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第2話
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「ねえ!少しくらい反応してくれたって良いじゃない!?」
さすがにシカトを決め込み過ぎたのか、彼女は、いい加減にしてほしい、と言わんばかりの顔で、こちらの反応を伺っていた。
さすがにこれも無視したら、どんな仕打ちが返ってくるか分からない。
「俺は遊びに付き合っている場合じゃない。」
別に忙しいわけじゃない。
彼女の謎の付き纏いを、どうにか振り解きたかった。ただそれだけだ。
だが、彼女の顔はみるみる内に曇っていった。
「男女の付き合いが、遊びだっていうの⁈」
とうとう意味が分からなくなってきた。
今の台詞も、遊びの演技だというのか?
「君は、なんで最近俺に付き纏ってくるんだ?」
「それは、こっちが告ってるっていうのに、返答もしてくれないし、今日に至っては反応もしてくれなかったじゃない⁈」
彼女の頭が狂っているのか、それともまだ遊びが続いているのか。どうやら、前者の方らしい。
彼女は、本気で俺に告白しているのだ。
彼女の心臓癌は、どうやら脳にも支障をきたしてしまうものらしい。
こんなことを言っては、失礼だな。
「君は、本当に俺に告白しているのか?」
「うん。ふざけて、こんなこと言うわけないじゃない?」
「気は確かか?」
「確かです!」
面食らいそうになった。
彼女の、屈託のない純粋な瞳を見て、なんとなく嘘ではないと分かった。
だが、だとしたら相当気が狂っている。
なんせ俺の顔は、「一日中クラシックを聞いていそうな顔」なのだから。
「すまない、君の残り少ない余生を、こんな俺で埋め尽くすわけにはいかない。ほら、もっといい男があそこに…、」
「あなたが良いんです。」
この生物は、恥を知らないのだろうか?
こんな小っ恥ずかしい、少女漫画に出てきそうな台詞を、のうのうと言いやがった。
とにかく、只者ではないと感じだ。
「とにかく、俺にそんな大役を任される、義理も筋合いもない。なんとなしに、そこら辺にいるような平凡な男に告白するもんじゃない。」
「少ない余生を、こんな俺で埋め尽くすわけにはいかないって、私が余命宣告されてなかったら、あなたはどう答えたの?」
正直そう聞かれる前に、立ち去りたいと考えていたところだ。
まったく、面倒くさいことを聞いてくる。
「そりゃあ、俺よりいい男はたくさんいる、って答えたよ。」
「ってことは、あなたよりいい男がいなかったら、あなたはどう答えたの?」
なんだこの女は。
かなり面倒くさい。でも、質問の内容には、やや興味が湧いてくる。
どうしてそのように、文章の中から、欠損している部分を突けるのか?
「…、それは、ありえないことだから。」
マズい、こんな答え方をしては、退いてしまっただけだ。また、突かれる。
「そう…、」
納得してしまい、少し拍子抜けだった。
まだ噛み付いてくる彼女に、少し面白さを感じていたのだが。
まあ、所詮その程度だったということであろう。
だが、今回ばかりは、俺の考えが甘かった。
萎えていた彼女は、およそ数十分で立ち直り、陽気に告白を仕掛けてきたのだ。
「ねえ、じゃあさ、お話ししようよ?」
「なんの話だ。」
「じゃあ、最近流行りの…、」
「断る。」
「早いなぁ、即答じゃん…。」
最近流行りの、から始まる話題で俺が興味を持つのは、新型コロナウイルスの話だけだろう。
それからも、絡みは収まることは無かった。
「まずは、お友達からってのはどう?」
「まずは、というのが突っかかるのだが、その後はどうなるんだ?」
「付き合、」
「断る。」
「ゔっ、」
「お話ししようよ?」とか、「お友達から」とか、何かの前に「お」を付けるのは、どうかと思う。おにぎりくらいしか、「お」を文頭に置くのはないと、俺は考える。
「じゃあさ、一応お友達になってよ。その後も、死ぬまでずっとお友達。」
「死ぬまでずっとお友達って、君じゃない人が言ったら、かなり引くな。」
「そんなことどうでも良くて、どうなの?」
「まあ、知り合い程度にはなってやろう。」
「ホント⁈やった!嬉しい!」
理解できない。
俺は彼女の提案に答えたわけじゃない。少しグレードダウンさせて、許諾しただけだ。
それなのに、こんな大喜びをして。彼女は一人ぼっちとは無縁の存在なのに、俺と知り合いになった程度で、そんなにスタミナを使う喜び方をしていいのだろうか?
