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番外編
番外編1
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なんだかお久しぶりな感じがありますが、月宮真唯です。ええ、まだ『月宮』です! しっかり囲われちゃった感が否めませんが、まだ入籍していないので、逃げれるチャンスはある……はず。
「真唯、朝ごはん買ってきたから食べようか」
寝室の扉が開き姿を現したのは、真っ白なシャツにブラックジーンズという、ザ・カジュアルな専務様。その名を千賀蓮也さんといいます。
実質の私の上司兼恋人兼婚約者……らしい。
いやぁ、こんな事言葉にしようものなら、どうなるか予測できるだけに言いませんよ。口は災いのもと。これ大事。
「あー、は、い、ゴホッ」
「大丈夫!? 真唯っ」
イケメン上司様、ご心配無用です。昨日、一昨日と散々喘がされたせいで、喉がかすれてるだけです。つまり原因はあなたです。
「み、みずを……」
「みみず?」
「お水を、いただけます、か?」
「あ、あぁ、水ね。ちょっと待ってて」
すぐさまきびすを返してどこかに向かわれた専務。
というか、普通の人間はミミズを求めませんからね。
時間にすれば一分もかからない内に、彼の手には飲みきりタイプのペットボトルが握られていた。
「はい。なんなら口移しで飲ませようか?」
「けほっ。いえ、けっこう」
朝から何をほざいているんだ、この上司様は。エロい事しすぎて、脳のどっかが壊れたんじゃなかろうか。病院に放り込んだ方がいいのかな。
千賀専務から受け取ったボトルの蓋をひねってひと口飲む。うぅ、冷たい水が喉にしみるーっ!
かなり喉を酷使したせいで熱を持っていたらしい。キンキンに冷えた水が喉を通るのがよく分かる。ただでさえ一昨日の時点で散々喉を痛めたのに、まさか昨日もご招待と思っていたら、あっという間に服を脱がされ、そのままベッドへGOとか想像もしてなかったし。
まさか二日間も家を空けるとは……って、そういえば!
「せ、専務! 私、家帰りたいです!」
「真唯……。また呼び方変わってる」
「そんなことはどうでもいいんです! すっかり忘れてたんですけど、アイツに家の鍵を渡したままなんです! 一応念の為に家に帰って確認したいんですけど!」
一昨日は私も怒りに我を忘れてたから、すっかり忘却の彼方にいってたんだけども、ラブホで専務が爆弾落とした元カレに、一人暮らししてるマンションの部屋の合鍵を渡してあったんだ。
まさかとは思うけど、逆恨みで勝手に部屋に入って荒らさないとは限らない。
「それなら、今から真唯の部屋に行って確かめようか」
「いえっ! 私ひとりで大丈夫ですので!」
「だめ」
私の訴えを一刀両断。お願いだから帰らせてよ!
「むしろひとりでなんて帰らせないよ。危険極まりない。もし、部屋の中で隠れてた男が急に襲ってきたらどうするつもり? 真唯の細腕では抵抗なんてできないでしょ」
「う……ぐ」
なんなの、急に常識人ぶって。でも、間違ってないからぐうの音も出ないじゃないの。
確かに女性の一人暮らしあるあるで、帰ったら別れたハズの元カレが部屋で寛いでたとか、ネットとかで見るけども。うーん、ここは背に腹はかえられないか。
「じゃ、じゃあ、専務も同行お願いしてもいいですか?」
「うん、いいよ。そのまま引越しの手続きも一緒にしちゃおうか」
にーっこりと、それはとてもいい笑顔で告げる専務に、私は同行相手の選択を間違えたと冷や汗を浮かべたのだった。
ま、結果としては、不安的中と言うべきか。
「……」
「あー、これは、警察案件かもですね」
ワンルームの我が城は、見事なまでにぐちゃぐちゃ。ベッドもクローゼットの中の服も全部細切れ、または切り裂かれ、ミニキッチンのお皿は粉々に割れて、棚の中の物は全部床に転がってる。
きっとパスワードが分からなかったからか、ノートパソコンはふたつに分かれ、液晶はヒビが入って使用不可能。
慌てて玄関で靴を脱いで、小型冷蔵庫の冷凍部分を開く。製氷用の棚の裏側に手を差し込んで、手探りで右に左にと動かすと……あった!
