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新しい仲間と甘くてしょっぱい感情
わたくしとわたしの願い(????視点)
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可憐で健気な少女を虐めぬき、公爵令嬢で王子の婚約者という立場を悪用し、自分の立場を揺るがす少女を抹殺しようとする悪役令嬢。それがアデイラ・マリカ・ドゥーガン。
波打つ白銀の髪に釣り目がちな紫の瞳。高貴な相貌は母が王家の人間だったから。
しかし、本来なら愛情を注いでくれる筈の父も母もとうに亡くなり、跡を継いだのは他人のような兄、リオネル。
わたくしは愛されたかった。
父に。母に。兄に。家の使用人達に。それから──最愛の婚約者に。
だけど愛されずに育ったわたくしは、人に振り向いてもらえる術を知らずに今日まで生きてきた。だから、私を見てもらいたくて、彼らの大切な女性にちょっかいを出す事にしたのだ。
予想通り彼らはわたくしを見てくれた。
予想とは違い、その向ける眼差しは敵意に満ちていて、更に自分を傷つけてしまったけども。
「愛される」というのを知らないわたくしは、わたくしが欲してる彼らの視線を集める少女が憎くて堪らなかった。
何故、わたくしには冷たい眼差しなのに、彼女には春のような目線を向けるのですか?
ねえ、クリストフ様。わたくしは貴方様の婚約者ですのに、どうしてそんなにも冷たいのですか?
ねえ、リオネルお兄様。わたくし達、たった二人の兄妹ですのに、何故彼女とばかりお話されるのですか?
ねえ、ねえ、ねえ……!
わたくしを一人にしないで……!
わたくしの嘆きはみんなには届かない。
だからわたくしはみんなが大切にしている彼女に構う。みんながわたくしへ注目してくれるように。
だけど、わたくしは最初の選択から間違ってしまっていたようです。
早くに両親を亡くし、ドゥーガン家当主としての兄様を労わなくてはいけなかった。
そもそも、拗れた家族を正さなくてはならなかった。
クリストフ様ともっと飾らずに会話をして、大切にしなくてはならなかった。
カールフェルド様やルドルフ様ともクリストフ様を支える臣下同士として話さなくてはならなかった。
もっと。もっと。もっと……
努力を怠り、高慢ちきなわたくしは、刃に貫かれ命を絶つ事になったのでしょう。
『ごめんね』
小さく微かな声がわたくしに謝罪を告げてくる。
『ごめんね、アデイラ』
なぜ、そんなに泣かれるのです? 悪いのはわたくしが全て……
『あなたの罪は私の罪。私はあなたの命を軽んじていた。私なら、あなたを救う術を持っていたのに……』
いいえ。いいえ。
わたくしが全部悪いのです。あなたには何も罪はありません。
ですが……
『なに? なんでも言って。私は神様じゃないから、確実に叶える事を約束できないけど、私のやれる範囲内の願いなら絶対叶えてみせるから』
ふふ。正直な方ですのね。
でしたら、ふたつ願いがあるのです。
「ひとつは、この捻れた世界を、あなたに正してもらいたいのです。兄も婚約者も、将来主を支える臣下達も、わたくしが傷つけてしまった人たち全てが、ずっと笑顔で過ごせる運命を、あなたがわたくしとなって導いて欲しいのです」
『……』
「もうひとつは、わたくしをこの世界とは違う世界で生まれ変わらせてくださいませ。身分も関係のない、平和で穏やかな、とても退屈な世界へと」
偽りのない本心を願えば、少しの沈黙の後。
『ひとつめの願いは私でも可能だと思う。でも、もうひとつの願いは私には権限がないから、ただ願う事しかできない。それでもいい?』
それでも構いませんわ。
願いは一人でも力となる。それが神様に近いあなたと二人なら、より強固な力となりますもの。
あなたが頷くのが分かります。
きっと、わたくしの願いは成就する事でしょう。
『あなたを沢山傷つけてごめんね、アデイラ』
もう謝らないでください。わたくしを作ってくれたあなた。
二人で幸せになりましょう?
