はぴまり~薄幸オメガは溺愛アルファのお嫁さん

藍沢真啓/庚あき

文字の大きさ
上 下
38 / 47
happy2

20:関係 *

しおりを挟む
 挿入した接合部から溶けてしまいそうな程熱い桔梗の中に、玲司は暴発してしまわないよう、細く息を吐く。
 かつてはアルファ女性だけでなく、オメガに至っては男も女も関係をしてきた玲司だったが、桔梗と交わるようになってから、未知の愉悦に虜になったのは言うまでもない。
 それだけ運命との交接は、比べ物にならない位、ドロドロに頭も体も混じり合ってしまいそうだった。

「桔梗君。辛くないですか?」

 オメガは発情ヒート時になると、通常の何倍も快感を拾うらしい。まだ挿入の途中にも関わらず、桔梗の花芯の先端からぴゅくりぴゅくりと白濁の蜜を撒き散らす。
 薄紅に色づいた肌は白に汚されているのに、見下ろす玲司の目には、貪り尽くしたいと思える程の扇情的な肢体がベッドに横たわっていた。

 蕾のまま幾度と枯らしてきた可憐な花を開花させたのは玲司だ。
 汗ばむうなじに牙を立て、番へと桔梗の体を作り替えた。
 後悔は……ない、とは言い切れない。だからこそ、桔梗を何が何でも守り、愛していくと誓った筈なのに……

 だから、婚姻届を出す少し前。やっとお互いの思いを通じ合わせ結ばれた時から、桔梗には少しでも苦痛を与えないように細心の注意を払って、快楽だけのみを注ぎ続けている。

「……は、い。おなかの奥……玲司さんの熱で……あったかい、です」

 ふわり、と綿あめのような笑みを零し、桔梗は自分のお腹を無意識に撫でている。少しふっくらとしてきたとはいえ、まだ薄さがある桔梗のへその下辺りに、僅かに凹凸ができている。それが何かだなんて、玲司も理解していたし、桔梗も分かっていてそっと形を確かめるように撫でているのだろう。

 無垢な笑みで、やってる事は凶悪すぎる。

 玲司は内心で番が彼のナカにある己の楔の形に浮かぶ腹部を撫でさする姿に、喜びたいのか、怒りたいのか混乱していた。

 かつて似たような台詞を吐いたオメガの男性と交わった事があった。
 その時には「あざと過ぎて気持ちが悪い」と濡れた肉筒から自身を抜き去って、ホテルの一室に相手を置いて出て行った過去を思い出す。
 桔梗も、似たような表情で似た台詞を吐いた。過去の自分なら、嫌悪に眉をしかめて行為すら中断したのだろうが、どうしてなのだろうか。桔梗の内側で怒張が今にも暴れたいと、一層膨らんだように感じた。

 アルファの本能が、最奥まで突き立てて、オメガの子宮に精をぶちまけたい、と囁く。孕ませて、唯一の番を己の体液で染めてしまえ、と誘惑してくる。
 しかし、本能のままに突き上げるのは駄目だ、と理性の玲司が諌めてくる。

 もう、本能に支配されてはいけない。桔梗が無意識に誘惑してくるのは発情ヒート熱でうかされているのであって、普段の彼からはこんな風に淫靡な誘いはしないと知っている。
 再度玲司は自分を落ち着かせようと、桔梗の胎内に楔を埋めたまま、深く息を吐いた。

「……玲司…さん?」

 白い腕が伸びてきて、玲司の胸へと触れる。

「大丈夫、ですか?」
「ふ……。それは僕の台詞ですよ。桔梗君も大丈夫ですか? まだ体調が快復した訳ではないので、無理は駄目ですよ」
「はい。……ぁ、あぁんっ」

 ほっとした微笑をこちらに向けてくる桔梗の腰に自らの腰を押し付け、ゆるりと円を描く。「あぁ……っ」とか細く啼く番の溶けそうに熱い粘膜を堪能しつつ、静かに腰を引き、桔梗の弱点である前立腺目掛けて雁首をソコに引っかけた。

 粘膜の下にあるしこりは、アルファもベータもアルファの子供を身籠る事のできるオメガですら、男性体である以上、前立腺は存在する。
 オメガはベータやオメガの女性と性交でき、更に子供を作る事ができる。だが、その出生率は殆どゼロに等しい数字で、大体が他から養子を取ったり、オメガ同士の夫婦ならば互いの番との間に生まれた子供を引き取ったりするパターンもあった。
 それでも、アルファを求める強制力に逆らえないのか、最終的には離散したり、互いの不倫を許容するといった、歪な関係になる事が殆どのようだ。

「きもち……いぃ……っ、れ、じさ……もっと……して」

 同性同士だからこそ分かる快感の実を、喉を反らして欲しがる桔梗に、玲司は身をかがめてむき出しの喉元に軽く歯を立て、腰を浅く一点へと擦りつける。
 前立腺を責める度に、桔梗の先端からはぴゅくぴゅくと白濁を零し、薄紅の肌を白く汚していく。密着するように互いの腹を合わせて動けば、桔梗の白濁がにちゃにちゃと捏ねる水音が生まれ、互いの欲情を高めていく。
 時折、番の証であるうなじの噛み跡に舌を這わせれば、その度に桔梗は丘の魚のごとくビクビクと反応を返し、玲司の熱を抱く蜜筒はぎゅっと縛り付けてくる。

