おいでよ血塗女子高等学校~偏差値12なのでヤンキーしかいない女子校に入学したけど、なんだかんだ幸せ!~

羽韮ソルト

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血みどろの学生生活、開幕!

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 ヤンキー、ヤクザ、不良……微々たる差はあれど、大別すれば似た存在。
 乱暴な言い方をすれば、社会のガン・ゴミクズ・腐ったミカン……これは流石に乱暴すぎるか。

 呼び方はさておき、昔は幅を利かせていた彼、彼女らが次第に鳴りを潜め、現代ではマイノリティに追い込まれている。
 反社会的な人々には、逆風吹きすさぶ世知辛い時代。

 一人減って、二人減って、減り続けて。しかし決して、ゼロにはならない。
 いくつものミカンがあれば、どれかは腐る。


 そう、今この時も――


 話は逸れるが、今は四月上旬。新たな年度が始まる、門出の時期だ。
 丁度ここにも、新しい制服に身を包み、今まさに新たな生活に繰り出さんとする二人の少女がいた。

「入学式、入学式~♪ そして終われば卒業式だぞ、がおーっ♪」
「卒業式まで三年間あるし学校に怪獣はいないですよ、なのちゃん」
「そーなの!? ゴーイングやんごとなしじゃないの!?」
「光陰矢の如しですね。合っていますがなのちゃんが想像してるより、時間はゆっくりですよ」

 不良とは無縁そうな、二人の少女。
 方や凛とした佇まいに柔和な笑みを浮かべた、黒髪の美少女。才色兼備、眉目秀麗、文武両道……華々しい四字熟語が似合いそうな、隙のない雰囲気の少女。

 そしてもう片方は。

「ねえねえみおちゃん! 給食、どんなのかな!? 焼肉定食に、タピオカとか付くかな!?」
「なのちゃん、給食は出ないですよ? 今日からお弁当じゃないですか」
「え、えええ!? どうしよう! なの、キャラメルポップコーン二袋しか持ってない……。お友達作って、分けてもらうしかないかぁ。目指せ、友達百億万人!」

 悩みも知性も持ち合わせていないだろう、身長百三十センチほどの小柄な少女。
 ランドセルこそ背負っていないが、小学生にしか見えない。

「はぁ。なのちゃん、本当に大丈夫ですか? 今日から高校生だなんて……私は、非常に心配です」
「大丈夫! なの、高校生できるよ! いーっぱいお勉強して、試験愛かったんだもん! 今日からちま高の、ビカビカ一年生っ!」

 しかし彼女は、高校生だ。
 もちもちほっぺがチャームポイントな小動物系女子、小和水こごみなの。年齢詐称でも裏口入学でもなく、今日から高校一年生の十五歳。
 
 のほほんと笑うなのを見下ろし、隣を歩く長身の美少女、時時雨澪ときしぐれみおは嘆息した。

「受かったって言っても、ちま高は……」
 ちま高とは、なのが今日から通うことになる学校の愛称だ。ちなみに、澪はちま高ではなく別の進学校へ入学する。
「待った!」

 澪の言葉を遮り、なのが叫んだ。ぴょんぴょん跳ねながら、
「なの、美味しい物は最後にとっておく派! でも我慢できなくて結局先に食べちゃう派!」
「え、えーと、それで?」
 難解な主張に、付き合いの長い澪でさえ困惑している。
 だがなのはどこ吹く風、眩い笑顔でこう言った。

「入学してみての、お楽しみ! 何があるかな、何が出るかな~」

 待ち受ける学生生活が、前途洋々であると信じ切っている。
 そんな様子に、澪はこれ以上口を挟めなかった。
 ただ一言、別れ際に。

「なのちゃん……何かあったら、学校を辞めても、いいんですからね? 学校ではその、みだりに目を合わせたりせず、怪我に気を付けてください。そして……困ったら私に頼ってください。私はいつでも、なのちゃんの味方ですから」
「うん! バイバイ、澪ちゃん! またねー!」

 まるで今生の別れかのように、澪の顔は暗い。それは彼女が、ちま高について知っているからだ。というか、この町でちま高について無知なのは、当の本人だけである。
 
「どんな学校なのかな、お花咲いてるといいな~」
 
 咲いているのはお前の脳内フラワーだ。それはもう、満開で。

 

 澪と別れて五分後、なのはちま高の校門前に辿り着いた。
「わ~、これがちま――」
 
 ブゥゥウウウウウウン!! なのの言葉は、けたたましいエンジン音によって遮られた。
 気を取り直して、テイク2。

「わ~、これがちま――」
「死に晒せおらぁ!!」
「てめぇが死ねドラァ!!」

 今度はドスの利いた罵声の応酬が、言葉を遮った。あちらこちらで、怒声と悲鳴が飛び交う。
 流石のなのも、異常事態に気づく――

 ――皆緊張して、トゲトゲしちゃってるんだね! 分かる分かる、なのにもそういう時期が、ありましたとも……。
 
 わけがなかった。どこまでものほほん全開、能天気の極みである。
 
「ぶおんぶおーんって、皆の自転車かっこいいな~。なのもああいうの、欲しい!」

 なのが自転車だと思い込んでいるのは、けたたましいエンジン音と排気ガスを撒き散らす悪魔の乗り物……バイクである。
 グラウンド中を、愛車で乗り回している輩が埋め尽くしているのだ。
 これが高校かぁ、と場違いな感想を抱き、なのは校門に目を向けた。

「へ~、お絵かきもしていいんだ! 楽しそう!」

 落書きで汚された、神聖なる学び舎の門。いくつかの落書きを、抜粋しよう。

『喧嘩上等』
『単車命』
『夜露死苦』

 どんなに鈍い方でも、もう察しただろう。
 最も、この少女だけはいつまで経っても気が付かない。

「難しい漢字いっぱいで読めないよぉ。あっ、そういえば……ちま高の正式なお名前って、なんだろ? んーと……なんたらかんたら、女子……高! なんたらかんたら女子高だ! わーーーい!」
 
 なのは両手を飛行機のように広げ、上機嫌に校舎へ走り出した。
 今潜ったのが、地獄の門だとも知らずに。

 なのが今読めずにスルーした、ちま高の正式名称。それは。

『私立血塗ちまみれ女子高等学校』

 名前を書けば誰でも、いや名前を書かなくても受かってしまう学校。
 女子高というだけあり、生徒全員が女子。

 そして……生徒の大半がモンスター級の不良という、訳アリの学校である。
 いくら成績が悪かろうと、この学校に進学しようとする者は不良以外にいない。最低限自分の名前を書ければ、別の学校に受かるからだ。
 不良か、いたとしても被虐願望のある特殊な人物。それ以外の生徒は、ちま高にいない。

「ちま高のちまは~……へちまのちま! ……へちまって何?」

 この少女、小和水なのを除いて。
 彼女には進学をするに当たって、ちま高以外に選択肢がなかった。
 自分の『小和水』という苗字を漢字で書くことすらできないなのには、行ける高校がなかった。
 そう、小和水なのは。

 偏差値12の、度を越したバカなのだ。
 喧嘩なんてせず、真面目に生きてきた。
 だが前代未聞の壊滅知能。可哀そうに、不良の巣窟への片道切符を入手せざるを得ないだなんて。

「なのの高校生活は、明るいぞ~! ピッカピカの、一年生だもんね~♪」

 頑張れ、なの。
 君の青春は多分、血みどろだ……!


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