上 下
1 / 1

本編

しおりを挟む
 発情ヒートになると、心は拒絶ばかりなのに、アルファの男に飢えて涎で濡れた空洞を激しくこすられる度に、凄く体が満たされ潤う。

「あっ、あ! そ、しょこば……っか、やらぁ……っ!」
「ふふ。総《そう》さん、もうずっとイイところ突いてあげてるから、舌っ足らずになってかわいいね」
「かわいぃ……ていうにゃぁ」
「もっと気持ちよくしてあげる」

 そう言って、白糸総しらいとそうの細腰を背後から掴み、アルファ特有の長大で極太な剛直を深々と突き立てる。男のオメガの子宮口を先端がぬち、と押し広げ、通常なら痛いはずの現象も、ソコから快感が広がり、総はたまらなく背中をしならせた。

「ね、分かる? 俺の亀頭を総さんの子宮口が、きゅっ、て締め付けてるの」

 言われなくても分かってる、と総は口にしたいものの、長時間快楽漬けにされた体はアルファの男が与える刺激に従順に反応を繰り返し、反論したい口はひたすら喘ぐ声しか出てこない。
 既に三日経った総の寝室は、自らの持つフェロモンと、アルファの男が放つ甘いフェロモンの香りと、互いの精液の匂いが充満しており、それがまた互いの性欲を高めている。
 まるで永久機関のように、総とアルファの男は交じり続ける。

「そろそろイキそう。総さん、俺の精液、お腹たぷたぷになるまで飲んでね?」
「やらぁ! も、おにゃかいっぱいらからっ、ナカぃやぁ……っ!」
「だーめ、総さんに孕んでもらいたいからね」

 ガツガツと抽挿され、揺さぶられる総には、最後の言葉は耳に届かないまま、アルファの男が小さな呻き声と共に動きを停止させた途端、総の薄い腹が更に膨れる程の精が濡れたナカをドクドクと濡らしていた。




「総さん、コーヒー飲む?」

 寝室から声が聞こえ気だるい首を動かして入り口を見てみると、ジーンズとカットソーという軽装のアルファの男が立っていた。微かに鼻を蠢かせると香ばしい香りが入ってくる。また勝手にキッチンを使ったのか、とため息がこぼれそうになるも、全身の倦怠感のせいで深く喘いでるようになってしまう。
 だが、体の不快感がない。きっと彼がシーツを替えてくれたり、総の体を拭ってくれたのだろう。アルファなのにまめまめしい男だ。

 ヒート時はひたすらセックスに脳を侵されてるから、食事などの一般常識的なものが全て塗り潰され、抱かれる事に重みを置くようになる。途中、ゼリー飲料や水分は取っていたものの、まともな食事が恋しい。

「いや……、そろそろメシ食いたいから……」
「ああ、いつもの『La maison』?」

 総の住むマンションから徒歩五分の場所にある『La maison』は、アルファのオーナーシェフと、最近彼と結婚したオメガの男性が営むカフェバーだ。総が通い始めの頃には独身だったが、彼はオメガにも人当たりがよく、食事も美味しい。過ごしやすい場所を見つけ、週の半分以上をそこに入り浸るようになっていた。

「うん」

 だからヤる事もヤッたんだし、いい加減帰れば? とプルプル震える腕を叱咤して体を起こすと、後孔からドロリと内側から溢れ大腿を濡らす感覚。

龍蘭たつら君、あれほどナカに出すなと……」
「ごめん、総センセ。途中でゴムが切れたんだよね」

 ギロリと総が睨めば、アルファの男──龍蘭は全く反省した様子もなく嘯いて、コーヒーを啜っている。総の事を「センセ」とつけて呼ぶ時は、言葉と心が一致していないのだ。年下の男に総は四つん這いで俯いたまま歯噛みする。

 龍蘭は一年ほど前から利用しているオメガ専用デリヘルのキャストで、総の勤める大学の生徒だった。学部は違うが。

 総は「あーもう」と愚痴を吐きながらベッドから降り、床に散乱する服の中からシワになったシャツを拾い上げると、無造作に羽織る。
 オメガらしい……と総に言ったら不機嫌になるから言わないが、華奢な痩躯に女性的な横顔は疲れが出ているのか、伏せた睫毛が頬に影を作って妙に艶かしい。シャツの裾から伸びる細い足には、自らが注いだ白濁の残滓が伝い流れ、龍蘭はコクリと唾を飲み、手にしていたコーヒーをナイトテーブルに置くと、出ていこうとする総の手首を取る。

