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新しい仲間と甘くてしょっぱい感情
ドナドナされた令嬢が遭難したのですが
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「帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい」
「アデイラ、呪詛を吐くのをやめようか。さっきからカールが真っ青な顔で震えてるから」
こんにちは。アデイラ・マリカ・ドゥーガンでございます。現在、無理やり馬車に乗せられ王城へとドナドナされております。
というか、リオネル兄様よ。言うに事欠いて呪詛は酷いんじゃありませんか?
「失礼ですわ、兄様。私は行きたくない、と言ったじゃありませんか。それを兄様とカール様が強引に馬車へと乗せたのではありませんか」
「君は正式な婚約者だよ? 故意ではなく不慮な事故とはいえ、クリスが風邪をひいたのは我が家の責だし、お見舞いのプリンも作った本人が行けば、毒見の負担も減るだろ?」
「でしたら、持っていくのはお兄様でも問題ないのでは?」
向かい合って座る兄様へと冷ややかに応酬すれば、彼はニヤリと形容しそうな維持の悪い笑みを浮かべ口を開く。
「何が楽しくて男の見舞いを僕が持っていかなきゃいけないんだい? というか、そもそも僕が王城に出向く必要はなかったんだよ。アデイラがあそこまで抵抗してなければ、ね」
鷹揚に投げつけられた言葉に、私はぐぬぬと兄を睨むしかできない。
だって! 王城なんてフラグがどこに転がってるか分からないんだもん! そんな魔窟に誰が好きこのんで行きたいかっての!
ああ、兄様にそう暴言を吐けたなら、今こうして馬車に揺られてないんだけど。
(なんか。リオネル兄様の根底にあった原因を取り除いたのはいいけど、性格まで変わった気がするんだけど。これって本当に良かったのかな)
私は遠い目をしながら、物語とはいえ、自分が当初設定した兄の人生を矯正したのが、本当に正しかったのかと自問自答するのだった。
さて、馬車に乗ったまま逃亡は不可能だったため、やってきました王城へ。
「はわぁ……」
跳ね橋を通り過ぎ、兄のエスコートで馬車から降りた私は、令嬢にあるまじき間抜けな顔で城を見上げる。
ドゥーガン家のハウスタウンもそれなりの大きさだけど、王城と比べるまでもない。荘厳にそびえ立つ白亜の城は、前世知識で比較すると、ノイシュヴァンシュタイン城にちょっと似てる……かな?
「なに間抜けな顔してるの。前にクリスとの婚約式で来たじゃないか」
呆れたようにリオネル兄様が言うので、「あの時は、私ではなかったので……」と小声で返せば、「ああ、そうだったね」とこちらも返してくれる。
こんな時、兄様に転生の秘密を話していて良かったと思う。
ぶっちゃけ、まだまだ話してない部分も多いんだけど。
それでも理解してくれる存在があるというのは、心強いものである。
「少し母上の所に寄ってから兄上の部屋に行くから、先に二人をそちらへ案内してあげて」
「かしこまりました」
「二人共先に行ってて。後から追いかけるから」
「ゆっくりしてくればいいから」
「ありがとう、リオネル。じゃ、よろしく!」
ぼそぼそと会話をしていた私たち兄妹を横に、カールフェルド殿下は、近くにいた近衛兵にそう告げ、さっさと王城の奥へと駆け出してしまった。
「お兄様、母上って?」
王妃様の事だと思って兄にこそりと尋ねてみれば、
「それは後で説明してあげるから」
暗に今は聞いてくれるな、と目が語っていた。
渋々ながらも、後から説明してくれるならいいか、と頷き返すと、近衛兵を先頭にして、私たちも王城の奥へと進んだのである。
私が設定した物語では、クリス殿下とカールフェルド殿下は双子と設定してあった。
わずかな時間差で産まれた二人だったが、その産まれた順番で彼らの一生が決まってしまった。かたや時期王太子、かたや王子。
