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十六話
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16話
「––ノアちゃん!よかった、生きていたたのね……!」
街に密入国した私たちが向かった先は、街の中心部にある大きな城。
この国––リュトゥーア帝国の象徴でもある、リュトゥーア城だ。
そこの中にある応接の間にて、ご主人さまはある女性に泣きながら抱きしめられていた。
名前はラフィニア・ルア・タマル・フォン・リュトゥーア。
この国を治める女帝であり、それと同時にリヴさんの母親でもある人物だ。
このにくる道中で、イヴさんに教えてもらった。
ラフィニア様はどうやらご主人さまとは顔見知り……というかものすごく仲がいいみたいで、顔を見せた瞬間からあのざまである。
ご主人さまは豊満な胸を顔に押し付けられていて、顔も耳もまるでリンゴのように真っ赤に染めていた。
そんなご主人さまを見て、リヴさんは苦笑し、リヴさんの父親であろう人物は歓喜と嫉妬の念が混ざったような顔をしていた。
「……っ!らふぃにあ、さん。そろそろ離して……ください!」
ご主人さまはそう言って、ラフィニア様の拘束を手で無理やり押しのけると、すたたっと走って私の陰に隠れた。
「ふふ、ラフィニアは相変わらずノアのことが好きなんだね。いくら再開の抱擁とはいえ、僕も嫉妬してしまうよ?」
「なーに言ってるのよ、あなた。私の一番は今も昔もあなたのままよ?」
ラフィニア様は嫉妬の念に駆られている自らの夫を見てふふっと笑い、寄り添うようにして手を取った。
あー、うん。砂糖吐きそう。
ご主人さまに会いたいという話だったからここに来たのに、なんで私はこんな甘々しい夫婦のイチャラブ風景を見ないといけないの……。
「父上、母上。イチャついていないで本題に戻ってください。これではイア殿に呆れられてしまいます」
きっといつも通りの光景なのだろう。イヴさんははぁと溜息をついて、非難するような目を自身の両親へと向けた。
するとラフィニア様とその旦那さんは、頰をほんのりと赤く染めて、申し訳なさそうに顔を伏せた。
え、なに?この人たち付き合い始めたばかりの初々しいカップルなの?
愚痴りたくなる気持ちを抑え、私は顔に笑みを貼り付ける。
その笑みが若干引きつってしまうのは、独り身である私には仕方のないことだろう。
「……こほん。お目汚し失礼したわ。––さて、知っていると思うけど一応。私の名前はラフィニア。公的な名前はラフィニア・ルア・タマル・フォン・リュトゥーア。この国の女帝よ」
応接の間に置かれている椅子に腰掛け、ラフィニア様は私を見上げてくる。
その様子にイヴさんは片眉を上げて驚いていて、ラフィニア様の旦那さんも口をぽかーんと開けて驚いている。
なんで彼らがこんなにも驚いているのか。ご主人さまは特に驚いてないし、アルジェントも当然ながら驚いていない。
だがまあ、推測することはできる。
はるか昔、王政の敷かれていた国での帝とは一番高貴な存在とされていた。
もしも似たようなことがこの国での常識ならば、皇帝が他人を見上げるのは謂わばその見上げた相手は自分よりも上の存在である、と言っているようなものだ。
……まああくまでも推測だし、自己紹介してきた相手に自己紹介し返さないのは失礼だろう。
「私の名前はイア。ご主人さま––ノアさまのメイドでございます」
私はそう言ってぺこりとお辞儀をすると、ご主人さまにラフィニア様の机を挟んだ向かいにある椅子に座るよう促す。
そうして私は、ご主人さまの後ろに立つ。
「貴女がイア、ね……。あなた、何処の悪魔かしら?」
口元に小さく弧を描いて聞いてくるラフィニア様。
ああ、やっぱりラフィニア様も気づいていたみたいですね。
というかイヴさんが気づくのに、この人が気づかない訳がないか……。
「さて。それは秘密、とさせていただきましょう」
ラフィニア様の疑問である「何処の悪魔かしら?」というのは、おそらく悪魔界における派閥について聞いているのだろう。
この世界での悪魔の派閥は全部で五つある。
一つ、紅蓮の一族。彼らは気性が荒く、召喚した際、気に入らなければ召喚主を殺してしまうことが多い。
二つ、紺碧の一族。彼らは紅蓮の一族に比べれば比較的おとなしいが、気まぐれで召喚主を傀儡にしてしまうことがある。
……おとなしいといえるのでしょうか?
