8 / 30
RENYA Side
いつも頑張ってる月宮くんだけに特別ね
しおりを挟む
+
「月宮くん」
営業部のあるフロアへと降りると、少し先を真唯の華奢な姿を見かけ、思わず声をかける。
「千賀専務。おはようございます」
「おはよう。今日もいい天気だね」
俺はすかさず真唯の隣に陣取り、差し障りのない天気の話をする。
椙崎の会社のビルは、壁一面を特殊なガラスで覆い、外からは内部は見えないのに、陽光は目に痛い位入ってくる。夏の冷房代とかかかりそうだな、と他人事ながら心配してしまう。
ああ、今日も真唯は可愛い。
セミロングの黒髪をハーフアップにして、落ち着いた柄のシュシュで留めている。今度さりげなくプランド物のシュシュをプレゼントしようと心に決めていると。
「専務はどうしてこのフロアに? 何か火急の案件でもありましたか?」
真唯はファイルを胸にかかえたまま小首を傾げている。サラリと黒髪が肩に流れていく様にシャンプーの匂いが立ち、目も嗅覚も心も奪われる。
ここで押し倒したら確実に嫌われ案件だから、ぐっと我慢はするけど。
「いや。昨日まで出張で北海道に行ってたんだ。それで、いつも頑張ってくれてる営業課のみんなにおみやげをね」
そう言って手にしていた紙袋を掲げる。
「わっ。私、ここのお菓子大好きなんです。みんなも喜ぶと思いますよ」
真唯は花が綻ぶように笑みを浮かべる。うん、真唯がここのお菓子好きなの知ってたから買ったんだよ。喜んでもらえてなにより。
「あ、そうだ。これはいつも頑張ってる月宮くんだけに特別ね」
「え?」
俺は紙袋からひとつだけ包装の違うものを取り出し、きょとんとしている真唯の手に置く。
「フリーズドライにした苺にチョコでコーティングしたものなんだって。休憩の時にでも食べて?」
「え、あの、え?」
きょときょととうろたえる真唯が可愛くて、このまま眺めていたい気持ちだったけど、返品されない為にも俺は営業部へと歩を進めたのだった。
「あー、丁度いいところに帰ってきた。お前になんか届いてるぞ」
「なにか、って何ですか、椙崎副社長」
役職持ちだけが入る事が許されるフロアにある専務室に入った途端、応接用に設えた本革のソファから眠そうな声が聞こえる。
呆れた視線を向ければ、悪友の椙崎がゴロゴロとソファに寝転がっているのが目に入る。ここはお前の休憩室ではないと何度言えば。
「ここは副社長の憩いの場ではないと、何度言えばいいんですかね。その頭の中に詰まってるのは脳みそじゃなくて、スポンジか何かなんですか。いっそのこと細君に醤油でも染みこませてもらったら如何です?」
「うわっ、お前の丁寧語とかキモイ!」
イヤミの礫で攻撃すれば、椙崎はソファから起き上がって自分を抱くように腕をさすっている。キモイとは失礼な。そもそも就業中にも拘らず人の部屋に居るお前のがキモイわ。
「なんなら、ずっとこの口調で対応しましょうか、椙崎副社長?」
「やめて! 寒イボが止まらなくなるから!」
「……だったらサボってないで副社長室に帰れよ」
なぜ好き好んで副社長室より狭いここに来るんだ。
冷ややかな視線を投げ、俺は次席に腰を下ろす。成金趣味だった専務室を壁紙から全てとっぱらい、シックで落ち着く部屋にしたおかげで、リラックスしながら仕事ができる場所だったのに、椙崎のせいで意味がなくなる。
「で、俺に何が届いてるって?」
「目の前に封筒があるだろう? さっき秘書室長から預かった」
「ふうん」
言われて執務机に目を向ければ、大判の封筒には会社の住所と俺の名前が印字されていた。裏を返してみても宛名は都心が分かるだけだし、名前も見覚えがない。
だけど、これは俺が待ち望んでいたものだと、直感で感じた。
「なあなあ、何が届いたんだ? もしかしてラブレター?」
「阿呆か。こんな大判の封筒でラブレターとか届いたら、即座にシュレッダー行きに決まってるだろ」
「じゃあ、なんだよ」
三十過ぎの男が唇を尖らせて拗ねても可愛くないというのに、子供のように興味津々を前面に押し出しながら、備え付けのコーヒーメーカーからコーヒーを淹れている椙崎へと、仕方ないな、と口を開く。
「月宮くんの彼氏と称してる男の身上調査書」
「はぁ?」
驚く椙崎を無視して、ペーパーナイフで封を開くと、中には数枚の印字された紙片が入っていた。
真唯が俺が入社する前から付き合ってる男について、入社と同時に調査を依頼していたのが届いたようだ。
細かいフォントで綴られた文字を追っていく内に、俺の唇はニヤリと吊り上がる。
俺の予測通り、真唯の恋人と称してる男はクズの分類に入っていたようだ。
「さて、どう真唯と関係を切らせるか、だな」
本当は真唯を泣かせたくないけど、いつまでもズルズルあの男に引っ張られる位なら、ムリヤリでも断絶するに限る。
そんな俺をじっとりと目線を送ってくる椙崎を無視して、プライベート用に所持している端末をスーツの内ポケットから取り出すと、とある場所へと通話を繋げたのだった。
「月宮くん」
営業部のあるフロアへと降りると、少し先を真唯の華奢な姿を見かけ、思わず声をかける。