しかも、優秀な兄と比べられたカールフェルド殿下は、普通ならひねくれそうな性格になってもおかしくないのに、父である王や母である王妃に兄同様大切に愛され、いつしか私の父に師事するように。
ちょっとチャラいのが玉に瑕だけど、兄と比べないヒロインに惹かれていく──というのが概要である。
(なのに、カールフェルド殿下は『母上』と言った。確かに母親だから、間違ってないんだけど、少し違和感感じたんだよなぁ)
てけてけと歩きながら、壁にかかる絵画や彫像に見蕩れつつ思案の海に潜っていたら、兄様から「行儀悪いよ、アデイラ」と何度か窘められたんだけど、それもしばらく聞こえなくなって、思わず足を止めて兄の姿を探す。
「あれ? 兄様?」
私の前を歩いてた筈なのに、いつの間にか兄が消えている。それ、なんてマジック……。
「じゃなくて! ここ、どこなんですか!?」
アデイラ・マリカ・ドゥーガン十歳。どうやら迷子になってしまったようです。
「おうふ……。こんな迷宮で遭難とか……」
迷子の鉄則、その場で待機──はせず、来た回廊を思い出しながら歩いてたんだけど、曲がれども曲がれども記憶にあった場所から外れてしまい、思わず途方にくれた私ですが。
「遭難?」
妙に近くから聞いたことのない声が聞こえ、後ずさりしながら声と距離を取ってしまいました。うおぅ、びっくりした。
「ねえ、君。遭難したって本当?」
柱の影から現れた人物は、首を傾げながらそう言ってくる。
「は……ぃ」
素直な私は律儀に質問に答えようとしたんだけど、相手の顔を見て言葉が尻すぼみになってしまう。
(な、なんなの。この美形は!)
私がそう心の中で叫んだとしても仕方ないと思う。
年齢は私より少し上……多分、十六歳くらいかな。すらりとした体躯を全身真っ黒の衣装で包み、髪もカラスの濡れ羽色だからか、白皙の顔が目立つし、それ以上に紅玉《ルビー》の瞳が艶かしく光ってるのが、なんというかセクシーというか。
というか、王城でこんな真っ黒な格好って、余計目立つんじゃないのか?
「ええ、と。失礼ですが、あなたの名を訊いても?」
本当はレディから男性の名を尋ねるのは、あんまりマナーとしてはなってないけど、今はそれどころじゃない。さっくりクリス殿下の部屋に行かないと、リオネル兄様の躾という名の拷問が怖い……。
「僕? ジルって言うよ」
「ジル様……ですか」
んー? そんな名前の貴族子息っていたっけか?
脳内でペラペラと貴族名鑑をまくってみるんだけど、ジルって名前には思い当たらない。
「すみませんが、どちらの……」
「ねえ、さっき遭難したって言ったよね?」
「え、ええ」
「どこに行きたいの?」
お家の名前を尋ねようとしたんだけど、言葉を遮られてしまった。
なんか、むりくり話を変えられた気がするんだけど、言われてみれば私遭難中じゃん!
でもなぁ、めっちゃ怪しいこの人に、馬鹿正直に行き先言っちゃってもいいんだろうか。確かにイケメンだけどさぁ。
「僕、王城の中ならどこでも知ってるから、君を案内できるんだけど」
「是非! 是非お願いします!」
この際怪しかろうが何だろうが構いません! 兄様の折檻回避のためなら、多少のリスクは覚悟します!
もやっと浮かんだ警戒心を投げ捨て、ジル様に案内をお願いしたのでした。
ジル様に手を引かれ、いくつも回廊を曲がり階段を昇りをしている間、無言なのも落ち着かなくて色々お話しながら歩きます。
「では、ジル様は親衛隊の方なんですか?」
「うん。今日はお休みだったから、城の中を散歩してた」
断片的な話を統合すると、ジル様は幼少期から城の中で働く方で、一年前ほどに親衛隊──王族を主に守護する騎士に所属されたそうです。
(そう言われてみれば納得はできるんだけど、なんだか違う気もするんだよなぁ)
確かに均等の取れた肢体は華奢に見えるが、腕まくりした袖の先にある部分はそれなりに筋肉がついてるし、今手を握る掌にも剣を持つ人特有のタコとかもある。
だけど私の直感が囁くんだ。この人本当の事言ってないって。
でも、わざわざ問い質したりしませんよ。無駄にやぶをつついて蛇を出したくないもん。
下手打ってデッドエンドまっしぐらとかごめんです!
