任さんの家族には上司から連絡を入れると聞いていたものの、愛知からここまではどれだけ早くても数時間はかかる。他にも身内はいないと聞いてたために質問するのは当然だろう。
「オレは、高任健一の恋人です」
──は?
美形の口から唐突に出た言葉に、思わず硬直する。
この目の前の男と高任さんが恋人? いや、高任さんから恋人の存在を聞いたことがないし、そもそも高任さんも男も同性じゃないのか?
まあ、高任さん美人だし、この美形とお似合いだけども。
「失礼ですが、あなたは?」
冷ややかというか、絶対零度の視線と声に、恐怖を感じる。もしかして、この人何か勘違いしてる?
「あ、あの、じ、自分は、高任さんの、同僚でっ」
「同僚?」
「そ、そうです! 営業先に向かう途中で、高任さんが、倒れて」
思わずどもってしまうのは許して欲しい。だって、この人怖い。蛇に睨まれた蛙の心境だ。
「なるほど。分かりました。もう帰っていただいて結構です。あとはこちらで看ますので」
「あ、でも、上司がご両親に連絡を……」
「不要です。健一さんが起きたら、本人から連絡させます」
キロリ。向けてくる視線が氷の刃のように冷たい。この人、高任さんの恋人というのは本当かもしれない。自分以外の男が傍にいたせいで嫉妬している気がする。
「そ、それでは、高任さんをお願いします! 目が覚めたら会社に一度連絡するように、伝えてくださいっ」
三十六計逃げるにしかず。
言葉を言い切る前に病室を逃げ出していた。
あの人、絶対ヤバイ人だ!
だって、まだ上司しかしらない高任さんの入院先を、あの人は知っていたのだから。
でも、上司にも警察にも相談しようとは思わなかった。
あの人、自分と話してる時も何度も奥で寝ている高任さんを心配そうにチラチラ見てたし、すぐに傍に行きたいとそわそわしてたし。
なによりも取るのもとりあえず駆けつけてきたというのが、少し乱れた髪や額に浮かぶ汗で、恋人が倒れて慌てて来ましたって感じがありありと分かったし。
怖いけど、彼に高任さんを任せても大丈夫だろう。
まあ、会社には一晩だけの入院だから家族の付き添いは不要って言っておかなくちゃなぁ。
うちの会社、副業とかは結構厳しいけど、恋愛については割と自由だし。噂では企画部のチーフが新入で来たどこかのボンボン社員と養子縁組で結婚したとか。
……うん、高任さんとあのイケメン。アリだわ。今猛アタック中の営業事務の派遣さん、腐女子って聞いてたから、きっとこういったシュチュエーションとか萌えそうな気がする。正直、自分には未知の世界すぎて何も言えないけど。……うん、フィクション万歳。
まあ、誰にも言うつもりは全くないから。ひそかに高任さんの恋を応援するとしよう。
さて、まずはお待たせしている取引先の担当さんに連絡しなくちゃな。一応、上司から一報は伝えてあるようだけど、それじゃあ相手にも不義理だと高任さんが怒りそうだ。
気合を入れて、病院から出たその足で取引先へと向かうために、地下鉄乗り口へと足を進める。
空は春の訪れが近づいているのか、淡く白い雲がたなびいている。少しだけ眠くなりそうな空に、グッと気合を入れ直す。
高任さんの分まで営業頑張ろう。戻ってきた時に、高任さんがスムーズに業務ができるように。
怖いけど、頼みますね、高任さんの恋人さん。
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