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ネコとオセロと学校と

25匹目 『臨時チーム結成(脱退したい)』

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「まあまあ貴殿ら、一旦落ち着くでござるよww まずは椅子に座って、ラブコメの計画を立てるでござるww 喧嘩はその後でw」

「いや、ふつー逆でしょ! こいつ犬斗もう帰ろうとしてるのよ引き止めなきゃ!」「だからなんで俺が!?」「さっき帰らないって言ったでしょぉ!?」「そんなん無効ですよ無効!」


 いがみ合う俺たちを見て、犬飼のようだが、決定的に爽やかさが足りないにやけを浮かべる草場。

 自身が元凶であるにも関わらず、さっきから「やんややんやww」と茶化してくるこいつを見ているとーー次第に、言い争う気概も気力も失せてきて。

 大きく溜息を吐くと、俺は席に戻った。……その殆どが、諦めだ。


「ふ、ふう……一応、貴方の準備は整った、って事で良いわよね?」

「ああ、はい……大丈夫です」


 なんか阿保(くさば)が「我も整ったでござるw」とかなんとか言ってやがるが無視だ無視。と言うか、そもそも俺はこいつに乱入されても構わんしな。

 藤夜は、自分の恋路をこんな奴に見せて良いのかどうか悩むだろうが、俺は単なる巻き込まれた相談者でしかなく、別に藤夜がフラれようと成立しようとどうでも良いのだ。

 そしてそれは同時に、この話を誰に聞かれても問題ない、という意思の表れでもある。正直、考えるのもだるいしそっち2人で勝手にしてくれ、と言ったところ。


 流石に、藤夜の方は追い出すかも知れんがな「さて……草場さん、だっけ」

「おっふw 愛しの藤夜たんに名前呼ばれたww 我歓喜www」

「良いから黙って聴きなさい。あんた、ほんとにカップル成立させるのが上手いの? そ、そういう噂を以前聞いたのだけれど」


 ……ん?

 隠してはいるが、隠しきれない興味を放って目を輝かせる藤夜の様子に、違和感を感じざるを得ない。


「ふむぅ……まあ、確かに我がアドバイスしたらラブコメる事は多いでござるなw 喜ばしい事でござるww」

「は、ほんとなのね……! そっ、それじゃあ、わたしにアドバイス、ってのは……」

「当然! 愛し可愛し藤夜たんの為なら我、草場颯太! 今持ち得る全身全霊の力を使い、貴殿の恋愛、成就させて見せましょうぞ!!」

「や、やた! …それじゃ、よろしくね、草場さん!」

「むほぉぉ握手! 握手とは! 美少女の素肌に触れられるとは我がこの世に産み落とされて初めての経験ッ……」

「……や、やっぱりやめとくわ…」「オウフw」


 ……なんだこれ、藤夜って、案外そう言うジンクス的なものを信じるタイプなのか?

 物凄く。俺が入る余地など一切ない程とんとん拍子に進んだ交渉に。
 そして、事後草場の言動に引きつつも普通に嬉しそうな藤夜と、いつも通り笑みを浮かべた草場に、金輪際疑問符を浮かべない。そんな選択肢は、残されていなかったのだろう。


「……藤夜さん、それで良いんですか?」

「? …ええ、まあ。この際よ。出来る事なら何でもやるわ」

「その発言は……」


 え? っと不思議そうにする藤夜の背後、目を光らせた草場が「ん?今何でもって?」と言うのに、時間はかからなかった。

 ◆◇◆



 ーー「まあ、そんなこんなで! ここに、わたし達3人による臨時チーム……ええっと」

「名前とか要らないでしょう」「【恋文恋歌】とかどうでござるか?w」

「……えー、それじゃあ、ここに、チーム『わたしの告白成功させ隊』を結成します!! えい、えい、おー!」

「お~……」「オー! でござるw」


 話も纏まり、時間制限(明日の放課後)ギリギリまで計画を進める為に連絡先も交換した。

 今日はもう日が暮れているし、続きは家で話そうーーそう提案され、可決されたのが五分前。


 スポーツのノリでハイタッチを決めたのち、さて家に帰るかと準備を進めていればーー



「……うぇ?」

「なんか、近づいてくるでござるなw」


 ドタドタと、誰かが走り回っているかのような音が廊下から聞こえ。
 藤夜はホラーちっくなこの状況に恐怖し、俺は察しがついて身構え。

 そして草場は、明らかに楽しんでいた。色々無神経すぎないか? こいつ。

 軈て、勢いよく開かれたドアから顔を覗かせたのはーー
「ひっ!」


「……てめぇらぁぁぁぁぁぁああ!!! もうとっくに下校時間過ぎてんぞゴルァァァァァァァァア!!!」


 鼓膜が張り裂けようか、と言う声量で叫んだ筋骨隆々な教師。


 ーーつまり、“鬼の酒田”。

 彼を止められる者は、どうやらこの場にいなかった。
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