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蒼天の日華
3*
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前に峯浦に促進剤で引き起こされたヒートとは、比べ物にならない熱が慧斗の体の中で激しく渦巻く。
ただひたすら紅龍に包まれて体の奥まで暴かれたい。そして熱い体液をいっぱいに注いで孕ませて欲しい。浅ましい願いが情欲となって脳までも支配する。
「ほーろん……」
「慧斗、我慢しろ! すぐに楽にしてやるから!」
騒然とする中、倒れた慧斗を横抱きにし、紅龍が走り出す。時々何かを喚いていたが、朦朧として紅龍の声が近くに遠くに聞こえ、内容が分からない。
慧斗は聞こえる音に頷く。それが意味のない物だとしても、紅龍の発する音に反応したかった。
バン! という音と共に入った部屋は、朝までいた部屋ではないような気がした。
相変わらず広くて瀟洒な内装だが、最初のドアから次の廊下までの距離があったのと、今開かれた扉が分厚い気がしたので疑問が口から転がった。
「ここ……どこ」
「ここはシェルター用に設計された部屋だ。匂いも音も漏れないように作られてるから安心して俺に抱かれていればいい」
「うん……」
潤んで歪む視界から見えた紅龍の姿は、高貴な紳士というより、餌を前にした獰猛な獣のよう。
六年前、初めて紅龍に抱かれた時と同じで、じわりと後孔から蜜が吐き出され濡れる。
赤く艶めく瞳が剣呑に輝いて見下ろしている。その懐かしい双眸に慧斗はうっとりと目を細めた。
紅龍はあれだけ乱暴に部屋へと入ったのに、慧斗をベッドに下ろす時は、大切な物を壊さないように置く姿にときめく。
相変わらず自分の体から紅龍を欲する匂いが紅龍に絡むように発せられ、普段は意識しない乳首がシャツに擦れてたまらない。
「……んっ」
「慧斗? どこかぶつかった?」
「ちが……ぁ、んっ」
紅龍がベッドに乗り上げたからか、重みで体が傾き引っ張られたシャツの生地が、しこった乳首を刺激する。不意打ちで湧く官能に、慧斗は自然と腰をくねらせる。思わず甘ったるい声が出てしまうと、紅龍の赤い瞳は驚きに丸くなった。
それからすうっと細められ、体温が上がり少し汗が浮かんだ慧斗の頬を指の腹で下から撫でる。
「辛いよな。でも、前に違法の促進剤を使われてるから、緊急の抑制剤が使えないんだ。だから、薬が抜けるまで慧斗を抱くけど、慧斗は俺が触れてもいいか?」
官能的に触れる感覚に慧斗はブルリを体を震わせる。だが朦朧としていても。慧斗の意思を尊重する紅龍の顔を、溜まった涙を瞬きで流してクリアになった視界で見つめる。
いつもより息が荒く、ギラギラと欲情を孕んだ目で見下ろしてくるのに、慧斗の意思を確認してくれる姿に感動する。
(峯浦は違った。嫌がる自分の服を無理やり脱がせて、アルファの本能に染まって俺を犯そうとした)
脳裏に一瞬峯浦の姿が掠めていったが、慧斗はこれは紅龍で自分の番だと、何度も言い聞かせた。
(大丈夫。この手は俺を決して傷つけたりはしない)
慧斗はフッと笑みに唇を形作り、それから「紅龍がいい」とうわ言のように口ずさんでいた。
「嬉しい……愛してる慧斗」
そういって紅龍の唇が慧斗の唇に重なり、熱い舌が滑らかに口腔へ忍び込む。
約六年ぶりの熱だというのに、蠢く舌の動きや唾液の甘さは慧斗の体に馴染み、自然と応えるように自らも紅龍の舌に絡んでいた。
