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黎明の夜明け
2-紅龍
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「見つけましたよ!」
男は意識を失くした慧斗を横抱きにし、元きた道に踵を返した途端、慧斗がきた方角から鋭い声が男を呼ぶ。厄介なヤツが現れたと、男は美しい眉を歪め、明らかに不快と言わんばかりな表情をする。
実際はそれ以上の激情が男の中で渦巻いていたが、こんな人の目のある場所で怒鳴るほど、男は感情に振り回されない。
「……取材の奴らはどうした」
「あちらには火急の用件が入ったので、後日改めてとお伝えしてあります。向こうも納得されましたので、来日中にスケジュール調整しますから、今度こそは逃げないでお願いしますよ」
「プライベートできてるのに、何故無駄な仕事をしなくちゃならないんだ」
男は慧斗を抱えた腕と反対の手で顔に掛かる黒髪を無造作に後ろへと撫で付ける。
秀でた額の下にある息を呑むほどの美貌は、芸能関係に疎い人間でも見惚れ、彼の名前を呼ぶだろう。
「紅龍様、いい加減にしてください。大義名分がないと、こっちに来るのも難しい立場なんですよ、あなたは」
紅龍と呼ばれた男は、赤く冷たい瞳をキロリとマネージャーであり右腕である男――伊月を睨みつける。
別に望むべくしてなった立ち位置ではない。むしろそこに居るために自由はなく、危険度が跳ね上がったほどなのだ。それでも一度立ってしまった表舞台からそうそう下がるほどプライドは低くなく、ある意味自分で自分の首を絞めてる状況が今だった。
そもそも今回は完全なるプライベートだったのだ。
悪友たちがそれぞれ番を得たという。ひとりはオメガ嫌いで、もうひとりは番を得ることを諦めた奴。
珍しい悪友の行動を、他の悪友どもとからかおうと密かに日本に来るつもりだったのに、優秀な右腕はここぞとばかりに仕事を組み込んできたのである。
弐本に来てから連日取材にテレビ出演。息をつく間も与えられないほど綿密なスケジュールで、やっと監視の目を盗んでホテルから飛び出した。
優秀な側近は裏を返せば害悪ともなると、紅龍はため息が自然と溢れるのだった。
「ああ、分かったわかった。その取材は別に入れてくれも構わない。ただし、一週間後にしてくれ」
「は?」
「それからすぐにホテルに帰る。車の手配を」
「それはすでに待機させてあります。それよりもあなたが抱えてるのはオメガですか?」
伊月は紅龍が大事そうに横抱きにした意識のない慧斗を流し見ながら尋ねる。少し顔色が悪い。それに肉付きも。合間に体に良い食事を与えようと考えながら、紅龍は伊月の言葉を視線を合わせないまま返す。一瞬でも目を離したくないのだ。
「ああそうだ。本人は否定していたが、この子は俺の運命だぞ」
「――はい?」
「俺はコイツを番にして本国に連れて行く。それまでにコイツのパスポートの用意を頼んだ、伊月」
「ちょ、なに世迷言を……紅龍! あなたには婚約者がいるでしょう!」
伊月の叱責する声を無視して踵を返すと、裏通りへと歩く。優秀な右腕のことだ。人のほとんど通らない場所に車を待たせてるに違いない。クスリと紅龍は笑みを浮かべ、力なく眠る慧斗の額に唇を落とし呟いた。
「我が愛しい花、お前を離すつもりはないから覚悟しろ」
男は意識を失くした慧斗を横抱きにし、元きた道に踵を返した途端、慧斗がきた方角から鋭い声が男を呼ぶ。厄介なヤツが現れたと、男は美しい眉を歪め、明らかに不快と言わんばかりな表情をする。
実際はそれ以上の激情が男の中で渦巻いていたが、こんな人の目のある場所で怒鳴るほど、男は感情に振り回されない。
「……取材の奴らはどうした」
「あちらには火急の用件が入ったので、後日改めてとお伝えしてあります。向こうも納得されましたので、来日中にスケジュール調整しますから、今度こそは逃げないでお願いしますよ」
「プライベートできてるのに、何故無駄な仕事をしなくちゃならないんだ」
男は慧斗を抱えた腕と反対の手で顔に掛かる黒髪を無造作に後ろへと撫で付ける。
秀でた額の下にある息を呑むほどの美貌は、芸能関係に疎い人間でも見惚れ、彼の名前を呼ぶだろう。
「紅龍様、いい加減にしてください。大義名分がないと、こっちに来るのも難しい立場なんですよ、あなたは」
紅龍と呼ばれた男は、赤く冷たい瞳をキロリとマネージャーであり右腕である男――伊月を睨みつける。
別に望むべくしてなった立ち位置ではない。むしろそこに居るために自由はなく、危険度が跳ね上がったほどなのだ。それでも一度立ってしまった表舞台からそうそう下がるほどプライドは低くなく、ある意味自分で自分の首を絞めてる状況が今だった。
そもそも今回は完全なるプライベートだったのだ。
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珍しい悪友の行動を、他の悪友どもとからかおうと密かに日本に来るつもりだったのに、優秀な右腕はここぞとばかりに仕事を組み込んできたのである。
弐本に来てから連日取材にテレビ出演。息をつく間も与えられないほど綿密なスケジュールで、やっと監視の目を盗んでホテルから飛び出した。
優秀な側近は裏を返せば害悪ともなると、紅龍はため息が自然と溢れるのだった。
「ああ、分かったわかった。その取材は別に入れてくれも構わない。ただし、一週間後にしてくれ」
「は?」
「それからすぐにホテルに帰る。車の手配を」
「それはすでに待機させてあります。それよりもあなたが抱えてるのはオメガですか?」
伊月は紅龍が大事そうに横抱きにした意識のない慧斗を流し見ながら尋ねる。少し顔色が悪い。それに肉付きも。合間に体に良い食事を与えようと考えながら、紅龍は伊月の言葉を視線を合わせないまま返す。一瞬でも目を離したくないのだ。
「ああそうだ。本人は否定していたが、この子は俺の運命だぞ」
「――はい?」
「俺はコイツを番にして本国に連れて行く。それまでにコイツのパスポートの用意を頼んだ、伊月」
「ちょ、なに世迷言を……紅龍! あなたには婚約者がいるでしょう!」
伊月の叱責する声を無視して踵を返すと、裏通りへと歩く。優秀な右腕のことだ。人のほとんど通らない場所に車を待たせてるに違いない。クスリと紅龍は笑みを浮かべ、力なく眠る慧斗の額に唇を落とし呟いた。
「我が愛しい花、お前を離すつもりはないから覚悟しろ」
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