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一章
要塞
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咽る程の緑香る木立を抜け、結局移動してすぐにフレデリクから子供のように抱えられたエミリオは、山頂の開けた世界に言葉を失った。
元からなのか、山の天辺を齧りとったその場所は、縁を剛強な石の塊で積まれ、まるで要塞のようだ。
唯一ある入口にはふたりの騎士が厳しい顔で警戒していたが、その相手がフレデリクだと知ると、相好を崩して駆け寄ってきた。
「殿下、ご無事でなによりです」
「ああ。それよりもクヴァンツ大公はどこに?」
「今執務室で殿下をお待ちしています」
フレデリクは「そうか」と厳しい顔を崩さぬまま小さく呟いた後、エミリオに向き合って口を開く。
「疲れているところ悪いけど、箱を持って大公の所へ一緒に来てくれないかな?」
「このまま……ですか?」
クヴァンツ大公は現国王の弟で、騎士団の総大将でもある。人によっては『愛妻家』の称号もつくらしい。
そのエピソードは国の人間ならば知らない者がいないほど有名だ。
彼は王子時代にひとりの青年と出会った。黒髪、黒目の美しい人で、彼は国の者とは違う服を着て、言葉を話した。大公だけでなく国王も彼が異世界の人だと気づき、丁寧に保護をした。
最初は物珍しい青年の知識に魅了されていた大公だったが、次第に彼の人となりに惹かれ、最後には王族の身分を捨てて平民の彼と結ばれた。とはいえ、王族を平民にする訳にもいかず、最終的に公爵よりも上の身分『大公』として騎士団の総大将を務める事で収まったと言われる。
身内と妻以外には厳しい人物だと聞いていたエミリオは、お腹の奥がギュウっと引き攣れた。
「大丈夫。叔父は見た目ではなく人を見るからね。その良い例が叔父の伴侶だし」
にっこりとフレデリクがエミリオをフォローするつもりで言ったのかもしれないが、エミリオはどう応えたらいいのか分からず口を閉じたままだ。
ひとまず追われてる状況は変わらないため、ふたりは要塞の中へと招かれ、大きな石の館の奥にある総大将の執務室へと、来た時に対応してくれた騎士に案内され辿り着くことができた。
王城もそうだが、ここも迷路のように複雑に入り組んでいる。エミリオひとりだったら、確実に遭難するだろう。
「クヴァンツ総大将、客人をお連れしました」
『ああ、入ってくれ』
フレデリクが「失礼します」とキビキビ発し、エミリオを伴い入室する。そこには大きな執務机に座る偉丈夫と、たおやかな黒髪の青年がふたりの入室に微笑んでいた。
「大丈夫だったか、フレデリク」
「クヴァンツ総大将、この度は迅速な対応をいただき、誠にありがとうございます」
「鳩の知らせで、街道の賊は鎮圧し、今は山の賊狩りをしているそうだ。山にもトラップを仕掛けてあるから、死に場所が山頂か山の中のどちらかという違いしかないがな」
くつくつと肩を揺らして笑うフレデリクと同じ銀の髪と深い赤茶の目の美しくも獰猛な獣を想像する総大将に、エミリオは頼もしい以上に怖いと感じた。
「もう、レオン。お客様が怖がってるでしょ?」
「イオ」
「ふたりとも座って? ずっと山道を登って疲れたでしょう?」
イオと呼ばれた黒髪の青年は、柔和な笑みでもってフレデリクとエミリオをソファへと促す。彼の手には三人分のお茶が乗ったトレイがいつの間にかあり、ふたりはお茶の匂いに誘導されソファに腰を落とした。
フレデリクと横並びで座るソファの前に大公とイオと呼ばれた青年が座る。が、大公がイオの腰を引き寄せ、こめかみにキスを落とす光景を見て、エミリオは硬直していた。
王国では同性の結婚は一応認められている。……というより、認められていたものの実行したひと組目が眼前の仲の良いふたりなのだ。
よにんはしばらくお茶を挟みつつ、差し障りのない会話をしていた。天候の話に始まり、要塞の役割や、王家の仲の良さについてなど。
だが、フレデリクと大公が目配せしたのに気づいたイオは。
「良かったら要塞の中を案内しますよ。それからお風呂にも。汗を沢山かいて気持ち悪いでしょう?」
そう言ってエミリオを促してくる。エミリオはちらりとフレデリクに目で窺ったが、彼は小さく頷きエミリオの退出を認めた。
