努力の方向性

鈴ノ本 正秋

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【第一章】 中学サッカー部編

【第一章】 第八話

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仮入部での紅白戦が行われてから一週間後。仮入部期間が終わり、俺はサッカー部に本入部する。仮入部期間の初日以外のほとんどを同級生達だけとパス練習やセットプレーの練習を行っていた。
他のサッカー部の先輩たちはその間、学校の外周を走り、学校内で筋トレをするというフィジカルの面を鍛えていた。先輩がボールを触れず、後輩がボールを触る。少しだけ罪悪感が芽生えつつも、先輩たちと一度も会話ができないという不思議な期間を過ごしていた。

そして、俺たち一年生は昨日まで仮入部に来ていた人数は、二十三人。おそらく全員が本入部をすることだろう。しかし、他のサッカー部の先輩たちを見ると、二年生が十人、三年生が七人で、俺たち一年生はとても人数が多かった。
いや、違う。サッカー部にしては先輩たちの人数が少ない。県大会ベスト8まで勝ち残ったチームの部員が二、三年生を合わせて、十七人しかいないことに違和感を覚えた。

だから、俺は本入部届をサッカー部の監督に渡しに向かっている時に凌太と渡辺に相談してみることにした。

「お前、そんなことを気にしているのか?たまたまだろ、たまたま。二、三年の代に入部希望者が少なかったんだろ」

渡辺は呆気らかんとした様子で言った。渡辺にとっては、サッカー部の状況など微塵を興味がなく、自分が活躍できる場所さえあればそれでいいのだ。
だが、凌太は違った。

「けど、確かにおかしいんだよね」

「やっぱりそうだよな。人数が少ないこと凌太も疑問に思うよな」

「うん。それもそうなんだけど、この前、パソコンでこのサッカー部がベスト8まで勝ち進んだ時のことを調べてみたんだ」

「お、おう。それで?」

「そうしたら、サッカー部での集合写真があったんだけど、見たことない先輩が何人かそこに映っていたんだ」

「え、それって」

俺たち一年生はまだサッカー部の先輩と一言も話したことがない。けど、先輩たちが外周を走っている様子や練習着に着替えている様子などを見ており、少ない人数であることから先輩たちの顔と名前は一致するくらいには覚えることができている。

そして、それは凌太も同様であり、渡辺を含めたサッカー部の一年生は覚え始めているころだろう。何故なら、練習着には大きく名前が書かれているものを使っているからだ。
意識しなくても目に入ってしまう。

俺たちはサッカー部の監督に本入部届を出す前に、この中学校にあるパソコンルームへと足を運んだ。そのことを少し調べるために。渡辺は「わざわざ調べることないだろ」と言っていたが、嫌な顔をしながらも俺と凌太に着いてきていた。

パソコンを起動させ、検索サイトで俺たちの中学校の名前を打ち込み、スペースを押した後、サッカー部と打ち込んだ。そして、検索結果の画面に一部に青色のユニファームの選手たちが肩を組んで、二列で映っている集合写真があった。

「ほら、これ」

凌太はマウスを動かして、その写真をクリックした。パソコンの画面一面にその写真が拡大される。写真の端を見ると、大会が開催された西暦が書かれており、それは昨年のものであった。
横に整列する一人一人の顔をしっかりと確認すると、何人か知っている顔もいるが、知らない顔が半数以上いる。

それを見ていた渡辺はパソコンルームの椅子の背もたれに寄りかかった。

「どうせ去年の代の三年生だろ」

「いや、違う。この大会は新人戦だ。この新人戦には二年生から下の代が主に出場する。だから、三年生は出場するわけない」

「まぁ、なんでもいいけどよ。そんなに気になるなら、今から本入部届を監督に渡しに行くわけだし、その時に聞けばよくないか?」

確かにそうだった。
俺たちでこうやって悩むよりも、先輩たちに聞くよりも、一番早く解決できる。俺はパソコンをシャットダウンさせた。
そして、職員室に向かった。
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