「全財産は無事です、専務!」
「それは良かった。でも、まずは警察に連絡しなくちゃいけないから、これ以上は現場を荒らさないようにね」
またも至極まっとうな事を言われ、私は「はい」とすごすごと玄関に戻る。
とりあえず通帳は無事。カードと印鑑はいつも持ち歩いてるから、口座関係は何事もなさそうだけど、これ、セキュリティ的に問題あるから、これ以上ここには住めないだろうなぁ。
さっきは専務が引越しの手続きうんぬん言ってたけど、ぶっちゃけ、あんな億ションに住む気にもならないし、緊張で胃を壊す。
コツコツ貯めたお金もあるし、家が見つかるまでは、友達の家を点々とするか、ウイクリーマンションを借りるしかないか……。あぁ、折角の貯金が……。
その後警察がやってきて、指紋採取やら事情聴取なんかもろもろされて、落ち着いたのは、夜もどっぷりと更けてからだった。もう、落ち込んでる時間なんかなくて、ひとまず最低限の着替えや貴重品を持って、ホテルなり予約しなくては。
さすがに専務のお家に行くのは遠慮したい。ぶっちゃけ嫌な予感しか感じない。
「あー……、専務?」
「専務なんて他人行儀な。昨日は散々『蓮也』って呼んでくれたのに」
語尾にハートマークをつけそうな甘い声で、千賀専務がおっしゃる。
確かに名前呼びしたけどさ。でも、あれだけトバされたら、誰だって言いなりになるんじゃなかろうか。
まあ、なし崩しだろうが、上司兼恋人兼婚約者になったようだし、昨夜からの状況を考えるに、この事実はどうにも覆る様子もないみたいだし、ここは素直に名前呼びをしたほうがいのかもしれない。
下手に逆上させたら、元恋人よりも酷いことになるのが目に浮かぶのだが……
「こほん……では、蓮也さん」
「なに、真唯?」
「私、さすがにここで寝るのも問題あると納得したので、そろそろホテルの予約を取って、そちらに移動を……」
「え?」
「へ?」
なぜそこで疑問の声を上げる。
婚姻届に必要な書類は、明日の午前中に待ち合わせれれば問題ないよね?
お互い二日間、体を酷使しちゃったし、ひと晩くらいゆっくり寝て、疲れ取りたいよね?
「せ……ではなくて、蓮也さん。お互い疲れてますし、書類を取りに行くのなら、明日区役所で待ち合わせればいいのでは?」
「いやいやいや。どうしてそこで別行動取ろうとするのかな。一緒に行動するんだから、別にうちのマンションに泊まればいい話でしょ?」
「それこそ、いやいやいや、ですが」
「えー」
良い年齢の大人の男が「えー」じゃないってば。
私気づいているんですよ、人畜無害そうな顔をして、実は計画的犯行の、性欲魔神だっていうのを。
そんな人の家に安心して泊まれる訳ないじゃないですか。
昨日だって帰る気まんまんだったのに、なし崩し的に泊まるどころか、アホみたいに喘がされた訳で。
今日は絶対ないと言い切れないし、わざわざ猛獣の檻に飛び込む気もございません。
ってことで。
「せん……蓮也さんの申し出は大変有り難く、嬉しく思いますが、お互い仕切り直しの意味もこめて、一度解散したほうがいいかと」
「ダメ」
おい。これだけ言っても拒否ですか。
「真唯の言いたいことも分かるけど、もし、俺の見てない所で元彼氏が真唯のあとをつけて、何か事件に発展する可能性だってあるんだよ? こんな細腕の真唯に何ができるの?」
ぐう正論すぎて、反論できない。
確かに、家を荒らすだけで済めばいいんだけど、あの人、無駄に粘着質だったわ。私が付き合うまで、頻繁にまとわりついてたし。
「今夜は何もしないって誓うから、俺の所においで、真唯」
ふわりと抱き締められ、体温と柔らかな香りが強くなる。
あー、もう、これが惚れた弱みってやつなんだろうか。
「分かりました。信じてますよ、蓮也さん」
この人何もしないって言ってるけど、本当に何事もありませんように、と内心で念を送りつつ、蓮也さんのマンションへと舞い戻る事になったのだった。
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朝から何をほざいているんだ、この上司様は。エロい事しすぎて、脳のどっかが壊れたんじゃなかろうか。病院に放り込んだ方がいいのかな。
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まさか二日間も家を空けるとは……って、そういえば!
