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Assortiment d'apéritifs

悪徳の黄昏

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 古くなった家電や家具は処分するとして、持っていく服や本、それから桔梗君愛用のパソコンの入った段ボール箱をRV車に積み込んで、佇んでいる彼へと振り返る。
 話によると、彼が家を出てから僕の家に住むようになるまで時間を過ごした住処だからか、愛着があるのは無理もない。
 「桔梗君?」と声を掛けると、弾けたように振り返った彼は、少しだけ目許を赤くしていたのは、気づかないフリをしてそこを後にした。

 僕の家は一階は玄関と靴や傘などを置いてるウォークインクローゼットと、店舗に繋がる裏口と、店用のストックを保存してある倉庫があり、二階がリビングダイニングとキッチン、それから客室。三階が僕のベッドルームと浴室、それから元は物置部屋になっていた桔梗君の部屋がある。

「桔梗君、そろそろ夕飯の……おや」

 ノックを数回したものの返事がなかった為、一瞬躊躇の後開いた扉の先では、買ったばかりのソファベッドに猫のように丸まって眠る番の姿があった。

「かわいい……」

 そう呟いてしまった僕は正直者だと思う。
 元々書斎として作られた部屋は、壁の一面が広めのスリット窓があり、午後の穏やかな陽光が部屋に射し込む。窓の外からは近くの神社の緑が季節の移り変わりと共に違う顔を見せ、目にも優しい。
 ライティングデスクには彼の愛用している型の古いパソコンが乗っており、無骨に存在感を示している。
 機会があれば、僕の使っていないパソコンを譲ってもいいかもしれない。
 彼が丸まっているソファベッドはライティングデスクと同じ焦げ茶色で、布張りの座面は触り心地が良さそうだ。これは桔梗君の予算からはオーバーしたものだが、僕も使うかもしれないからと押し切り、僕が全額出したものだった。

「おっと、このままじゃ風邪をひいてしまいますね」

 僕はそっと部屋を出て、隣の寝室から肌掛けを持ち、ふわりと彼の体を覆う。一応、この家は床暖房と空調が取り付けてあるものの、寝ている間に体調を崩すのを見るのは偲びない。  やっと番契約のショックから立ち直りつつあるのに。
 桔梗君の項にある噛み痕に視線を注ぐ。
 突然の豪雨で店を閉めようか思案していた所に迷い込んできた仔猫。親に捨てられ、会社というコミュニティからも弾き出され、ずぶ濡れで僕の中に飛び込んできた。
 ふわりと香った甘い匂いに年甲斐もなく無理矢理彼の体を開き、細く肌理の細かな項に牙を突き立てた。
 桔梗君は自分がヒートになったせいで巻き込まれたと、僕に何度も謝ってくれたけど、そうじゃない。何度だって拒絶する機会はあった。それを受け入れたのは僕。
 甘い匂いに陶酔し、貪り尽くし、項を噛んだのは僕の本能が欲しいと願っていたから。

「まあ、言い訳ですけどね」

 運命の番「かもしれない」彼との交わりはどこまでも甘美だった。桔梗君に意識があれば、ドロドロに溶け合うまで愛し合っていたかった程だ。
 だけど、彼の気持ちが傾くまでは自粛している。
始まりがアレだったのだ、マイナスからのスタートなのは理解していたから、ストーカー紛いの元上司の出現も言い訳に含め同居という名の囲い込みをし、番になった彼はアルファである 僕からは逃げ出す事もできない。
 後は桔梗君の心が僕に向いてくれるのを待つだけだ。

 僕は頬に掛かる錆色の髪を指で除ける。まだ白く、痩けた頬は不健康さが滲み、まだ万全とは言えない体調だろう。
 それでも安心しきった寝顔を見ていると、ココが彼にとって安息を得れる場所だと思うのなら、二度と彼が離れていかないように居心地が良い場所にするだけだ。

「ああ、オメガの巣作りを僕がすればいいのか……」

 彼に安心という名の真綿で包み、日々愛を囁いて、美味しい食事で心も体も満たしてあげよう。きっと優しい君だから、僕に恩を感じて離れて行く事はない筈。

「でも、それだけだと結びつきが脆いですね」

 何か事件でも起これば、きっと番である僕に頼るだろう。こうなったら桔梗君には辛い思いをさせるけど、人を使ってトラブルでも起こしてしまおうか。

「ですがそのまえに……桔梗君、風邪をひいてしまいますよ」
「……んんぅ。れいじさん?」
「夕飯が出来たので起きて食べましょう? 今日は鶏と豆腐のハンバーグと、たっぷり豆のスープと、冷しゃぶサラダにしましたよ」
「ソースは玉ねぎのですか……?」

 勿論です、と囁けば、桔梗君はふんにゃりと笑みを綻ばす。磨りおろし玉ねぎを使った和風ベースのソースは桔梗君のお気に入りなのだ。
 寝ぼけていても警戒心の脆くなった彼が、時々こうして緩んだ笑顔を見せてくれる事が嬉しい。本当に抱き潰したい程可愛いのだ。

「さあ、行きましょうか」

 腰の疼きをなかった事にし、桔梗君をエスコートして部屋を出る。
 多分、この部屋はすぐに使わなくなるだろうな、と内心で思いつつ、僕は背後で閉じるドアの音を聞いていた。

 結局、僕の奸計が行われる前に、桔梗君に謎の手紙が届いたのは、僕が桔梗君にプロポーズをして一ヶ月の出来事だった──
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