16 / 16
これを機に一緒に住もう?
しおりを挟む
その後の話を少し語ろう。
嵯峨は会社の自室にあるモニターを眺め、柚希の淹れたコーヒーをゆっくりと啜る。
「その後の話……ですか?」
「うん。柚希も当事者だし、多少は知っておいた方が良いと思って」
先日嵯峨に求められるまま専属秘書となった柚希は、ソファに腰を下ろし目線で続きを促す。
まずは元恋人だが、彼の事をずっと派遣社員だと思っていたが、本当は反社会的組織に属している人物だったそうだ。秘かに売春の斡旋をしていたようで、その件を纏めあげている人物が知る事となり、彼らの世界での「処分」をされたそうである。
嵯峨は生死については語ってくれなかったが、語る内容から恐らく……
悪い人間だったとは思うも、死を望んだわけじゃなかった。柚希の胸がキシリと痛む。
それから、高邑というのが、組織を纏めている長らしい。ニュース程度の情報でしか知らないが、きっと采邑会のトップの事ではないかと推察する。
嵯峨とは一体どういった関係なのだろうかと不思議に思うが、藪ヘビになりそうなので、沈黙を通す事にした。沈黙は金、雄弁は銀とも先人も言っていたし。
「余り気分の良くない幕引きだったけど、柚希には害はなくなったから、安心して欲しい」
「……はい」
続いて説明してくれたのは、嵯峨と一緒に居た蓮也という人物についてだった。
彼は嵯峨とは従兄弟の関係で、しかも嵯峨が前にいた会社では同僚という間柄だったそうだ。
長年思い慕っていた女性と最近結婚をし、鬱陶しい程の溺愛を妻に捧げているというのは、嵯峨談。
渋い顔で語る嵯峨に、仲が悪いのかと問えば、他の親戚よりかは信頼もしているし友好関係にあるとの事。
外からでは不仲に見えたが、本人達がそう言うのなら、内面では良好な関係なのだろう。
近々、嵯峨と彼の従兄弟夫婦の四人で食事でも、と誘われている為、ちょっと楽しみだったりする。
「それから、これ」
「何ですか?」
嵯峨がプリントアウトした紙を柚希に向かってヒラリと渡す。
「俺達の新居のリスト。これを機に一緒に住もう? 柚希」
自然と受け取った紙片を、嵯峨の言葉によって指から零れ落ちる。
「いいんですか、零一さん……」
「俺は元々そのつもりだったよ」
「っ、嬉しい……です。ずっと傍に居てもいいんですね」
「当然。柚希を離さないって言ったよね」
「……はいっ」
ハラリと零れ落ちた涙を見せる柚希に、嵯峨は椅子から立ち上がりそっと近づき抱き締める。
一面硝子の向こうから見える景色は、祝福するように晩夏の陽光が口付けを交わす二人を包んでいたのだった。
end
嵯峨は会社の自室にあるモニターを眺め、柚希の淹れたコーヒーをゆっくりと啜る。
「その後の話……ですか?」
「うん。柚希も当事者だし、多少は知っておいた方が良いと思って」
先日嵯峨に求められるまま専属秘書となった柚希は、ソファに腰を下ろし目線で続きを促す。
まずは元恋人だが、彼の事をずっと派遣社員だと思っていたが、本当は反社会的組織に属している人物だったそうだ。秘かに売春の斡旋をしていたようで、その件を纏めあげている人物が知る事となり、彼らの世界での「処分」をされたそうである。
嵯峨は生死については語ってくれなかったが、語る内容から恐らく……
悪い人間だったとは思うも、死を望んだわけじゃなかった。柚希の胸がキシリと痛む。
それから、高邑というのが、組織を纏めている長らしい。ニュース程度の情報でしか知らないが、きっと采邑会のトップの事ではないかと推察する。
嵯峨とは一体どういった関係なのだろうかと不思議に思うが、藪ヘビになりそうなので、沈黙を通す事にした。沈黙は金、雄弁は銀とも先人も言っていたし。
「余り気分の良くない幕引きだったけど、柚希には害はなくなったから、安心して欲しい」
「……はい」
続いて説明してくれたのは、嵯峨と一緒に居た蓮也という人物についてだった。
彼は嵯峨とは従兄弟の関係で、しかも嵯峨が前にいた会社では同僚という間柄だったそうだ。
