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これを機に一緒に住もう?
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その後の話を少し語ろう。
嵯峨は会社の自室にあるモニターを眺め、柚希の淹れたコーヒーをゆっくりと啜る。
「その後の話……ですか?」
「うん。柚希も当事者だし、多少は知っておいた方が良いと思って」
先日嵯峨に求められるまま専属秘書となった柚希は、ソファに腰を下ろし目線で続きを促す。
まずは元恋人だが、彼の事をずっと派遣社員だと思っていたが、本当は反社会的組織に属している人物だったそうだ。秘かに売春の斡旋をしていたようで、その件を纏めあげている人物が知る事となり、彼らの世界での「処分」をされたそうである。
嵯峨は生死については語ってくれなかったが、語る内容から恐らく……
悪い人間だったとは思うも、死を望んだわけじゃなかった。柚希の胸がキシリと痛む。
それから、高邑というのが、組織を纏めている長らしい。ニュース程度の情報でしか知らないが、きっと采邑会のトップの事ではないかと推察する。
嵯峨とは一体どういった関係なのだろうかと不思議に思うが、藪ヘビになりそうなので、沈黙を通す事にした。沈黙は金、雄弁は銀とも先人も言っていたし。
「余り気分の良くない幕引きだったけど、柚希には害はなくなったから、安心して欲しい」
「……はい」
続いて説明してくれたのは、嵯峨と一緒に居た蓮也という人物についてだった。
彼は嵯峨とは従兄弟の関係で、しかも嵯峨が前にいた会社では同僚という間柄だったそうだ。
長年思い慕っていた女性と最近結婚をし、鬱陶しい程の溺愛を妻に捧げているというのは、嵯峨談。
渋い顔で語る嵯峨に、仲が悪いのかと問えば、他の親戚よりかは信頼もしているし友好関係にあるとの事。
外からでは不仲に見えたが、本人達がそう言うのなら、内面では良好な関係なのだろう。
近々、嵯峨と彼の従兄弟夫婦の四人で食事でも、と誘われている為、ちょっと楽しみだったりする。
「それから、これ」
「何ですか?」
嵯峨がプリントアウトした紙を柚希に向かってヒラリと渡す。
「俺達の新居のリスト。これを機に一緒に住もう? 柚希」
自然と受け取った紙片を、嵯峨の言葉によって指から零れ落ちる。
「いいんですか、零一さん……」
「俺は元々そのつもりだったよ」
「っ、嬉しい……です。ずっと傍に居てもいいんですね」
「当然。柚希を離さないって言ったよね」
「……はいっ」
ハラリと零れ落ちた涙を見せる柚希に、嵯峨は椅子から立ち上がりそっと近づき抱き締める。
一面硝子の向こうから見える景色は、祝福するように晩夏の陽光が口付けを交わす二人を包んでいたのだった。
end
嵯峨は会社の自室にあるモニターを眺め、柚希の淹れたコーヒーをゆっくりと啜る。
「その後の話……ですか?」
「うん。柚希も当事者だし、多少は知っておいた方が良いと思って」
先日嵯峨に求められるまま専属秘書となった柚希は、ソファに腰を下ろし目線で続きを促す。
まずは元恋人だが、彼の事をずっと派遣社員だと思っていたが、本当は反社会的組織に属している人物だったそうだ。秘かに売春の斡旋をしていたようで、その件を纏めあげている人物が知る事となり、彼らの世界での「処分」をされたそうである。
嵯峨は生死については語ってくれなかったが、語る内容から恐らく……
悪い人間だったとは思うも、死を望んだわけじゃなかった。柚希の胸がキシリと痛む。
それから、高邑というのが、組織を纏めている長らしい。ニュース程度の情報でしか知らないが、きっと采邑会のトップの事ではないかと推察する。
嵯峨とは一体どういった関係なのだろうかと不思議に思うが、藪ヘビになりそうなので、沈黙を通す事にした。沈黙は金、雄弁は銀とも先人も言っていたし。
「余り気分の良くない幕引きだったけど、柚希には害はなくなったから、安心して欲しい」
「……はい」
続いて説明してくれたのは、嵯峨と一緒に居た蓮也という人物についてだった。
彼は嵯峨とは従兄弟の関係で、しかも嵯峨が前にいた会社では同僚という間柄だったそうだ。
長年思い慕っていた女性と最近結婚をし、鬱陶しい程の溺愛を妻に捧げているというのは、嵯峨談。
渋い顔で語る嵯峨に、仲が悪いのかと問えば、他の親戚よりかは信頼もしているし友好関係にあるとの事。
外からでは不仲に見えたが、本人達がそう言うのなら、内面では良好な関係なのだろう。
近々、嵯峨と彼の従兄弟夫婦の四人で食事でも、と誘われている為、ちょっと楽しみだったりする。
「それから、これ」
「何ですか?」
嵯峨がプリントアウトした紙を柚希に向かってヒラリと渡す。
「俺達の新居のリスト。これを機に一緒に住もう? 柚希」
自然と受け取った紙片を、嵯峨の言葉によって指から零れ落ちる。
「いいんですか、零一さん……」
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「っ、嬉しい……です。ずっと傍に居てもいいんですね」
「当然。柚希を離さないって言ったよね」
「……はいっ」
ハラリと零れ落ちた涙を見せる柚希に、嵯峨は椅子から立ち上がりそっと近づき抱き締める。
一面硝子の向こうから見える景色は、祝福するように晩夏の陽光が口付けを交わす二人を包んでいたのだった。
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