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新雪に散る椿の花弁 *

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 いつの間にか外は太陽が落ち、明るかった寝室はベッドライトの淡いオレンジ色の光がぼんやりと照らし、憂璃は広いベッドの中心で汗ばむ肢体をくねらせる。

「あぅっ……あっ、ん、……あ、あぁっ」
「まだ指は二本しか挿ってないんだがな……。あんまり感度が良すぎるのもしんどいぞ、憂璃」

 唇の端をつりあげ苦笑する椿の男らしい笑みに、太く節立つ指を食む憂璃の未通の隘路は、先ほどから丁寧に、執拗に椿の剛直を受け入れる準備にも拘らず熱が体の中を渦巻き呼吸もままならない。

 かれこれ一時間以上はうつぶせにさせられ、だけど腰だけは高く掲げた姿は、なにもかもが初めてな憂璃にとっては恥ずかしさが勝つ。
 しかし、椿の今までよりも蕩け嬉しそうな笑みを見てはドクドクと心臓が高鳴り、それ以上の熱が憂璃に夢ではないと知らしめた。

「だ、だって……んんっ」

 言い訳めいた言葉を口にしようと開くと、グチリと後方から濡れて粘つく音が刺激となって声がこぼれる。
 さっきから椿の指が探るように動き続けているものの、一番欲しい場所をあえて避けているからか、逃げ場のない熱が出口を求めて暴れていた。
 もどかしい熱に翻弄されている憂璃の耳に「ほら、三本目がお前のナカに挿るぞ」と蜂蜜のようにねっとりと低い声が吹き込まれ、その刺激にキュンとナカが収斂し、椿の指を美味しそうにしゃぶりつく。

 憂璃のフェロモンは彼の性格を現すように、楚々として、優しい。
 そんなたおやかで清楚な憂璃が見せる痴態に、椿はもうずっと下半身の獣が鎌首をもたげてズクズクと痛みを訴えていた。
 更に長時間憂璃のフェロモンを浴びているせいか、軽くラット状態になっていたが、ここで無理矢理に挿入すれば最愛が壊れてしまうという理性が勝り、かろうじて獣を押さえ込んでいる状況だった。

 ローションと憂璃の愛蜜が混じった雫が手を伝い、そこから甘い匂いがわきたつ。アルファとオメガのフェロモンは体内を血液や体液と共に巡っているため、涙も唾液も、そして愛蜜も個体の持つ匂いが相手を淫らに誘うのだ。
 指を埋めたそこから、花が蝶を誘うように甘い香りをふわりと漂わせ、椿はすぐにでもむしゃぶりつき、舌でこんこんと湧き出る蜜を飲み干したいとさえ思考が染められる。
 が、憂璃は椿がこれまで付き合ってきた人間たちとは違うのだ。初心で穢れを知らぬ真っ白なオメガなのだ。
 ヘタを打てば今後の関係に亀裂が起こる可能性だって捨てきれないのだ。

 まさか自分がここまで丁寧に未通のオメガに挿入するための下準備を喜々としてやれるなんて想像もしていなかった。

 次第に胎内は柔らかくなり、椿の指に吸い付くように蠕動する。ちゅ、ちゅくと柔肉がしゃぶる度に蜜が指の隙間からトロリとこぼれ落ち、シーツにふたつめの染み溜めを作った。
 憂璃の細く小さな花芯は、ビクリと快感に震えるとプルンと揺れ動き、先端から透明で粘度のある蜜が滴っていた。

(そろそろ大丈夫か……)

 ナカはふわふわトロトロで、引き伸ばされた襞は当初の引き攣れた感覚はなく、椿の指を三本飲み込んでいる。
 椿は名残惜しいと思いつつ指を引き抜く。「あぁ、んっ」と甘さを含んだ切なげな声が憂璃から聞こえ、すでに痛いほどに充血し、狭い筒の中を血液が暴れるのを煽っただけだった。

