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【第一章】 中学サッカー部編
【第一章】 第十四話
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センターサークルの中心で渡辺がボールを後ろに蹴り、紅白戦は俺たち一年生のキックオフで開始となった。ボールを受け取った間中が辺りを見渡した。もう目の前まで二、三年生は寄せてきている。
だが、落ち着いた様子の間中は凌太にパスを出した。
本当にこの戦術は上手くいくのだろうか、と俺は心の中でまだ少し疑念が残っていたが、俺に代案があるわけでもない。
戦術通りに凌太は少し移動した間中にボールを戻した。
それを受け取った間中は、次に右サイドにいる波多野にパスを出した。それを相手のフォワードの先輩は鬼気迫った表情で追いかけていく。
そして、また波多野は少し前に移動した間中にボールを戻した。次の瞬間、間中はなるべく浮かさない低空飛行のボールを左前に向けて蹴り出した。
「オーライ、オーライ!!!」
そこには既に渡辺が走り込んでいる。
先輩たちが前半の最初に使っていた戦術、左右に振って、視線を大きく移動させて隙を作る。それを少しだけ利用したのだ。
間中のパスは先輩たちの隙間を抜けて、渡辺にボールが渡った。
「ナイスパス!!」
確かに先輩たちの虚を突いた。だが、俺たちが前半戦で決めた時のように、ゴールキーパーと一対一という状況は作れなかった。
渡辺の前にセンターバックの先輩二人が立ちはだかった。一人の先輩は渡辺と立ち合い、もう一人の先輩は少し後ろで待ち構えている。もし手前の先輩が抜かれても、カバーできるようにするためだ。
「さぁ来いよ。口だけじゃないということを見せてもらおうか」
「先輩、胸を借りますぜ」
渡辺はドリブルを開始した。あまり時間はかけられない。相手の中盤の先輩が後ろから詰めてくるからだ。前からも後ろからもサンドされてしまうと、流石の渡辺でもボールを奪われてしまう。
体を左右に揺らし、フェイントをかけていくが、先輩はまるで釣られない。仮に釣られても、瞬時に態勢を整えている。時間をかけさせるためにあえて足を出さない理想的な守備だ。
「残念、中盤が間に合ったようだな」
手前のセンターバックの先輩がそう呟いたと同時に、渡辺の右横から足と体がボールを奪取するために伸びてきた。センターバックの先輩が言うように、中盤が間に合ったのだ。だが、それを避けるように渡辺はボールごと左に避けた。
「挟むぞ!!」
「おお!!」
手前のセンターバックの先輩と中盤の先輩が、渡辺からボールを奪うために足を伸ばし、体を入れる。確実に取られてしまう。
その直前、渡辺は右手で中盤の選手を抑え、左手でセンターバックの先輩を抑えた。そして、わずかに空いた二人の間を抜けた。
「あっぶね。ギリギリだった」
二人の先輩を抜き去った渡辺はどこか余裕そうだった。だが、これでゴールというわけではない。カバーに回っていたセンターバックの先輩が待ち構えていた。
抜き去ったとはいえ、再び後ろから詰められてしまっては意味がない。渡辺はそのままの勢いのまま、カバーに回っていた先輩を抜き去らなくてはいけない。
だが、渡辺はその先輩と戦うことはせず、左横にチョンとパスを出した。
そこにいた三人の先輩たちは呆気に取られていたと思う。何故なら、渡辺が単身でゴールを決めてくると思っていたからだろう。だけど、サッカーはチームスポーツだ。
もし仮に同じチームメイトが天才で嫉妬の対象であっても、ライバルを自称してくる面倒くさい奴でも、同じチームである以上、一緒に戦わなくてはならない。
だからこそ、俺はこのパスを受け、ゴールを決めなくてはならない。
「ナイスオーバーラップだぜ、若林」
右耳からそんな渡辺の声を捉えつつ、転がってくるボールを見た。トラップでボールを止めて、シュートを打つ時間はない。後ろから俺のオーバーラップを見たフォワードの先輩が追いかけてきている。それに横にいるセンターバックの先輩も寄せてくることだろう。
