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番外8.部屋とYシャツと眠り姫

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 新商品だという、「とろける苺プリン」を瀬川に買って帰ってやろうと立ち寄ったコンビニで、ふと一冊の雑誌が目に止まった。
 なんのことはない、グラビアアイドルが表紙の男性向けの雑誌ではあったが、なぜそれに視線が吸い寄せられたかといえば、表紙を飾っている女性の目元が、わずかばかり瀬川に似ていたから。
 まじまじと見れば似ていないが、ほんの一瞬目をやると似ていないこともない、という程度。
 しかし、瀬川に似ている女性が表紙を飾っていると思うと、ついついプリンとビールの入ったカゴを床に置き、その雑誌を手に取って開いてしまう。

 よく見るとやはり似ていなかったが、しかし、表紙近くで数枚に渡ってカラーで組まれている特集に、激しく興味をひかれた。
 彼シャツ特集。
 男物のワイシャツを着たグラビアアイドルたちが、ボタンをはずして大きく広げた胸元から谷間を強調させて見せていたり、むっちりした脚をシャツの裾から見せている。
 いいな、これ。
 隆一は、頭がグラビアアイドルに侵食されないうちにパタンと雑誌を閉じ、元のように棚に戻してから、カゴを持ってレジに向かう。
 それから意気揚々と、すでに帰宅したはずの瀬川が待っている自宅へと足を向けた。


「おかえり!あ、とろける苺プリン!」
 コンビニの袋を掲げて見せれば、中を覗き込んだ瀬川が弾けるような笑顔を見せる。
 甘い物が大好きで、特に苺味に目がない。
 恥ずかしいのか自分ではなかなか買おうとしないので、たまにこうして隆一が買って帰るととても喜んでくれる。
 ちなみに、情報のソースは母と、姉のすみれだ。
 ご丁寧に、「苺プリンが新商品で出たから、冬夜くんに買って帰れ」という指令をよこしてきた。
 二人とも、瀬川のことがかわいくて仕方ないらしい。

「やった!人気でなかなか買えないんだってテレビでやってたのに、よく買えたな!」
 そういえば、最後の一つだった。隆一は運がいい。おかげで、瀬川の喜ぶ顔が見られた。
 それに、思わぬ知恵も手に入れることができた。
「食後にこれ、食べていい?」
 もちろん、と頷くと、かわいい笑顔を見せて、うきうきと冷蔵庫にプリンをしまいこむ。
 もうすぐごはんだからと言われたので、スーツを脱いで部屋着に着替え、手を洗って瀬川の手伝いに入る。
 今日は隆一の好物の炊き込みご飯らしい。そういえば、朝早くから用意していた。
 瀬川と暮らすようになってからの隆一はすっかり舌が肥えてしまい、コンビニ弁当が食べられなくなった。
 体調もすこぶる良いが、やや肉付きが良くなってしまった気がする。
 体形と体力維持のためにも、走りこみに行くか、ジムに行くかしなければと思う。
「さ、出来た。食べよう?」
 エプロンをつけたまま椅子に座りいただきますをする瀬川が、死ぬほどかわいい。
 結婚はしていないが、ほぼ俺の嫁状態だ。
 そのうち結婚指輪を買おうと、瀬川の細い指を見ながらあれこれと妄想を巡らせた。

 
 食後のデザートにとろける苺プリンを堪能した後、隆一が皿を洗っている間に、瀬川は風呂に入りに行った。
 平日の夜はこのパターンが多い。
 帰宅してから眠るまでの時間が短いので、どちらかが家事をしている間に自分のことを済ませるようにいつのまにか決まっていた。
 瀬川の体力に余裕があれば、セックスに持ち込むこともある。
 なかなか許してもらえないが。

 そろそろいいだろうか?と、隆一は、皿の泡を流していた水を止めた。
 こっそり洗面室を覗けば、浴室ドアの向こうから瀬川の気持ちよさそうな鼻歌が聞こえてくる。
 隆一は大きな体をするりと忍び込ませ、ドラム型洗濯機の上に畳んで置かれていた瀬川のパジャマと下着を持ち出した。
 次いで、バスタオルも撤収。代わりにフェイスタオルを一枚置いておく。
 それから、最も重要な「それ」を、パジャマのあった場所に置いた。

