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POSITION・5 チッタ・デル・バチカーノ
チッタ・デル・バチカーノ 2
しおりを挟む辺りは余韻を残さず、再びひっそりと静まり返っている。
「やっとお目醒めかい。いいショーを見損ねたな。死ぬ前にサルヴァトーレの肉片とでも面会してみるかい?」
男は、ニヤリ、と唇を歪めた。
「サルヴァ……トーレ……?」
その名前に、フィンは呆然と、呟きを、零した。
広場には、穴だらけになった車が、止まっている。
それが、その名前の意味である、というのだろうか。
男たちが柱列の陰から抜け出して、その車へと足を進める。
「クックッ。弟思いのいい兄貴だ。おまえもすぐにあの男の処へ送ってやるさ」
男が言った時だった。再び広場に高い銃声が響き渡った。
「うわあ――っ!」
「ひっ!」
「な――っ」
車の元へと向かっていた男たちが、次々に呻きを上げて、地面に、倒れる。
「何だと――っ!」
フィンの側にいた男は、驚愕の面で目を見開いた。
「こういうことだよ」
不意に、背後から声が届いた。
ハッ、として声の方を振り返る。
そこには、一人の青年が立っていた。――いや、回廊の外側から姿を見せた。
車に乗っていたはずの青年、サルヴァトーレ・インツェリッロ――。手には銃を構え、男の額に、ピタリ、と狙いを定めている。
「ま、まさか……っ」
「幽霊を見るのは初めてかい? 真っすぐな道で車をリモート・コントロールするのは楽な作業だよ」
「――」
車には、サルヴァトーレ本人ではなく、ダミーの人形が乗っていたのだ。そして、広場の柱列の上層には、サルヴァトーレの部下が先回りをして潜んでいた。
「久しぶりの大きな抗争だ。これだけの兵隊を失くせば、おまえたちのファミリーもおとなしくなるだろう。――さあ、言え。おまえたちを動かしたのは、ニューヨークのドン.ゴッティだな?」
サルヴァトーレは訊いた。
「あ、ああ……」
男が真っ青になって、コクリ、とうなずく。
「それだけ聞けば充分だ」
引金に掛ける指に、ためらいはなかった。
「やめ――」
ピシっ、という微かな音に、男の額に小さくて丸い穴が、空く。
硬直したように動きが止まり、ドサっと地面に崩れ落ちた。
それに一瞥も送らず、サルヴァトーレは銃口の狙いを下へ――地面に座り込む金髪の少年へと、置き換えた。昨日まで腕に抱き、慈しんできた、碧い瞳の野良猫へと……。
「私の……弟だと? 血の繋がった正真正銘の弟? 私の母と別の男との間に生まれた子供? おまえが……?」
男たちの話を聞いていたにも関わらず、サルヴァトーレは信じられない思いで問いかけた。今までそんなことなど一言も言わず、それ以外のことも――自分のことは何も語ろうとは、しなかったのだ、その少年は――。いや、ローマで最初に出逢った日、彼はサルヴァトーレを見て『にーさん』と呼んだのではなかったか。
だが、それ以外は何も……血の繋がった兄弟だとは言わず、ずっと他人として振る舞っていた。
「どういうことなんだ、フィン? 此奴らの言っていたことは本当なのか?」
銃口を揺らさず、サルヴァトーレは厳しい口調で問いを続けた。
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