「そろそろお前の中に入ってもいいか?」

 憂璃の耳元で囁く。その言葉に白い髪の間から覗くいつもは白い耳が赤く色づいたまま、小さくコクリと頷きを見せた。
 椿は赤く染まった耳に口づけをひとつ落とし、体を起こす。上のシャツはとっくに脱いでいたものの、下のスラックスは履いたままだった。
 ベルトの金属音を奏でながら外し、開放を望む中心を開く。すでに臨戦態勢となっているそこは、ボクサーパンツを下ろすとブルンと赤黒い幹が弾けるように飛び出す。
 先端からとめどなく溢れる蜜が脈動する血管を這わせた幹をしとどに濡らし、このまま憂璃に穿ちたいとよだれを垂らしている。
 わずかに残っている理性がダメだと訴える。
 憂璃はまだ学生だ。オメガには学力は必要ないと言う旧時代の頭ガチガチな馬鹿が声高に叫んでいるのは知っている。だが憂璃は優秀な学生が集まる学園でも、アルファの頭脳に並ぶ学力があるのだ。
 妊娠させるのは簡単だ。生で突っ込んで子宮に注げばいい。ヒート時なら確実にそれだけで妊娠させることができる。
 椿はグラリと本能に傾くのを、ナイトテーブルの引き出しを引き、そこからアルファ専用のコンドームを掴む。ベータやオメガの物と比べて、精液溜まりの部分が大量に受け止められるように改良されているものだ。サイズも一般的な物と比較しても大きい。
 慣れた手つきでいきり立つ雄芯に装着して、無造作にローションをたっぷりとまとわせる。

「キツイかもしれないが……、すまない。もう我慢できそうにない」

 切羽詰まった椿の謝罪に、憂璃はシーツに伏せてた顔を横に振り、首を巡らす。

「だいじょーぶ。椿さんがくれるものなら……苦しくても……嬉しいから」
「憂璃……愛してる」

 健気な憂璃の思いに椿の胸が熱くなる。
 綻びだした蕾にローションを纏った先端を押し当てると、憂璃の負担にならないように呼吸に合わせて腰を進めた。

「んっ……あ、あぁ……っ」
「息を吐け、憂璃。止めてるともっと苦しくなる」
「ん、でも……あっ、あ」

 蕾の皮膚が椿の傘にめいいっぱい引き伸ばされ、見ているだけで憐れに見える。椿は慎重にじりじりと腰を突き出し、滑りを借りて少しでも傷つけないよう先端を押し込んだ。
 一番太い亀頭部分が中に入れば、憂璃の負担も多少は楽になる。
 ゆっくりと先端が憂璃のナカに入った頃には、椿も憂璃も汗みずくになっていた。

「分かるか? 俺のが、お前のナカにあるのを」
「うん……椿さんに……串刺しにされてる、みたい、んっ」

 うつ伏せになってるからはっきり確認できないが、うっとりと陶然とした表情と右腕がお腹のあたりで揺れているのを見るに、嫌悪から出た言葉ではないと分かる。
 白いプロテクターの真下にある首の付け根に赤い印をつけると、椿は「動くぞ」と言い、憂璃の細腰を掴んでゆるりと腰を動かした。



「……あっ、あ、んっ! も、おなか……いっぱいだからぁ……っ!」
「だが、お前のナカはもっと欲しいって、俺のを搾り取ろうとしてるぞ?」
「ちがっ……ちがうのぉ……あぁっ!」

 静かだった寝室にバチュバチュと濡れた肌が叩き合う音が延々と響く。
 椿は憂璃の片足を肩に担いで泣き所であるシコリを傘の切り返しで削るようにいじめる。
 ナイトテーブルの引き出しにたっぷり用意してあった避妊具はいつの間にか空袋が散乱し、椿の精液がたっぷりと詰まったゴムは無造作に捨てられたゴミ箱の中で冷たくなっていた。
 :飢(かつ)えない欲情に、椿は避妊をせず憂璃の開かれたばかりの胎内を暴れまわる。
 椿の体から漂うフェロモンに当てられ憂璃は軽くヒートを起こし、憂璃のフェロモンに当てられ椿はラットを起こしている状態だった。

 際限なく互いが互いを求め、ドロドロに溶け合う。

 こすられ過ぎてナカがヒリヒリと痛むのに、快感の粒を椿の熱で引っかかれる度に、あられもない声がとめどなく溢れて散っていく。
 いつの間にか何度も中に椿の白濁が注がれ、椿が揺さぶる度に憂璃のお腹の中で白濁液が波打つ。
 こんなにも子種が沢山、とオメガの本能で憂璃は歓喜の涙を一筋流した。

