努力の方向性

鈴ノ本 正秋

文字の大きさ
上 下
2 / 17
【第一章】 中学サッカー部編

【第一章】 第一話

しおりを挟む
木々から桜が散り終えた後。俺は朝からサッカーボールを蹴っていた。

これは朝のルーティンだ。小学生の頃から続けている。
リフティングを十回して、公園にある壁にサッカーボールを蹴り当て、跳ね返ってきたサッカーボールを受け取り、再びリフティングを十回する。これの繰り返しだ。

それを十数分続けた後、ボールを抱えて自宅まで走って帰った。今日は中学校の入学式。中学校の制服に着替えなくてはならない。
小学生までなら着ているスポーツウェアのまま登校できたのだが、中学生からはそうはいかない。家に着くと同時に着ていたスポーツウェアを脱ぎ、真っ白なワイシャツのボタンを留め、制服のズボンを履き、ベルトを締め、学ランを羽織る。

ちらりと見えたテレビのニュース番組の左端には、現在の時刻が記されており、その時刻は八時十分。もう悠長に学ランのボタンを留めている時間はない。先日配付された手紙には八時三十分までに学校に着いていなくてはならない。

俺は慌てて通学用のリュックサックを背負い、自宅を後にした。

「おはようございます!!」

近所の住民に声をかけられたため、走りながらも挨拶を返した。確か小泉さんだったかな、農家でいつも朝と夕方に近所にある畑で作業をしている。
俺がその小泉さんの横を通り過ぎた後も何か声をかけられていたが、もう丁寧に話を聞いている時間はない。「すみません!!急いでいるので!!」と、後ろを振り向かずそう叫び、その場を後にした。

左腕に付けた腕時計を確認する。現在の時刻は八時二十分。あと、十分しか時間がない。だが、俺は走りながらもどこか爽快感を得ていた。
まだ春の涼しい風が頬を撫で、学ランで覆った体は熱を帯びていく。
これから新たに始まる新生活に期待しかない。きっとその表れだろう。

そして、中学校に到着した。腕時計を確認すると、時刻は八時二十五分。あと五分しかないが、俺以外にもまだ中学校の門を通っている同級生は多くいた。それに加わるために最後尾に位置すると、見知った後ろ姿を見かけた。

「凌太!!」

軽く声を出しただけなのに、勢いよく坊主頭が振り向いた。そして、ばっちりと俺と目が合い、わざわざ最後尾にいる俺の元まで駆け寄ってきた。

「おはよう、透真!!」

「ああ、おはよう」

「透真が遅刻間近って珍しいね」

「小学校の時の気分で朝を過ごしていたら、制服に着替えなくちゃいけないこと半分忘れちゃって。お前は小学生から変わらないな」

「いや、ついこの前まで小学生だったんだから、変わらないのは当然でしょ!透真だってどうせ朝からボール蹴っていたんでしょ?」

「大正解!!よくわかったな」

「どうせそんなことだろうなって思ったからね」と、凌太はここまで言うと、「だって」と付け加えて、「卒業式にプロサッカー選手になるって宣言した男だしね。朝に自主練習くらいするでしょ」

そうだ。俺はプロサッカー選手になる男だ。残念ながら俺が狙っていたジュニアユースのクラブからスカウトが来なかったが、この中学校もそれなりの名門だ。昨年の大会では県ベスト8にまで上り詰めている。

「もちろんだぜ」

俺は凌太にそう答えると同時に自分に言い聞かせた。この中学校のサッカー部で大会を勝ち進み、ユースのクラブチームからスカウトされ、プロサッカー選手になるのが理想であり、この理想を絶対に叶えると。いや、正確には違うな。これが叶えるのが当然なんだと、本気でそう思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

令和の中学生がファミコンやってみた

矢木羽研
青春
令和5年度の新中学生男子が、ファミコン好きの同級生女子と中古屋で遭遇。レトロゲーム×(ボーイミーツガール + 友情 + 家族愛) 。懐かしくも新鮮なゲーム体験をあなたに。ファミコン世代もそうでない世代も楽しめる、みずみずしく優しい青春物語です!  第一部・完! 今後の展開にご期待ください。カクヨムにも同時掲載。

処理中です...