今は、1秒でも寿命を伸ばすために、スタミナを温存しておくのが最善の行動と言えるだろう。
そして、下手したら、今年最大の驚きに匹敵するほどの、事実を知ってしまった。
「私ね、心臓癌を打ち明けているの、あなただけなの。」
「え?」
「だから、私が余命1ヶ月ってことも、親族とあなただけしか知らないの。」
「親友には?言ってないのか?」
「うん。ってか、ようやく食いついてきたねー。」
いや、さすがにおかしくないか?
なぜ、数年も付き合ってきた親友に打ち明かさず、このあまり関わりのない俺に打ち明けたんだ?
人は他人の考えを尊重できない時がある。
例えば、今現在の、この状況である。
「君の言っていることが、あまり良く理解できていない。」
「逆にあなたが、私の言ってることを理解したら、天変地異が起こるよ。」
「四字熟語の使い方を間違ってる気がする。」
「いいの、大体合ってれば。」
「そういう時は、「雪が降っちゃうよ」が最適だと思うな。」
「うふふ、何それ?」
まあ、知り合いとしては、そこそこ上手くやっていけそうな気がする。
だからといって、親しくするつもりはない。
勘違いでもされたら、そのまま天国に逝ってしまうかもしれない。
いいや、こんなこと言ってはいけない。
余生を、幸せに生きてくれれば、それで良いだろう。
ところで紹介が遅れたが、俺の名前は九条嶺琉。
彼女の名前が、東雲珠須。
2人が名前で呼び合うなんてことは、この頃の俺たちは知らなかった。
さすがにシカトを決め込み過ぎたのか、彼女は、いい加減にしてほしい、と言わんばかりの顔で、こちらの反応を伺っていた。
さすがにこれも無視したら、どんな仕打ちが返ってくるか分からない。
「俺は遊びに付き合っている場合じゃない。」
別に忙しいわけじゃない。
彼女の謎の付き纏いを、どうにか振り解きたかった。ただそれだけだ。
だが、彼女の顔はみるみる内に曇っていった。
「男女の付き合いが、遊びだっていうの⁈」
とうとう意味が分からなくなってきた。
今の台詞も、遊びの演技だというのか?
「君は、なんで最近俺に付き纏ってくるんだ?」
「それは、こっちが告ってるっていうのに、返答もしてくれないし、今日に至っては反応もしてくれなかったじゃない⁈」
彼女の頭が狂っているのか、それともまだ遊びが続いているのか。どうやら、前者の方らしい。
彼女は、本気で俺に告白しているのだ。
彼女の心臓癌は、どうやら脳にも支障をきたしてしまうものらしい。
こんなことを言っては、失礼だな。
「君は、本当に俺に告白しているのか?」
「うん。ふざけて、こんなこと言うわけないじゃない?」
「気は確かか?」
「確かです!」
面食らいそうになった。
彼女の、屈託のない純粋な瞳を見て、なんとなく嘘ではないと分かった。
だが、だとしたら相当気が狂っている。
なんせ俺の顔は、「一日中クラシックを聞いていそうな顔」なのだから。
「すまない、君の残り少ない余生を、こんな俺で埋め尽くすわけにはいかない。ほら、もっといい男があそこに…、」
「あなたが良いんです。」
この生物は、恥を知らないのだろうか?
