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RENYA Side
それでも、俺は真唯を手に入れたいんだ
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そして、運命のターニングポイントとなったあの日。
退社間際になった真唯は、スマホを見て落胆の吐息を落としている。きっと、アイツとのデートがキャンセルになったからだろう。
急に気落ちした真唯に同僚の女性社員が声を掛けている。だが、弱い部分を他人に見せるつもりはないのだろう。無理やり作った笑顔は、俺の中にある罪悪感を刺激していた。
真唯は退社後、不安を振り切るようにヒールをカツカツと鳴らして向かったのは、今日のデートで食事する筈だったと予測されるイタリアンレストラン。
俺もこっそり入店して、真唯の目が入らない場所を陣取ると、彼女の様子を窺う。ちなみに、まだ仕事は大量に残っていたが、椙崎に「今日は大事な日になるから、お前が代わりにやっといてくれ」と強制的に渡して逃げた。
ヤツには後日細君へ貢物を渡しておけば問題ないだろう。
適当にワインとつまめる物を頼み、ちびちびと飲みながら真唯を見つめる。
よほどドタキャンされた事が腹ただしいのか、食べては飲んで、飲んでは食べてを繰り返している。そんな彼女のやけっぱちな姿に、「ごめんね」と心の中で呟いていた。
数ヶ月前。俺はある人物に一本の電話を掛けた。
『おや、蓮也がボクに電話するとか。明日は雪になるかもな』
「明日は雲ひとつない快晴だそうだ」
飄々とのたまう椙崎とは違う悪友に、俺は冷ややかに告げる。正直友人とはいえ、頼みごとをするのは気が進まない。
『で、めったに連絡しない蓮也がボクに何か用かい?』
揶揄う口調で問う男に、渋々ながら今頭にある計画の端緒を話す事にした。
彼は、学生時代に企業を起こし、現在は代表取締役として席に納まっている。最近は企業の自由化により、人を多く必要とするテレフォンアポインター等の通信委託を始めとし、現在はそれなりに大手の派遣業を展開しているそうだ。
その中に、悪友の趣味としか言いようない部門がある。
それは「別れさせ屋」。
夫、または妻、恋人と別れたいが、なかなか相手が了承してくれない。他にも慰謝料が欲しい等の理由により、相手に異性を充てがい、円満に別れる方向に仕向けるそうだ。
まあ、こういったのがビジネスでやれてるとか、世も末だと思うが。
『へえ、いいよ。その仕事引き受ける。丁度、うちの看板女優が前の仕事終わって、数ヶ月オフになるからどうにかしてくれって相談受けたばかりだし』
「看板女優って、俳優の卵か何かなのか?」
『いいや、AV女優。とはいっても、演技力は抜群だよ、彼女は。これまでの達成率100パーセントだし』
それなら、と通常の料金に上乗せして、確実に相手を落とす条件を出すと、快諾してくれて、契約完了となる。
すぐに真唯の付き合ってる男のデータをメールで送り、逐一状況を知らせるように頼んだ俺は、送信ボックスに入っているメールを削除し、パソコンをスリープモードにして、ため息をついた。
もう賽は投げられた。引き返すつもりはないけど、この事が真唯にはバレないよう、細心の注意をしなくては、と心に深く刻み込んだ。
ぼんやり邂逅に頭を巡らせていると、ほろ酔いの真唯が俺の近くを通って会計しているのが見える。自分の会社の人間に気づかないとは、見た感じほろ酔いな雰囲気だけど、実際はもっと酔っているのかもしれない。
あんな状態の真唯が一人で歩いて大丈夫なのだろうか。
声を掛けようと口を開くものの、それでは意味がない。葛藤する気持ちを抑え、俺はスマホで悪友経由で行動を開始するようにメールを送り、後を追うように慌てて店を出たのだった。
そして。
「うそ……でしょ」
呆然と呟く真唯の視線の先には、仲睦まじくホテルの中へと消えていくひと組のカップルの姿。
物陰から見える真唯の表情は今にも泣いてしまいそうなもので、俺の胸はズキリと痛む。