「ん……んっ」
口の中で唾液が弾けるたび、体の奥から泡のように官能が湧き上がる。ただでさえ発情して思考はドロドロに溶けている。だけどひとりで発情期を過ごしていた寂しさはなく、多幸感に涙が止まらなかった。
口づけを続けながら、紅龍は器用に慧斗の服の全てを脱がせていく。何も纏わずベッドの上で息も絶え絶えになる頃には、白い慧斗の肌には紅龍がつけた花弁が至るところに散っていた。
不意に紅龍が体を起こすと、おもむろにタキシードのジャケットを脱ぎ出す。まるで慧斗の欲情を煽るように。
陶然と眺める慧斗の視線を受けながら、ドレスシャツのボタンを外し、袖から抜くと後ろに投げ捨てる。鍛えられた肢体が余すところなく眼前に晒され、慧斗の後孔からジュワリと体液が溢れ出た。
スラックスだけになった紅龍の中心はこんもりと盛り上がっていて、今にも布地を破ってしまうのではと思うほどに存在を主張している。
扇情的な姿に慧斗の喉がコクリと鳴る。あのスラックスの中にある熱が、これから自分のナカに入るのだと、そんな淫靡な期待で。
情欲に染まる慧斗の視線を受けながら、紅龍がベルトを外し前立てのファスナーを下ろす。そして下着ごとスラックスを下ろすと、開放感に喜ぶように紅龍の肉茎が、勢いよく飛び出た。
聳える楔の先端から、脈動に合わせてか透明な雫が溢れて、楔をしとどに濡らしていた。
「も……挿れて……ほん、ろん」
普段の慧斗なら決して発することのない言葉を聞いて、紅龍が驚いて目を見開いているが、慧斗の体は満たされない体に狂いそうだ。
いつもならすぐに聞き入れてくれる紅龍から返ってきたのは「ダメだ」という苦しげな声だった。
「ど……して、いれて……よぉ……」
「苦しいよな。でも、六年も誰も受け入れていない場所に、アルファのモノは凶器にしかならないんだ。だから、もう少し柔らかくなるまで、指で愛してもいいか?」
少しでも満たされたかった慧斗はコクコクと頷く。そんな慧斗を紅龍は目を細め、ホテル側がアメニティとして用意してあったローションを指にまとわせ、慧斗の脚を左右に割った。
慧斗は羞恥で顔を背けたが、アルファを受け入れるその場所は襞を朱に染めて、もの欲しげに淡く口を開閉させていた。
「痛かったら言うんだぞ」と紅龍の声に首肯していると、長年使われていなかった蕾を割って指が少しずつ侵入してくるのが分かった。
自分よりも太く男らしい指がゆっくりと粘膜を撫でていきながら奥へ入ってくる。もどかしい挿入に慧斗は腰をくねらせ、足りないと呟いていた。
紅龍は慧斗を慮って受け入れる準備をしてくれるのは分かる。だが、それは今の慧斗にとっては毒に等しいもので、ただただ深い快感を求めて自分のイイところに当たるよう、腰をくねらせていた。
物足りなさに慧斗は何度も紅龍に挿入をねだった。その度に「もう少し」と返す紅龍は額に汗を浮かべ、苦悶に眉を歪めて何かに耐えているようだった。
初めて紅龍と番になった日、紅龍は慧斗のフェロモンに中られ半ば強引にことを進めてきた。嵐の中に放り込まれたような性交は、時間も考えも忘れてしまうような物だった。
だけど今は違う。慧斗の事を大切にしすぎて、ひとつひとつ反応を確認しているさまは、逆に気が狂いそうに焦燥感に襲われた。
「あっ……ぁ、も、おねが……、いれ、て」
胎の中で指が動くたび、グチュグチュと粘液が音を立てる。そのわずかな刺激さえ慧斗の情欲を駆り立て、もう泣きながら何度も紅龍に挿入を懇願することとなった。
「ん、もうナカもトロトロになってるから、慧斗のナカに入りたい……入らせて」
「うん……きて」
ヒタリ、と先端があてがわれ、襞をゆっくりと割り開いていく。薄い皮膚が熱量に引き伸ばされるたび、紅龍の匂いと自分の匂いが混じるのを感じるたび、六年という歳月が溶けて消えていくのを感じた。
太く硬い熱い塊が隘路を埋めるのが心地よく、慧斗の体は自然と紅龍の肉茎を抱きしめてしまう。
「んっ、あっ!」
紅龍が驚いた声を上げた途端、入口あたりで濡れた感覚を覚え、慧斗も目を見開く。
まさか……
「ほ、んろ……、」
「言うな。まだ全部挿れていないのに暴発するとか、男として恥ずかしい……」
片手で顔を覆い、深々とため息をついている。顕になっている耳は真っ赤に染まっている。
複雑な気持ちなのだろうと思いながら、慧斗は体を起こして紅龍をギュッと抱きついた。
「だいじょぶ。だから、もっかい……して?」
少し汗ばむ広い胸元に口づけを落としにっこり微笑む。紅龍は「うぅ」と唸った途端、慧斗の手首を掴んでシーツの上に押し倒し、深いキスで慧斗を翻弄した。
口の中を舐め回し、舌を器用に扱いて、酸欠でボウっとしていると唇が離れる。
その間に復活したらしい紅龍の剛直が、性急に慧斗の隘路を開いて、ドチュンと音を立てて奥まで突き立ててきた。
「あぁっ!」
先ほどまでの優しさはなく、紅龍は慧斗の細腰を両手で掴み、激しく胎内を揺さぶる。
「ぁ、まって……ほーろん……あんっ、ゃんっ」
劇薬のような快感に突然襲われた慧斗は、なんとか紅龍に落ち着いてもらおうと、彼の名を呼ぶ。だが紅龍は聞き入れてくれず、慧斗のナカを掘削し続ける。
グチュ、グチャ、と絶え間なく音が室内に響き、恥ずかしさに耳を塞ぎたいが、紅龍が手を拘束しているため叶わない。
こんな一方的な行為がいやで、慧斗は再び口付けてきた紅龍の舌に、思い切り歯を立てた。
「うっ」
「ほーろん、ゃだよ、こんな、レイプみたいなの、やだ……っ」
レイプ、という言葉に我に帰った紅龍は動きを止め、慧斗を強く抱きしめた。
「ごめん……俺、あいつらと同じ事を……」
峯浦たちの事件を思い出したのだろう。正気を取り戻し、肩を震わせ謝る紅龍の背中を、慧斗は宥めるように撫ぜた。
「うん。こわかったし恥ずかしかったよね。でも、おれはほーろんと、ちゃんとつがいになりたいんだ」
「けいと……」
「初めてのときは、お互いフェロモンにのまれて、ほんのうのままだっただろう? だから、もういちど、おれはほーろんにつがいにしてもらいたい」
慧斗は紅龍の背中を撫でながら本心を吐露する。
「慧斗」と自分の名を呼ぶ紅龍の声は震えていて、肩も涙で濡れ広がっていた。
案外涙脆い紅龍の耳にキスをする。愛おしくて、思いが溢れて、自然と耳に唇を寄せていた。
ギシギシとベッドのスプリングがリズミカルに軋む。
シーツは慧斗が吐き出した花蜜と互いの汗でしっとり濡れている。
「けいと……けいとっ!」
「あっ、あんっ……ほー、ろんっ、すきぃ」
「けいとっ、愛してる!」
「あ! ふか……ぃっ」
背後から紅龍の楔に貫かれ、普段は口にしない紅龍の愛を何度も叫んでいた。紅龍も慧斗のナカを往復させながらも、言葉に応えてくれた。
パンパンと肌を打つ音と接合部分の水音が部屋に広がるばかり。羞恥も嫌悪もなく、触れる肌や匂いに自然と喘ぎが溢れた。
きっとふたりとも本能のまま、獣のような交わりをしているのだろう。
だが、昔は嫌悪していたこの行為が、今はとても自然な交接に思える。
