【完結】捨てられた侯爵令息は、王子に深い愛を注がれる

藍沢真啓/庚あき

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一章

裏門

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「彼はブランと言うんだ。リオの侍従として置くから、仲良くしてあげて?」

 クライドと予期せぬ再会をし、フレデリクの思惑を囁かれ疑心暗鬼になっていたエミリオは、思惑が事実である事やエミリオを離さないといった話を聞かされた翌日。
 フレデリクから紹介された白い青年は、「よろしくお願いします、エミリオ様」と白髪に毛先が灰色というグラデーションの髪を揺らして、黒い侍従服に綺麗な皺を作り頭を下げてきた。あまりにも美しい所作に見蕩れていると。

「リオ? 駄目だよ、私以外に惹かれた視線を向けるのは」

 そう言って、エミリオの顎をフレデリクの指が捉え、自分へと視線を合わせてくる。飴玉みたいな赤い瞳は、朝陽を受けてキラキラと輝く。エミリオは昔から甘く蕩けそうな真紅の瞳が好きだったと、ぼんやりと思い出した。
 確かに彼の美しい容貌も色んな人の心を奪っているのは知っている。しかしエミリオは彼の赤い瞳が自分を映すのが、小さな独占欲を満たして恍惚となる。
 フレデリクを無駄に喜ばしてしまうから、決して言葉にできないが……

 エミリオとフレデリクは、エミリオが滞在している部屋で、ブランの給仕で朝食を一緒に取る。すでに朝食を終えたらしい護衛騎士のノアルは、部屋の外で警護をしているそうだ。

「昨日はあんな事があったし、今日は公爵邸から出てはいけないよ、リオ」

 カトラリーを置く音がして顔を上げると、フレデリクが少し険しい顔でエミリオに告げる。
 流石に昨日の今日でエミリオも出かける気分にはなれなかった。

「はい、今日は大人しく部屋で過ごしますね。あ、昨日のベリーでコンポートを作るって話だったから、何かお菓子でも作っていいですか?」
「それは楽しみだな。出来立てを食べたいから、今日は早く帰ってくるね」
「お仕事はちゃんとしないといけないんですよ?」

 朝から甘い台詞で赤面するエミリオの頬を撫で、フレデリクは「可愛いな」や「やっぱり出かけたくないな」など、本音をダダ漏れに話すものだから、余計にエミリオの顔が赤くなる。
 正直、まだエミリオの結婚がフレデリクの画策だったという部分にしこりが残っている。それでも理由が「エミリオの為」と言われてしまうと、強く拒絶ができないのも事実だった。
 彼はなんだかんだでエミリオを大切にしてくれる。
 いつか終わってしまう恋だというのに、いつまでも終わらないでと縋ってしまう。
 あれだけ恋愛しないと決めていたのに勝手なものだと、エミリオは内心で自嘲した。


 最後まで渋って屋敷を出ようとしないフレデリクを「お仕事に行かないなら嫌いになりますよ?」と言ったら、物凄い勢いで馬車に乗って行くのを見送り、エミリオは公爵家へと戻る。
 この館に滞在するようになって、一度だけ公爵夫妻に挨拶した。王妃と公爵が兄妹だからか、どこかフレデリクに面影があり、少しだけホッとしたのを思い出す。
 彼らはエミリオを別棟の静かな方へと通してくれた。きっとフレデリクの手配によるものだろう。
 料理人と、少しの侍従と侍女、それから連絡役の家令。それから護衛騎士のノアルと新しく侍従となったブラン。人付き合いの苦手なエミリオにとっては、フレデリクの優しさがありがたかった。

 今日は外に出るなと言われた為、エミリオは昨日料理人にお願いしてあったコンポートの出来を確かめようと、ノアルとブランと共に厨房へと向かう。
 本邸にも料理人がいるようだが、こちらの料理人もフレデリクが手配したものらしい。
 どうやら、フレデリクはあまり公爵夫妻に甘えきるつもりはないようだ。

 厨房に入り、料理人に昨日預けてあった苺やベリーのコンポートが詰まった瓶を見せてもらう。
 フレデリクからは形が残ってると聞いていたけど、エミリオの目には想像以上に潰れていたように感じた。これは朝食で使用するしかない。
 料理人にも無茶なお願いをしてしまったと謝罪し、お昼は軽めにして欲しいと告げ、エミリオに充てられた部屋へと戻った。


 午前中はのんびりと本を読み、野菜たっぷりなサンドイッチとスープで済ませたエミリオは、フレデリクの用で護衛騎士が出てしまった為、ブランを連れて庭を散策する事にした。
 スーヴェリアの領地はまだ春といった気温だが、こちらはもう初夏に近い。体にも良くないからと侍医に言われてるのもあり、日陰を狙って歩いている内に、エミリオは裏門近くへとついてしまっていた。
 表門は来客などを迎える為の場所であるが、裏門は食材や日用品を配達する商人など平民が行き交う道に続いていて、表門に比べれば賑わっているようだ。

「……あれ?」

 人の合間に見覚えのある女性が過ぎった気がした。茶色の髪に緑の瞳。かつて学園で同級生であり、エミリオの離婚後クライドと再婚した筈のエミリアによく似ていた。

「どうかしましたか、エミリオ様」
「あ、ううん」

 否定を紡ぎながら再度エミリアに似た女性が居た方を見る。しかし、この瞬間に移動してしまったのか、彼女の姿はもうどこにもなかった。

「ちょっと知人に似た人を見た気がしたんだけど……気のせいだったみたい」
「でしたら、風が少し冷えてきましたし、中に戻りましょう。温かいお茶をお淹れしますよ」

 そう言い、ブランがエミリオの肩に柔らかく暖かいショールを掛けてくれた。


 そんなふたりを、公爵邸の柵越しに恨みがましく睨む緑の瞳の女性と、エミリオに似た美丈夫がうっそりと微笑み見ていた。
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