「ね、総センセ? まだヒート休み明けるまで日数あるよね。また、シよ?」
「は? 延長なんかしたら、また料金が嵩むだろうが。断る」
「へーき、へーき。これからの分は俺のオゴリ」

 突然欲情してきた龍蘭に渋面を見せたものの、まだヒートの熾火が体に残る総の後孔は期待にヒクリと震える。しかし。

「で、でも、龍蘭君、両親の借金返済を助ける為にこの仕事をしてるって……っ、んぅ」

 総は龍蘭がこのような風俗の仕事をしている理由を知っていたから、無駄な出費は抑えるよう忠告したかったのを、当の龍蘭の口が総の言葉を封じたのだった。

 口腔の中で逃げていた舌はあっけなく捕らえられ唾液ごと絡め取られる。ぴちゅくちゅと口の中でくぐもった水音が総の羞恥心を煽り、欲情がくすぶる体は再加熱するには時間がかからなかった。

「ね、シよ」
「なら……、んっ、ちゃんとおかねは……はらう、から」

 崩れそうになる総の細腰を抱え「先生は真面目だなぁ」と苦く笑った龍蘭は、深く貪るように総の唇を奪いながら、再びベッドへと雪崩込んだのだった。

 相性がいいのか、龍蘭が触れる度に総の赤い唇から熱い吐息が零れる。

「ふふ、キモチよさそうだね」
「あっ、んっ、だ、だって……」

 フェザータッチで総の肌を指で滑らせながら、柔らかな耳朶を舐めたり甘噛みをして、わざと直截的な場所に触れないでいる龍蘭に、総はもどかしげに腰をくねらせ、体とは裏腹な言い訳を漏らす。

 キモチイイ……デモ、モット、ツヨクシテ……ホシイ。

 再燃した淫欲の熱に浸された思考は、触れるか触れないかの愛撫に「はげしく、して」と普段の真面目な総からは想像できない淫らな願いを口にする。
 最初は総を外に出したくなかったからという理由で口づけを仕掛けた龍蘭だったが、総の淫蕩した表情を見た途端、人間らしい人を気遣う思いは消え、ただただアルファという支配者の獣へと変貌していた。

「ん……ぁんっ……はっ……んんぅ……たつ……ぁあっ」

 絡み、扱かれ、舐め削られ、擽られ。溢れた唾液を飲み込むとやけに甘く、毒のように中毒性があり、蜜のように総を潤す。

「……ちゅっ……ん、総さんはどこもかしこも甘くて美味しい。ね、体全部舐めていい?」
「んっ、……なめちゃ……ぃやぁ……あんっ!」

 総は誰かと交わったのが龍蘭が初めてだったので、ヒート時のセックスがこんなに甘くて、心地よいものだと知らなかった。

 一応龍蘭が清拭してくれたとはいえ、お風呂に行こうとした総の体は清潔とは言い切れず、だめ、と抵抗を示したものの、龍蘭はやる気なのか、だーめ、と一言いって、飲みきれず伝った唾液の筋を追うように、ペロペロと肉厚な舌が総の顎から首筋へと辿っていく。

「あー、ホント、総さんのフェロモンいい匂いする。ね、うなじ噛んでもいい?」
「あっ……んぅ、だ、めぇ。うな、じ、は……つがいで、ない、と」

 アルファとオメガにはベータにはない唯一の契約行為がある。
 それは互いの発情ヒート・ラット時に、オメガのうなじを噛むという獣じみた契約行為。
 オメガは大体早くて十代はじめにヒートを起こす。その際、自身にとっての優秀なアルファと番う為に、うなじから誘惑のフェロモンを垂れ流すのだ。それを発情ヒートという。そして、そのオメガのヒートに充てられたアルファからもフェロモンをうなじから溢れさせ、オメガのフェロモンに呼応する。こちらは発情ラットといい、オメガはアルファの精液や体液を、アルファはオメガの粘液や体液を取り入れ、熱を収める事ができる。
 通常であればそれだけでお互いが充足されるから、龍蘭が働くヒートのオメガ専用のデリヘルが存在できるのだ。しかし、ヒートセックス時にうなじを噛むというのは、また別の意味を持つ。
 獣のようなその行為は、一般的には番契約と呼ばれるもの。
 無差別に漏らすオメガのフェロモンを、アルファがオメガのうなじをヒートセックス時に噛むと、オメガはそのアルファだけの存在となり、通常でも少量は漏れ出すオメガのフェロモンも抑えられ、他のアルファは反応しなくなる。
 噛まれたオメガは噛んだアルファの唯一となるのだ。
 昔はそんな囲われたオメガを多数持つのがステータスであると言われていた時期もあったようだ。しかし、現総理になってからというもの、表面上は番契約イコール婚姻の証とされ、殆どのアルファとオメガは番契約と婚姻を同時にする事が多い。

 何度か龍蘭はこのように総へとうなじを噛む許可を取ろうとしていた。しかし、客であり教育者である総は、デリヘルキャストで学生の龍蘭に後ろめたさや複雑な感情が綯い交ぜとなり、一度として許した事はなかった。

『講師と大学院生って言っても、実際は五歳しか年齢が違わないよね。親子程年齢が離れてる訳じゃないし、倫理を冒してる訳でもない。総センセと番っても問題ないんじゃない?』

 そんな事は言われなくても分かってる、と反論したかったが、総は首を横に振るだけにとどまった。
 内心は龍蘭の言葉に心がぐらついていたからだ。

 総の父親は大学教授をしており、アルファだった。昔から優秀だった総は、将来有望なアルファの教授になるだろうと周囲から褒めそやされ、自身もそうなる未来を描いていた。
 だが、中学に入るとすぐに実施されるバース性診断において、総に下された結果は非常にもオメガという宣告だった。
 父親はオメガに偏見はなかったものの、その性がこの世では行きにくいのを知っていただけに落胆が酷かったようで、総が中学三年になる頃には病院に出たり入ったりを繰り返すようになっていた。

 その頃からだ。総は日に日に生気を無くしていく父に、必ず父と同じ大学教授になるからと誓い、総の体が耐えれる中で一番強い抑制剤を飲むようになったのは。
 父は総が大学の合格が決まってすぐに息を引き取った。影で支えていたオメガの母も父の後を追うように翌年に。

 孤独になった総の手元に残ったのは若い大学生が持つには多すぎる遺産と、家族で住んでいた小さな一軒家。
 結局、両親の思い出が染み込んだ場所に一人で暮らすのは辛く、知り合いを通して人に貸し出し、総は今住んでいるマンションを遺産で一括購入したのである。
 大学からも近く、商店街もあり、孤独な総を無聊をかこってくれた。

 そうして心が安定しだした一年前に総は抑制剤を飲むのをヒート時のみに変えた事で、定期的に発情ヒートを迎えることとなったのである。
 事前にそういった専門の性風俗があるのを同僚から教えてもらい、初めて利用して現れたのが龍蘭だった。出会った当初は両親の抱えた借金を助ける苦学生という情報しか知らなかったが、ほんの偶然により彼が自分の大学の院生だというのを知った。

 自分が教鞭を振るう学校の生徒と獣のようなセックスをする。そんな後ろめたさはあったものの、ヒート時は濡れる孔に太くて熱いモノで埋められるだけしか考えられなく、最初も今回もドロドロに龍蘭によって蕩かされていた。

 三日間、ずっと埋められ形を教え込まれた孔は、龍蘭の熱の先端が触れるだけでほころび受け入れようとする。
 数え切れない程の交接が三日間。掛ける四回。もう総の秘所は龍蘭専用の場所になっていた。だから体は従順に龍蘭のソレをクプリと甘受する。
 番になれば、もっとヒートも楽になるのに、と悪魔の囁きをしてくる龍蘭の甘言は無視する事にしていた。

「ふ、あぁっ」
「ああ……総さんのナカ、めちゃくちゃ、きもちいぃ」

 龍蘭の精液の残滓が潤滑となり、ヌプブ音を立てながら総の内側の粘膜が蠕動して、緩やかに擦りながら最奥へと龍蘭の剛直の侵入を許す。むしろ嬉々として享受しているかのようだった。
 ヒタリ、と総の臀部と龍蘭の下生えが触れ、彼が全てを総のナカに収めたのだと知る。今は射精間近じゃないせいか龍蘭の茎にはアルファ特有の瘤はなく、先端が総の子宮口をコツリと叩く度に甘美な痺れが腰から広がっていく。

「いっぱい激しくしちゃったから、今日はスローセックスにシようね」
「あぁんっ」

 龍蘭が半身を屈め総の背中に唇を落としたせいで、張り出した龍蘭の雁首が総の前立腺を削る。男の性感帯とも言える場所を刺激され、ズクズクと熱が生まれ、行き場もなくお腹を渦巻く。
 四つん這いにされた体を繋がったままふたり揃ってベッドに横たえ、龍蘭は時折腰を円を描くように揺らめかせるものの、これまでの激しい抽挿は何だったかと問いたくなるような緩慢な交合に、総の熱は自然と涙を溢れさせ頬を伝い落ちた。