「あ、あそこがクリストフ殿下のお部屋だよ」
あえて差し障りのない会話をしていると、ジル様が足を止めそう言います。
「部屋の前に立ってる衛兵に言えば入れてもられると思うから」
「ああっ、待ってください!」
じゃあね、と立ち去ろうとするジル様を引き止め、私は持っていたバスケットの中をゴソゴソとさぐり、小さな包みをジル様に差し出します。
「ありがとうございました、ジル様。おかげで遭難死しなくて済みましたわ」
にっこり笑い、淑女の礼でもって感謝を告げます。お礼大事。
「お口に合うか分かりませんが、食べて頂ければ嬉しいです」
私はそう言って、クリス殿下の部屋へと駆け出しました。背後で「ありがとう」って聞こえたから、少しでも喜んでもらえたらいいな。
不思議な出会いで心軽く殿下の部屋の前に立つ衛兵さんに声をかけようとしたところで。
「アデイラ! どこ行ってたの、途中で消えたから探したんだよ!」
私が来た方と反対の回廊から兄様の叫び声が聞こえて、思わず硬直します。
まずい……これ、絶対お仕置きされる展開……。
「ごめんなさい、兄様っ」
怒られる前に平身低頭! これもお兄様との付き合いで身につけた技です。
「あ、う、ま、まあ、反省してるなら……」
いきなり土下座する勢いで謝ったからか、リオネル兄様はギョッと目を見開き戦いている。よしっ、これでお説教はまぬがれ……。
「と思ったら大間違いだよ、ア デ イ ラ ?」
なかったー!
兄様は拳を私のこめかみに当てて、グリグリ押し付けてくる……いだだだっ!
「いたいっ、いたいです、兄様っ!」
「おやおや、まだ反省が足りないみたいだね」
黒い笑みを浮かべ、更にグリグリ度が増した痛みに耐え切れず、私は悲痛な声で叫んだのでした。
「いだだだだ! やーめーてーぇぇぇ!」
「アデイラ、呪詛を吐くのをやめようか。さっきからカールが真っ青な顔で震えてるから」
こんにちは。アデイラ・マリカ・ドゥーガンでございます。現在、無理やり馬車に乗せられ王城へとドナドナされております。
というか、リオネル兄様よ。言うに事欠いて呪詛は酷いんじゃありませんか?
「失礼ですわ、兄様。私は行きたくない、と言ったじゃありませんか。それを兄様とカール様が強引に馬車へと乗せたのではありませんか」
「君は正式な婚約者だよ? 故意ではなく不慮な事故とはいえ、クリスが風邪をひいたのは我が家の責だし、お見舞いのプリンも作った本人が行けば、毒見の負担も減るだろ?」
「でしたら、持っていくのはお兄様でも問題ないのでは?」
向かい合って座る兄様へと冷ややかに応酬すれば、彼はニヤリと形容しそうな維持の悪い笑みを浮かべ口を開く。
「何が楽しくて男の見舞いを僕が持っていかなきゃいけないんだい? というか、そもそも僕が王城に出向く必要はなかったんだよ。アデイラがあそこまで抵抗してなければ、ね」
鷹揚に投げつけられた言葉に、私はぐぬぬと兄を睨むしかできない。
だって! 王城なんてフラグがどこに転がってるか分からないんだもん! そんな魔窟に誰が好きこのんで行きたいかっての!
ああ、兄様にそう暴言を吐けたなら、今こうして馬車に揺られてないんだけど。
(なんか。リオネル兄様の根底にあった原因を取り除いたのはいいけど、性格まで変わった気がするんだけど。これって本当に良かったのかな)
私は遠い目をしながら、物語とはいえ、自分が当初設定した兄の人生を矯正したのが、本当に正しかったのかと自問自答するのだった。
さて、馬車に乗ったまま逃亡は不可能だったため、やってきました王城へ。
「はわぁ……」
跳ね橋を通り過ぎ、兄のエスコートで馬車から降りた私は、令嬢にあるまじき間抜けな顔で城を見上げる。
ドゥーガン家のハウスタウンもそれなりの大きさだけど、王城と比べるまでもない。荘厳にそびえ立つ白亜の城は、前世知識で比較すると、ノイシュヴァンシュタイン城にちょっと似てる……かな?