ここはトラップをすることなく、ダイレクトシュートで決める必要がある。俺はボールをしっかりと見て、タイミングを合わせ、右足を振りぬいた。
だが、落ち着いた様子の間中は凌太にパスを出した。
本当にこの戦術は上手くいくのだろうか、と俺は心の中でまだ少し疑念が残っていたが、俺に代案があるわけでもない。
戦術通りに凌太は少し移動した間中にボールを戻した。
それを受け取った間中は、次に右サイドにいる波多野にパスを出した。それを相手のフォワードの先輩は鬼気迫った表情で追いかけていく。
そして、また波多野は少し前に移動した間中にボールを戻した。次の瞬間、間中はなるべく浮かさない低空飛行のボールを左前に向けて蹴り出した。
「オーライ、オーライ!!!」
そこには既に渡辺が走り込んでいる。
先輩たちが前半の最初に使っていた戦術、左右に振って、視線を大きく移動させて隙を作る。それを少しだけ利用したのだ。
間中のパスは先輩たちの隙間を抜けて、渡辺にボールが渡った。
「ナイスパス!!」
確かに先輩たちの虚を突いた。だが、俺たちが前半戦で決めた時のように、ゴールキーパーと一対一という状況は作れなかった。
渡辺の前にセンターバックの先輩二人が立ちはだかった。一人の先輩は渡辺と立ち合い、もう一人の先輩は少し後ろで待ち構えている。もし手前の先輩が抜かれても、カバーできるようにするためだ。
「さぁ来いよ。口だけじゃないということを見せてもらおうか」
「先輩、胸を借りますぜ」
渡辺はドリブルを開始した。あまり時間はかけられない。相手の中盤の先輩が後ろから詰めてくるからだ。前からも後ろからもサンドされてしまうと、流石の渡辺でもボールを奪われてしまう。
体を左右に揺らし、フェイントをかけていくが、先輩はまるで釣られない。仮に釣られても、瞬時に態勢を整えている。時間をかけさせるためにあえて足を出さない理想的な守備だ。
「残念、中盤が間に合ったようだな」
手前のセンターバックの先輩がそう呟いたと同時に、渡辺の右横から足と体がボールを奪取するために伸びてきた。センターバックの先輩が言うように、中盤が間に合ったのだ。だが、それを避けるように渡辺はボールごと左に避けた。
「挟むぞ!!」
「おお!!」
手前のセンターバックの先輩と中盤の先輩が、渡辺からボールを奪うために足を伸ばし、体を入れる。確実に取られてしまう。
その直前、渡辺は右手で中盤の選手を抑え、左手でセンターバックの先輩を抑えた。そして、わずかに空いた二人の間を抜けた。
「あっぶね。ギリギリだった」
二人の先輩を抜き去った渡辺はどこか余裕そうだった。だが、これでゴールというわけではない。カバーに回っていたセンターバックの先輩が待ち構えていた。
抜き去ったとはいえ、再び後ろから詰められてしまっては意味がない。渡辺はそのままの勢いのまま、カバーに回っていた先輩を抜き去らなくてはいけない。
だが、渡辺はその先輩と戦うことはせず、左横にチョンとパスを出した。
そこにいた三人の先輩たちは呆気に取られていたと思う。何故なら、渡辺が単身でゴールを決めてくると思っていたからだろう。だけど、サッカーはチームスポーツだ。
もし仮に同じチームメイトが天才で嫉妬の対象であっても、ライバルを自称してくる面倒くさい奴でも、同じチームである以上、一緒に戦わなくてはならない。
だからこそ、俺はこのパスを受け、ゴールを決めなくてはならない。
「ナイスオーバーラップだぜ、若林」
右耳からそんな渡辺の声を捉えつつ、転がってくるボールを見た。トラップでボールを止めて、シュートを打つ時間はない。後ろから俺のオーバーラップを見たフォワードの先輩が追いかけてきている。それに横にいるセンターバックの先輩も寄せてくることだろう。
ここはトラップをすることなく、ダイレクトシュートで決める必要がある。俺はボールをしっかりと見て、タイミングを合わせ、右足を振りぬいた。
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