「え? 総さんっ、どうして泣いてるの!?」

 うっとりと総の内部を堪能していた龍蘭は、総が涙をポロポロ流しているのに気づき、ぎょっとした顔で慌てて尋ねる。
 総は総で、自分がどうして泣き出したのか分からなかった。答えに窮して首を横に振ってとどめるも、それでは何も伝わない。自分は教育者なのに不甲斐ない、と余計に悲しくなってくる。

 まだヒートの熱が残る体は激しく貫かれるのを求めている。相性の良い龍蘭とのセックスは、ヒートの終わりがけでもとても気持ちがいいのを知っている。
 だけど自分が何故泣いているのか。
 龍蘭の言葉なのか行為なのか、はたまた自身の心の変化なのか。背中に温かい龍蘭の体温に包まれながら、総は涙を流し続けていた。

 気持ちはいい。だけど、あの嵐のような交わりで得られる我を忘れる程の快感まで行けなくて、無我夢中に龍蘭に求められてナカを彼の精液で浸されたい。だけど今のような穏やかで意識もはっきりとした繋がりは、講師と院生という背徳感や金銭だけの関係というのを、まざまざと思い出され胸が苦しくなるのだ。

「……いっぺん抜くよ?」
「えっ、あ、ひゃぁっ」

 ズルリと長大な龍蘭の楔が抜けていくのが明確に伝わり、総の粘膜が離れていかないでと縋るように蠢く。

「だめだよ、総さん。嬉しいけど、締めないで緩めよ?」
「ゃ……だぁ、ぬいちゃ……や」

 龍蘭が腰を引くと総が追いかける。それでも龍蘭の熱が総の胎内から消えていく。
 行かないで。置いてかないで。僕の傍に……居て。
 心よりも体は素直で、総が自覚する前に体は龍蘭ひとりを求めていた。

 出会いから一年。
 初めて龍蘭に抱かれた時は、どこもかしこも丁寧に愛撫され、緊張で強張る門も丹念にほぐしてくれて、大学の助教授になって数ヶ月の総は、初対面の年下の男に処女を捧げた。そして、龍蘭は最初から避妊をせずに、総のナカに大量の精をお腹が膨れるまで毎回注ぎ続けたのである。
 さすがにこれには猛抗議した。もし妊娠したら若い彼に責任を取らせるなんてできない。初めての交歓の後、どうしてこの仕事に就くようになったのか、雑談のひとつとして聞いてみたら、龍蘭は一瞬の間の後に両親を助けるためだと言ったのだ。

 それならちゃんと避妊はしないと、と嗜めたが、龍蘭はシレっと「中出しした方がヒートもすぐに楽になるでしょ?」と、彼は総に言いながら銀色の個装されたシートを手渡してきた。直感的にそれが避妊薬だと気づいたのは、同僚のオメガが同じ薬を服用しているのを見たことがあるから。
 確かに抑制剤を飲んでも辛いと言われていたヒートも、龍蘭と交わってすぐに、燃えるような熱も疼く秘所も、落ち着きを戻していた。
 だからといって許容してしまえば、望まない妊娠をしてしまう。最初にもらった避妊薬は二回目に使用した時に副作用が出てしまい、前回は違う薬を龍蘭から受け取っていた。
 きっと今回も同じ薬を渡されるだろう。
 デリヘルもキャストが将来有望とされるアルファを取り扱っているからか、避妊の方も慎重なのだろう。総は他の店を利用した事がないが、このデリヘルを紹介してくれた同僚の情報では、他も同じような後始末をしているとの事だった。

 総自身も講師になって一年。まだ覚える事は沢山あるし、龍蘭を呼ぶにはお金も必要なのだ。

 金を払って抱かれるオメガと。
 金を貰って抱くアルファと。

 好きになってはいけない、と自分を戒めながらも、総は龍蘭とは一線を引いた関係を続けてきた。
 でも、まるで恋人のように龍蘭は総に接する。セックスも総が嫌がる行為は絶対にせず、後戯も総を気遣ってくるものだから、かたくなな総の心は溶けて、龍蘭に恋をしていた。

 何度も「三ヶ月に一度だけの関係だから」と言い聞かせてきた。
 それでも心は龍蘭を求め、大学の構内で偶然見つけてしまうと、彼から視線が外せない事も多々あった。声を掛けたい衝動に襲われたが、自分から大学内で見かけても近寄ってはいけない、と龍蘭に言ってあったので、彼が友人らしき人たちと笑っている姿を見る度に、何故隣に自分が居ないのだろうと胸が苦しくなっていた。

