【完結】捨てられた侯爵令息は、王子に深い愛を注がれる

藍沢真啓/庚あき

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一章

結実*

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 フレデリクの怒張は今にも弾けそうだった。だが、ぐう、と喉を鳴らして湧き出る情欲に耐える。
 快感に酔いしれるエミリオの細い胎内に捩じ込んで快楽を追求するように腰を振るのは簡単だ。しかし、エミリオにそんな自己中心的な無体を強いるなんてできなかった。

 まだエミリオが学園に入る前。既にエミリオが普通の男性と違うと判定されてから、家族の中は内側から壊れ出し、そうして事件が起こった。
 実兄のルドルフが兄弟間の溺愛から逸脱し、己の肉欲を幼いエミリオにぶつけた。今にして思えばルドルフもルドルフで追い詰められていたのかもしれない。それにしても彼の愛情は歪んでいた。
 おかげでかろうじて均衡を保っていた家族がその事件によって壊滅的となり、フレデリクは影によって報告を受けてエミリオを助けに向かった。
 あの頃、エミリオは壊れた人形のように泣きながら笑っていた。自分のせいで家族が壊れた、と。
 フレデリクは「違う」「そうじゃない」と宥めたものの、一度壊れたものは簡単に戻す事はできず、一度環境を変えたほうがいいとアレクシスの助言を受けて、エミリオを学園へと入学させた。スーヴェリアの両親はエミリオを学園に入れるつもりはなかったが、半ば脅してエミリオを逃がした。
 そこでも色々あったと報告は受けていたが、フレデリクが直接関わる事は許されなかった。それはルドルフも同じだったが、彼はエミリアという少女を使い、何とかエミリオの懐に入り込んだ。

 性別は違ったものの、友人を得てからのエミリオは少し前向きになった。だから安心したのだ。まだエミリオの胸の傷は血が流れ続けていて、心ではずっと泣き続けていたのを気付かなかった。

 だからこれまで苦しんできたエミリオに対して酷い事はしたくなかった。
 トロトロに蕩かしてひたすら快感だけに身を浸して欲しかった。

「んっ、あ、あんっ」

 ヒクつく蕾を香油をまとわせた指を挿し込む。ぬちゃ、と蕾の中心が蠢き、フレデリクの指を健気に飲み込んでいく。中は溶けそうに熱い。
 慎重に指を沈め探っていく。ふと、一部だけ違う感触の場所があり、フレデリクの指が掠めた途端「あぁ!」とエミリオが声を迸らせ腰を跳ねさせた。

 この国では同性同士での婚姻も許されている。といっても第二子以降ではあるが。それは王家も同じで、フレデリクが精通してから学んだ房中術で、男性の直腸のある場所に前立腺という快感を得れるしこりがあるという。
 子宮のあるエミリオにあるか不明だったが、そこを除けばエミリオは普通の華奢な男性だ。難なく見つかった楚々と主張するしこりを優しく指の腹で撫でると、もどかしげに腰を揺らめかす妖艶な姿がシーツの上に現れた。
 前に月夜の下でエミリオと口づけを交わした事がある。その時以上にフレデリクを魅了するエミリオの痴態にクラリと眩暈がしそうだ。

「ぁ、あっ、きもちい……ぃ、フレイぃ……もっとしてぇ」

 隘路をこじ開け快感の塊を愛撫しながらエミリオの痴態に魅入られる。頑なで人間不信となっていたエミリオが、フレデリクの腕の中で蠱惑的に熱のある声で懇願する。あまりの興奮にみっともなく鼻血を出してしまいそうになるも、喉を鳴らして息を飲み込みなんとか耐える。

 ルドルフに陵辱された時は、意識喪失な状態だったため、とにかく保護が大事だという気持ちが強かった。性欲よりも庇護欲のほうが強く、エミリオの裸体を見てもそちらに意識が向かなかった。
 その反動と言えばいいのかエミリオの真っ白な体に目は釘付けとなり、二本に増えた指を溶かしそうな熱さと締め付ける収斂に、欲望がメラメラと湧き上がっていくのが分かった。

「ごめん、リオ。もう……君の中に入らせて。……いや、入りたい」

 潤んだ緑眼を高貴で愛しい人を見上げれば、いつもは飄々としているフレデリクが眉を苦しげに歪め、その下の赤い目は余裕なさげに燃えて光る。一瞬だけ欲望に滾る翡翠の瞳を思い出したが、彼は自分を一番に考えてくれると、過去の影を消し去った。

「フレイ……フレイ……すき。お願い、僕の知らない奥深くまで……きて」

 エミリオはフレデリクの肩をそっと撫で微笑んだ。大丈夫。彼は兄ではない。これはエミリオを苦しめる行為ではなく、ふたりの絆を強くする為の儀式。

「リオ……っ! 君は無自覚に煽って……!」
「え? ……ぁ、ちょっと、ま……あぁぁぁっ!」

 フレデリクがボソリと悪態をついた次の瞬間、静止の声を言い終える前に、強く激しい衝撃がエミリオを襲った。
 それはかつて体の中心から引き裂かれるような痛みではなく、脳天まで突き通す稲妻のような快感だった。

「かは……っ、あ、あぁ……っ」

 ビリビリと快感が全身を飲み込み、反らされた喉からは声が無意識に零れ出る。一瞬、意識が真っ白になって次に真っ暗になって、それから赤い光がエミリオを見下ろしていた。

 そこからほとんど記憶が残っていない。
 ただ覚えているのは、大きく波打ち揺さぶられ続ける自分の体が、ただ多幸感に満ちていた事。
 フレデリクの荒々しい息遣いの合間に「愛してる」と何度も囁いてくれた事。
 これからも彼の愛が近くにあって、乾いていた自分に注ぎ続けてくれる温もりに、自然と笑みを浮かべていた事。

 彼の愛を自然と受け入れた事に、エミリオは幸せでいっぱいだった。
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