「なに間抜けな顔してるの。前にクリスとの婚約式で来たじゃないか」
呆れたようにリオネル兄様が言うので、「あの時は、私ではなかったので……」と小声で返せば、「ああ、そうだったね」とこちらも返してくれる。
こんな時、兄様に転生の秘密を話していて良かったと思う。
ぶっちゃけ、まだまだ話してない部分も多いんだけど。
それでも理解してくれる存在があるというのは、心強いものである。
「少し母上の所に寄ってから兄上の部屋に行くから、先に二人をそちらへ案内してあげて」
「かしこまりました」
「二人共先に行ってて。後から追いかけるから」
「ゆっくりしてくればいいから」
「ありがとう、リオネル。じゃ、よろしく!」
ぼそぼそと会話をしていた私たち兄妹を横に、カールフェルド殿下は、近くにいた近衛兵にそう告げ、さっさと王城の奥へと駆け出してしまった。
「お兄様、母上って?」
王妃様の事だと思って兄にこそりと尋ねてみれば、
「それは後で説明してあげるから」
暗に今は聞いてくれるな、と目が語っていた。
渋々ながらも、後から説明してくれるならいいか、と頷き返すと、近衛兵を先頭にして、私たちも王城の奥へと進んだのである。
私が設定した物語では、クリス殿下とカールフェルド殿下は双子と設定してあった。
わずかな時間差で産まれた二人だったが、その産まれた順番で彼らの一生が決まってしまった。かたや時期王太子、かたや王子。
しかも、優秀な兄と比べられたカールフェルド殿下は、普通ならひねくれそうな性格になってもおかしくないのに、父である王や母である王妃に兄同様大切に愛され、いつしか私の父に師事するように。
ちょっとチャラいのが玉に瑕だけど、兄と比べないヒロインに惹かれていく──というのが概要である。
(なのに、カールフェルド殿下は『母上』と言った。確かに母親だから、間違ってないんだけど、少し違和感感じたんだよなぁ)
てけてけと歩きながら、壁にかかる絵画や彫像に見蕩れつつ思案の海に潜っていたら、兄様から「行儀悪いよ、アデイラ」と何度か窘められたんだけど、それもしばらく聞こえなくなって、思わず足を止めて兄の姿を探す。
「あれ? 兄様?」
私の前を歩いてた筈なのに、いつの間にか兄が消えている。それ、なんてマジック……。
「じゃなくて! ここ、どこなんですか!?」
アデイラ・マリカ・ドゥーガン十歳。どうやら迷子になってしまったようです。
「おうふ……。こんな迷宮で遭難とか……」
迷子の鉄則、その場で待機──はせず、来た回廊を思い出しながら歩いてたんだけど、曲がれども曲がれども記憶にあった場所から外れてしまい、思わず途方にくれた私ですが。
「遭難?」
妙に近くから聞いたことのない声が聞こえ、後ずさりしながら声と距離を取ってしまいました。うおぅ、びっくりした。
「ねえ、君。遭難したって本当?」
柱の影から現れた人物は、首を傾げながらそう言ってくる。
「は……ぃ」
素直な私は律儀に質問に答えようとしたんだけど、相手の顔を見て言葉が尻すぼみになってしまう。
(な、なんなの。この美形は!)
私がそう心の中で叫んだとしても仕方ないと思う。
年齢は私より少し上……多分、十六歳くらいかな。すらりとした体躯を全身真っ黒の衣装で包み、髪もカラスの濡れ羽色だからか、白皙の顔が目立つし、それ以上に紅玉《ルビー》の瞳が艶かしく光ってるのが、なんというかセクシーというか。
というか、王城でこんな真っ黒な格好って、余計目立つんじゃないのか?