『あなたが発情ヒートで誘惑して、無理やり番契約したんじゃないの!』

 ふと、愚かなベータの女が桔梗を貶めた時の言葉がよぎる。
 あの豪雨の日。桔梗の発情フェロモンにあてられ、玲司も発情ラットとなった。そして承諾もなく桔梗の純潔を奪い、うなじに噛み付いた。
 しかし、その事実を知っているのは、寒川の家族と、桔梗の兄である朔音、それから藤田夫夫の筈だ。それなのに、何故彼女が知っていたのだろうか。

(……まあいい。総一朗兄さんがその辺りは尋問してくれるだろう。あの人は先を見通して物事を考える人だし)

 かつて兄と呼びながらも、一線を引き、玲司が留学してからというもの、殆ど交流さえなかった総一朗を、ここまで信頼を置いていたのだと苦笑し、今はただ、蕩けるように甘く魅惑的な番に集中しようと、玲司は深く腰を突き出した。



 コンコン、と微かなノックの音に、眠っていた玲司の意識がふっと浮上する。目を開くとカーテンの隙間から陽の光が射し込み、随分深く眠っていたのだと気づいた。

 何度も、何回も、お互いが足りないと言っては、繰り返し貪り続け、体力が尽きた桔梗が気絶したのは、空がうっすらと白みかけた頃だったと記憶している。

「……んぅ」

 胸の中でゴソリと身じろぐ気配を感じ、玲司は小さく舌打ちをする。桔梗が玲司の腕の中ですやすやと眠っていたのだが、ノックの音で今にも起きそうだ。
 苛立つ玲司をからかうように再びノックの音が微かに聞こえる。
 今日、ここには誰も立ち入らないよう、ホテルには再三言っていた。にも拘らず、空気を読まずにまたも聞こえた音に。

「……誰だ、一体」

 桔梗には見せた事のない、不機嫌な口調で零し、番が起きないようそっと体を起こした。
 昨夜──というより今朝、汗と互いの白濁と桔梗の蜜で汚れ、皺だらけになったシーツを取り替え、桔梗を風呂に入れたおかげで、不快感は全くない。
 ぐっすり眠る桔梗の表情は落ち着いたもので、やはり直接中出しした方が発情も落ち着くのだと、ほっとしつつ、次にナイトテーブルにある開封済みの薬のシートと、飲みかけのペットボトルに視線を移し、小さな迷いの波紋が玲司の胸の内で広がった。

 本当に、このまま避妊して良かったのか、と。

 だが、もう薬は桔梗の中で溶けて吸収されている頃だ。
 それに玲司にも覚悟ができていない。

 迷いで揺れる気持ちを頭をゆるく振って追い払い、床に散乱する服の中から自分のジーンズとシャツを羽織ると、まだもノックが続く扉へと近づいた。

「誰……」
「僕、昨日言ったよね、玲司兄さん。不安定な発情でのセックスは推奨しないって」

 扉を開いた途端飛び込んできたのは、機嫌の悪い玲司よりも更に冷ややかな声をした義弟の凛だった。

「うわ、何なのこの高濃度なフェロモン。一体、何時頃までシてたのかな?」

 立ち尽くす玲司を押しのけ部屋に入った凛は、すぐさま窓へと近づき全開にして回る。空調の効いた暖かな部屋が、あっという間に外気と変わらなくなり、シャツ一枚の玲司はブルリと体を震わす。

「あのね、玲司兄さん。本来のオメガの発情ヒートなら、僕もここまで強く言うつもりもないし、規制をかけたりもしないよ。でも、別のアルファにレイプされそうになって、更に予想外の発情を起こした番に無体を強いるな、って言ったつもりなんだけど」
「……ごめん、凛」

 ここは素直に謝ったほうが得策だ、と玲司は反省を含んだ声で謝罪すると、ようやく凛も落ち着いたのか、それはそれは深い溜息をついていた。

「僕に謝られても……。ところで桔梗さんは寝てるんだよね」
「一応、発情ヒートは落ち着いてますけど」
「そう。それは良かった。で、避妊薬は飲ませたの?」

 玲司が「ええ」と呟くような小声で返答する。

「まあ、それなら僕が改めて診察しなくてもいいかな。一応、PTSDが出る可能性も考えて、ちょっとでも変化があるようなら、うちの病院のオメガ科に連れてきて」
「それは勿論。藤田医師はメンタルヘルスは不得意のようですから」
「あの人は基本内科専門だからね。一応、オメガ科の方でも指定医の資格はあるみたいだけど」

 凛は一瞬だけ桔梗が居るだろう寝室へと目線を向けてから、ひそめた声で玲司に問いかける。

「……ところで、桔梗さんは知ってるの? 僕と玲司兄さんの関係」
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!

白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿) 絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ アルファ専用風俗店で働くオメガの優。 働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。 それでも、アルファは番たいらしい なぜ、ここまでアルファは番たいのか…… ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです ※長編になるか短編になるかは未定です

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

俺はつがいに憎まれている

Q.➽
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。 それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。 圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。 しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。 心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。 しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の 『君と出会いさえしなければ…』 という心無い言葉。 実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。 ※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

処理中です...