「ね、総さん。ホントにどうしたの? ヒート終わりかけだったから、痛かったの?」

 切なくて体を丸める総を包むように龍蘭の腕が総を抱きしめ、優しい声が心配げに問いかける。総は首をただ横に振るだけで、言葉は喉に詰まって出てこない。
 優しい優しい龍蘭。年下なのに、性技が上手で、いつも総を翻弄しながらも、多くのアルファのように傲慢で自己中なセックスをしない、思いやりのある苦学生。

 彼が自営業で負担が掛かり借金で経営をなんとか成り立たせている両親を少しでも助けたいとの思いから、このオメガ専用のデリヘルでキャストをしているのを総は知っていた。
 そして、彼が番を得たら、仕事を辞める事になるから、本気で愛する人が出ない限りは、両親を助けたいと言っていたのも。
 あと、龍蘭は気付かなかったようだけど、総は友人と語らうカフェの片隅で、龍蘭の理想の番を耳にした事があった。

『あの人は、とってもさみしがりの癖に、妙に強気で。同じ歳なんだけど、ぼんやりした時の、ちょっと幼い感じなのも可愛いし、集中してる時のキリッとした顔も、今すぐ押し倒したい位エロい。一日でも早く番になりたい。そうしたら、俺があの人に惜しみない愛を一杯注いであげれるのになぁ……』

 盛大な惚気を聞かされた友人達は、面映ゆそうな顔で、龍蘭をからかっていたが、総の心は壊れた硝子細工のように修復不可能な程傷ついていた。
 よく、龍蘭は総にうなじを噛んでもいいか、と問う。龍蘭と交わる度に、その衝動は大きくなるものの、カフェで盗み聞きした彼の声がリフレインされ、総は唇を噛んで拒絶していた。
 だって君には同じ歳の好きな人がいるんだろう? 気軽に番契約をしちゃいけない、と詰る言葉が出てしまいそうだったから。
 気軽に愛人を作る感覚で番契約するアルファもいるけど、龍蘭は違う。だからもう、今回限りで龍蘭とはデリヘルの契約を解除するつもりだった。

「……違う。龍蘭君はいつも優しいから、痛いなんて思った事はないよ」
「だったら、どうして泣いてるの? もしかしてお腹空いてる時に誘ったから怒ってる?」
「ぐすっ。そんな食いしん坊じゃないよ、俺」

 穏やかな会話を続けながら、総は臀部に伝わる硬い熱を感じ、後孔から龍蘭の残滓と一緒に自分の蜜が溢れる。もう一回。最後に、もう一度だけ、龍蘭に激しく愛され、子種を奥深くにぶちまけられたい。卑劣かもしれないけど、避妊薬は飲まない。そうしたら、最愛の男の子供を産む事ができるから。
 ヒート時の中出しは、ほぼ十割の確率で妊娠へと至る。ベータ同士の着床はだいたい三日位とされているが、アルファとオメガのヒートセックスによる着床時間は二十四時間。
 毎回、三日間の間、即効性の殺精効果がある避妊薬を飲む。最初の二日間は意識が朦朧としてるから、龍蘭が口移しで飲ませてくれている。だからこれまで一度たりとも妊娠の兆候がなかった。
 それでいい。最後の分は飲む振りをして捨てるだけだ。

「あのね、龍蘭君。今日限りで君とのデリヘル契約を解除したいと思ってるんだ」
「え?」

 総を抱く龍蘭の腕がピクリと痙攣する。

「悪いけど聞いちゃったんだ。君、同じ歳の好きな子がいるんだろう? その子と番になりたいって。きっと君が本当に好きな子なら、苦労しても幸せだろうから、もうこんな仕事辞めて、ちゃんとした仕事に就いたほうがいい」

 俺は大学を辞めて、子供を一人で産んで、君との思い出に浸りながら二人で生きていく。実家の賃貸収入もあるし、今住んでるマンションは分譲で一括購入してるし、子供二人で生きていく分には十分過ぎるほどの広さで問題ない。

 総な心の内でこれからについて呟いていると、なにそれ、と今まで聞いた事がない程冷たく、怒りに満ちた声が背後から聞こえた。

「契約の解除ってなに? 総さんは二度と俺を呼ばずに、他のアルファとセックスするんだ」
「……っ」
「俺、総さんだから、これまでかなり尽くしてきたつもりだったんだけど、何が不満? プレイ? 回数? 日数? ねえ、総さんが望むなら、全部叶えてあげるよ? だから契約解除なんてして欲しくないんだけど」
「……ごめん、龍蘭君。最後、一回だけ、君の好きにしていいから。だから……っ、あぁっ!」