長年思い慕っていた女性と最近結婚をし、鬱陶しい程の溺愛を妻に捧げているというのは、嵯峨談。
渋い顔で語る嵯峨に、仲が悪いのかと問えば、他の親戚よりかは信頼もしているし友好関係にあるとの事。
外からでは不仲に見えたが、本人達がそう言うのなら、内面では良好な関係なのだろう。
近々、嵯峨と彼の従兄弟夫婦の四人で食事でも、と誘われている為、ちょっと楽しみだったりする。
「それから、これ」
「何ですか?」
嵯峨がプリントアウトした紙を柚希に向かってヒラリと渡す。
「俺達の新居のリスト。これを機に一緒に住もう? 柚希」
自然と受け取った紙片を、嵯峨の言葉によって指から零れ落ちる。
「いいんですか、零一さん……」
「俺は元々そのつもりだったよ」
「っ、嬉しい……です。ずっと傍に居てもいいんですね」
「当然。柚希を離さないって言ったよね」
「……はいっ」
ハラリと零れ落ちた涙を見せる柚希に、嵯峨は椅子から立ち上がりそっと近づき抱き締める。
一面硝子の向こうから見える景色は、祝福するように晩夏の陽光が口付けを交わす二人を包んでいたのだった。
end
30
お気に入りに追加
1,459
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
いつの間にか後輩に外堀を埋められていました
雪
BL
2×××年。同性婚が認められて10年が経った現在。
後輩からいきなりプロポーズをされて....?
あれ、俺たち付き合ってなかったよね?
わんこ(を装った狼)イケメン×お人よし無自覚美人
続編更新中!
結婚して五年後のお話です。
妊娠、出産、育児。たくさん悩んでぶつかって、成長していく様子を見届けていただけたらと思います!
支配者に囚われる
藍沢真啓/庚あき
BL
大学で講師を勤める総は、長年飲んでいた強い抑制剤をやめ、初めて訪れたヒートを解消する為に、ヒートオメガ専用のデリヘルを利用する。
そこのキャストである龍蘭に次第に惹かれた総は、一年後のヒートの時、今回限りで契約を終了しようと彼に告げたが──
※オメガバースシリーズですが、こちらだけでも楽しめると思い
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
ずっと夢を
菜坂
BL
母に兄との関係を伝えようとした次の日兄が亡くなってしまった。
そんな失意の中兄の部屋を整理しているとある小説を見つける。
その小説を手に取り、少しだけ読んでみたが最後まで読む気にはならずそのまま本を閉じた。
その次の日、学校へ行く途中事故に遭い意識を失った。
という前世をふと思い出した。
あれ?もしかしてここあの小説の中じゃね?
でもそんなことより転校生が気に入らない。俺にだけ当たりが強すぎない?!
確かに俺はヤリ◯ンって言われてるけどそれ、ただの噂だからね⁉︎
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
「イケメン滅びろ」って呪ったら
竜也りく
BL
うわー……。
廊下の向こうから我が校きってのイケメン佐々木が、女どもを引き連れてこっちに向かって歩いてくるのを発見し、オレは心の中で盛大にため息をついた。大名行列かよ。
「チッ、イケメン滅びろ」
つい口からそんな言葉が転がり出た瞬間。
「うわっ!?」
腕をグイッと後ろに引っ張られたかと思ったら、暗がりに引きずり込まれ、目の前で扉が閉まった。
--------
腹黒系イケメン攻×ちょっとだけお人好しなフツメン受
※毎回2000文字程度
※『小説家になろう』でも掲載しています
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
クソ男は早く退散してイチャイチャシーンが観たいんだー!
柚希かわいい😍
零一さんを無意識に嫉妬させて
ぐずぐずにされてほしい…💕
他作品も読ませていただきましたが面白かったです🥰🥰
よき✨
めちゃいい!
もーエロいわっ!専務も柚希も、!
寝てる時に襲われてるシチュすごく好き!