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【第一章】 中学サッカー部編
【第一章】 第一話
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木々から桜が散り終えた後。俺は朝からサッカーボールを蹴っていた。
これは朝のルーティンだ。小学生の頃から続けている。
リフティングを十回して、公園にある壁にサッカーボールを蹴り当て、跳ね返ってきたサッカーボールを受け取り、再びリフティングを十回する。これの繰り返しだ。
それを十数分続けた後、ボールを抱えて自宅まで走って帰った。今日は中学校の入学式。中学校の制服に着替えなくてはならない。
小学生までなら着ているスポーツウェアのまま登校できたのだが、中学生からはそうはいかない。家に着くと同時に着ていたスポーツウェアを脱ぎ、真っ白なワイシャツのボタンを留め、制服のズボンを履き、ベルトを締め、学ランを羽織る。
ちらりと見えたテレビのニュース番組の左端には、現在の時刻が記されており、その時刻は八時十分。もう悠長に学ランのボタンを留めている時間はない。先日配付された手紙には八時三十分までに学校に着いていなくてはならない。
俺は慌てて通学用のリュックサックを背負い、自宅を後にした。
「おはようございます!!」
近所の住民に声をかけられたため、走りながらも挨拶を返した。確か小泉さんだったかな、農家でいつも朝と夕方に近所にある畑で作業をしている。
俺がその小泉さんの横を通り過ぎた後も何か声をかけられていたが、もう丁寧に話を聞いている時間はない。「すみません!!急いでいるので!!」と、後ろを振り向かずそう叫び、その場を後にした。
左腕に付けた腕時計を確認する。現在の時刻は八時二十分。あと、十分しか時間がない。だが、俺は走りながらもどこか爽快感を得ていた。
まだ春の涼しい風が頬を撫で、学ランで覆った体は熱を帯びていく。
これから新たに始まる新生活に期待しかない。きっとその表れだろう。
そして、中学校に到着した。腕時計を確認すると、時刻は八時二十五分。あと五分しかないが、俺以外にもまだ中学校の門を通っている同級生は多くいた。それに加わるために最後尾に位置すると、見知った後ろ姿を見かけた。
「凌太!!」
軽く声を出しただけなのに、勢いよく坊主頭が振り向いた。そして、ばっちりと俺と目が合い、わざわざ最後尾にいる俺の元まで駆け寄ってきた。
「おはよう、透真!!」
「ああ、おはよう」
「透真が遅刻間近って珍しいね」
「小学校の時の気分で朝を過ごしていたら、制服に着替えなくちゃいけないこと半分忘れちゃって。お前は小学生から変わらないな」
「いや、ついこの前まで小学生だったんだから、変わらないのは当然でしょ!透真だってどうせ朝からボール蹴っていたんでしょ?」
「大正解!!よくわかったな」
「どうせそんなことだろうなって思ったからね」と、凌太はここまで言うと、「だって」と付け加えて、「卒業式にプロサッカー選手になるって宣言した男だしね。朝に自主練習くらいするでしょ」
そうだ。俺はプロサッカー選手になる男だ。残念ながら俺が狙っていたジュニアユースのクラブからスカウトが来なかったが、この中学校もそれなりの名門だ。昨年の大会では県ベスト8にまで上り詰めている。
「もちろんだぜ」
俺は凌太にそう答えると同時に自分に言い聞かせた。この中学校のサッカー部で大会を勝ち進み、ユースのクラブチームからスカウトされ、プロサッカー選手になるのが理想であり、この理想を絶対に叶えると。いや、正確には違うな。これが叶えるのが当然なんだと、本気でそう思っていた。
これは朝のルーティンだ。小学生の頃から続けている。
リフティングを十回して、公園にある壁にサッカーボールを蹴り当て、跳ね返ってきたサッカーボールを受け取り、再びリフティングを十回する。これの繰り返しだ。
それを十数分続けた後、ボールを抱えて自宅まで走って帰った。今日は中学校の入学式。中学校の制服に着替えなくてはならない。
小学生までなら着ているスポーツウェアのまま登校できたのだが、中学生からはそうはいかない。家に着くと同時に着ていたスポーツウェアを脱ぎ、真っ白なワイシャツのボタンを留め、制服のズボンを履き、ベルトを締め、学ランを羽織る。
ちらりと見えたテレビのニュース番組の左端には、現在の時刻が記されており、その時刻は八時十分。もう悠長に学ランのボタンを留めている時間はない。先日配付された手紙には八時三十分までに学校に着いていなくてはならない。
俺は慌てて通学用のリュックサックを背負い、自宅を後にした。
「おはようございます!!」
近所の住民に声をかけられたため、走りながらも挨拶を返した。確か小泉さんだったかな、農家でいつも朝と夕方に近所にある畑で作業をしている。
俺がその小泉さんの横を通り過ぎた後も何か声をかけられていたが、もう丁寧に話を聞いている時間はない。「すみません!!急いでいるので!!」と、後ろを振り向かずそう叫び、その場を後にした。
左腕に付けた腕時計を確認する。現在の時刻は八時二十分。あと、十分しか時間がない。だが、俺は走りながらもどこか爽快感を得ていた。
まだ春の涼しい風が頬を撫で、学ランで覆った体は熱を帯びていく。
これから新たに始まる新生活に期待しかない。きっとその表れだろう。
そして、中学校に到着した。腕時計を確認すると、時刻は八時二十五分。あと五分しかないが、俺以外にもまだ中学校の門を通っている同級生は多くいた。それに加わるために最後尾に位置すると、見知った後ろ姿を見かけた。
「凌太!!」
軽く声を出しただけなのに、勢いよく坊主頭が振り向いた。そして、ばっちりと俺と目が合い、わざわざ最後尾にいる俺の元まで駆け寄ってきた。
「おはよう、透真!!」
「ああ、おはよう」
「透真が遅刻間近って珍しいね」
「小学校の時の気分で朝を過ごしていたら、制服に着替えなくちゃいけないこと半分忘れちゃって。お前は小学生から変わらないな」
「いや、ついこの前まで小学生だったんだから、変わらないのは当然でしょ!透真だってどうせ朝からボール蹴っていたんでしょ?」
「大正解!!よくわかったな」
「どうせそんなことだろうなって思ったからね」と、凌太はここまで言うと、「だって」と付け加えて、「卒業式にプロサッカー選手になるって宣言した男だしね。朝に自主練習くらいするでしょ」
そうだ。俺はプロサッカー選手になる男だ。残念ながら俺が狙っていたジュニアユースのクラブからスカウトが来なかったが、この中学校もそれなりの名門だ。昨年の大会では県ベスト8にまで上り詰めている。
「もちろんだぜ」
俺は凌太にそう答えると同時に自分に言い聞かせた。この中学校のサッカー部で大会を勝ち進み、ユースのクラブチームからスカウトされ、プロサッカー選手になるのが理想であり、この理想を絶対に叶えると。いや、正確には違うな。これが叶えるのが当然なんだと、本気でそう思っていた。
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