 素早く洗面室を出て、素知らぬ顔で皿を洗い続け、待つことしばし。
 洗い終わった皿を食器棚に片づけ終わったところで、かちゃり、とリビングのドアが開いた。

「藤堂……」
 開いたドアの隙間から、じっとりと瀬川がこちらを睨んでいる。
 なんですか?としらばっくれると、バンッと音をたてて激しくドアが開き、足音を荒げて近づいた瀬川が隆一に掴みかかって来た。

「もう!毎回毎回、藤堂は俺に何をさせたいわけ?!」
 顔を真っ赤にして怒る瀬川が着ているのは、隆一の白いYシャツ一枚のみ。
 いわゆる、彼シャツ姿。
 パンツもTシャツも渡さなかったので、本当にそれ一枚こっきりだ。
 サイズの大きなYシャツの裾からスラリと伸びた美しい脚に、隆一はいたく満足する。
「眼福です、冬夜さん」
 良く見せて、と掴みかかっていた瀬川を引き剥がすと、身体を捩って逃げようとする。
「せめて、パンツぐらい履かせろ!」
「ダメです。っていうか知ってますか?Yシャツって、昔はパンツも兼ねてたんですよ?」
 だからパンツはいらないはずです、と言ってやると「嘘だっ!」と瀬川が真っ赤になって暴れた。
 本当だ。
 Yシャツの下についている無用なボタンは、昔、股の下にくぐらせて留めるものだったらしいシャツの名残なのだ。
 しかし、今はそんなことどうでもいい。

 暴れる瀬川を羽交い絞めにして、シャツの後ろをめくりあげてやると、白い臀部が顕わになった。
「ちょっ……ヤダ!やめろよっ!」
 スウェットのポケットからスマホを取り出して撮影しようとすると、それを察知した瀬川がさらに暴れた。
「バカっ!変態っ!」
 暴れる瀬川の髪から、しずくが飛び散る。
 フェイスタオル一枚しか渡さなかったから、きちんと拭ききれなかったのだろう。
 着替えがない事に気付いた瀬川が、男らしくバスタオルを腰に巻いて出て来る事を恐れて取り上げてしまったが、かわいそうなことをしたと思う。
 そんな事をしなくても、賢い瀬川は隆一の意図を察して、ちゃんとシャツを着て出て来てくれただろうに。
「暴れると、前も写っちゃいますよ?」
「バカっ!ホントにやめろっ!」
「うっかり誤爆するといけないので、大人しくしてもらえますか?」
 以前に揉み合っていて、掛橋相手に「彼部屋着姿」を誤爆されたことを思い出したのだろう。
 瀬川がピタリと動きを止めて、大人しくなる。
 濡れた髪をかきあげてやり、ちゅっとこめかみにキスを落とすと、隆一の胸に顔をうずめた瀬川が「うう……」と低く唸った。

「お尻は撮らないから……ちょっと全身撮らせて?」
 するん、とむき出しの尻を撫でてやってから、ゆっくりと自分の体を瀬川から離す。
 後ずさる様にして、一歩、二歩と距離を置き、ベストポジションでスマホをかまえると、瀬川は真っ赤になった顔をプイと横にそらし、シャツの裾を握って、恥じらう様に下へと引っ張った。

 ダメだ。
 かわいすぎる。

 ワンショットだけ撮影したスマホをソファへ放り投げ、本能のままに瀬川に襲い掛かる。
 膝裏に腕を差し込んですくい上げるように抱き上げ、その場で激しく唇を貪ると、おずおずと隆一の首に瀬川の腕が巻き付いて来る。
 唇を重ね合わせたまま、ベッドへ向かおうと歩き出した隆一を、「待って」と瀬川が押しとどめる。
「のど……乾いた。お水……」
 そういえば瀬川は風呂上りだったか、と、思いやりなく衝動に走った自分に呆れ、瀬川を抱き上げたまま冷蔵庫へと向かう。
 開けて、というと、瀬川は抱かれたままうまくバランスを取りながら冷蔵庫を開け、ペットボトルを取り出した。
 ちんまりと隆一の懐におさまったまま、ペットボトルの蓋を開け、こくこくと水を飲む。
 俺にも飲ませて?とねだると、恥じらいながら、口に含んだ水を、隆一の口へと流し込んだ。
 上から流し込むならいざしらず、伸びあがるように下から唇を塞いだのでは、なかなかうまく渡しきれず、瀬川が口に含んだ水は、大半が白い喉元に零れ落ちた。
 もう一度、と再びねだると、難しい遊びにチャレンジする子供の様に、上手に受け渡そうとムキになって大量の水を口に含む。
 果敢にチャレンジしたそれは、やはり半分ほどが零れてしまい、瀬川の喉元をさらに濡らした。
 白いシャツが零れた水を吸い込み、肌に貼り付いて透けている。