わたくしがそう言うと『そうだね』と微かに笑う声が聞こえてきます。
そろそろ決して交わる事のないわたくし達の逢瀬は終わってしまいそうですね。
わたくしの体がだんだん白に溶け込んでいきます……
幸せにことほぎを。
わたくしの周りに幸せを。それはあなたも含まれているのですよ。もう一人のアデイラ。
次は絶対に間違えないと知っています。だって、わたくし達を作ってくれたあなたですから……
「あーちゃん。早くしないと置いてくわよぉ」
「ママ、まってぇ」
桜の花がちらちら舞う霊園は、生と死が混在していて少し怖い。でも、父も母も手をつないでくれるから、温かくて少しだけ心強い。
「パパ、どこに行くの?」
わたくし──いいえ、幼いわたしが問えば、父は目の奥を少しだけ潤ませるのを誤魔化すように、ミルクブルーの空を見上げ応える。
「あーちゃんのお姉ちゃんのところだよ」
「おねえちゃん?」
「そう。あーちゃんが生まれる少し前に病気で亡くなってしまったの。今日はね、あーちゃんが入学式をしましたよ、って教える為に来たのよ」
「ふうん」
わたしと入れ替わるように亡くなった姉。
生まれてから死ぬまでの殆どを病院で過ごした寂しい女性。
故に、わたしが父と母と呼んでいる男女も、到底わたしを生む年齢ではなく、未婚で出産する女性と縁を結んで引き取られたのがわたし。
だけどわたしは知っている。
この優しい夫婦が、前のわたしを作ってくれた神様のご両親であると。
わたしとあなたが出会った事で、運命は確実に変わっている。
ねえ、あなた。
怯えないで。あなたはわたしと同じ運命を辿らないと知っているから。
彼らもあなたと関わった事で、元の運命じゃないのを知っているから。
だから、わたくしの世界で、あなたはあなたらしく幸せになるのを、ずっと願っているわ。
「しあわせになってね、おねえちゃん」
波打つ白銀の髪に釣り目がちな紫の瞳。高貴な相貌は母が王家の人間だったから。
しかし、本来なら愛情を注いでくれる筈の父も母もとうに亡くなり、跡を継いだのは他人のような兄、リオネル。
わたくしは愛されたかった。
父に。母に。兄に。家の使用人達に。それから──最愛の婚約者に。
だけど愛されずに育ったわたくしは、人に振り向いてもらえる術を知らずに今日まで生きてきた。だから、私を見てもらいたくて、彼らの大切な女性にちょっかいを出す事にしたのだ。
予想通り彼らはわたくしを見てくれた。
予想とは違い、その向ける眼差しは敵意に満ちていて、更に自分を傷つけてしまったけども。
「愛される」というのを知らないわたくしは、わたくしが欲してる彼らの視線を集める少女が憎くて堪らなかった。
何故、わたくしには冷たい眼差しなのに、彼女には春のような目線を向けるのですか?
ねえ、クリストフ様。わたくしは貴方様の婚約者ですのに、どうしてそんなにも冷たいのですか?
ねえ、リオネルお兄様。わたくし達、たった二人の兄妹ですのに、何故彼女とばかりお話されるのですか?
ねえ、ねえ、ねえ……!
わたくしを一人にしないで……!
