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ネコミミ幼馴染ととある日曜日

3匹目 『何故か俺の足の上に座ってくるのだがどう降ろさせたらいいだろう?』

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「わー、良い匂いしてきた……にゃ~」

「そこは普通に“してきたな”で良いだろうが……あ、今人参増やしたから」

「にゃ!?」

「……割と本気で疑問なんだが、さっきから何でニャン語尾を癖みたいに連呼してるんだ、キャラ付けのつもりか?」

「……」


 キッチンで、野菜炒めに入れる人参を細かく切り刻みながら、さっきから気になっていた事を尋ねる。

 少なくとも、俺が最後に猫宮と会話した木曜日にはそんな気は無かった筈。金曜日は何故か休んでいたが、どうせ鍵屋が土曜日休みだったとかなのだろう。

 不慣れそうな所を見ても、今日の日のために練習していたとかでもなさそうだし……そもそも、まず何でネコミミで添い寝という奇行に踏み切ったのかも不明だ。

 結論として、今日からネコキャラでも始めよう~、とでも思っているのか? そう思って尋ねたのだがーー



「……沈黙は肯定、と受け取って良いんだなそうなんだな。ほんっっっっっと、何考えてんだお前は」

「チ、チガウヨー、わたしはただ、犬斗が好きそうなキャラになろうとしたダケダヨー」

「棒読みな上に、否定し切れてないぞ、それ。はぁ……」

 どうやら、図星らしい。


 まあ良い。野菜炒めには、味が分からない位に細切れにした人参を織り交ぜてあるし、そうとは知らず人参を食べた事実に悶え苦しむがいい。

 朝食を部屋の中心にある背の低い机に運び、その一辺に腰を下ろす。


「それじゃそこ座って……って」

 猫宮には俺の対角に座る様に指示をするーー否、しようとした。


 だが、俺の想像と目論見を外れ、猫宮は予定外の位置に腰を降ろした。

 ………いいや……本当は、分かっていたさ。


「なんで、俺の足の上に座る? いつも言ってるよなぁ、距離感考えろっつってさっき言ったばっかだよなぁ!?」

「……にゃん」


 猫宮は、いつも俺が飯を振る舞うと、こんな風に組んだ足の上に収まる様に、ちょこんと言う擬音がぴったりな姿勢で座ってくるのだ。


 別に重くは無いし、季節的な意味でも天然人工カイロで丁度いいのだが……いかんせん、距離感がおかしい。

 何故だ。何故猫宮は昔から俺にばかり近づく。異性より同性と仲良くした方が過ごしやすいだろう。と。


 だがまあ、言っても意味が無いのも、昔から知っていた事だ。

 何だかんだ、ここで諦めてしまうと言うのは、俺がこいつに甘いと言う証拠なんだろうが…


「いただきます、にゃ」

「……頂きます」


 ………納得行かねえ、この感覚。

 何で猫宮如きにされたぐらいで、いつもいつも悶えにゃならんのか。

 こいつはこいつで、名前に負けず劣らずの習性で頭を俺の胸に擦り付けてくるし。

 その位で、俺の鼓動は何故か早まるし。


「……なあ猫宮、ニャン語尾止めるかここから降りるか、野菜炒めに人参追加かどれがいい?」

「にゃあ!? ……に、人参、で…にゃ」

「………そんなにここから降りたく無いか、この野郎」


 猫宮にかからない程度に、優しく少しため息を吐いた。

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