「あぁ……かんで、ほーろん。おれを、つがいにして」
「けいと……慧斗、もう一度、俺の番になってくれるか?」
「おれのつがいは、ほーろんだけ。いまも、これからさきも」
「ああ、俺の番も生涯、慧斗だけだ。もう二度と離さないっ」
繋がったまま、紅龍は慧斗のうなじを指で払い、一度刻まれた自身の噛み跡を舌で舐めている。噛まれた事で性感帯となっているせいか、番が触れていることで絶頂感が駆け上がっていく。
「あっ、あぁっ、も、だめぇ……っ、あぁ!!」
法悦を叫んだ途端、紅龍の歯が咬合し、慧斗のうなじに新しい噛み跡が刻まれる。
あの時のように体が変わることはなかったが、多幸感に体が満たされた。
同時に胎の奥で飛沫が弾け、紅龍の種が蒔かれる感覚に、慧斗は笑みを浮かべて意識を落とした。
そこから数日の記憶がない。
ただただ紅龍に抱かれ続け、幸せな時間だった事だけをうっすらと覚えている。
「……ぅ、ん」
瞼に光が入り、慧斗の意識がふわりと浮き上がる。すぐ目の前に眠る紅龍の穏やかな顔があった。
最初は冷たくて怖い人だと思っていた。
訳も分からないまま番契約を結ばれ、混乱のままに伊月によって引き離され、紅音を妊娠した。
ひとりでの子育ては苦労も苦難もあった。それでも日々成長していく我が子に助けられた部分も大きかった。
再会してからは、あの数日間で知り得なかった紅龍の姿を沢山見てきた。
笑い、怒り、それから泣いて。
ゆっくり自分たちは時折喧嘩しながらも歩んできた。
そうして今日がある。
「紅龍、愛してる」
六年前のあの時とは違う、未来だけを感じる番契約に、朝日に照らされる紅龍の美しい頬にそっと口付けを贈った。
「ん、慧斗?」
「おはよう、紅龍。俺の番」
目覚めた紅龍に慧斗は微笑む。
やっと、紅龍と番になれた日の出来事。二度と忘れる事はない幸せな朝だった。
ただひたすら紅龍に包まれて体の奥まで暴かれたい。そして熱い体液をいっぱいに注いで孕ませて欲しい。浅ましい願いが情欲となって脳までも支配する。
「ほーろん……」
「慧斗、我慢しろ! すぐに楽にしてやるから!」
騒然とする中、倒れた慧斗を横抱きにし、紅龍が走り出す。時々何かを喚いていたが、朦朧として紅龍の声が近くに遠くに聞こえ、内容が分からない。
慧斗は聞こえる音に頷く。それが意味のない物だとしても、紅龍の発する音に反応したかった。
バン! という音と共に入った部屋は、朝までいた部屋ではないような気がした。
相変わらず広くて瀟洒な内装だが、最初のドアから次の廊下までの距離があったのと、今開かれた扉が分厚い気がしたので疑問が口から転がった。
「ここ……どこ」
「ここはシェルター用に設計された部屋だ。匂いも音も漏れないように作られてるから安心して俺に抱かれていればいい」
「うん……」
潤んで歪む視界から見えた紅龍の姿は、高貴な紳士というより、餌を前にした獰猛な獣のよう。
六年前、初めて紅龍に抱かれた時と同じで、じわりと後孔から蜜が吐き出され濡れる。
赤く艶めく瞳が剣呑に輝いて見下ろしている。その懐かしい双眸に慧斗はうっとりと目を細めた。
紅龍はあれだけ乱暴に部屋へと入ったのに、慧斗をベッドに下ろす時は、大切な物を壊さないように置く姿にときめく。
相変わらず自分の体から紅龍を欲する匂いが紅龍に絡むように発せられ、普段は意識しない乳首がシャツに擦れてたまらない。
「……んっ」
「慧斗? どこかぶつかった?」
「ちが……ぁ、んっ」