わたくしの嘆きはみんなには届かない。
だからわたくしはみんなが大切にしている彼女に構う。みんながわたくしへ注目してくれるように。
だけど、わたくしは最初の選択から間違ってしまっていたようです。
早くに両親を亡くし、ドゥーガン家当主としての兄様を労わなくてはいけなかった。
そもそも、拗れた家族を正さなくてはならなかった。
クリストフ様ともっと飾らずに会話をして、大切にしなくてはならなかった。
カールフェルド様やルドルフ様ともクリストフ様を支える臣下同士として話さなくてはならなかった。
もっと。もっと。もっと……
努力を怠り、高慢ちきなわたくしは、刃に貫かれ命を絶つ事になったのでしょう。
『ごめんね』
小さく微かな声がわたくしに謝罪を告げてくる。
『ごめんね、アデイラ』
なぜ、そんなに泣かれるのです? 悪いのはわたくしが全て……
『あなたの罪は私の罪。私はあなたの命を軽んじていた。私なら、あなたを救う術を持っていたのに……』
いいえ。いいえ。
わたくしが全部悪いのです。あなたには何も罪はありません。
ですが……
『なに? なんでも言って。私は神様じゃないから、確実に叶える事を約束できないけど、私のやれる範囲内の願いなら絶対叶えてみせるから』
ふふ。正直な方ですのね。
でしたら、ふたつ願いがあるのです。
「ひとつは、この捻れた世界を、あなたに正してもらいたいのです。兄も婚約者も、将来主を支える臣下達も、わたくしが傷つけてしまった人たち全てが、ずっと笑顔で過ごせる運命を、あなたがわたくしとなって導いて欲しいのです」
『……』
「もうひとつは、わたくしをこの世界とは違う世界で生まれ変わらせてくださいませ。身分も関係のない、平和で穏やかな、とても退屈な世界へと」
偽りのない本心を願えば、少しの沈黙の後。
『ひとつめの願いは私でも可能だと思う。でも、もうひとつの願いは私には権限がないから、ただ願う事しかできない。それでもいい?』
それでも構いませんわ。
願いは一人でも力となる。それが神様に近いあなたと二人なら、より強固な力となりますもの。
あなたが頷くのが分かります。
きっと、わたくしの願いは成就する事でしょう。
『あなたを沢山傷つけてごめんね、アデイラ』
もう謝らないでください。わたくしを作ってくれたあなた。
二人で幸せになりましょう?
わたくしがそう言うと『そうだね』と微かに笑う声が聞こえてきます。
そろそろ決して交わる事のないわたくし達の逢瀬は終わってしまいそうですね。
わたくしの体がだんだん白に溶け込んでいきます……
幸せにことほぎを。
わたくしの周りに幸せを。それはあなたも含まれているのですよ。もう一人のアデイラ。
次は絶対に間違えないと知っています。だって、わたくし達を作ってくれたあなたですから……
「あーちゃん。早くしないと置いてくわよぉ」
「ママ、まってぇ」
桜の花がちらちら舞う霊園は、生と死が混在していて少し怖い。でも、父も母も手をつないでくれるから、温かくて少しだけ心強い。
「パパ、どこに行くの?」
わたくし──いいえ、幼いわたしが問えば、父は目の奥を少しだけ潤ませるのを誤魔化すように、ミルクブルーの空を見上げ応える。
「あーちゃんのお姉ちゃんのところだよ」
「おねえちゃん?」
「そう。あーちゃんが生まれる少し前に病気で亡くなってしまったの。今日はね、あーちゃんが入学式をしましたよ、って教える為に来たのよ」
「ふうん」
わたしと入れ替わるように亡くなった姉。
生まれてから死ぬまでの殆どを病院で過ごした寂しい女性。
故に、わたしが父と母と呼んでいる男女も、到底わたしを生む年齢ではなく、未婚で出産する女性と縁を結んで引き取られたのがわたし。
だけどわたしは知っている。
この優しい夫婦が、前のわたしを作ってくれた神様のご両親であると。
わたしとあなたが出会った事で、運命は確実に変わっている。
ねえ、あなた。
怯えないで。あなたはわたしと同じ運命を辿らないと知っているから。
彼らもあなたと関わった事で、元の運命じゃないのを知っているから。
だから、わたくしの世界で、あなたはあなたらしく幸せになるのを、ずっと願っているわ。
「しあわせになってね、おねえちゃん」
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