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一章

愛欲*

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 ギシリ、と耳元でベッドの軋む音が聞こえ、ふとエミリオの顔に影がかかる。そろりと閉じていた目を開くと、そこにはエミリオをベッドに横たわらせた後、ランプに火を灯しに行ったフレデリクの整った顔がうっすらと怜悧な輪郭を照らしていた。

 前から美しい人だと思っていた。兄のアレクシス殿下とよく似た知的で穏やかな相貌。だけど今、エミリオを見下ろすフレデリクはランプに照らされた赤い瞳が獰猛に輝き、美しい獣のようだった。

「……食べられそう」

 思わず呟いたエミリオに、フレデリクは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに蕩けそうな魅惑的な笑みを浮かべる。

「これからリオを隅々まで食させてもらうね」
「食べて……フレイなら骨まで食べられても嬉しいから」

 エミリオはゆっくりと手を伸ばし瞠目するフレデリクの頬を挟んで微笑む。微かに「くそっ」と彼らしくない言葉が吐き捨てられたが、フレデリクは噛み付くようにエミリオの唇を奪った。

「ん……んんっ」

 重なった唇は性急にこじ開けられ、熱い舌がするりとエミリオの口腔に入り込んで、縦横無尽に蠢く。

「……ふ、……んぅ、……ふぁっ」

 巧みで激しい口吸いに目を白黒させながらも、エミリオもフレデリクに応えようと必死で舌を動かせる。
 脳髄まで溶けてしまいそうな官能的な口づけに酔いしれていると、胸の辺りでビリリと痺れが走り、それは全身の……特にお腹の奥がズグリと強く疼く。
 その間にエミリオの服は流れるように脱がされ、真っ白な雪原に紅色の花の蕾がふたつ、ひっそりと佇んでいた。
 清純で楚々とした光景に、フレデリクの喉がコクリと鳴る。

「リオ……ここ、尖ってるね」
「ぃ……やぁ……っ」

 整えられたフレデリクの爪先が、ぷっくりと赤く膨らむ胸の蕾をカリカリと引っ掻く。その度にエミリオは声にならない声を上げ、口の中を蹂躙されながらもビクリ、ビクリと彼の愛撫に応えていた。

「気持ちいい? リオ」
「あっ、ぅぁ……」

 クチャリと湿った音を立てて合わさった唇が離れる。混じって捏ねくり合わさった唾液が銀糸となってふたりを繋ぎ、音もなく切れたソレはフレデリクの唇を艶かしく濡らして、エミリオはぼんやりと彼の姿に見蕩れていた。

 なんて格好良い人なのだろう。
 こんな高貴で自分には勿体無い人が自分に愛を囁き、今は欲情に満ちた目で、自分の全てを見透かすように視姦してくる。
 自分は意識する前から、既にこの美しい獣に囚われていたのかもしれない。
 やっと自覚して、この人を受け入れれる事が、こんなにも嬉しいだなんて……

「フレイ……僕……幸せ……」

 弛緩しかみっともない笑みで告げたエミリオに、フレデリクは心からの笑みを見て多幸感が胸を占める。

 ここまで来るのに、無駄に遠く険しい道を通ってきたように思える。それは自分自身のせいではあるが……
 何度も夢で抱き、何度も精を注いで夢想した景色が、夢以上に鮮明にフレデリクの目の前に広がる。
 何て可愛いのだろう。初めて見せるエミリオの愛らしい姿に、下半身は痛い位に張り詰めている。
 だがここで性急になっては、エミリオに恐怖だけを植え付ける結果になるだろう。
 兄のルドルフによって性交は痛く辛いものだと刻まれているエミリオ。自分は、彼の苦痛を取り除きながら、蕩ける程甘い愛で注ぎ、満たさなくてはならない。その為には自分の事など二の次だ、とフレデリクは自制心を総動員してエミリオの体を愛していく。

 細くたおやかな首筋を辿り、窪んだ鎖骨を甘噛みしては、エミリオがヒクヒクと震える姿を堪能して。
 普通の男性にしては薄く細い腹の中心を指でなぞり、丁度臍の下辺りで動きを止める。

「リオ、ここに私のモノを挿れる事を許してくれるかい?」

 フレデリクの懇願をぼうっとした表情で眺めていたが、少しして言っている意味を理解したのか、僅かに顔を強ばらせたエミリオが小さく頷く。
 やはり恐怖の方が勝るのだろうか。時期尚早だったと、フレデリクは「今のは忘れて」と微笑んで告げると、エミリオの細い手が腹の上に置いた手の上に重なった。

「だい、じょう……ぶ、です。フレイは、僕を、ぜったいに傷付けないって……信じてる、から」

 涙を流してそう言葉にするエミリオの姿。フレデリクはこれまで見た絵画や宝石や色んな物よりも美しいエミリオに、色んな感情が込み上げてきそうだった。
 それは積年の思いを果たせそうだからか。
 それは漸く手中にできた宝が微笑むからか。
 それは肌を重ねる事の喜びなのか。
 もうフレデリクの感情はグチャグチャに混ざり合っていた。

「んっ!? ん、んんぅっ!」

 溢れんばかりの思いのまま、フレデリクは噛み付くようにエミリオの唇を奪う。
 突然、嵐のような激しさで口づけをしてくるフレデリクに戸惑いながらも、エミリオは彼の首に腕を回してそれを受け入れる。
 ふと、フレデリクの手が薄い茂みを掻き分け屹立した花芯へと伸びてくる。そこはこれまでの愛撫で熱を持ち、フレデリクの手にくるまれただけでピクピクと震えて白蜜が弾ける。
 元より性に関心が低く、過去の出来事で自慰すらほとんどなかったエミリオは、好きな人に触れられたという事実だけで達してしまったのだ。
 エミリオは何て物でフレデリクを汚してしまったのか、と悲しくなる。だけど、フレデリクの舌が「大丈夫」と擽るように愛撫してくるので、次第に罪悪感は薄れてしまった。

 口づけを繰り返しながら吐精して敏感な花芯が白蜜のぬめりを借りてフレデリクの掌に再び握られる。更には宥めるように上下に動かされ、直裁的な刺激にエミリオは目を白黒させて悲鳴を口の中で叫び、再び欲液をコプと溢れさせた。

 ぴちゃり、と口元で水音がし、エミリオはゆっくりと目を開く。そこにはうっとりと目を細めたフレデリクの綺麗な顔があった。

「いっぱい出たね……」

 エミリオが吐き出した白蜜が絡まる指を持ち上げ、フレデリクは赤い舌をひらめかせてゆっくりと舐める。くすりと微笑む彼の言葉にエミリオの顔に朱が散る。時々この人は意地悪だ、とエミリオは仕返しとばかり、ちゅっ、と唇を重ねてみせた。

「いっ、意地悪な事言う口にお仕置きですっ」
「……」

 真っ赤な顔に涙目で憤慨しているエミリオの姿は、フレデリクの劣情を煽るだけだと自覚はあるのだろうか。

「ああもうっ! こんなに私を煽って、後で後悔しないでリオっ!」
「えっ? あ、そこは!」

 叫ぶように言い放ったフレデリクは、エミリオの膝の裏に腕をかけて左右に割り開く。自らの吐いた白蜜が伝わり、紅色に染まる秘めた花の蕾を淫靡に濡らしている。そこはこれからを期待しているのか、ヒクヒクと開花を待っているようだった。

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