本当ごめん。でも、それでも、俺は真唯を手に入れたいんだ──
そして、運命のターニングポイントとなったあの日。
退社間際になった真唯は、スマホを見て落胆の吐息を落としている。きっと、アイツとのデートがキャンセルになったからだろう。
急に気落ちした真唯に同僚の女性社員が声を掛けている。だが、弱い部分を他人に見せるつもりはないのだろう。無理やり作った笑顔は、俺の中にある罪悪感を刺激していた。
真唯は退社後、不安を振り切るようにヒールをカツカツと鳴らして向かったのは、今日のデートで食事する筈だったと予測されるイタリアンレストラン。
俺もこっそり入店して、真唯の目が入らない場所を陣取ると、彼女の様子を窺う。ちなみに、まだ仕事は大量に残っていたが、椙崎に「今日は大事な日になるから、お前が代わりにやっといてくれ」と強制的に渡して逃げた。
ヤツには後日細君へ貢物を渡しておけば問題ないだろう。
適当にワインとつまめる物を頼み、ちびちびと飲みながら真唯を見つめる。
よほどドタキャンされた事が腹ただしいのか、食べては飲んで、飲んでは食べてを繰り返している。そんな彼女のやけっぱちな姿に、「ごめんね」と心の中で呟いていた。
数ヶ月前。俺はある人物に一本の電話を掛けた。
『おや、蓮也がボクに電話するとか。明日は雪になるかもな』
「明日は雲ひとつない快晴だそうだ」
飄々とのたまう椙崎とは違う悪友に、俺は冷ややかに告げる。正直友人とはいえ、頼みごとをするのは気が進まない。
『で、めったに連絡しない蓮也がボクに何か用かい?』
揶揄う口調で問う男に、渋々ながら今頭にある計画の端緒を話す事にした。
彼は、学生時代に企業を起こし、現在は代表取締役として席に納まっている。最近は企業の自由化により、人を多く必要とするテレフォンアポインター等の通信委託を始めとし、現在はそれなりに大手の派遣業を展開しているそうだ。
その中に、悪友の趣味としか言いようない部門がある。
それは「別れさせ屋」。
夫、または妻、恋人と別れたいが、なかなか相手が了承してくれない。他にも慰謝料が欲しい等の理由により、相手に異性を充てがい、円満に別れる方向に仕向けるそうだ。
まあ、こういったのがビジネスでやれてるとか、世も末だと思うが。
『へえ、いいよ。その仕事引き受ける。丁度、うちの看板女優が前の仕事終わって、数ヶ月オフになるからどうにかしてくれって相談受けたばかりだし』
「看板女優って、俳優の卵か何かなのか?」
『いいや、AV女優。とはいっても、演技力は抜群だよ、彼女は。これまでの達成率100パーセントだし』
それなら、と通常の料金に上乗せして、確実に相手を落とす条件を出すと、快諾してくれて、契約完了となる。
すぐに真唯の付き合ってる男のデータをメールで送り、逐一状況を知らせるように頼んだ俺は、送信ボックスに入っているメールを削除し、パソコンをスリープモードにして、ため息をついた。
もう賽は投げられた。引き返すつもりはないけど、この事が真唯にはバレないよう、細心の注意をしなくては、と心に深く刻み込んだ。
ぼんやり邂逅に頭を巡らせていると、ほろ酔いの真唯が俺の近くを通って会計しているのが見える。自分の会社の人間に気づかないとは、見た感じほろ酔いな雰囲気だけど、実際はもっと酔っているのかもしれない。
あんな状態の真唯が一人で歩いて大丈夫なのだろうか。
声を掛けようと口を開くものの、それでは意味がない。葛藤する気持ちを抑え、俺はスマホで悪友経由で行動を開始するようにメールを送り、後を追うように慌てて店を出たのだった。
そして。
「うそ……でしょ」
呆然と呟く真唯の視線の先には、仲睦まじくホテルの中へと消えていくひと組のカップルの姿。
物陰から見える真唯の表情は今にも泣いてしまいそうなもので、俺の胸はズキリと痛む。
本当ごめん。でも、それでも、俺は真唯を手に入れたいんだ──
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