紅龍がベッドに乗り上げたからか、重みで体が傾き引っ張られたシャツの生地が、しこった乳首を刺激する。不意打ちで湧く官能に、慧斗は自然と腰をくねらせる。思わず甘ったるい声が出てしまうと、紅龍の赤い瞳は驚きに丸くなった。
それからすうっと細められ、体温が上がり少し汗が浮かんだ慧斗の頬を指の腹で下から撫でる。
「辛いよな。でも、前に違法の促進剤を使われてるから、緊急の抑制剤が使えないんだ。だから、薬が抜けるまで慧斗を抱くけど、慧斗は俺が触れてもいいか?」
官能的に触れる感覚に慧斗はブルリを体を震わせる。だが朦朧としていても。慧斗の意思を尊重する紅龍の顔を、溜まった涙を瞬きで流してクリアになった視界で見つめる。
いつもより息が荒く、ギラギラと欲情を孕んだ目で見下ろしてくるのに、慧斗の意思を確認してくれる姿に感動する。
(峯浦は違った。嫌がる自分の服を無理やり脱がせて、アルファの本能に染まって俺を犯そうとした)
脳裏に一瞬峯浦の姿が掠めていったが、慧斗はこれは紅龍で自分の番だと、何度も言い聞かせた。
(大丈夫。この手は俺を決して傷つけたりはしない)
慧斗はフッと笑みに唇を形作り、それから「紅龍がいい」とうわ言のように口ずさんでいた。
「嬉しい……愛してる慧斗」
そういって紅龍の唇が慧斗の唇に重なり、熱い舌が滑らかに口腔へ忍び込む。
約六年ぶりの熱だというのに、蠢く舌の動きや唾液の甘さは慧斗の体に馴染み、自然と応えるように自らも紅龍の舌に絡んでいた。
「ん……んっ」
口の中で唾液が弾けるたび、体の奥から泡のように官能が湧き上がる。ただでさえ発情して思考はドロドロに溶けている。だけどひとりで発情期を過ごしていた寂しさはなく、多幸感に涙が止まらなかった。
口づけを続けながら、紅龍は器用に慧斗の服の全てを脱がせていく。何も纏わずベッドの上で息も絶え絶えになる頃には、白い慧斗の肌には紅龍がつけた花弁が至るところに散っていた。
不意に紅龍が体を起こすと、おもむろにタキシードのジャケットを脱ぎ出す。まるで慧斗の欲情を煽るように。
陶然と眺める慧斗の視線を受けながら、ドレスシャツのボタンを外し、袖から抜くと後ろに投げ捨てる。鍛えられた肢体が余すところなく眼前に晒され、慧斗の後孔からジュワリと体液が溢れ出た。
スラックスだけになった紅龍の中心はこんもりと盛り上がっていて、今にも布地を破ってしまうのではと思うほどに存在を主張している。
扇情的な姿に慧斗の喉がコクリと鳴る。あのスラックスの中にある熱が、これから自分のナカに入るのだと、そんな淫靡な期待で。
情欲に染まる慧斗の視線を受けながら、紅龍がベルトを外し前立てのファスナーを下ろす。そして下着ごとスラックスを下ろすと、開放感に喜ぶように紅龍の肉茎が、勢いよく飛び出た。
聳える楔の先端から、脈動に合わせてか透明な雫が溢れて、楔をしとどに濡らしていた。
「も……挿れて……ほん、ろん」
普段の慧斗なら決して発することのない言葉を聞いて、紅龍が驚いて目を見開いているが、慧斗の体は満たされない体に狂いそうだ。
いつもならすぐに聞き入れてくれる紅龍から返ってきたのは「ダメだ」という苦しげな声だった。
「ど……して、いれて……よぉ……」
「苦しいよな。でも、六年も誰も受け入れていない場所に、アルファのモノは凶器にしかならないんだ。だから、もう少し柔らかくなるまで、指で愛してもいいか?」
少しでも満たされたかった慧斗はコクコクと頷く。そんな慧斗を紅龍は目を細め、ホテル側がアメニティとして用意してあったローションを指にまとわせ、慧斗の脚を左右に割った。