三つ、翡翠の一族。彼らは悪魔に悪魔ではないと言われてしまうほど温厚である。
ただし、自らの大切なものに手を出された場合、その評価は一変する。
もしも彼らが大切なものに手を出された場合––紅蓮の一族以上の残虐性を露わにするのだ。
四つ、純白の一族。彼らは一番悪魔らしい悪魔である。
彼らは生き物を差別しない。そこらへんにいる蟻と、人間の価値は変わらないと思っているのだ。
五つ、漆黒の一族。彼らは、異常。ただその一言に尽きる。
これが悪魔の五つの派閥に対する、人間の認識である。
そして私は、なぜか五つ目の漆黒の一族所属の悪魔となっているのだ。非常に謎である。
「……秘密、ね。普通なら悪魔は自分が各々の派閥に所属していることを誇りにして、勝手に名乗り上げてくれるのだけれど……。あなたは違うのね」
口元の笑みをさらに深くして、目を細めてラフィニア様は私を見てくる。
いや、普通自分の弱みにしかならない情報は他人に漏らさないでしょ。
……いや、待てよ。もしも私の常識と「悪魔という種」の常識が違ったら、どうなる?
ピタリと、私の表情が凍りつく。
もしも私の想像通りならば、今の私の言動は「私は悪魔の中では異端です」と自ら吹聴しているようなものだ。
当然、ラフィニア様と賢人と謳われているイヴさんがそれに気づかないはずがない。
「ふふ。本当、貴女の一族は悪魔として異常ね」
まるで懐かしいものを見るかのように、私を見つめてくるラフィニア様。
もしかして漆黒の一族に知り合いでもいるんだろうか。
「なぁ、一体何の話をしているんだ……?」
不満げに口を尖らせるご主人さま。どうやら自分だけ話についていけていないのがご不満のようだ。
「なにって、貴女の悪魔についての話よ。まさか、自分の召喚した悪魔の派閥を知らないなんてことはないでしょうね……?」
「……派閥?悪魔に派閥なんてあるのか?」
そう言ったご主人さまに、ラフィニア様は片手で目のあたりを押さえて、溜息を吐いた。
「……よくそれで悪魔を召喚できたわね。もし召喚したのがイアちゃんじゃなかったら、あなた殺されてたかもしれないわよ?」
心配そうにご主人さまを見つめるラフィニア様。
事の重大さをあまり理解していないのか、ご主人さまは、はははと笑ってラフィニア様から目を逸らした。
「––私の話はもういいでしょう。話を逸らさないで、本題に入ってもよろしいでしょうか?」
失礼になるかもしれないが、こちらもあまり時間がないのだ。
今は現実世界で午後12時を回ったところ。……なんというか、うん。非常にお腹が空いたのだ。
流石にゲームをやるからといってご飯を抜く気にはなれない。そこまでガチでやってないからね。
「ええ、そうしましょうか」
そんなわけで私はご主人さまの事情についてと、「お願い」をラフィニア様へと話した。
「––ノアちゃん!よかった、生きていたたのね……!」
街に密入国した私たちが向かった先は、街の中心部にある大きな城。
この国––リュトゥーア帝国の象徴でもある、リュトゥーア城だ。
そこの中にある応接の間にて、ご主人さまはある女性に泣きながら抱きしめられていた。
名前はラフィニア・ルア・タマル・フォン・リュトゥーア。
この国を治める女帝であり、それと同時にリヴさんの母親でもある人物だ。
このにくる道中で、イヴさんに教えてもらった。
ラフィニア様はどうやらご主人さまとは顔見知り……というかものすごく仲がいいみたいで、顔を見せた瞬間からあのざまである。
ご主人さまは豊満な胸を顔に押し付けられていて、顔も耳もまるでリンゴのように真っ赤に染めていた。
そんなご主人さまを見て、リヴさんは苦笑し、リヴさんの父親であろう人物は歓喜と嫉妬の念が混ざったような顔をしていた。
「……っ!らふぃにあ、さん。そろそろ離して……ください!」
ご主人さまはそう言って、ラフィニア様の拘束を手で無理やり押しのけると、すたたっと走って私の陰に隠れた。
「ふふ、ラフィニアは相変わらずノアのことが好きなんだね。いくら再開の抱擁とはいえ、僕も嫉妬してしまうよ?」
「なーに言ってるのよ、あなた。私の一番は今も昔もあなたのままよ?」
ラフィニア様は嫉妬の念に駆られている自らの夫を見てふふっと笑い、寄り添うようにして手を取った。
あー、うん。砂糖吐きそう。
ご主人さまに会いたいという話だったからここに来たのに、なんで私はこんな甘々しい夫婦のイチャラブ風景を見ないといけないの……。
「父上、母上。イチャついていないで本題に戻ってください。これではイア殿に呆れられてしまいます」
きっといつも通りの光景なのだろう。イヴさんははぁと溜息をついて、非難するような目を自身の両親へと向けた。
するとラフィニア様とその旦那さんは、頰をほんのりと赤く染めて、申し訳なさそうに顔を伏せた。
え、なに?この人たち付き合い始めたばかりの初々しいカップルなの?
愚痴りたくなる気持ちを抑え、私は顔に笑みを貼り付ける。
その笑みが若干引きつってしまうのは、独り身である私には仕方のないことだろう。
「……こほん。お目汚し失礼したわ。––さて、知っていると思うけど一応。私の名前はラフィニア。公的な名前はラフィニア・ルア・タマル・フォン・リュトゥーア。この国の女帝よ」
応接の間に置かれている椅子に腰掛け、ラフィニア様は私を見上げてくる。
その様子にイヴさんは片眉を上げて驚いていて、ラフィニア様の旦那さんも口をぽかーんと開けて驚いている。
なんで彼らがこんなにも驚いているのか。ご主人さまは特に驚いてないし、アルジェントも当然ながら驚いていない。
だがまあ、推測することはできる。
はるか昔、王政の敷かれていた国での帝とは一番高貴な存在とされていた。
もしも似たようなことがこの国での常識ならば、皇帝が他人を見上げるのは謂わばその見上げた相手は自分よりも上の存在である、と言っているようなものだ。
……まああくまでも推測だし、自己紹介してきた相手に自己紹介し返さないのは失礼だろう。
「私の名前はイア。ご主人さま––ノアさまのメイドでございます」
私はそう言ってぺこりとお辞儀をすると、ご主人さまにラフィニア様の机を挟んだ向かいにある椅子に座るよう促す。
そうして私は、ご主人さまの後ろに立つ。
「貴女がイア、ね……。あなた、何処の悪魔かしら?」
口元に小さく弧を描いて聞いてくるラフィニア様。
ああ、やっぱりラフィニア様も気づいていたみたいですね。
というかイヴさんが気づくのに、この人が気づかない訳がないか……。
「さて。それは秘密、とさせていただきましょう」
ラフィニア様の疑問である「何処の悪魔かしら?」というのは、おそらく悪魔界における派閥について聞いているのだろう。
この世界での悪魔の派閥は全部で五つある。
一つ、紅蓮の一族。彼らは気性が荒く、召喚した際、気に入らなければ召喚主を殺してしまうことが多い。
二つ、紺碧の一族。彼らは紅蓮の一族に比べれば比較的おとなしいが、気まぐれで召喚主を傀儡にしてしまうことがある。
……おとなしいといえるのでしょうか?
三つ、翡翠の一族。彼らは悪魔に悪魔ではないと言われてしまうほど温厚である。
ただし、自らの大切なものに手を出された場合、その評価は一変する。
もしも彼らが大切なものに手を出された場合––紅蓮の一族以上の残虐性を露わにするのだ。
四つ、純白の一族。彼らは一番悪魔らしい悪魔である。
彼らは生き物を差別しない。そこらへんにいる蟻と、人間の価値は変わらないと思っているのだ。
五つ、漆黒の一族。彼らは、異常。ただその一言に尽きる。
これが悪魔の五つの派閥に対する、人間の認識である。
そして私は、なぜか五つ目の漆黒の一族所属の悪魔となっているのだ。非常に謎である。
「……秘密、ね。普通なら悪魔は自分が各々の派閥に所属していることを誇りにして、勝手に名乗り上げてくれるのだけれど……。あなたは違うのね」
口元の笑みをさらに深くして、目を細めてラフィニア様は私を見てくる。
いや、普通自分の弱みにしかならない情報は他人に漏らさないでしょ。
……いや、待てよ。もしも私の常識と「悪魔という種」の常識が違ったら、どうなる?
ピタリと、私の表情が凍りつく。
もしも私の想像通りならば、今の私の言動は「私は悪魔の中では異端です」と自ら吹聴しているようなものだ。
当然、ラフィニア様と賢人と謳われているイヴさんがそれに気づかないはずがない。
「ふふ。本当、貴女の一族は悪魔として異常ね」
まるで懐かしいものを見るかのように、私を見つめてくるラフィニア様。
もしかして漆黒の一族に知り合いでもいるんだろうか。
「なぁ、一体何の話をしているんだ……?」
不満げに口を尖らせるご主人さま。どうやら自分だけ話についていけていないのがご不満のようだ。
「なにって、貴女の悪魔についての話よ。まさか、自分の召喚した悪魔の派閥を知らないなんてことはないでしょうね……?」
「……派閥?悪魔に派閥なんてあるのか?」
そう言ったご主人さまに、ラフィニア様は片手で目のあたりを押さえて、溜息を吐いた。
「……よくそれで悪魔を召喚できたわね。もし召喚したのがイアちゃんじゃなかったら、あなた殺されてたかもしれないわよ?」
心配そうにご主人さまを見つめるラフィニア様。
事の重大さをあまり理解していないのか、ご主人さまは、はははと笑ってラフィニア様から目を逸らした。
「––私の話はもういいでしょう。話を逸らさないで、本題に入ってもよろしいでしょうか?」
失礼になるかもしれないが、こちらもあまり時間がないのだ。
今は現実世界で午後12時を回ったところ。……なんというか、うん。非常にお腹が空いたのだ。
流石にゲームをやるからといってご飯を抜く気にはなれない。そこまでガチでやってないからね。
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