 抱きたい。
 
 せりあがるように沸いたその気持ちを今度こそ押さえきれず、隆一は瀬川を抱いたまま、一気に寝室へと駆け込む。
 それでも慎重な手つきでベッドの上に瀬川を降ろし、持っていたペットボトルを受け取った。
 蓋を締めようと、瀬川が握りしめていた手をこじ開けてキャップを取り出し、ふと思いついてそれを床に投げ捨てる。
 あおるようにペットボトルに口をつけて水を含むと、隆一はそのまま瀬川に覆いかぶさった。

「ひっ……ぁ……!な、なに?!」
 冷たい、と瀬川が文句を言う。
 よく冷えたミネラルウォーターを口に含んだまま、隆一はシャツの上から瀬川の乳首を口に含んだ。
 じわりとシャツが濡れたのを確認し、一旦口を閉じてごくりとそれを飲み干す。
 ほどよく冷えた舌で、冷たさにツンと立ち上がった瀬川の乳首を舐め上げると、イヤ、と小さな抵抗の声が上がった。
 さりさりと布地の上から刺激し続けると、瀬川の腰が逃げを打つ。
 もう一度水を口に含み、反対側の乳首を刺激しながらちらりと視線をやると、めくれ上がったシャツの裾から、すっかり隆起した瀬川の美しい性器が、トロトロと涙を流しているのが見えた。
 とても敏感に反応するようになった瀬川のそこに、隆一はそっと手を伸ばす。

 先端から溢れ出る、さらりと水っぽい粘液を指で絡め取りながら、勃ち上がったその部分を手のひらでくるくると刺激してやると、瀬川は首を振りながらイヤだと悲鳴を上げ続ける。

 体を起こして上から眺めてみれば、そこには卑猥であるにもかかわらず、たとえようもなく美しい男の姿があった。
 半端にボタンのかかった、大きめの白いYシャツ。
 胸元が濡れ、ツンと尖った乳首が、透けた薄い布を押し上げて存在を主張している。
 シャツの裾は大きくはだけて臍のあたりまでめくれあがってしまい、腹部に反り返る様に濃いピンクの性器がふるふると揺れて……

 どうしてスマホを放り投げてきてしまったんだろうか、と激しく後悔する。

 隆一がよからぬ事を考えたのがわかったのか、瀬川が涙の滲んだ眼差しで、キッと隆一を睨み上げた。

 ……誘っているようにしか、見えないのだが。

「……いい?」
 今さらながらお伺いを立ててみると、瞬時に持ち上がった白い脚が、隆一の腹部に存外に重い蹴りを入れた。
「どうせ、俺の言う事なんか聞かないくせにっ……!」
 さらに蹴りを入れようとするやんちゃな脚を抱え込み、隆一は笑って瀬川に頬を寄せる。
「その通り。大人しくしてて?」

 1回だけだ、とか、跡つけるな、とか、中で出すな、とか散々条件は出されたが、隆一はまんまと瀬川を抱く権利を手に入れてほくそ笑む。
 さて、どこまで守れるかな、と理性の糸が細すぎる自分を心配しながら、それでも瀬川に負担の少ないようにしようと、隆一はやさしく手を伸ばした。

 
 翌朝。

 瀬川は復讐するかのように、「Yシャツにパンツ、靴下」という着替え途中の間抜けな姿の隆一を自分のスマホに収めていたが、

「イケメンはどんな格好しててもイケメンで面白くない」

 と、すぐにその画像を削除した。
 着替え途中の間抜けな姿を撮影されたことよりも、自分の画像をためらいなく削除されてしまった事の方がショックだったのは、隆一だけの秘密だ。
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