「つばきさ……っ、イク、イッっちゃ……あぁっ!」
「イケ。もう、俺もイキそうだ。一緒に、イこう、憂璃」
「う、んっ、あ、あっ、ぁ、イクぅ……あ、ん、ぁぁああああっ!」
「──っ、ぐぅっ!」

 絶頂を訴えると、椿の動きが加速する。
 隘路を剛直が挿抜される度、椿が注いだ白濁と憂璃の蜜が混じったものが泡となり掻き出される。
 臀部に滴るそれさえも敏感に憂璃は感じ取り、椿の熱をぐっと食い締め、ねっとりと襞がしゃぶりつく。狭くなった憂璃の肉筒から抜ける寸前まで腰を引き、一気に熱を押し込むと、張り出した肉傘がゴゾリと快感の塊を遠慮なく削る。強い刺激に憂璃は喉を反らし、達しすぎてクタリと萎れた雄茎の先端からは、涙のような透明な雫が押し出されるようにして白い肌を濡らしていった。
 そして、憂璃が達したことにより胎内に穿った椿の熱も痛いほどに締め付けられ、濃厚な体液を憂璃の子宮口に向かって叩きつけていたのだった。


 寝返りを打とうとして、全身のあまりの痛さに憂璃は目を覚ます。
 隣では椿が規則正しい寝息を漏らし、ぐっすりと熟睡しているようだ。
 いつ、自分は寝たのだろう、となけなしの記憶を反芻したが、途中からの記憶が曖昧となっていて思い出せない。
 あれだけ汗と体液にまみれてたはずの体はさっぱりとしているから、椿が憂璃の体を清めてくれ、なおかつシーツも交換してくれたのだろう。
 裸の肌に触れる布の感触はサラリとしていて心地が良い。

 それにしても今は何時だろうか。
 寝室の窓は遮光ロールカーテンがしっかり降りてるため、今が昼なのか夜なのかも分からない。
 更に言えば、喘ぎすぎて喉が渇いてしまっていた。

 憂璃は腰の痛みを逃しながら起き上がり、目に付いた椿のワイシャツに袖を通すと自身の裸身が目に入る。
 背中にも胸にも足にも椿がつけた赤い花弁が至るところで花吹雪となり、さながら新雪に散った椿の花のようだと、点在する印を指でなぞりうっとりと微笑む。
 アルファの大人の椿が着るシャツは、子供でオメガな自分には大きすぎて、腕は余るし、肩から抜けそうになるし。
 だけど椿の香りがして、思わずふふっと笑みがこぼれてしまった。

「どうした。急に笑って」

 背後から聞こえた低くかすれた声に憂璃は咄嗟に振り返る。
 自身の腕で頭を支えてこちらを見てくる椿の眼差しはとても甘く、こんな素敵な人に抱かれたのだと思うと、胸のドキドキが止まらない。

「あの、み、ずを」

 気を抜くと掠れてしまう喉を叱咤して、水が欲しいと告げると「ああ、水か」と言って椿が起き上がる。

「持ってくる。少し待ってろ」と憂璃の頭をポンと軽く叩き、スラックスを簡単に履いて寝室を出て行く。
 憂璃は立っているのが辛くて、再びベッドに転がると、微かに椿と壱岐の会話が聞こえてきた。
 あまりにも小さな声だったので内容は分からなかったものの、ずっと待機してくれてたのだと知るや、恥ずかしさに顔が赤くなるのを感じた。

 本当は、このまま番契約をして欲しかった。
 でも、憂璃が高校を卒業して、入籍するまではおあずけだと言ったのは椿だった。

(入籍……ということは、僕、椿さんのお嫁さんになれるんだ……)

 くふふ、と喜びが声になって溢れ出る。

 色々あって、誤解して、それでも諦めることはできなくて。
 まだ終わりでもないし、始まりでもないけど、やっと一歩が進めた気がする。

 まずは無事に高校を卒業しなくては、と憂璃は落ちそうになる意識の中で誓いをたて、椿が戻る前に夢の世界へと旅立っていたのだった。
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