こんな小っ恥ずかしい、少女漫画に出てきそうな台詞を、のうのうと言いやがった。
とにかく、只者ではないと感じだ。
「とにかく、俺にそんな大役を任される、義理も筋合いもない。なんとなしに、そこら辺にいるような平凡な男に告白するもんじゃない。」
「少ない余生を、こんな俺で埋め尽くすわけにはいかないって、私が余命宣告されてなかったら、あなたはどう答えたの?」
正直そう聞かれる前に、立ち去りたいと考えていたところだ。
まったく、面倒くさいことを聞いてくる。
「そりゃあ、俺よりいい男はたくさんいる、って答えたよ。」
「ってことは、あなたよりいい男がいなかったら、あなたはどう答えたの?」
なんだこの女は。
かなり面倒くさい。でも、質問の内容には、やや興味が湧いてくる。
どうしてそのように、文章の中から、欠損している部分を突けるのか?
「…、それは、ありえないことだから。」
マズい、こんな答え方をしては、退いてしまっただけだ。また、突かれる。
「そう…、」
納得してしまい、少し拍子抜けだった。
まだ噛み付いてくる彼女に、少し面白さを感じていたのだが。
まあ、所詮その程度だったということであろう。
だが、今回ばかりは、俺の考えが甘かった。
萎えていた彼女は、およそ数十分で立ち直り、陽気に告白を仕掛けてきたのだ。
「ねえ、じゃあさ、お話ししようよ?」
「なんの話だ。」
「じゃあ、最近流行りの…、」
「断る。」
「早いなぁ、即答じゃん…。」
最近流行りの、から始まる話題で俺が興味を持つのは、新型コロナウイルスの話だけだろう。
それからも、絡みは収まることは無かった。
「まずは、お友達からってのはどう?」
「まずは、というのが突っかかるのだが、その後はどうなるんだ?」
「付き合、」
「断る。」
「ゔっ、」
「お話ししようよ?」とか、「お友達から」とか、何かの前に「お」を付けるのは、どうかと思う。おにぎりくらいしか、「お」を文頭に置くのはないと、俺は考える。
「じゃあさ、一応お友達になってよ。その後も、死ぬまでずっとお友達。」
「死ぬまでずっとお友達って、君じゃない人が言ったら、かなり引くな。」
「そんなことどうでも良くて、どうなの?」
「まあ、知り合い程度にはなってやろう。」
「ホント⁈やった!嬉しい!」
理解できない。
俺は彼女の提案に答えたわけじゃない。少しグレードダウンさせて、許諾しただけだ。
それなのに、こんな大喜びをして。彼女は一人ぼっちとは無縁の存在なのに、俺と知り合いになった程度で、そんなにスタミナを使う喜び方をしていいのだろうか?
今は、1秒でも寿命を伸ばすために、スタミナを温存しておくのが最善の行動と言えるだろう。
そして、下手したら、今年最大の驚きに匹敵するほどの、事実を知ってしまった。
「私ね、心臓癌を打ち明けているの、あなただけなの。」
「え?」
「だから、私が余命1ヶ月ってことも、親族とあなただけしか知らないの。」
「親友には?言ってないのか?」
「うん。ってか、ようやく食いついてきたねー。」
いや、さすがにおかしくないか?
なぜ、数年も付き合ってきた親友に打ち明かさず、このあまり関わりのない俺に打ち明けたんだ?
人は他人の考えを尊重できない時がある。
例えば、今現在の、この状況である。
「君の言っていることが、あまり良く理解できていない。」
「逆にあなたが、私の言ってることを理解したら、天変地異が起こるよ。」
「四字熟語の使い方を間違ってる気がする。」
「いいの、大体合ってれば。」
「そういう時は、「雪が降っちゃうよ」が最適だと思うな。」
「うふふ、何それ?」
まあ、知り合いとしては、そこそこ上手くやっていけそうな気がする。
だからといって、親しくするつもりはない。
勘違いでもされたら、そのまま天国に逝ってしまうかもしれない。
いいや、こんなこと言ってはいけない。
余生を、幸せに生きてくれれば、それで良いだろう。
ところで紹介が遅れたが、俺の名前は九条嶺琉。
彼女の名前が、東雲珠須。
2人が名前で呼び合うなんてことは、この頃の俺たちは知らなかった。
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