そこのエルフと巨人に気をつけろ!!

誤魔化

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ばっちぃ肉塊 × 5。

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「おお~エルフじゃん、いいな~」

「あれ、あんま驚かんな?」
「まあ見るの初めてじゃないし…。さすがに初めて見た時はテンション上がったわ」
「でしょうな。てかいいな~ってなにさ、巨人好きだったろお前」

 橘は前世で杉岡がアニメキャラの巨人族について熱く語っていたのを思い出す。

「そりゃ好きだけどさ、浪漫だったけどさ、…やっぱエルフって皆美形じゃん?」

 言いながら自らの顔を触る杉岡を見て、橘はハハーン?と察する。

「杉岡さんや、お主も十分ハンサムな顔してらっしゃるぜよ?だいぶ怖いけど」
「その怖いとこが問題なんだよ、ろくに友達もできねぇ…」
「ありゃー、どんまい?」


 …ドサッ

「――え、え、え長耳種エルフ!?」
「ヒ、ヒィィィィィッ」
「殺されるッ」
「どうか、命だけは!!」
「エルフなんて聞いてねぇぞ!?」

 橘の長い耳を見た盗賊たちが唐突に騒ぎ出した。

 騒ぎ出すまでの少しの間が気になったが、おおかた許容量を超えた恐怖が一度に来たことでフリーズしていたとかそんなとこだろう。

「あ、コイツら忘れてたべや」
「…そいえばいたな」

 橘と杉岡の二人は軽い足取りでスタスタドスドスと腰を抜かして震えている盗賊たちのもとへ歩いていく。

「あ!コイツ漏らしてやがる!どんだけ杉岡が怖かったんだ」
「…なんかさっきのは俺よりエルフってのにビビってなかったか?」
「気の所為っしょ。善良で神聖なエルフ様にどんなイメージ抱いてっとこーなんだ?たわけ共め」

 橘は、うえっバッチぃと言いながら濡れていない部分をゲシゲシと蹴り上げる。

「…っ、ぅ…、」

 実際エルフは排他的な種族で自らの領域である世界樹の森からは出ないため、人族からしてみれば謎だらけなはずだ。恐怖されるはずがない。何か理由があるとするならば森に居場所がないハーフエルフやその末裔たちか、こうして森を出て各地を旅している自分くらいなものだが。自分なはずはないだろう。ないはずだ。

 杉岡は羞恥と怒りと恐怖に赤くなる盗賊を見てさすがに哀れになったのか橘を軽く諌める。

「あんまイジメてやんなって」
「…ま、おっさんの赤面なんて誰も得しねーしな」
「まあ…そうだけどな…」
「え、杉岡は得するタイプだった?なんかごめんね、?」
「しねぇよ!可哀想だって話」

 可哀想とは…、?と橘はよくわからないと言った風に聞き返す。

「どのへんが可哀想なんねや…?コイツら私を輪姦そうとしてたんだぞ?ちょっと蹴るくらい安いもんじゃねぇか?」
「え、ナニソレ初耳…、お前強姦されそうになってたん…?」
「おうよ」

 杉岡は数秒フリーズした後、無言で逃げることも出来ないでいる盗賊たちの頭に一発食らわせだした。

 ドゴッ、ガコッ、ボキッ、ドゴスッ、メキョッとシュールな音が森に響く。

「…それ死んだのでは、?可哀想どこいった?」
「運が良ければまだ生きてるだろ、俺は強姦モノとかレイプとか一番嫌いだから」
「あーね?」
「何より親友が未遂とはいえ被害者ってんならガチ胸クソ悪ぃ」
「おお、今めっちゃ友情感じたわ…」
「やー、俺マジでこの世界での友達少なすぎて、俺にとってのお前の”友達”の比重?比率?がめっちゃ上がってるんだわ…、説明ムズいな伝わってる?」

 杉岡はまだ再会できた喜びと興奮が抜けないらしく、語彙力が働いていない様子。
 大きな腕を動かして身振り手振りで大きく円をつくっている。

「…なんとなくわかったぞ、つまり再会したばかりと言えど、この世界では俺にとっての親友は橘だけなんだ。しかも見た目以外は昔とまったく変わらない橘と会話できて絶賛愛が止まらないんだ、イェアってことでしょ?」
「あーまあ概ねそんな感じ、うん。友達0ってわけじゃないけどな?」

「ほーん、てかさ、杉岡の登場の時さ、女の子が強姦されそうになってるのを助けようと…とかじゃなかったんだ?」
「あー、それね、俺普通にあの時、っていうか今もだけど迷子なってたわけよ?この森広いし。…まあ他に森を出る手段がなかったわけじゃなかったけど、ちょうど人間見つけたし道聞けたらなって、逃げられてもこっそり追いかければいいかなって突撃したんだよ」
「なぁるほどね、理解理解」

