【完結】捨てられた侯爵令息は、王子に深い愛を注がれる

藍沢真啓/庚あき

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一章

真実

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「エミリオ、こうして再びお前の肌に触れる栄光を神に感謝したい気持ちだ」
「やめて……ルドルフ兄さん……」

 甘くねっとりとした匂いに包まれ、ルドルフがエミリオの着ていたシャツのボタンをひとつずつ外していく。エミリオは緩慢な動きで抵抗の意を示すものの、頭がどうにもじんわりと痺れてルドルフの手の上を滑らせるしかできない。
 気持ち悪い。興奮して荒くなる呼吸も、氷の瞳の奥にあるねっとりとした欲情も、触れる肌の熱どれもがエミリオに不快感を与えてくる。
 彼はいつから……どこから兄弟としての道を誤ってしまったのだろう。

 エミリオの脳裏にあの日の出来事が脳裏に浮かぶ。
 ぬめった舌が口内を好き勝手に暴れた時は思い切り噛み、足の間に体を割り込んで来た時は足をばたつかせ蹴りさえ入れたのに、やめてと懇願してもやめてくれなかった。
 あの時は激しく抵抗できたのに、今は何故か体の奥が疼いて腹の奥が切なく収縮する。まるで体は心と裏腹に、ルドルフを求めているかのようだ。
 もしかして、さっきから香る甘いドロドロした匂いのせいだろうか。

 エミリオがまだクライドと婚姻関係だった頃、何度かクライドから香った匂いに似ている。
 あの時点で、彼は新薬の虜になっていたのかもしれない。

「やめて……お願い、兄さん……」

 この人は実の兄だ。彼は自分に触れる事を神に感謝していると言ったが、今こうしてしている行為は神に背く行為ではないのか。

「兄さん、駄目です……こんな事、神様も両親も許してくれない……」

 自然と乱れだす呼吸の合間、エミリオは兄にそう告げれば、頭上でにこやかに笑っていた兄の眉間に深い皺が刻まれる。

「両親? ……ああ、俺とお前を引き裂いた奴らか」
「奴らだなんて……両親は両親じゃないですか……」

 エミリオもともすれば喘ぎそうになる声を飲み込み、そう進言すれば。

「アレらはただのお飾りだ。実質、侯爵家を統べているのは俺だからな」

 ふん、と鼻で笑うルドルフの言葉に、エミリオは瞠目するしかできなかった。

 彼はエミリオを緩慢に愛撫しながら訥々と真実を語る。
 エミリオがフレデリクに連れ去られてから、何度フレデリクに面会を求めても許可されず、苛立ちにさいなまれていた事。
 そうこうする内に自ら出ない限り入る事すらできない学園に……それも寮に入った為に思いが募りすぎて狂いそうになった事。
 更には学園に居る内にレッセン伯爵子息のクライドと婚約し、卒業と同時に向こうの家に入った為に両親を恨んだ事。
 だから父を傀儡にし、父という息子の命で祖父母を脅して『人狼』または『常世』の材料を送らせ、平民に調剤を指南して、母を薬漬けにした事。
 欲を出したのか父が貴族に『常世』を流し、調剤を任せていた平民が『人狼』で小遣い稼ぎをするようになった事。だが、本来の目的は金銭目的ではなく、今度こそ確実にエミリオを孕ませ自分の妻として迎える為の一端だった事。
 今世間を騒がす新薬は、ただの過程にすぎない事を、ルドルフはエミリオの肌を撫で、唇で赤い痣を刻み、味わうように舐め、愛を囁く。

 エミリオは兄が嬉しそうに話す内容に、身の内を凍らせながら叫びたいのを、甘い匂いに雁字搦めにされできず涙を流した。

 『常世』も『人狼』もエミリオにとっては初耳だったが、新薬といえば、クライドが死んだ原因となったものだと、フレデリクから聞いて知っていた。
 まさか実の兄が自分を取り戻す為だけに、大それた行動をしていたなんて…… 

「でも、どうして僕が王都にいると……」
「ふふ、可愛くて愚かなエミリオ。ファストス公爵は、我が家の顧客のひとりなんだよ」

 だからエミリオがフレデリクに保護されている原因となった盗賊に擬態した傭兵を雇ったのが、本来であればスーヴェリア家の執事が持ってくる魔法箱をエミリオが持参するのを知った父が抹殺の為に送り込んだ事や、その後の様子なども手に取るように知っていたと語る。
 エミリオは知らず知らずの内に兄の掌で転がされたようだ。
 あの穏やかだった時間は、兄に与えられた偽りの平和だったと、悔しさに歯噛みする。

 多分抵抗しようが受け入れようが結末は変わらない。
 そう諦めに満ちた途端、抵抗にルドルフの手に置いていた自分の手が滑り、シーツにパタリと落ちた。

「やっと……やっと俺を受け入れる気になったんだな、エミリオ。大丈夫、お前だけは決して傷つけないし、大切にしてあげるから」
「……」

 もうどうでもいい、とエミリオは目を閉じる。
 何をやっても自分はルドルフに孕まされ兄弟の子を産むという禁忌から逃げる事はないだろう。
 どうして兄が自分に対して固執というか、執着しているかが分からない。
 もういい。濁った甘い香りがエミリオの頭の奥にまで染み込み、絶望の沼に沈んでいく。

 こんな事なら、フレデリクと喧嘩しなければ良かった。最後に見た表情が苦しそうに歪んだ物だったなんて……
 でもエミリオはどこかでフレデリクが自分の居場所を突き止め必ず助けに来てくれるのを。
 その時は絶対に彼に『愛してる』と告げようと決めていた。

「愛してる。愛しているんだ、エミリオ」

 ルドルフの手がエミリオの膝を大きく割り、その奥にある秘めた蕾へと。涎を垂らし今にも押し付けようとする剛直が期待に脈打つ。

「今度こそ一緒に幸せになろう。俺の最愛」

 兄の切っ先がエミリオの硬く閉じた蕾の中心へとぬちゃりと充てがわれる。濡れた感触に、ぼやけていた意識がぎゅっと掻き集められ、エミリオは喉から声にならない悲鳴を上げていた。
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