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POSITION・5 チッタ・デル・バチカーノ
チッタ・デル・バチカーノ 1
しおりを挟む深夜――。
サン・ピエトロ広場の柱列の回廊の陰には、何人もの男たちが潜んでいた。
楕円形の広場の直径は、二四〇メートルにも及ぶ。その周りにドーリア風の柱列を四重に配置し、計二四八本もの柱で回廊を形成し、円形に広場を取り囲んでいるのだ。
広場の中心には高さ二五・五メートルのオベリスクが建ち、その両脇には噴水が設えてある。
冬の夜――。光の国とはいえ、広場は随分、冷え込んだ。
その回廊の一角――サン・ピエトロ大寺院に近い場所に、一人の少年が意識もなく、ぐったりと横たえられていた。男たちの精液と欲望に塗れたままの姿で、碧い瞳を開くこともなく、眠っている。
フィン――彼はすでに人間ではなくなってしまっている、というのだろうか。
その傍らには、二人の男が銃を片手に立っていた。
「あのサルヴァトーレが、本当にこんなガキに五〇〇〇万ドルも出すのか? 確かにきれいなガキだが、薄汚れた麻薬中毒者の男娼だぜ」
一人が言った。
「必ず出すさ。何しろこのガキは――」
傍らの一人が、そう言いかけた時、
「静かにしろっ。車が来た」
少し離れた柱列の陰から、言葉が飛んだ。
見れば、コンチリアツィオーネ通りの方から、一台の黒塗りの高級車が、ゆっくりと広場に入って来る。
たった一台である。ボディ・ガードの車も付けずに、滑らかな動きで進んで来る。
「ナメた男だぜ、サルヴァトーレ・インツェリッロ。それともただの馬鹿なのか。ファミリーのナンバー.2が、金を持ってたった一人で来るとはな」
嘲笑うように、一人が言った。
「どっちにしても、あの男が死ねばファミリーは終わりだ。ドン.インツェリッロはもう年で先が見えている」
「車に乗ってるのは奴じゃなく、奴の部下かも知れないぜ」
「すぐに判るさ。――あんな冷酷な男でも、自分の『弟』を見捨てたりはしないだろうからな」
「弟?」
一人が言ったその言葉に、もう一人の男が眉を寄せた。
「冗談だろ? 奴はインツェリッロの一人息子で――」
「ああ、インツェリッロの息子は奴しかいないさ。このガキは、インツェリッロの女房の子供だよ。あの男――サルヴァトーレが小さい頃に出て行った北欧系の女の、な。シチリアを出て、同じ北欧系の男とくっついて、出来たのがこのガキさ。奴とは種違いだが、正真正銘、血の繋がった弟だよ。――奴がそのたった一人の弟を見捨てるはずがないだろ?」
「なるほど……」
話の間に、車はゆっくりと広場を進み、オベリスクの前で、ピタリ、と止まった。刹那――、
「撃てっ!」
攻撃を指示する声が、飛んだ。それを合図に、柱列に潜んでいた男たちが、機関銃を車に向けて撃ち放つ。
夜を引き裂くような轟音に、静かな広場が、低く、震えた。
あまりにも凄惨な出来事だった。
そして、あっと言う間の出来事だった。
車には無数の穴が空き、防弾車すら貫く改造の機関銃は、その凄まじい威力を見せつけていた。
それに目を醒ましたのだろう。
「だ……れ……?」
意識を失っていたフィンが、瞳を開いた。
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