努力の方向性

鈴ノ本 正秋

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【第一章】 中学サッカー部編

【第一章】 第十話

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俺はいつもの試合前のルーティンの右足のつま先で三回地面を蹴り、アキレス腱を伸ばした。これから俺たち一年生は二、三年生と紅白戦を行う。

新人戦で結果を出している上に、中学生の平均を上回る体格。それだけでかなりの恐ろしさを感じる。だが、そんなことは言っていられない。ここで結果を出せば、もしかしたらレギュラー入りまで行くかもしれない。当然、気合が入る。

俺たち一年生のスターティングメンバーについては、武井先生から自分たちで話し合って決めろと言われている。だが、二十三人中の内、十二人がメンバーから外さなければならなかった。

「悪いが皆の衆、俺はフォワードで出させてもらうぞ。何故なら一週間前の紅白戦で俺だけが唯一、得点を決めて、目に見える結果を残しているからだ。異議はあるか?」

渡辺がそう言ったが、もちろん異議はない。
全員が黙って頷いたと同時に、ある一人の人物が右手を挙げた。

「はいはーい!なら、俺らも良いよな?渡辺のゴールをアシストした俺と、そのアシストのアシストをした瑞希。俺らは結果残した扱いでもいいよなー」

その人物はあの一年生同士の紅白戦で、俺と同じく赤ビブスだった右サイドハーフだった人物だった。黒色の髪を逆立てたおかしな見た目をした男だ。
逆立てた髪を揺らしながら、左腕で茶色がかった人物と肩を組んでいた。もちろん間中瑞希だ。だが、肩を組まれていた間中は少し嫌な顔をしていた。

「いや、亮はアシストしたからわかるけど、僕は違うでしょ。アシストのアシストなんか数字として表示されないし」

「ここは乗っておけばいいんだよ。現にあの時、瑞希のパスに反応できた奴いるか?いないよな?」

一年生に全員に聞くが、反論はもちろんない。近くで渡辺が鼻息荒くして、「俺は反応できたけどな」と言わんばかりにアピールをしていたが、確かにあの時にあのパスに反応できていたのは敵味方合わせて、二人だけだった。

「亮、怖いって。それに俺、ここらへんに引っ越してきたばかりで、知り合い少ないんだからさ、敵作るような真似しないでよ」

「悪いな。けど、お前の凄さを一年生全員にアピールしたくてよ」

「それをやめてって言っているんだけどなー」

これで十一の枠の内、三つが埋まった。だが、その内の一つはゴールキーパーであるため、実質七つしか空きはない。
もう早い者勝ちだと思い、俺は手を挙げた。

「俺が出る!!」

「おー、ようやく手を挙げたな。若林。それで?お前はどこに出る?」

「センターバックだ」

俺は覚悟を決めてそう言った。俺の本職はボランチだが、センターバックを選択した。
ボランチというポジションは増やそうと思えば、もう一つ増やすことができる。だが、それでは先輩たちに勝つことはできない。俺たち一年生はあまり身長が高くない。経験者で俺よりも高いのはゴールキーパーの一年生と渡辺だけで、あとはサッカー始めたての人物だけだった。

この紅白戦で勝つためには、俺がセンターバックをやって、先輩たちの攻撃を抑えきるしかない。
だから、俺はここで宣言する。

「俺が絶対護ってやる。だから、前線は頼んだ」

「頼もしいじゃねーか!!俺がどんどん点決めてやるよ!!」

渡辺にバンバンと二回背中を叩かれた。やり返そうと思ったが、紅白戦前に疲れたくなかったからやめた。
そして、そのやり取りを聞いた凌太が手を挙げた。

「俺も左サイドハーフで出たい!!」

それを皮切りに他の一年生たちも一斉に手を挙げた。それぞれが自分の出たいポジションを言っていき、最終的には先着順でポジションを決めていった。
フォーメーションは後ろから4―4―2。特に何の戦術も策略もない場合に多く用いられるオーソドックスなフォーメーションだ。

フォーメーションが決まった後、学校の壁に設置された時計を見た。紅白戦開始時刻まであと五分。もうウォーミングアップは済ませている。あとはもう一度、気合を入れるだけだ。

渡辺の提案で、一年生全員で肩を組み、円陣を作った。そして、渡辺の「絶対勝つぞ!!」という掛け声の後に、全員で「オオ!!」と気合を入れた。まだ出会ったばかりの人物ばかりだが、その時一年生全員が一つになっていたような気がする。

絶対に勝つ。俺たちの共通認識であり、俺もそれしか考えていなかった。

サッカーコートが描かれている校庭に出ると、もう既に二、三年生はポジションを取って待ち構えていた。やはり全員、体格が違う。それに先輩たちの表情からは油断の隙もないような雰囲気があり、全力で俺たちとの紅白戦に挑みに来ていることがわかった。

だが、決心は揺らぐことはない。この人たちに勝つ。
そう思いながら、俺たちはポジションに着いた。そして、武井先生のホイッスルの合図が鳴り響き、一年生対二、三年生の紅白戦が開始された。
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