 言い終わらないまま、龍蘭の剛直が緩んだ後孔を一気に貫く。快感が一気に腰から頂点まで上り詰め、止まった息を求めるように口はパクパク開閉し、背中が弓なりとなって、龍蘭の熱をぎゅっと食い締める。
 龍蘭は無言で繋がったままの総の腰を掴んで体勢を変え、総をベッドに組み敷くと、そのまま残っていた白濁と蜜を掻き出す勢いで腰を突き動かす。
 総は彼が怒りのままに自分を犯しているのだと気づいた。それでいい。彼が幸せになる為に、そして自分の欲望を叶える為に、爆発する感情のまま自分を犯し、ナカに子種を残して欲しい。
 そうして、君は自分の幸せを手に入れて。
 俺は最愛の人との子供と生きていくから。
 もう二度と交差する事はないだろう君に、俺は最悪の人間だと刻み付ける為に。憂いもなく、君が本当に好きな人と番になってくれれば、俺はそれだけで幸せだから。

 ガツガツと、互いの腰骨がぶつかり合う振動も、内蔵を揺らし、これまでにない程の淫れた声をあげる総。ナカは既に残滓が掻き出され、総の蜜がグジュグジュと攪拌される音がソコから聞こえる。背中には龍蘭の吐く息と彼の汗が背中に落ち、ただひたすら二人は獣のセックスに興じるばかりだ。

 ナカが壊れてもいい。子宮さえ無事ならば、龍蘭が満足するまで壊して欲しい。

「た、つらぁ……、も、っと、もっと、おくぅ」
「いいよ。子宮口こじ開けて、確実に妊娠させてあげる」

 龍蘭はそう言って、背面座位にして、自分の膝の上に総を乗せる。軽々と成人男性を抱え上げるなんてアルファは凄いな、と感心する前に、串刺しにされた総の結腸は龍蘭の先端でこじ開けられ、グプリと亀頭が侵入してきた。

「あ、あっ、ぐぁあああ!」

 腰が溶け、死にそうな程の絶頂感が体の中で爆発する。

「ほら、気持いいでしょ。今までは総さんが、可哀想だと、思って、遠慮、してたんだ、けど」

 下から突き上げながら龍蘭がそう言っているけど、過ぎる快感に総の目の前はチカチカと星が瞬き、飲み込めない唾液が顎を伝っても、総は口を「あ」の形にしたまま、弾むタイミングで息しか出てこない。

「分かる? ここ、子宮口。ここ開くから。結腸よりももっと狂う位キモチイイからねっ」

 そう言ってるのがぼんやりと聞こえる中、龍蘭は腰をめり込む程押し付け、結腸の肉の輪を擦り、更に奥へと熱を侵入させる。

「ゃ、らぁ……こわ、いぃ」
「大丈夫、きっと、ぜったい、キモチイイよ。それで、俺の子、孕んでね」

 逃げる総の腰を腕で拘束し、背中を流れる汗を舐めながら龍蘭が何かを言っている。
 俺の子? 孕む?
 それは自分ではなく、龍蘭が好きな相手で……

「ひぃ……ぐぅっ、しょ、しょこやらぁ……!」

 ヒートで下がっていた子宮口が、龍蘭の肉槍の先端に吸い付き、受け入れるままにグパと閉じた最奥の孔を、龍蘭の腰がグリグリと擦る度にこじ開けられる。その快感は、尻の蕾を開かれるよりも、結腸の悶絶する快感よりも、言葉にしづらい位の、まさにアルファという存在に殺される感覚だった。

「あぐぁ、あ、かはっ、ぁっ」

 総は過ぎた悦に喉を反らし、白目を剥いたまま喘いでいた。

「ね、分かるよね。俺のペニスが、総さんの、子宮に突っ込まれてるの」

 くすくす笑い、それでもこれ以上ない場所に先端があるせいか、抽挿する事なく円を描くように揺らしてくるせいで、絶え間なく絶頂感に襲われる。

「ほら、メスイキしすぎて、もう、総さんの何も出てこないし」

 そんなの言われても分かってる、と言いたかったが、波のない快感がずっと総を苛み、全身はピクピクと痙攣し、総の逸物は萎れてだらけきっていた。
 もう自分は男ではなくなってしまった。
 こんな奥の奥まで龍蘭に侵略され、快楽を植えつけられた体では、きっと他のアルファとは満足できないだろう。
 しかも、龍蘭は射精寸前なのだろう。アルファ特有の瘤が総の前立腺を腰を揺らめかせる度に擦り、総は龍蘭に揺さぶられるだけの人形のようだった。

「直接子宮に精子注いだら、今すぐにでも妊娠しちゃうかもね。それなら、ここで総さんのうなじ噛んじゃっても、問題ないよね?」

 自分で支える事もできず、総は龍蘭の胸に半身を預けていると、うなじをねっとりと舌が這い、龍蘭の低い声が囁いてくる。

「ぁ……ら、め」
「ダメ、じゃないよ。俺が総さんと番いたいだけだから。拒否権は総さんにはないよ」

 アルファらしい自己欲を満たすのは当然とばかりの高慢な言葉に、支配されたオメガの総は無意識に頷いていた。
 支配されたオメガは支配するアルファからの要求を拒絶できない。おれは遺伝子レベルで、自分の意識はアルファに全て塗り替えられていく。

「愛してる、総さん。だから逃げないで。俺の……めい、の番」

 総のうなじに唇を当て話す龍蘭の言葉は一部聞き取れず、ゆるりと頭をもたげて問いただそうとした途端。

「ぅ、あ……、あっ、あ、あ、あぁぁぁ!!」

 ぶつり、とうなじに龍蘭の牙が総の皮膚を食い破り、全身に愉悦と激痛が混じって駆け巡る。追いかけるように自分の体が作り替えられる感覚。
 これが番契約なのか、と意識すると共に、熱い飛沫をお腹の奥に感じて、総の意識は闇へと堕ちていったのだった。



「……やっと手に入れた」

 龍蘭は意識を失った総を事後風呂に入れ、ドロドロになったシーツを交換した後、その上に寝かせ、静かに眠る最愛の番の頬をそっと撫でる。

「俺の運命」

 総は憶えてないかもしれないが、龍蘭の記憶には鮮明に残っている。
 彼が勤める秋槻大学での入学式。龍蘭も総も新入生としてその場に居た。並み居るアルファを押しのけ主席として最前列の椅子に座る総の横顔はとても美しく、龍蘭は彼の美貌に見蕩れていた。
 しかし、龍蘭と総は学部が違ったのと、基礎講習は既に取得していた龍蘭は実家の会社の手伝いをしていた為に、すれ違うどころか顔を見る事すら叶わなかった。
 あの時に、龍蘭は総が運命の番だと認識していたのだが、総は何故か龍蘭に気付く事なく、日々学業に明け暮れていたと、監視の為に配置したオメガの報告にあった。
 それと、彼は以前から強く作用する抑制剤を使用していたとあり、全てのフェロモンを遮断していたせいで、龍蘭を認識しなかったのではないか、と、寒川家の三男であり、天才研究者でもある寒川凛の診断。彼は龍蘭の後輩でもあった。

 結局、すれ違いは長年続き、実際に会話をしたのが一年前。龍蘭が総だけの為に作ったデリヘルの客とキャストとしてだった。
 事実、ヒートのオメガの為の性風俗は多数にある。龍蘭は利用者で、総と親しいオメガにお願いをして、総の為だけの店を案内するようにしたのだ。
 疑う事を知らない総は、知人の勧めというのもあり、まんまと電話を掛けてきた。

『あ、あの。は、はじ、めて、利用……するの、ですが……』

 総用に作ったスマホから聞こえた彼の声を聞いた途端、龍蘭の逸物は固く張り詰め、緊張する総の声を聞きながら自身を無意識に扱いていた。
 通話を終え、吐き出した白濁を受けた掌を眺めながら、早く彼のナカにコレを注ぎたいと、心臓がドクリ焦燥に胸を叩いていた。
 そうして、約束した日。初めて総を抱いた時は、天にも昇る気持ちだったのを忘れない。総の放つ甘い香りに包まれながら、引き締まるナカを堪能して、無我夢中に腰を振りたくり精子をぶちまけた。
 流石に本人が子供を望んでないかもしれないと思って、避妊薬を飲ませたものの、どうにも体が受け付けなかったようで、その後は避妊薬と偽ってビタミン剤を総に飲ませていた。だから、三回目の前回。総は妊娠していると内心喜んでいたのに、彼はケロリとしていて、龍蘭は慌てて凛に相談をした。
 彼が言うには、それまで強い抑制剤を飲んでいたせいで、排卵タイミングが発情とズレを生じているのかもしれないとの事。
 それを聞いて、四回目の今回、避妊薬ではなく、排卵誘発剤を飲ませたのだ。三日前に中出しして、誘発剤を飲ませているから、うまく行けば昨日の時点で妊娠しているだろう。
 そして、激昂にかられたとはいえ、子宮に直接射精しているから、確実に妊娠している確信がある。