「千賀専務。おはようございます」
「おはよう。今日もいい天気だね」
俺はすかさず真唯の隣に陣取り、差し障りのない天気の話をする。
椙崎の会社のビルは、壁一面を特殊なガラスで覆い、外からは内部は見えないのに、陽光は目に痛い位入ってくる。夏の冷房代とかかかりそうだな、と他人事ながら心配してしまう。
ああ、今日も真唯は可愛い。
セミロングの黒髪をハーフアップにして、落ち着いた柄のシュシュで留めている。今度さりげなくプランド物のシュシュをプレゼントしようと心に決めていると。
「専務はどうしてこのフロアに? 何か火急の案件でもありましたか?」
真唯はファイルを胸にかかえたまま小首を傾げている。サラリと黒髪が肩に流れていく様にシャンプーの匂いが立ち、目も嗅覚も心も奪われる。
ここで押し倒したら確実に嫌われ案件だから、ぐっと我慢はするけど。
「いや。昨日まで出張で北海道に行ってたんだ。それで、いつも頑張ってくれてる営業課のみんなにおみやげをね」
そう言って手にしていた紙袋を掲げる。
「わっ。私、ここのお菓子大好きなんです。みんなも喜ぶと思いますよ」
真唯は花が綻ぶように笑みを浮かべる。うん、真唯がここのお菓子好きなの知ってたから買ったんだよ。喜んでもらえてなにより。
「あ、そうだ。これはいつも頑張ってる月宮くんだけに特別ね」
「え?」
俺は紙袋からひとつだけ包装の違うものを取り出し、きょとんとしている真唯の手に置く。
「フリーズドライにした苺にチョコでコーティングしたものなんだって。休憩の時にでも食べて?」
「え、あの、え?」
きょときょととうろたえる真唯が可愛くて、このまま眺めていたい気持ちだったけど、返品されない為にも俺は営業部へと歩を進めたのだった。
「あー、丁度いいところに帰ってきた。お前になんか届いてるぞ」
「なにか、って何ですか、椙崎副社長」
役職持ちだけが入る事が許されるフロアにある専務室に入った途端、応接用に設えた本革のソファから眠そうな声が聞こえる。
呆れた視線を向ければ、悪友の椙崎がゴロゴロとソファに寝転がっているのが目に入る。ここはお前の休憩室ではないと何度言えば。
「ここは副社長の憩いの場ではないと、何度言えばいいんですかね。その頭の中に詰まってるのは脳みそじゃなくて、スポンジか何かなんですか。いっそのこと細君に醤油でも染みこませてもらったら如何です?」
「うわっ、お前の丁寧語とかキモイ!」
イヤミの礫で攻撃すれば、椙崎はソファから起き上がって自分を抱くように腕をさすっている。キモイとは失礼な。そもそも就業中にも拘らず人の部屋に居るお前のがキモイわ。
「なんなら、ずっとこの口調で対応しましょうか、椙崎副社長?」
「やめて! 寒イボが止まらなくなるから!」
「……だったらサボってないで副社長室に帰れよ」
なぜ好き好んで副社長室より狭いここに来るんだ。
冷ややかな視線を投げ、俺は次席に腰を下ろす。成金趣味だった専務室を壁紙から全てとっぱらい、シックで落ち着く部屋にしたおかげで、リラックスしながら仕事ができる場所だったのに、椙崎のせいで意味がなくなる。
「で、俺に何が届いてるって?」
「目の前に封筒があるだろう? さっき秘書室長から預かった」
「ふうん」
言われて執務机に目を向ければ、大判の封筒には会社の住所と俺の名前が印字されていた。裏を返してみても宛名は都心が分かるだけだし、名前も見覚えがない。
だけど、これは俺が待ち望んでいたものだと、直感で感じた。
「なあなあ、何が届いたんだ? もしかしてラブレター?」
「阿呆か。こんな大判の封筒でラブレターとか届いたら、即座にシュレッダー行きに決まってるだろ」
「じゃあ、なんだよ」
三十過ぎの男が唇を尖らせて拗ねても可愛くないというのに、子供のように興味津々を前面に押し出しながら、備え付けのコーヒーメーカーからコーヒーを淹れている椙崎へと、仕方ないな、と口を開く。
「月宮くんの彼氏と称してる男の身上調査書」
「はぁ?」
驚く椙崎を無視して、ペーパーナイフで封を開くと、中には数枚の印字された紙片が入っていた。
真唯が俺が入社する前から付き合ってる男について、入社と同時に調査を依頼していたのが届いたようだ。
細かいフォントで綴られた文字を追っていく内に、俺の唇はニヤリと吊り上がる。
俺の予測通り、真唯の恋人と称してる男はクズの分類に入っていたようだ。
「さて、どう真唯と関係を切らせるか、だな」
本当は真唯を泣かせたくないけど、いつまでもズルズルあの男に引っ張られる位なら、ムリヤリでも断絶するに限る。
そんな俺をじっとりと目線を送ってくる椙崎を無視して、プライベート用に所持している端末をスーツの内ポケットから取り出すと、とある場所へと通話を繋げたのだった。
35
お気に入りに追加
1,885
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?


王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる