自作小説の悪役令嬢に転生したのですが、どうしたらいいのでしょうか?

藍沢真啓/庚あき

文字の大きさ
上 下
18 / 42
転生先は自作小説の世界でした

まずはお友達からお願いします

しおりを挟む
 突然繰り広げられたラブロマンス(しかも相手は屋敷の主人と夫人)に、使用人達は微笑み、ガイナスはこれまでの悩みが解消されうんうん頷き、王子ズは唖然。
 そして、私とリオネル兄さまはお互いの手を繋ぎ満面の笑みを浮かべる。

(良かったぁ。ほんっとに良かったね母!)

 片手が塞がれてる為、惜しみない拍手はできなかったから、脳内で代わりに拍手を送る。
 勿論こじれていた二人が思い通じたのもあるけど、兄の闇を払う事によってバッドエンドフラグをへし折れた喜びもある。
 物語には出すつもりはなかったけど、そもそも心中した原因というのが、お互いの気持ちを出さないままこじれにこじれ、夜の蝶として夜会の海を渡る妻を独占できないジレンマから病んだお父さまが母を刺殺。そして愛する人を殺してしまった為発狂したお父さまが同じナイフで自分の喉を突き自殺。というのが、物語のルートだったりする。
 うん。兄が病むのも仕方ないよね!

 なにはともあれ、今回あの二人が思い通じたから、翌年に起こるであろう心中事件は回避できたと見ていいだろう。ま、時が過ぎるまでは様子見するけどね。

「良かったですわね、お兄さま」
「ああ。ほんとに良かった」

 お互い笑みを深め、喜びを分かち合っていると、

「おい、リオネル。モチというのはまだ食べれないのか?」
「ねーねー、リオネル。僕ら朝取ってないから、結構空腹なんだよねぇ」

 と、王子ズが私達に近寄りながら空気を読めない事を訊いてくる。
 朝食食べてないって。勝手に来たのに、なんて我が儘な……。

「お兄さま、そちらの二人にお食事させてはいかがですか? 多分、あちらに出来たのがあると思いますので……」
「あ、うん。分かった。アデイラも一緒に行く?」
「いいえ。一度厨房の様子を見に行こうかなと思います」

 はぁ、と溜息つきたいのを我慢し、兄に案内を任せることにした。
 ぶっちゃけ、私がこいつらを案内したら、確実に暴力事件を起こすに違いない。
 あーあ、折角バッドフラグへし折れたのに、ここで水を差されるとは思わなかった。

 私は兄達を見送り、厨房に行こうと踵を返そうとしたんだけど、んんー?

「アデイラ、待ってくれないか!」

 兄と共に居た筈のクリストフ王子が、何故かこちらに走ってくるではないか!
 なんで、なんでよ!? 私何もしてないよね!?
 あ、もしかして、さっきの説教の件で叱られるとか!? おおう! 自らフラグ作ってどうすんのよ!
 雄叫びあげながら頭を掻きむしりたい衝動を必死に抑え、私は「なんでしょうか?」と淑女らしい微笑を湛え答える。ああ、このまま「なんでもない」って言って戻ってくれないかなぁ。

「……」
「……」

 ……おい、呼び止めておいて何も言わないんかい! そっちが何も話さないから、こっちも何も言えないじゃん。仕方ないなぁ。こちらから話を振るか。

「あの。何かお話でもあるのでしょうか?」

 優しい私が切り出してあげれば、王子は「あー」とか「まあ」とか中々本題に入ってくれない。

「もし、特に用件がないようでしたら、私急いでますので……」
「あっ、待ってくれ!」

 失礼します、と逃げの体勢に入ったものの、何故私は将来私を捨てようとするであろう王子に、がっしりと手を握られているんでしょうね?

「クリストフ王子。何か言いたいことがあるのなら、はっきり言ってくれませんか? 言葉にしなければ、貴方の気持ちも分かりませんわ」

 はっきり告げてみれば、王子は掴んでいた手の力をそっと解いてくれた。

「じゃあ……はっきり聞くが。君は俺の婚約者で、間違いないんだよな」
「まあ、そうですね」

 不本意だがな、とは言いませんよ。これでも精神年齢はアラサーですからね。

「どうして、これまで一度も俺に会いに来なかったんだ?」
「……へ?」

 一度も? 今、一度もって言いました!? 私の記憶が戻る前のアデイラって、クリストフ王子に会ってないの? どうして!?
 だって、私が考えたアデイラは、高慢で、我が儘を絵に描いたような女の子で、独占欲も過度だった筈。そんな子が最高地位にいる王族で、現時点でも美形と呼称してもいい王子と顔を合わせた事がないって?

「アデイラ、答えてくれないか」
「あー、えーと、それは……」

 知らないよ! だって、その頃のアデイラの気持ちなんて分からないもん!

「えっと、その前に、どうしてクリストフ王子は、私がこれまで会わなかった事を気にされているんですか?」
「え?」
「だって婚約しても、社交界デビューするまで会わない人たちなんてザラではありません? だから、どうしてそこまで気にされてるのかが疑問で……」

 実際はどうかは知らないけどね。でも、政略結婚なんて感情はあんまり関係ないから、初対面が結婚式でした、とかもありえるって、ガイナスが話してたのを思い出して、質問を質問で返す形にしたんだ。

「それは……」
「それは?」

 おや。こっちの質問に答えようとしてくれるらしい。意外とクリストフ王子って律儀なのかな。
 私のお話に出てきたクリストフ王子は、まっすぐな性格で、黒だと思ったらそれが友人であろうが断罪できる人だった。そこにヒロインが惹かれるって内容にするつもりだったんだよね。ああ、最後まで書きたかったなぁ……。

「正直、君と婚約しても、デビュタントまで顔を合わせるつもりもなかった。国の為の婚約って分かってたし、会わなくてもリオネルから話を聞けば済むとも思ってた。でも、この間君が作ったというちまきを食べに来た時、君はあからさまに俺から逃げる態度を取っていただろう?」
「……いえ、そんなことは……」

 うん。逃げてはいないよ。ただ、空気になってただけです。無視もしてないし、ちゃんと挨拶もしたじゃないか。

「現に今もそうだ。君は逃げ腰になってるじゃないか」

 うう……否定できない。こんな理路整然と問い詰めるタイプだったのか?

(仕方ないな……)

 私はにっこり微笑みを浮かべると、淑女の礼をもって口を開く。

「もし誤解をさせてしまったのでしたら、大変申し訳ありませんわ。私はクリストフ王子の婚約者として自信がありませんの。もしかしたら、それが態度に出てしまったのでしたら、お詫びいたしますわ」
「……誤解?」
「はい。誤解ですわ」

 にーっこり笑みを深く刻み言葉を畳む。頼むからこれ以上追求してくれるな。「実は貴方は将来、私との婚約を破棄して、可愛いヒロインとくっついた後、私を罪人として断罪するのです」なんて言える訳ないじゃないか! 頼むから、暴言が口をついて出る前に退散してくれませんかね?

「本当に、俺との婚約が嫌で避けてる訳ではない……と?」
「嫌もなにも、私の独断で反対なんてできません。それはクリストフ王子もご存知でいらっしゃるのでは?」
「それは……まあ」
「でしたら、まだ本格的な婚約まで時間がございます。今しばらくそっと見守ってはいただけないでしょうか?」

 これで妥協してくれないかな。正直、あんまり執拗過ぎると、自分でもなにをするか分からないからね。
 一応、前の自分の好みで容姿とか決めてるから、グイグイ迫られると困るっていうか……。

「そうですね……。でしたら、婚約云々は別に置いて、まずはお友達として接してはくれませんか?」

 そうして無意識に出たお友達宣言。……って、何言っちゃってんの私! 距離置こうとしてるのに、自ら首絞めるような事言ってるんだ私!!

「友達か……」

 クリストフ王子は拳を唇に充て思案した後、

「そうだな、お互い何も知らない部分が多い。将来を共にする為に、交流をはからろう、アデイラ!」
「……そう、ですわね……」

 後光が射すような輝かしい笑みを浮かべ告げるその言葉に、私はハハハと乾いた笑いで返すしかできなかったのである。

 どうしてこうなった私!
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...