 会話をしながら二人はモザイクをかけたいような血まみれの光景をただ眺める。
 潰れた虫でも見るかのように、ただ眺める。

「…迷子になってんならさ、案内したるよ?森はエルフにとっての庭って言うくらいだし楽勝…てか行き先どこなん?せっかくだしこれから一緒に行動しようぜぃ」
「マジ!?神か!俺はスァトラに行く予定だったんだけど、適当な旅だったし行き先は橘に任せるぞ」

 スァトラは、通称迷宮都市と呼ばれるほど大小様々な迷宮がいたるところにボコボコと溢れかえっており、冒険者や傭兵たちの出入りも多いため、その層をターゲットにしている商人や職人たちも多く集まり、ここいらでは一番活気があると言っても過言ではない都市だ。

「んー、私も適当だったし、じゃあスァトラに決定だな!あ、でも行きの道にあるグルクジャスタって町は通りたくないから…ちょっち迂回してもい?」
「全然いいけど、なんで通りたくないのか聞いても?」
「…あそこには今、め~んどくさぁ~~~いヤツがいるんだよ。できれば杉岡は会わないほうがいい輩だね」
「なーる、おけおけ迂回しよう。気にならんこともないけど」
「感謝ー!それじゃ出発しようか!」
「おうとも!」

 勢いよく笑顔で歩き出す二人は同じタイミングで「…あ、」と立ち止まる。

「こいつらどうしよ」

 指差す先にはモザイク状態の(元)盗賊たち。

「一応埋めとくか?獣湧くだろうし」
「こんなのを食べちゃう動物と魔物たちが逆に哀れすぎる」

 二人はもう一度それを見てみる。

「でもさ」「でも」

「「…放置」」

「だな」
「うん」
「面倒くさいし」
「弔ってあげるみたいで癪だし、面倒くさいし」

「…うん、行こっか」
「行こう」

 二人は前世でも今世でも気の合う同僚で悪友でマブダチ。性格も似たりよったりなのだ。

「最後にもう一個聞きたいことあるんだけど」
「ん?」
「なんでひと目見てすぐに私だってわかったの?顔とか雰囲気とか大幅に変わってる、っていうか面影もないじゃん」
「あー、それね、親友に気づかないわけないだろと言いたいとこだけど、俺の血筋の能力で”真実の眼”って言って対象の情報を看破するチートがあるのですよ」
「マジすか、それはいわゆる異世界ファンタジーモノの主人公が何故か必ず持っているあのお決まりの、鑑定スキルとやらですかい?」

 橘のセリフには少々偏見が入っている。

「必ずではないけどな、それだ」
「うわ、羨まし」
「どや」

 こわもてがドヤ顔をしても怖さが増すだけだ。

「つっても人によって見えるもの違うしあんま便利じゃないぞ?俺は熟練度けっこう上げてるからいろんなこと見えるはずなんだけど、たまにお前みたいなエルフだと魔法抵抗力高すぎて意味不明なのしか見えん」
「私はなんて見えた?」
「"親友"…って書いてあった」

 ただ一言、親友。親友…。そういうかんじか。ほーん、ほーーん、だいぶ嬉しいじゃないかおい。

「そこで真っ先に私ってわかるとこが愛なのか、ただ友達が少ないのか。両方か」
「うっせぃ」
「でもその能力だいぶ有利じゃね?いーなー」
「まぁな」

 杉岡が再びドヤる。

「けっ、主人公ムーブかましやがって」
「主人公は巨人じゃないし、顔面凶器じゃない」
「それもそっか」
「自分で言ってて悲し、泣く…慰めて」

 慰めろと言われた橘は、筋骨隆々の巨身を見上げつぶやく。

「届かんな、かがみたまえ」
「?、おう」

 杉岡は疑問に思いながらも素直に従い、窮屈そうにかがむ。

「よすよす」
「うおぉ?」

 橘にとって真っ先に思い浮かぶ慰めとはヨシヨシだった。

「撫でられるとか、あっちの世界の母親以来だわ…オカンに会いたい」

 マザコンめ。

「そのオカンはあんたみたいなイカツイ息子を産んだ覚えはありませんって言うんでない」
「そりゃ、この姿で会ったら失神するだろうな…想像したくない」

 恐怖を煮詰めて固めたような男が、若いエルフの女に撫でられてメソメソとしている光景。はたから見れば様々な誤解を招きそうな光景だが、幸いとして周りにはかつて盗賊だったモザイクしかいない。

「まあ元気だしなって、顔面凶器の主人公だって中にはいるはずさ」
「いや、俺は主人公になりたいわけじゃなくて、顔面凶器を卒業したいの」
「はは」
「俺にとっては笑い事じゃないんだけどな」

「ま、個性だし!皆違って皆良い!」
「雑な締めくくり方だな」


 だけど、久しぶりに誰かとこんなに話せて楽しい、と杉岡が続けたことで二人は少し照れくさくなって、誤魔化すようにルンルンランランとスァトラに向かって歩きだした。

 その後、元盗賊であった肉塊の行方は誰も知らない。

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