慧斗は羞恥で顔を背けたが、アルファを受け入れるその場所は襞を朱に染めて、もの欲しげに淡く口を開閉させていた。
「痛かったら言うんだぞ」と紅龍の声に首肯していると、長年使われていなかった蕾を割って指が少しずつ侵入してくるのが分かった。
自分よりも太く男らしい指がゆっくりと粘膜を撫でていきながら奥へ入ってくる。もどかしい挿入に慧斗は腰をくねらせ、足りないと呟いていた。
紅龍は慧斗を慮って受け入れる準備をしてくれるのは分かる。だが、それは今の慧斗にとっては毒に等しいもので、ただただ深い快感を求めて自分のイイところに当たるよう、腰をくねらせていた。
物足りなさに慧斗は何度も紅龍に挿入をねだった。その度に「もう少し」と返す紅龍は額に汗を浮かべ、苦悶に眉を歪めて何かに耐えているようだった。
初めて紅龍と番になった日、紅龍は慧斗のフェロモンに中られ半ば強引にことを進めてきた。嵐の中に放り込まれたような性交は、時間も考えも忘れてしまうような物だった。
だけど今は違う。慧斗の事を大切にしすぎて、ひとつひとつ反応を確認しているさまは、逆に気が狂いそうに焦燥感に襲われた。
「あっ……ぁ、も、おねが……、いれ、て」
胎の中で指が動くたび、グチュグチュと粘液が音を立てる。そのわずかな刺激さえ慧斗の情欲を駆り立て、もう泣きながら何度も紅龍に挿入を懇願することとなった。
「ん、もうナカもトロトロになってるから、慧斗のナカに入りたい……入らせて」
「うん……きて」
ヒタリ、と先端があてがわれ、襞をゆっくりと割り開いていく。薄い皮膚が熱量に引き伸ばされるたび、紅龍の匂いと自分の匂いが混じるのを感じるたび、六年という歳月が溶けて消えていくのを感じた。
太く硬い熱い塊が隘路を埋めるのが心地よく、慧斗の体は自然と紅龍の肉茎を抱きしめてしまう。
「んっ、あっ!」
紅龍が驚いた声を上げた途端、入口あたりで濡れた感覚を覚え、慧斗も目を見開く。
まさか……
「ほ、んろ……、」
「言うな。まだ全部挿れていないのに暴発するとか、男として恥ずかしい……」
片手で顔を覆い、深々とため息をついている。顕になっている耳は真っ赤に染まっている。
複雑な気持ちなのだろうと思いながら、慧斗は体を起こして紅龍をギュッと抱きついた。
「だいじょぶ。だから、もっかい……して?」
少し汗ばむ広い胸元に口づけを落としにっこり微笑む。紅龍は「うぅ」と唸った途端、慧斗の手首を掴んでシーツの上に押し倒し、深いキスで慧斗を翻弄した。
口の中を舐め回し、舌を器用に扱いて、酸欠でボウっとしていると唇が離れる。
その間に復活したらしい紅龍の剛直が、性急に慧斗の隘路を開いて、ドチュンと音を立てて奥まで突き立ててきた。
「あぁっ!」
先ほどまでの優しさはなく、紅龍は慧斗の細腰を両手で掴み、激しく胎内を揺さぶる。
「ぁ、まって……ほーろん……あんっ、ゃんっ」
劇薬のような快感に突然襲われた慧斗は、なんとか紅龍に落ち着いてもらおうと、彼の名を呼ぶ。だが紅龍は聞き入れてくれず、慧斗のナカを掘削し続ける。
グチュ、グチャ、と絶え間なく音が室内に響き、恥ずかしさに耳を塞ぎたいが、紅龍が手を拘束しているため叶わない。
こんな一方的な行為がいやで、慧斗は再び口付けてきた紅龍の舌に、思い切り歯を立てた。
「うっ」
「ほーろん、ゃだよ、こんな、レイプみたいなの、やだ……っ」