「せ、専務! 私、家帰りたいです!」
「真唯……。また呼び方変わってる」
「そんなことはどうでもいいんです! すっかり忘れてたんですけど、アイツに家の鍵を渡したままなんです! 一応念の為に家に帰って確認したいんですけど!」
一昨日は私も怒りに我を忘れてたから、すっかり忘却の彼方にいってたんだけども、ラブホで専務が爆弾落とした元カレに、一人暮らししてるマンションの部屋の合鍵を渡してあったんだ。
まさかとは思うけど、逆恨みで勝手に部屋に入って荒らさないとは限らない。
「それなら、今から真唯の部屋に行って確かめようか」
「いえっ! 私ひとりで大丈夫ですので!」
「だめ」
私の訴えを一刀両断。お願いだから帰らせてよ!
「むしろひとりでなんて帰らせないよ。危険極まりない。もし、部屋の中で隠れてた男が急に襲ってきたらどうするつもり? 真唯の細腕では抵抗なんてできないでしょ」
「う……ぐ」
なんなの、急に常識人ぶって。でも、間違ってないからぐうの音も出ないじゃないの。
確かに女性の一人暮らしあるあるで、帰ったら別れたハズの元カレが部屋で寛いでたとか、ネットとかで見るけども。うーん、ここは背に腹はかえられないか。
「じゃ、じゃあ、専務も同行お願いしてもいいですか?」
「うん、いいよ。そのまま引越しの手続きも一緒にしちゃおうか」
にーっこりと、それはとてもいい笑顔で告げる専務に、私は同行相手の選択を間違えたと冷や汗を浮かべたのだった。
ま、結果としては、不安的中と言うべきか。
「……」
「あー、これは、警察案件かもですね」
ワンルームの我が城は、見事なまでにぐちゃぐちゃ。ベッドもクローゼットの中の服も全部細切れ、または切り裂かれ、ミニキッチンのお皿は粉々に割れて、棚の中の物は全部床に転がってる。
きっとパスワードが分からなかったからか、ノートパソコンはふたつに分かれ、液晶はヒビが入って使用不可能。
慌てて玄関で靴を脱いで、小型冷蔵庫の冷凍部分を開く。製氷用の棚の裏側に手を差し込んで、手探りで右に左にと動かすと……あった!
「全財産は無事です、専務!」
「それは良かった。でも、まずは警察に連絡しなくちゃいけないから、これ以上は現場を荒らさないようにね」
またも至極まっとうな事を言われ、私は「はい」とすごすごと玄関に戻る。
とりあえず通帳は無事。カードと印鑑はいつも持ち歩いてるから、口座関係は何事もなさそうだけど、これ、セキュリティ的に問題あるから、これ以上ここには住めないだろうなぁ。
さっきは専務が引越しの手続きうんぬん言ってたけど、ぶっちゃけ、あんな億ションに住む気にもならないし、緊張で胃を壊す。
コツコツ貯めたお金もあるし、家が見つかるまでは、友達の家を点々とするか、ウイクリーマンションを借りるしかないか……。あぁ、折角の貯金が……。
その後警察がやってきて、指紋採取やら事情聴取なんかもろもろされて、落ち着いたのは、夜もどっぷりと更けてからだった。もう、落ち込んでる時間なんかなくて、ひとまず最低限の着替えや貴重品を持って、ホテルなり予約しなくては。
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「あー……、専務?」
「専務なんて他人行儀な。昨日は散々『蓮也』って呼んでくれたのに」
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確かに名前呼びしたけどさ。でも、あれだけトバされたら、誰だって言いなりになるんじゃなかろうか。
まあ、なし崩しだろうが、上司兼恋人兼婚約者になったようだし、昨夜からの状況を考えるに、この事実はどうにも覆る様子もないみたいだし、ここは素直に名前呼びをしたほうがいのかもしれない。
下手に逆上させたら、元恋人よりも酷いことになるのが目に浮かぶのだが……
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「なに、真唯?」
「私、さすがにここで寝るのも問題あると納得したので、そろそろホテルの予約を取って、そちらに移動を……」
「え?」
「へ?」
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そんな人の家に安心して泊まれる訳ないじゃないですか。
昨日だって帰る気まんまんだったのに、なし崩し的に泊まるどころか、アホみたいに喘がされた訳で。
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ってことで。
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「ダメ」
おい。これだけ言っても拒否ですか。
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ぐう正論すぎて、反論できない。
確かに、家を荒らすだけで済めばいいんだけど、あの人、無駄に粘着質だったわ。私が付き合うまで、頻繁にまとわりついてたし。
「今夜は何もしないって誓うから、俺の所においで、真唯」
ふわりと抱き締められ、体温と柔らかな香りが強くなる。
あー、もう、これが惚れた弱みってやつなんだろうか。
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