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*閑話⇔過去2*

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※こちらは向糸が高校1年の16歳、公立高校に通っていた時のストーリー。脇役的存在になっています。

[出て来る人物]
白埜朋揮=ゲイでクールイケメン。向糸の友人
沢坂郁斗=リア充に憧れている

******

 地方都市だけど生まれ育った街でそれなりに難関の第一志望の高校に入学することが出来た。
 中学の時に縁あって出会ったK大学現役生の家庭教師として“矢部先生”がオレを合格させてくれたからだ。
 元男子校だったけど、今は男女共学だ。それでも密かに同性同士の恋愛も無いことはない。

 高校に入って親しい友人の白埜しろやがオレと同じ性癖傾向で、彼は身長は高いけど中性的な容姿をしていて目立つのだけど、女子には性格的にクールなところが苦手らしく、同性の先輩からは逆にクールな彼を落としたいと思うようで言い寄られているところを何度か遭遇した。決して後を付けたり覗いていたりしたわけじゃない。いつしか、知らないところでその同性相手がオレだと噂が流れたこともある。
 
 実は白埜には片思いしている人がいる……なんていうかちょっと変わってるクラスメイトらしい。オレも白埜には矢部さんと付き合っていることをカミングアウトしていたから、同性同士の恋愛は難しいこと、それも相手がノンケならなお更だということをよく知っている。

 白埜が想いを寄せている相手、沢坂さわざかを隣席が縁で友人として接しているためか何でも話すそうで、有名な女子高をわざわざ選んで同コンに行ったことを嬉々として話すものだから傷ついていた。

 普段はクールで飄々としている落ち着いた白埜でも、動揺を隠しきれていなかった。

 そんな時でも、先輩から呼び出しがあって凝りもせずに白埜に関係を迫る。

 オレは精神的に弱っている白埜の状況が心配になって後を着いて行った。陰でこっそり覗いて。呼び出した相手は体や容姿もゴツくてゴリラのような先輩だ……細身の白埜なら強引に押し倒されたらヤバい。たぶん普段の白埜ならそんなことは無いだろうけど。

「噂を聞いたんだが、遠野というヤツと付き合っているって本当か?」

 オレと白埜との噂がまた再燃してるのを利用してちょっと怖いけど先輩の前に出て白埜の横に並んだ。

「そうです。オレたちは付き合っています。だからもう、と、朋揮ともきを呼び付けないでください」

   こんな事を言うオレに白埜は一瞬驚くけど、状況を把握して話を合わせてくれた。

「お前が遠野か……フン、だが口裏を合わせているんじゃないのか?」

  オレはグイと白埜の肩を引き寄せて顔を近づけると唇を合わせた。

  白埜は唐突のオレの芝居に察することが出来たようだけど、その際に両手をオレの首や腰に下ろし熱演してくれた……本気モードではないにしろ面食らう。

   それでも咄嗟の小芝居が成功したようで、ゴリラの様な唸りを残して先輩は退いた。

「良かった、信じてくれたようだね」
「遠野らしからぬことしたので驚いたけど、こんなことをさせてごめん」
「ううん。きっとオレじゃないとこんな役柄は出来ないし……」
「自虐になるなよ……」
「それはそっくり君に返すよ」
「おれは先輩なんかちょろいって思ってたのに、アイツに対してはこんなに弱かったのかって自分で驚いてる」

 クールな王子様の顔が剥げて、オレに見せる素顔。

 “普通の人”を好きになったオレたちは、いくら相思相愛でも両片思いでも、ノンケなのだし女子に傾くかもしれないってくらいは不安はある。特に、高校生になって周囲に敏感になった。


それからオレは暫く白埜の嘘の恋人役を演じて白埜に寄り添ってくるゴリラ先輩の他、烏とか芋虫とか…なんか変な渾名を付けては二人で撃退していた。

 そんな撃退劇を繰り返している中、沢坂に変化があった。

 毎年健康優良児のような沢坂が風邪で休んでいる怪事件(すべて白埜が言っている事だから…)が起こり、隣の席だという理由で先生にプリントを預けられた白埜は無言で受け取っていた。

「付いて来てくれないかな」

「オレも?」

「あの阿保の沢坂の顔を見たらぶん殴りそうだから…ストッパー役で」

 変な例えだけど、最近の白埜の苛つき方も尋常じゃない気がしていたのでストッパーを心得た。それでも前の様に沢坂は大っぴらには女子の話をしなくなった気がするけどな。

 無表情でピンポーンを数回鳴らす白埜に大丈夫かと思ったけど、勢いでドアを開けたのは鼻水を垂らし部屋着姿で出て来た沢坂で、白埜を見る大きな瞳から涙を堪えているようで……めちゃくちゃ猛攻撃で白埜を追い返そうとした。

 何故、追い返そうとしているんだろう?風邪は本当だったようだけど。

「ズビッ…う、うつったんだからな!おれに全部うつして…ズビーッ…なんで、なんで現れるんだよっ!」

 沢坂は手を振り上げて白埜にパンチを食らわせる態度でスタンバっている。

 その白埜は逃げも交わすことも無くパンチを受けようとしてるけど……ちょっと待って!ストッパーってそういう事?真逆??なにしたの、白埜さん!

「ちょ、沢坂……暴力は……っ」

 沢坂の腕はポスッと白埜の胸に落ちた。

「それも!遠野と!一緒にぎてッ!!ズビッ おれをおちょくってるんだろーっ鬼白埜」

「俺はお前に殴られるようなことをした。けど遠野は違う…俺を救ってくれて、お前との仲を応援してくれる大切な友人だ……誤解を解きたくて、連れてきたんだ」

「応援?…じゃあ、白埜におれを襲えって相談されたのか……やっぱ良くない奴じゃね?」

「あの、どういう……こと?」

「襲ったんじゃない。手っ取り早い想いの表現だよ、俺の」

 なんか変だな……それにオレの声は聞こえているの?

「なにが表現なんだよ!お、おれ、OKはしたけどさ……尻を明け渡す気なんてなかったんだからなっ!しかもまだ穴が痛いんだけど――!?ズビッ」

「え!?」




****


 オレと白埜の噂…つまりあのキスの芝居から事実をダイレクトに見ていたらしい沢坂は、本気でオレたちの仲を信じたらしい。
今まで友人として接していた隣席の白埜がよそよそしくなり、すぐ席を外してまるで自分を避けているようで気になりだした。何度か同コンに行っても白埜の事が頭から離れられなくなり、途中で抜け出してきた事などは実はカッコ悪くて言えない。ますますお互いに嘘を並べて嘘の芝居をすることに苦しみ出していた。

 動いたのは沢坂で、白埜の心の内を掻き回して導線に引火してしまった。

 もう止まらずに、内なる獣を開放して……沢坂の尻にヤケドを負わせたって訳で……ハァ…。

「オレは、余計なことをしていたのかな……」

「そんなことない、俺は遠野に感謝してるよ。じゃなかったら今頃、アイツは手に入らなかったと思う」

 この時のオレは、好きだけの気持ちだけで愛情は収まらないんじゃないかって。

 心の根にある過激さも多少は持ち合わせて、深く泥臭く沈む……そんな愛も実はあるんじゃないかなって、錯覚していた。



End.

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