きっと、自分が居てはいけない話を大公とするのだろう。
「イオ様、よろしくお願いします。それから、フレデリク様。こちらの箱をお預けしてもいいですか?」
「え?」
「僕が信用できるのは、フレデリク様なので。お願いします」
頑丈に魔法鍵のかかった箱をフレデリクの膝に乗せたエミリオは、イオの案内で部屋を出て行った。
◇◆◇
「あの子は随分と聡い子のようだ」
「……そのせいで、負わなくてもいい苦労をひとりで背負いっているのですが」
フレデリクは膝の上で沈黙する箱をそっと撫でる。
「それが件の物か」
「ええ、スーヴェリア親子の裏の商売の材料だそうです」
苦い声音でぽつりと呟くフレデリクに、クヴァンツ大公も苦く顔を曇らせた。
兄である王太子に仕事を押し付けられて多忙だったのは事実だ。だが、エミリオに会いにいく時間は取れる程度の忙しさだった。
それを邪魔してきたのは、エミリオの兄であるルドルフで、最近市井で奇妙な事件が多発していると報告を受けた。
特に集中しているのは貧困民の集まる一角で、強姦の果てにものすごい力で被害者の肌に歯を立てて、酷いものは肉を抉られるといった猟奇的な内容である。
フレデリクは王子でありながら騎士として在籍していたので、警邏を務める兵と共に捜索に駆り出された。
おかげでエミリオと時間は取れなくなってしまったが、この事件の一端にスーヴェリア侯と領地が関係あると判明したのである。
「つまりは、お前は今、犯罪者の家族を保護している事になるな」
「……」
「まあいい。とりあえず箱を開けてみよう。あの事件は俺も杞憂している。貴族に広がる前に食い止めないとな」
「そうですね」
エミリオは知らない。実の父と兄が国を狂わせるような事業をしている事など。その材料を、エミリオが慈しんで育成している事なんて――
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次回更新ですが、体調を崩してしまったので三日と四日の二日間お休みいたします。
再開は五日の金曜日21時に更新いたします。
11/5追記:仕事が忙しいため、執筆する時間が割けない状況です…
ご迷惑おかけしますが、六日の土曜日に更新を変更いたします。
最悪八日までは仕事を優先致しますので、どうぞよろしくお願い致します。
(なんの仕事をしているかはTwitterにあります)
元からなのか、山の天辺を齧りとったその場所は、縁を剛強な石の塊で積まれ、まるで要塞のようだ。
唯一ある入口にはふたりの騎士が厳しい顔で警戒していたが、その相手がフレデリクだと知ると、相好を崩して駆け寄ってきた。
「殿下、ご無事でなによりです」
「ああ。それよりもクヴァンツ大公はどこに?」
「今執務室で殿下をお待ちしています」
フレデリクは「そうか」と厳しい顔を崩さぬまま小さく呟いた後、エミリオに向き合って口を開く。
「疲れているところ悪いけど、箱を持って大公の所へ一緒に来てくれないかな?」
「このまま……ですか?」
クヴァンツ大公は現国王の弟で、騎士団の総大将でもある。人によっては『愛妻家』の称号もつくらしい。
そのエピソードは国の人間ならば知らない者がいないほど有名だ。
彼は王子時代にひとりの青年と出会った。黒髪、黒目の美しい人で、彼は国の者とは違う服を着て、言葉を話した。大公だけでなく国王も彼が異世界の人だと気づき、丁寧に保護をした。
最初は物珍しい青年の知識に魅了されていた大公だったが、次第に彼の人となりに惹かれ、最後には王族の身分を捨てて平民の彼と結ばれた。とはいえ、王族を平民にする訳にもいかず、最終的に公爵よりも上の身分『大公』として騎士団の総大将を務める事で収まったと言われる。
身内と妻以外には厳しい人物だと聞いていたエミリオは、お腹の奥がギュウっと引き攣れた。
「大丈夫。叔父は見た目ではなく人を見るからね。その良い例が叔父の伴侶だし」
にっこりとフレデリクがエミリオをフォローするつもりで言ったのかもしれないが、エミリオはどう応えたらいいのか分からず口を閉じたままだ。
ひとまず追われてる状況は変わらないため、ふたりは要塞の中へと招かれ、大きな石の館の奥にある総大将の執務室へと、来た時に対応してくれた騎士に案内され辿り着くことができた。