「うなじも噛んで、避妊もしないで中出ししちゃったからね。もう逃げられないし、逃がすつもりもないよ、総?」

 さて、総が目覚めたら本当の事を話そう。

 本当は龍蘭と総は同じ歳である事。
 両親には借金はなく、本当は名持ちの『百花』の紅竹くれたけの長男で、むしろ総が大学を辞めて子育てに専念しても、十分過ぎるほどの生活を送らせてあげる事ができると。
 それから、君は運命の番なんだよ、と目覚めた愛おしい番に囁いてあげたい。

「総、愛してる。ずっとずっと死ぬまで一緒……だからね」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

ミッキーリン

総先生の続編読みたいです🙇

解除
ミッキーリン

総先生の続編も読みたいので~~🎶宜しく😃✌️です🙇💖💖💞

解除
ミッキーリン

このシリーズめっちゃ大好きで一気に読んじゃった😁椿の両親&藤田夫婦&ドクター凜にも運命の番シリーズを創作して欲しいと願っていますので宜しく😉👍🎶です🙇待ってマッスル❤️

解除

あなたにおすすめの小説

婚約者をひいひい言わせたくてアダルトショップに行ったら大変なことになった

紫鶴
BL
小さい頃からの婚約者がいる。 カッコいいお兄ちゃんで名前は理人さん。僕はりぃ兄さまって呼んでる。 そのりぃ兄さまは優しくて僕にはもったいない位できた人。 だから少しでもりぃ兄さまを喜ばせてあげたくて特訓をしようと思う!! ーーーーー 現代が舞台です。 男性妊娠できる世界。 主人公ふわふわ天然お馬鹿です。 4話で終わります。既に予約投稿済みです。 頭空っぽにしてみてください。

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

後輩に本命の相手が居るらしいから、セフレをやめようと思う

ななな
BL
「佐野って付き合ってるやつ居るらしいよ。知ってた?」 ある日、椎名は後輩の佐野に付き合ってる相手が居ることを聞いた。 佐野は一番仲が良い後輩で、セフレ関係でもある。 ただ、恋人が出来たなんて聞いてない…。 ワンコ気質な二人のベタ?なすれ違い話です。 あまり悲壮感はないです。 椎名(受)面倒見が良い。人見知りしない。逃げ足が早い。 佐野(攻)年下ワンコ。美形。ヤンデレ気味。 ※途中でR-18シーンが入ります。「※」マークをつけます。

アイドル辞めると言ったら犯された

人生1919回血迷った人
BL
二人一組でアイドルユニットとして活動している彩季(アキ)は相方の嶺二(レイジ)のことが好きだ。その気持ちに限界が来る前にとこの仕事を辞めると嶺二に伝えるが─────。 ※タイトル通りです。 愛ある強姦?となっております。 ほぼエロで書くつもりです。 完結しましたのでムーンライトノベルズ様でも掲載する予定です。

とろとろになりながら「一緒にイきたい」っておねだりする話

Laxia
BL
いつもとろとろになって先にイっちゃう受けが、今日は一緒にイきたいって攻めにおねだりする話。 1話完結です。 R-18のBL連載してますのでそちらも良ければ見てくださると、やる気が爆上がりします。

恥ずかしがる僕をその気にさせようと、恋人が外堀を埋めてきました

あるのーる
BL
恥ずかしがってキスもさせてくれない受けに自分に慣れさせようと考えた攻めが、慣れるための握手から始め、最終的に淫語ハメ請いをするほど焦らす話です。(全7話)

気の遣い方が斜め上

りこ
BL
俺には同棲している彼氏がいる。だけど、彼氏には俺以外に体の関係をもっている相手がいる。 あいつは優しいから俺に別れるとは言えない。……いや、優しさの使い方間違ってねえ? 気の遣い方が斜め上すぎんだよ!って思っている受けの話。

騎士団長の俺が若返ってからみんながおかしい

雫谷 美月
BL
騎士団長である大柄のロイク・ゲッドは、王子の影武者「身代わり」として、魔術により若返り外見が少年に戻る。ロイクはいまでこそ男らしさあふれる大男だが、少年の頃は美少年だった。若返ったことにより、部下達にからかわれるが、副団長で幼馴染のテランス・イヴェールの態度もなんとなく余所余所しかった。 賊たちを返り討ちにした夜、野営地で酒に酔った部下達に裸にされる。そこに酒に酔ったテランスが助けに来たが様子がおかしい…… 一途な副団長☓外見だけ少年に若返った団長 ※ご都合主義です ※無理矢理な描写があります。 ※他サイトからの転載dす

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。