努力の方向性

鈴ノ本 正秋

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【第一章】 中学サッカー部編

【第一章】 第十一話

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二、三年生の先輩たちからキックオフとなった。
まずは中盤のボランチまでボールを下げて、大きくフォワードまで蹴り出してきた。割と中学サッカーでありがちな流れだ。だが、宙に浮いたボールを取り合う時、平均身長が高い先輩たちが有利になるのは必然だ。

一年生のボランチの選手が競り合ったが、十五センチほど違うため、先にボールに触れたのは先輩だった。そして、競り勝った先輩は足元にボールを落とすと、サイドの選手にパスを出した。

「凌太、追え!!」

と、俺は凌太に声をかけた。センターバックというポジションはゴールキーパーの次に、コート全体を見ることができる。だからこそ、センターバックの俺は後ろからチームメイトに声をかけていく。
「わかった!!」という凌太の声を小耳に挟みながら、右サイドや中央にいる敵選手の位置を把握していく。一年生同士の紅白戦での白ビブスの二の舞にはならないために、集中力を切らしてはいけない。

凌太が内側から先輩に詰めていくが、逆サイドにパスを出されてしまい、簡単に躱されてしまった。だが、それでも逆サイドにはあいつがいる。

「波多野!!」

「おう!!」

波多野とは間中瑞希と仲が良く、黒い髪を逆立てた右サイドハーフの一年生で、本名は波多野亮というらしい。その目を引く髪型とお調子者の印象が強いが、しっかりと必要最低限の仕事を行ってくれるため、心配はいらない。
今度は反転して、左サイドと中央にいる敵選手に目を配る。

「凌太はそのまま七番を追え!間中は五番を!渡辺はそのまま前で待っていろ!!」

俺の指示通りに三人がそれぞれ動き、俺は後ろにいる自分のチームのゴールキーパーへと視線を向けた。キーパーは右サイドにあるボールを目線で追っており、少し右サイドに釣り出されてしまっている。

これが狙いか、と思った。
凌太が先輩に寄せて行ったとき、先輩は落ち着いた様子で逆サイドまでボールを蹴っていた。まるで元々、その戦術だったように。

左から右へと急激にボールが移動すると、その時にどうしてもボールを目で追ってしまう。そして、そのままボールだけを見てしまう選手、ボールウォッチャーへと相手を変えてしまう。本来ならボールだけを目で追うな、と味方に声をかけるところだが、あえて利用してやろう。

波多野に寄せられていた先輩はバックパスを選択し、サイドバックの選手へとボールが渡る。そして、その選手はボールを止めることはなく、ゴール前の近くへ向けてダイレクトで大きく蹴った。
一年生の目線が右から左へ大きく揺さぶられる。ボールだけを追っていたキーパーの視界に左サイドのゴール前に走り込んで来ている先輩が映った。だが、時既に遅し。
走り込んで来ていた先輩はシュートモーションに入っており、ボールを止めることなく、ダイレクトで打とうとしていた。

だが、あと五十センチくらいのところで俺の足が間に合った。そのパスをカットすることができたのだ。
左右に振られた視界、ボールを蹴る方のタイミングを計るのは難しいが、ボールを受ける方のタイミングを予見するのは意外と簡単だ。だから俺はボールではなく、コート全体を見ていた。

「悪いですけど、止めさせていただきますね!!」

俺はそのまま渡辺がいる前線へとボールを蹴り出した。少しだけ先輩たち全員が今のタイミングで決まると思っていたからか、前のめりにポジションを取っている。だからこそ、渡辺のドリブルと俊足が生きる。
俺が蹴り出したボールは割と無茶な距離に飛んだが、渡辺は簡単に間に合わせた。

「ったく、性格悪いパス出しやがるぜ」

などとぼやいている声が聞こえた気がするが、それは完全に無視した。
何故ならここで声をかけてしまうと、渡辺がドリブルに集中できなくなってしまう。

渡辺のドリブルは圧巻だった。後ろから追いかけてくる先輩との距離をどんどんと広げていく。ゴール前までたどり着いた渡辺は遂にキーパーと一対一だ。後ろから先輩たちが追ってきているため、あまり時間をかけられない。
だが、渡辺は体の動きだけでキーパーを翻弄させ、見事に逆をとり、ゴールネットにパスをするようにゴールを決めた。

「おおおおおお!!!」

一年生ほぼ全員が驚きと喜びの声をあげた。大会などで結果を残している先輩たちから先取点を奪ったのだ。そういった感情になるのも無理はない。
そして、俺は見逃さなかった。ゴールを決めた張本人である渡辺は柄にもなく小さくガッツポーズをしていた。
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