王城もそうだが、ここも迷路のように複雑に入り組んでいる。エミリオひとりだったら、確実に遭難するだろう。
「クヴァンツ総大将、客人をお連れしました」
『ああ、入ってくれ』
フレデリクが「失礼します」とキビキビ発し、エミリオを伴い入室する。そこには大きな執務机に座る偉丈夫と、たおやかな黒髪の青年がふたりの入室に微笑んでいた。
「大丈夫だったか、フレデリク」
「クヴァンツ総大将、この度は迅速な対応をいただき、誠にありがとうございます」
「鳩の知らせで、街道の賊は鎮圧し、今は山の賊狩りをしているそうだ。山にもトラップを仕掛けてあるから、死に場所が山頂か山の中のどちらかという違いしかないがな」
くつくつと肩を揺らして笑うフレデリクと同じ銀の髪と深い赤茶の目の美しくも獰猛な獣を想像する総大将に、エミリオは頼もしい以上に怖いと感じた。
「もう、レオン。お客様が怖がってるでしょ?」
「イオ」
「ふたりとも座って? ずっと山道を登って疲れたでしょう?」
イオと呼ばれた黒髪の青年は、柔和な笑みでもってフレデリクとエミリオをソファへと促す。彼の手には三人分のお茶が乗ったトレイがいつの間にかあり、ふたりはお茶の匂いに誘導されソファに腰を落とした。
フレデリクと横並びで座るソファの前に大公とイオと呼ばれた青年が座る。が、大公がイオの腰を引き寄せ、こめかみにキスを落とす光景を見て、エミリオは硬直していた。
王国では同性の結婚は一応認められている。……というより、認められていたものの実行したひと組目が眼前の仲の良いふたりなのだ。
よにんはしばらくお茶を挟みつつ、差し障りのない会話をしていた。天候の話に始まり、要塞の役割や、王家の仲の良さについてなど。
だが、フレデリクと大公が目配せしたのに気づいたイオは。
「良かったら要塞の中を案内しますよ。それからお風呂にも。汗を沢山かいて気持ち悪いでしょう?」
そう言ってエミリオを促してくる。エミリオはちらりとフレデリクに目で窺ったが、彼は小さく頷きエミリオの退出を認めた。
きっと、自分が居てはいけない話を大公とするのだろう。
「イオ様、よろしくお願いします。それから、フレデリク様。こちらの箱をお預けしてもいいですか?」
「え?」
「僕が信用できるのは、フレデリク様なので。お願いします」
頑丈に魔法鍵のかかった箱をフレデリクの膝に乗せたエミリオは、イオの案内で部屋を出て行った。
◇◆◇
「あの子は随分と聡い子のようだ」
「……そのせいで、負わなくてもいい苦労をひとりで背負いっているのですが」
フレデリクは膝の上で沈黙する箱をそっと撫でる。
「それが件の物か」
「ええ、スーヴェリア親子の裏の商売の材料だそうです」
苦い声音でぽつりと呟くフレデリクに、クヴァンツ大公も苦く顔を曇らせた。
兄である王太子に仕事を押し付けられて多忙だったのは事実だ。だが、エミリオに会いにいく時間は取れる程度の忙しさだった。
それを邪魔してきたのは、エミリオの兄であるルドルフで、最近市井で奇妙な事件が多発していると報告を受けた。
特に集中しているのは貧困民の集まる一角で、強姦の果てにものすごい力で被害者の肌に歯を立てて、酷いものは肉を抉られるといった猟奇的な内容である。
フレデリクは王子でありながら騎士として在籍していたので、警邏を務める兵と共に捜索に駆り出された。
おかげでエミリオと時間は取れなくなってしまったが、この事件の一端にスーヴェリア侯と領地が関係あると判明したのである。
「つまりは、お前は今、犯罪者の家族を保護している事になるな」
「……」
「まあいい。とりあえず箱を開けてみよう。あの事件は俺も杞憂している。貴族に広がる前に食い止めないとな」
「そうですね」
エミリオは知らない。実の父と兄が国を狂わせるような事業をしている事など。その材料を、エミリオが慈しんで育成している事なんて――
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------
次回更新ですが、体調を崩してしまったので三日と四日の二日間お休みいたします。
再開は五日の金曜日21時に更新いたします。
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