レイプ、という言葉に我に帰った紅龍は動きを止め、慧斗を強く抱きしめた。
「ごめん……俺、あいつらと同じ事を……」
峯浦たちの事件を思い出したのだろう。正気を取り戻し、肩を震わせ謝る紅龍の背中を、慧斗は宥めるように撫ぜた。
「うん。こわかったし恥ずかしかったよね。でも、おれはほーろんと、ちゃんとつがいになりたいんだ」
「けいと……」
「初めてのときは、お互いフェロモンにのまれて、ほんのうのままだっただろう? だから、もういちど、おれはほーろんにつがいにしてもらいたい」
慧斗は紅龍の背中を撫でながら本心を吐露する。
「慧斗」と自分の名を呼ぶ紅龍の声は震えていて、肩も涙で濡れ広がっていた。
案外涙脆い紅龍の耳にキスをする。愛おしくて、思いが溢れて、自然と耳に唇を寄せていた。
ギシギシとベッドのスプリングがリズミカルに軋む。
シーツは慧斗が吐き出した花蜜と互いの汗でしっとり濡れている。
「けいと……けいとっ!」
「あっ、あんっ……ほー、ろんっ、すきぃ」
「けいとっ、愛してる!」
「あ! ふか……ぃっ」
背後から紅龍の楔に貫かれ、普段は口にしない紅龍の愛を何度も叫んでいた。紅龍も慧斗のナカを往復させながらも、言葉に応えてくれた。
パンパンと肌を打つ音と接合部分の水音が部屋に広がるばかり。羞恥も嫌悪もなく、触れる肌や匂いに自然と喘ぎが溢れた。
きっとふたりとも本能のまま、獣のような交わりをしているのだろう。
だが、昔は嫌悪していたこの行為が、今はとても自然な交接に思える。
「あぁ……かんで、ほーろん。おれを、つがいにして」
「けいと……慧斗、もう一度、俺の番になってくれるか?」
「おれのつがいは、ほーろんだけ。いまも、これからさきも」
「ああ、俺の番も生涯、慧斗だけだ。もう二度と離さないっ」
繋がったまま、紅龍は慧斗のうなじを指で払い、一度刻まれた自身の噛み跡を舌で舐めている。噛まれた事で性感帯となっているせいか、番が触れていることで絶頂感が駆け上がっていく。
「あっ、あぁっ、も、だめぇ……っ、あぁ!!」
法悦を叫んだ途端、紅龍の歯が咬合し、慧斗のうなじに新しい噛み跡が刻まれる。
あの時のように体が変わることはなかったが、多幸感に体が満たされた。
同時に胎の奥で飛沫が弾け、紅龍の種が蒔かれる感覚に、慧斗は笑みを浮かべて意識を落とした。
そこから数日の記憶がない。
ただただ紅龍に抱かれ続け、幸せな時間だった事だけをうっすらと覚えている。
「……ぅ、ん」
瞼に光が入り、慧斗の意識がふわりと浮き上がる。すぐ目の前に眠る紅龍の穏やかな顔があった。
最初は冷たくて怖い人だと思っていた。
訳も分からないまま番契約を結ばれ、混乱のままに伊月によって引き離され、紅音を妊娠した。
ひとりでの子育ては苦労も苦難もあった。それでも日々成長していく我が子に助けられた部分も大きかった。
再会してからは、あの数日間で知り得なかった紅龍の姿を沢山見てきた。
笑い、怒り、それから泣いて。
ゆっくり自分たちは時折喧嘩しながらも歩んできた。
そうして今日がある。
「紅龍、愛してる」
六年前のあの時とは違う、未来だけを感じる番契約に、朝日に照らされる紅龍の美しい頬にそっと口付けを贈った。
「ん、慧斗?」
「おはよう、紅龍。俺の番」
目覚めた紅龍に慧斗は微笑む。
やっと、紅龍と番になれた日の出来事。二度と忘れる事はない幸せな朝だった。
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