「ええ、と。失礼ですが、あなたの名を訊いても?」
本当はレディから男性の名を尋ねるのは、あんまりマナーとしてはなってないけど、今はそれどころじゃない。さっくりクリス殿下の部屋に行かないと、リオネル兄様の躾という名の拷問が怖い……。
「僕? ジルって言うよ」
「ジル様……ですか」
んー? そんな名前の貴族子息っていたっけか?
脳内でペラペラと貴族名鑑をまくってみるんだけど、ジルって名前には思い当たらない。
「すみませんが、どちらの……」
「ねえ、さっき遭難したって言ったよね?」
「え、ええ」
「どこに行きたいの?」
お家の名前を尋ねようとしたんだけど、言葉を遮られてしまった。
なんか、むりくり話を変えられた気がするんだけど、言われてみれば私遭難中じゃん!
でもなぁ、めっちゃ怪しいこの人に、馬鹿正直に行き先言っちゃってもいいんだろうか。確かにイケメンだけどさぁ。
「僕、王城の中ならどこでも知ってるから、君を案内できるんだけど」
「是非! 是非お願いします!」
この際怪しかろうが何だろうが構いません! 兄様の折檻回避のためなら、多少のリスクは覚悟します!
もやっと浮かんだ警戒心を投げ捨て、ジル様に案内をお願いしたのでした。
ジル様に手を引かれ、いくつも回廊を曲がり階段を昇りをしている間、無言なのも落ち着かなくて色々お話しながら歩きます。
「では、ジル様は親衛隊の方なんですか?」
「うん。今日はお休みだったから、城の中を散歩してた」
断片的な話を統合すると、ジル様は幼少期から城の中で働く方で、一年前ほどに親衛隊──王族を主に守護する騎士に所属されたそうです。
(そう言われてみれば納得はできるんだけど、なんだか違う気もするんだよなぁ)
確かに均等の取れた肢体は華奢に見えるが、腕まくりした袖の先にある部分はそれなりに筋肉がついてるし、今手を握る掌にも剣を持つ人特有のタコとかもある。
だけど私の直感が囁くんだ。この人本当の事言ってないって。
でも、わざわざ問い質したりしませんよ。無駄にやぶをつついて蛇を出したくないもん。
下手打ってデッドエンドまっしぐらとかごめんです!
「あ、あそこがクリストフ殿下のお部屋だよ」
あえて差し障りのない会話をしていると、ジル様が足を止めそう言います。
「部屋の前に立ってる衛兵に言えば入れてもられると思うから」
「ああっ、待ってください!」
じゃあね、と立ち去ろうとするジル様を引き止め、私は持っていたバスケットの中をゴソゴソとさぐり、小さな包みをジル様に差し出します。
「ありがとうございました、ジル様。おかげで遭難死しなくて済みましたわ」
にっこり笑い、淑女の礼でもって感謝を告げます。お礼大事。
「お口に合うか分かりませんが、食べて頂ければ嬉しいです」
私はそう言って、クリス殿下の部屋へと駆け出しました。背後で「ありがとう」って聞こえたから、少しでも喜んでもらえたらいいな。
不思議な出会いで心軽く殿下の部屋の前に立つ衛兵さんに声をかけようとしたところで。
「アデイラ! どこ行ってたの、途中で消えたから探したんだよ!」
私が来た方と反対の回廊から兄様の叫び声が聞こえて、思わず硬直します。
まずい……これ、絶対お仕置きされる展開……。
「ごめんなさい、兄様っ」
怒られる前に平身低頭! これもお兄様との付き合いで身につけた技です。
「あ、う、ま、まあ、反省してるなら……」
いきなり土下座する勢いで謝ったからか、リオネル兄様はギョッと目を見開き戦いている。よしっ、これでお説教はまぬがれ……。
「と思ったら大間違いだよ、ア デ イ ラ ?」
なかったー!
兄様は拳を私のこめかみに当てて、グリグリ押し付けてくる……いだだだっ!
「いたいっ、いたいです、兄様っ!」
「おやおや、まだ反省が足りないみたいだね」
黒い笑みを浮かべ、更にグリグリ度が増した痛みに耐え切れず、私は悲痛な声で叫んだのでした。
「いだだだだ! やーめーてーぇぇぇ!」
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